突然の乱入者―――亡国機業はやはり現れた。それも実力者揃いのスコールチームが。
チームリーダーのスコールは初代アメリカ代表であり、歴代最強の代表として名を残した。今でこそテロリストの幹部だが、当時はもう凄かったらしい。スター顔負けのヨイショぶりで雑誌もテレビも出まくったお陰で、彼女を知らないアメリカ人はいない程だ。それだけに、会場にいて彼女を見たアメリカ人のショックは相当なものだろう。
第一回モンドグロッソに於いて、織斑千冬を残りシールドエネルギー10%まで追い詰めたのは、後にも先にもスコールだけだ。負けはしたが、勝ってもおかしくない勝負だったと、織斑千冬もスコールも語ったという。
ISという世界において、織斑地冬と同等の力を持つものとして、彼女は広く知られている。
私の後釜として加入したアリスとかいう女だが、技術や経験はからっきしだった。が、BT適正とセンスだけは別格と言ってもいい。彼女は磨けば光る原石だ。殺しておかなければいずれ強敵となる。
現に、以前私と戦った時とはまるで別人のような動きだ。荒削りだった機動は洗練されているのがよくわかる。
そして………
「ハハハハハハハハ!」
中々に認め難いが、目の前のコイツもまた、スコールチームの一員であり、サブリーダーを務めているのだ。パイロットとしてはエースを十分に名乗れることも。
「相変わらず避けるのはウマいなぁ! えぇ?」
「そう言うキサマは当てるのが下手くそなままだな!」
オータム。
私はこの女の素性や過去は一切知らない。亡国機業があの施設を襲って私達を助け出した時から既にいた。当時からスコールは幹部であり、オータムはサブリーダーを務めている。結構な古株なのは間違いない。
当然、実力は折り紙つき。反りが合わずに何度も勝負をけし掛け合ったが、引き分けるか中断するかでハッキリさせることはできなかった。白星は無いが、黒星もつけられない。
勝つことはできるだろう。しかし、それは危険を顧みなければの話だ。守る立場の人間として、最初に力尽きるわけにはいかない。
「邪魔だ!」
「邪魔してンだよ!」
八つの足と、機体から発する九つのPICは、見えない糸を這うような動きを実現した。くそ、お陰で一発も当たりゃしない。偏向射撃も織り交ぜた手加減なしの全方位射撃だっていうのに。
このISとして異常な数のPICを使った機動こそが、アメリカ第二世代『アラクネ』と言える。蜘蛛の様な外見の通り、目を見張る速度で壁を伝い、糸を使って動きを封じる様を見ていたので、屋内で力を発揮するISだと思っていたが……中々に屋外でも強いじゃないか。各々のPICが反発しあうことのない絶妙なバランスを保っている。
やはり、足から狙うべきだな。
「予定変更だ。適当に撒くつもりだったが、今日こそ殺してやるぞ」
「はっ、乳臭いガキがナマ言ってんじゃねえよ」
「共に行動した仲だったが、私はそもそも貴様のことが吐くほど嫌いだ」
「そりゃどうも。好かれてたなんて言われた日には喉をかっ裂いて死ぬ方がマシだからな」
「兄さんを刺した罪は重いぞ?」
「知るかよ」
全ライフルビットを放出。今日のために用意された速度特化パッケージ『モーメント・ノイズ』では、全ビットはエネルギー供給導線を兼ねたワイヤーで接続されているため、ワイヤーが届く範囲までしか伸ばせない上に、絡まないように軌道にも気を配る必要がある。その代りに、改良された機体速度について来ることが出来る。
そして利点がもう一つ……。
照準をアラクネの八本足の一つに定めて放つ。放たれたそれは、通常のおよそ二倍の直径と、余りあるエネルギー量から静電気の様なものがほとばしっていた。当然、速度も通常とはかけ離れている。
「ぐっ!」
「ふむ……加減がイマイチだな。一発の配分ではないか」
「テメェ、加減してやがったな」
「いいや、後半のためにと思って温存しておいただけだ。まともに戦うつもりなどなかったから、出力を調整することはしなかったんだが……殺すとなれば話は別だぞ」
「はっ、力むのはいいがあっという間にガス欠になんてつまんねえもの見せんじゃねえぞ」
「なあに気にする必要はない。これがこのパッケージにおけるライフルビットの基本出力だからな」
「そりゃいいな」
思考により無線で動くビットへ私たちが出来ることは、大きく分けて指示を送ることと呼び戻してエネルギーの供給を行うことの二つ。欠点を上げるとすれば、エネルギーが切れるとただの浮遊物になってしまうため、呼び戻す必要があることだ。
それをひっくり返したのが、有線式ビット。本体から常にエネルギー供給を行うことが出来るため、ビットに配分された大本のエネルギーが枯渇しない限りはいつまでも撃ち続けられるし、先のように出力も自由自在だ。ただし、ワイヤーが続く限りまでしか動かせないことと、絡んでしまうような複雑な動きはできない。
機体にロケットエンジンを四基も増設したこのパッケージと相性がいいのは有線式だから、今回はそうなっている。一長一短だな。
「残りの足も捥ぐとするか」
「……いいねぇ。こうでねぇとな」
にやりと口角を上げるオータムを睨んで、その先にいる簪を見やる。
先制として撃たれたあれは、おそらく『アグニ』だ。中国と篠ノ之箒が損傷して下がったが、修復さえ間に合えば戻ってこれるはず。簪を庇った桜花……無理だろうな。姉さんは未だに兄さんとにらみ合っているし……下は私が何とかしなければ。織斑の連中は信用ならん。
ライフルを構えずにトリガーを引き、偏向射撃でアラクネの足を狙う。それと同時にエネルギー補給中だったライフルビットを全て切り離して別々の足を狙い撃つ。
先にライフルから撃ったエネルギー弾を屈曲させて真下から突き上げるように軌道を変え、ビットから撃ちだした内の一本を極限まで小さくした
「ぁあめえんだよ! そういうのは二流のカス相手にやるもんだ!」
アラクネの七本の足先が粒子に包まれて武装が変わる。先ほどまではマシンガンだったものが、先が尖って配線がむき出しになっている怪しいものに変わった。下側の二本が真下を向くと、糸のようなものが現れてライフルの弾を相殺した。同時に残った五本からエネルギーナイフが現れてプロペラのように回転し拡散を防いでいく。
以前までエネルギー系統の兵器はアラクネに無かったはずだが……知らない間に強化されたか。しかし、第二世代型にエネルギー兵器か、どんな改造を施したのやら。
残った三本の角度を変え、同様に攻めてみるが全てがエネルギーナイフによって防がれるか、あるいはレーザーの様な武器よって相殺された。
……あれは撃つというよりは、照らすという表現の方がしっくりくるな。BTのライフルや荷電粒子砲とちがって、レーザーポインタのような照射するものでは? たしかそんな武器をBBCが開発したとかしなかったとか聞いていたが……ああ、あれのことか。
「二号機と三号機を盗む際に、BBCの技術や武器まで一緒にかっさらった中に、それがあったということか。試作段階とはいえ中々だな。その『メーザー』は」
「そういや、サイレント・ゼフィルスもサザンクロスも同じ会社だったな。確かにこいつは使いやすくて助かるぜ」
『メーザー』。BTのようにエネルギー弾……ビームを撃ちだすのではなく、トリガーを引き続ける間銃口が向ける先へ光を照射し続ける機械だ。
虫眼鏡で太陽の光を収束させると、紙を燃やすことが出来るのは知っているだろうか? 散らばっている太陽の光を、虫眼鏡を使って一点に集めることで温度を上げ、物を燃やす。原理はこんなものだ。
指向性を持たせた粒子の塊よりも、純粋な光のメーザーの方が当然早い。だからこそ、後手に回ったオータムが弾を相殺することが出来たんだ。
下の二本のメーザーは標準のモノで、残りの五本はおそらくナイフの形状で留めることに成功したカスタムタイプだろう。一基だけなら大した効果も無いということで企画倒れになったと聞いたが、どうやらアラクネとの相性は抜群だったらしい。ビットよりも厄介だ。
強力だな……というよりは相性が悪いかもしれん。多角的な攻撃こそがBTの特徴だというのに、あの足によるカバー範囲が広すぎて死角を作ることすら難しい。相手がオータムでさえなければどうとでもなるんだが……。
「オラオラどうしたぁ! かかってこないならこっちから行くぜ!」
「相変わらずうるさい奴だ……!」
速くはない速度でオータムがこちらへ迫ってくる。CBFの最中だったからか、その速度がどうにも遅くにしか見えない。
メーザーによる線と点の攻撃と、メーザーナイフの乱舞を、シールドビットや短く持った銃剣でいなしては避ける。
そうだな……あれを使ってみるか。
「うまく避けろよ」
空いた左手に少々歪な球体をコール。親指でカチリとスイッチを押し込んでアラクネへまっすぐ投擲する。
「はっ、今更グレネードなんざアタシに効くかよ!」
メーザーナイフで投擲した球体を貫こうと、足ではなく右手に持ったブレードを引き絞ったその時、球体に光が走り、起動した。
殻の割れた卵のように外殻をはじいて、中身の核から黒い電流が迸り、核を中心としたIS二体を丸呑みにするような紫色の空間が現れる。ほぼ中心にいたオータムは腕どころか指を動かすことすらできない。口を開けて会話することも、なびく長い髪すらも凍らせたように、完全に動きを止めた。
「やれやれ。私は言ったぞ、避けろとな」
「 」
何か言いたげなのは分かるが、口が動かない以上どうしようもないだろうな。チャネル越しで罵倒をぶつけられても困るので、さっさと終わらせる。
展開していたすべてのビットを戻して、前方で待機。ライフル、シールド、ライフルと交互に等間隔に配置し、一つの大きな円を形成する。
「コレは、今までのどれよりも違うぞ?」
以前、学園へ亡国機業が攻めてきたときに使った
通常のパッケージ換装をしていない状態や、他のパッケージに換装した状態でも、集束砲撃はライフルビットとライフルの弾を操作するだけでよかった。が、一発が強力なこのパッケージだとそうもいかない。シールドビットで同一の指向性を持たせる補助が欠かせないのだ。
過集束砲撃
バチバチと数センチ先の空間が放電をはじめ、静電気が音を立て始める。八基のビットで構成された円の中心が一際強い光を放ち、小さな球体が生まれた。
「苦しまず消してやれるように努力はするが、お前のゴキブリ並みの生命力だとそうもいかないだろうが……うまく死ねよ、オータム」
いつものように放たれたエネルギー弾が球体に触れると、ハイパーセンサーの針が振り切れるほど増幅されたエネルギーの塊が、一本の巨大な帯となってマグネタイザーで固定された空間を飲み込み、空へと突き抜けた。
恐ろしい勢いで減っていくエネルギーを横目に索敵に気を配る。じろりと過集束砲撃が通り抜けた道を睨み続けること数秒、ふらふらと頼りない軌道で動く反応が一つ。
「ちっ、まあいい」
また手間がかかるのは面倒だが……せいぜい苦しめばいいさ。お前が兄さんに与えた苦しみや傷を何倍にも反してから、生まれてきたことを後悔する様な死をくれてやる。
今は……。
「うわ!?」
打鉄弐式の反応がする方角へ機体を向けると、目の前を何かが高速で過ぎ去って行った。モノが過ぎて行った方向と、モノが飛んできた方向を同時に視る。
飛んできたモノはパラパラと崩れ去っていく槍。飛んできた方向では、白と黒が空で入り乱れていた。
「兄さん、姉さん……!」
とうとう動き出した、か。
アリーナの上空では、史上最強最悪の姉弟喧嘩が繰り広げられていた。
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スコールという彼女たちのリーダーに手を焼いている最中、アリーナの端から伸びた閃光が空を突き破ると同時に切り裂くような金属音が響き渡った。
一夏と蒼乃さんが、お互いの剣で鍔迫り合いを始めていた。先の金属音は打ち合った音だ。
そのたったの一合だけで、武器を握る力が緩む。この場で戦う誰もが手を止めて、二人を見上げていた。
夜叉が強引に斬り払って距離を取り、ティアダウナーを格納して新たに展開したM92ヴァイパーが火を噴く。白紙が作り出した何十層もの壁を易々と突き破る鉛の弾は、それでも捉えることが出来ず、作られ続ける壁に埋もれて停止していった。
自ら作り出した壁を、また新しく災禍で作り出したドリル『螺旋』で夜叉を貫こうと壁を突き抜けていく。鋼鉄のように固かったそれを障子のように引き裂いた螺旋を、夜叉は展開した槍……『SP-ペネトレイター』で突き返す。
螺旋の回転する頂点と、ペネトレイターの穂先がぴたりと触れ合い、またも火花を散らした拮抗が始まる。
押して、引いて、ずらして、そらして。力加減と重心の絶妙なバランスが少しでも崩れればこの天秤はどちらかに傾く。いや、そもそも槍と槍の穂先で押し合うこの現状がおかしいんだけど……。お互いに自分から攻めていきたいところ。特に蒼乃さんの螺旋は小回りが利かないから押し切りたいだろうし、夜叉に抜けられると新しく構築した武器であっても、たぶん間に合わないから。
ラチが明かない。
恐らく同時にそう思った二人は、全く同じ行動を同じタイミングで取った。
夜叉はペネトレイターをクローズして再びティアダウナーをコール。左に装着された武器腕のガトリングを乱射しつつ、攻撃を警戒してガトリングの射線を遮らないよう四枚のシールドを前方にそろえて最短を直進。
白紙はというと、一瞬にして螺旋を分解し、少々大き目な短冊サイズの白い紙切れへ大量に変換。紙切れ一枚一枚を『呪符』という斬ったり貼ったりできる万能なお札を、『時雨』というIS数機並の機銃斉射に勝る数と勢いをぶつける技をもって、あっという間に叩きつける。
白い横殴りの雨を、黒い傘を過ぶりながら夜叉が突き進む。傘を切り裂こうと呪符が迫るも弾かれ、時には傘と呪符に挟まれて砕かれていった。
止まることはなく、速度が緩むこともなく、白紙へとたどり着いた夜叉は傘を開いてティアダウナーを振り抜いていた。そう来ることを察していたかのように、白紙は十枚あるうちのシールドの五枚を重ねて斬撃のライン上に配置し、三枚を両断されながらもしっかりと防いでみせる。
今度は白紙が片刃の直刀でシールドの陰から突きを繰り出す。ゆらりと状態を逸らすだけで回避した夜叉を、直刀の柄を両手で握りなおした白紙が、突いた後の姿勢からさらに袈裟斬りで追い打ちをかける。機体に備わる半身のスラスターを一瞬だけ吹かした夜叉は、地面と水平だった体勢を地面と直角になるようにして斬撃を回避し、白紙の直刀を握る腕を蹴り、続く脚でアリーナまで白紙を蹴り飛ばした。そして追い打ちのヴェスパインを数発。
まず地面に叩きつけられた白紙が粉塵を巻き上げ、追って着弾したニュードの塊がさらに煙を厚く広げていった。
轟音の反響が消えた頃に、煙の中央から天を掴む如く伸びたハリボテのような白い腕が現れる。指の関節をゆっくりとたたみ、片腕で何かを抱きしめるように肘までしっかりと曲げる。そして腕を振り抜き、その一度だけで土煙を吹き飛ばした。
中心には地面をえぐって作られたクレーター。さらに中心を見ると、真っ白な玉がころりと転がっており、先程の腕はこの白玉から伸びているのが見える。中から現れたのは、やはり白紙。
玉と腕を分解して出てきた白紙には、傷はおろか埃や塵すら付いていない。夜叉が蹴り飛ばそうとした時点で自身を包み込んでいたんだ。
「すごい……」
ぽろっと口から言葉が零れた。目の前の戦いは命を奪おうとするものなのに、うまく言葉には言い表せない感動の様なものがある。口を開く間すらなかった。
右手にもう一度ヴァイパーを展開し、武器腕のガトリングと合わせて斉射。シールド内臓のミサイルも加えた、戦艦の様な砲撃が白紙を襲う。たとえ相手が守りに重きを置いた機体であっても、あれだけの飽和攻撃は過剰すぎる。いくら蒼乃さんでも、あれだけの攻撃は……!?
災禍による盾の形成が追いついていない!? IS一機を丸ごと握りつぶせる腕を一瞬で作れるのに、どうして……。
形成した盾も銃撃で崩れていき、補充した傍から壊れていく。このままだと蒼乃さんが危ない……!
山嵐に煙幕弾を装填して、白紙を隠すような位置で自爆させるための時間と距離を計算。弾頭に情報を入力して、トリガーを引く―――前に、邪魔をされてしまい山嵐のポッドを全てスコールに破壊されてしまった。
「邪魔するものじゃないわよ?」
「この……!」
春雷の銃口を目の前のISへ向け、キーボードを消して夢現を展開する。が、シャングリラの先端が光を宿し始めたところを見ると躊躇ってしまった。打鉄弐式にはシールドが無いし、盾代わりのチャフを撃とうにも山嵐は破壊されてしまった。
「よくやってくれた簪!」
「あら? いつの間にそんなところまで……意外とやってくれるじゃない」
「わざわざ種を明かすつもりはないな」
私が躊躇っていると、スコールの動きがピタリと止まった。声と状況からして、ラウラが後ろに回り込んでAICで止めたに違いない。その奥で親指を立てているステラカデンテが見えたってことは……多分リーチェがついでで運んだんだと思う。
それでもスコールは止められない。
「あなた、無防備過ぎない?」
「心配無用だ。守りは私の領分ではない」
「そういうことよ」
シャングリラの矛先を私からラウラへと切り替えて放たれたレーザーは、アルカーディアを迂回するように、レーゲンを挟み込むように左右上下から狙っている。動じないラウラに変わってそれに対処したのはお姉ちゃんだった。実弾や物体に強いAICとは対照的に、光学系に強いミステリアス・レイディのヴェールが二機を覆ってレーザーを弾いていた。
私がはっきりと見ていたのはそこまで。体が弾かれるように動いてステラカデンテの後を追っていた。そして更に私を追ってくるシャングリラのレーザー。
どれだけ打鉄弐式が頑張ったところでステラカデンテには一生追いつけないんだ。だったら、リーチェの邪魔をさせないようここで身体をはって止めた方がいい。
百八十度ターンしてレーザーと向かい合う。夢現をプロペラのように両手で回転させて盾の代わりにして受け止める。それと同時に春雷を後ろへ向けて夜叉へ向けて発砲する。
「あなたの妹、あなたの何倍も器用ね」
「当たり前じゃない。今のあの子は、篠ノ之束に気に入られた技術者だもの」
「そんなこともあったわねぇ。益々欲しくなるわ、あの子」
「絶対にあげないから」
不吉な会話を小耳にはさみつつも、警戒を怠ることはしない。同時に夜叉へと春雷を撃ち続けた。
春雷の砲撃に気づいた夜叉がくるりと全弾回避して私を見やる。前に集中していた私と視線が合うことはなかったけれど、私を見ていることだけは分かった。私に銃を向けるのか、向けないのか……どう動く?
『ナイスだよ、簪ちゃん!』
回避のために一瞬だけ夜叉の斉射が止んだ隙を見計らったかのように、キンキンと響くスピーカー音がアリーナに流れた。
「た、束博士?」
観戦とか実況とかで来ていたのは知ってたけど……まだ避難してなかったなんて。狙いは博士かもしれないのに。
『君のお蔭であおにゃんは救出されたのだ!』
「あ、あおにゃん?」
……もしかして、蒼乃さんのこと? たしかに猫っぽいところはあるけど。ってそうじゃなくて、救出? よかった、リーチェ間に合ったんだ。
「これじゃ近づこうにも近づけないよ……」
「え? なんでステラカデンテが……」
じゃあ誰が?
『さぁさぁ皆様ご注目! 彼女は私の護衛を務めるもう一人の世界最強―――』
斉射によって立ち込めた土煙の中から、タイミングよく現れたISが一機。腕に白紙を抱えているということは、とりあえず味方ってことだと思う。あれが、束博士の護衛?
全身を黒白の装甲で包まれ洗練されたフォルムのISは、未だ世界が目にしたことのない全く新しい新型だった。
『行ってらっしゃい! 『