無能の烙印、森宮の使命(完結)   作:トマトしるこ

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60話 来たる黒

(更識楯無)はとても焦っている。焦る? いや、不安?

 

あまりうまく言えないんだけれども、落ち着かなかった。

 

先日、急遽組まれた専用機を持つ生徒のみで開催されたタッグマッチトーナメントでは何事も無く終わったからだ。無人機が乗り込んでくることもなく、暴走機も現れず、近くを戦略兵器が通るなんてエマージェンシーも初動せず、スパイがかぎ回った形跡も見られない。実に平和だった。

 

今年の学年行事は何かと物騒だった。理由は分かりきっているので割愛する。因みにどうしようも無いので受け身になるしか無いのが現状だ。今回も勿論備えはしていた。

 

が、蓋を開ければコレだ。平穏無事に終わって喜ぶべきなのに、不安が増すばかり。

 

嵐の前の静けさにしか、感じられなかった。

 

束博士のこともあるし……。

 

「あーーーー!」

「騒がないでください」

「はい……」

 

虚ちゃんに怒られてしまった。言い返せない。トーナメントの活動報告に忙しい中でいきなり騒げばそうもなるわ。

 

「手が止まっていますよ」

「色々あるのよ……」

「まぁ、確かに不気味ではありますけど」

「でしょ?」

「だからこその、トーナメントだったんですが……」

 

本来なら、専用機だけのトーナメントなんて毎年開催できるものじゃない。今年の一年が男性操縦者に合わせてぞろぞろ増えただけで、一機いればいい方だというのに。なんとまぁ贅沢なことだ。それだけに得られるものも多かっただろう。なにせ、私含む先輩の専用機とも戦えたのだから。

 

虚のだからこそ、というのはそこにある。

 

有事の際に戦力となるのは教員部隊だが、出動までには少し時間がかかる。対して常にISを展開可能な専用機はすぐに対応ができるのがミソだ。試作機がほとんどだが、新技術と新型が揃い踏みしているのだから戦力としては申し分無い。だったら鍛えよう、データが取れるなら候補生にもメリットはあるだろ? という言葉から企画されたのだ。

 

生徒に任せるのかという意見も多く出た。前提として専用機に任せるのなら、常時装備した教員が待機させるべきだとも。

 

しかし、その意見をねじ伏せたのは意外にも織斑先生だった。

 

「ここ数ヶ月の結果として、非常時に対応してきたのは全て我々教員ではありません。専用機を持った生徒達だけです。そして、襲撃してきたテロリスト達や謎の組織の狙いは、主に彼女らの専用機だったはず。であれば、単純な戦力と考えるだけでなく自衛を学ばせる意味でも、彼女らを特別に鍛える事はやっておくべきではないでしょうか? それだけの価値があると、考えますが」

 

グゥの音も出なかった、らしい。正論ではないが事実であったために何も言えなかったという。

 

そんなこんなで企画された専用機トーナメント。私達の予想では今回も何かしらのアクションを起こしてくるはずだったんだけど、良い意味で期待が外れた。

 

とまあこんな感じでぐるぐると同じことばかり考えている。おかげで作業が進まないのなんの……。

 

ちなみに優勝したのは私とマドカちゃんペアだったりする。第四世代相当の第二形態もまだまだ垢抜けない子が使ってるんだから怖くない怖くない。

 

「ほら、早く書いてください。私が困ります」

「はいはーーー

「お姉ちゃん!」

 

湯呑みを再び手に取った所で更識家御用達の緊急回線が開いた。余程のことが無い限りは使うなと口酸っぱく妹には教えているので、それだけで緊急事態だと察する。

 

「どうしたの?」

「ま、マドカのパッケージの調節してたら、つか、掴んで、それで」

「何時ぞやの大量の無人機だ! 真っ直ぐこっちへ向かってきてる!あと三十分もすれば向こうの射程に入るぞ!」

「数は? 海中にも紛れてないでしょうね?」

「百は無いがかなりの数だな……ソナーには何もかからない。衛星写真で見るからに中々の重武装だ」

 

割り込んだマドカから詳細を聞き出しつつ、送られてくるデータをミステリアス・レイディで解析、整理していく。

 

「確かに、束博士から頂いたデータにはないタイプの機体や武装が幾つかあるわね。先生には?」

「伝えてある。ラウラとリーチェにも送っているから問題ない」

「オッケー。最寄りのアリーナ更衣室に集まりましょう。もう一度伝えて」

「わかった」

 

通信を切り、視線で虚に合図を送る。それだけで察した虚は書類を全て片付け端末を起動させた。簪自作のそれは更識のみが使用するPCの様なものだ。余計な機能が無いのでかなり優秀であるそれに、マドカから受け取ったデータを送り残りの解析を任せて生徒会室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全員が着替えを済ませて集まったのは敵の圏内に入る十五分前といったところだった。

 

「時間が無いので簡潔に説明する」

 

スーツ姿の織斑先生がウインドウの側に立って腕を組んだ。

 

「解析されたデータを閲覧した結果、ここへ向かってくる敵は銀の福音事件の後に現れた無人機と判明した。ISの反応は現状見られない。太平洋をぶった切って接近する一団のみだ」

 

本土から少し離れた場所に位置する島ーーー学園が青い点で表示され、点から真っ直ぐ南東の方角には敵を表す赤い点の群れが地図に表示される。

学園と赤い点の中間地点には黄色い点で作られた半円が三重に展開された。

 

「学園に被害を出すわけにはいかない。よって、三重の防衛戦を持って迎撃する。まず教員のラファール・打鉄部隊を第一陣に置いて可能な限り敵を押しとどめる。続く第二陣には遠距離を主とする専用機を配置して第一陣の援護と、抜けてきた敵を撃ち落とす。それでも漏れた敵は近接系の専用機で構成した第三陣で叩く。

基本的にはこの作戦に従って行動し、お互いをフォローし合うように。私達が数で劣る以上、連携で差を埋めるしかない。現場では臨機応変に頼む」

 

地図上の防衛戦が拡大され、細かな配置が映る。

 

第一陣は学園が有する半分のISを投入して、矢面に立つらしい。どの教員も元候補生だったり、優れた成績を収めた優秀な人たちだ。各学年で実技指導をしている世界的にもトップクラスの面々である。今回は織斑先生も前線へ出るようだ。

 

第二陣は第一陣に比べ半数程度の数しかない。一機ごとの間隔を広げ、広範囲をカバーし合う並びだ。

マドカ、セシリア、シャルロット、ラウラ、簪の五人がここに充てられた。

 

最終ラインの第三陣は、秋介、リーチェ、鈴音、桜花、フォルテ、ダリル、私の七名。両端に機動力と射程があるステラカデンテと私を配置して第二陣のフォローと、漏れがないようにココを固めてある。

 

これよりももっといい作戦があるのかもしれないけど、生憎と時間がない。素直にこの通りに動くしかなかった。

 

蒼乃さんは……いない、わね。全く何をしているのやら。

 

「機体に関しては、束から説明がある」

「は?」

「はろー」

 

マップが映されているウインドウの隣にもう一枚のウインドウが。どでかく束博士の顔が現れた。

 

「今は私も学園に居を構えてるからね、ちーちゃんもいるし協力したげる。無人機連中はISじゃなくてBR……ブラスト・ランナーとかいうISモドキ。コアが無いから拡張領域もハイパーセンサーもエネルギーシールドもないけど、ニュードとかいう全く別系統のエネルギーを原動力にしてるよ。これ、核ほどでは無いみたいだけど有害物質だから一応気をつけるように、以上」

 

ブツッ。

 

「あの……」

「……以上だ。私も準備がある。あとは任せたぞ、更識」

「はい」

 

はぁ、と煤けた背中を見せながら先生が退室した。

 

「じゃあ行きましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私達が学園を出ると同時に、教員部隊の第一陣が無人機と接触したと通信が入った。

 

BRにはシールドエネルギーに該当するバリアは存在しない(らしい)ので、当てれば取り敢えず機動力を奪える。当たりどころによっては落とす事も可能だ。IS戦と比較しても勝負はつけやすい。

 

しかし、ISに劣るとはいえ侮っていい相手じゃない。数で圧倒したとは言え夜叉を撃墜しているのだ、あの群れは。単騎の性能や武装もなかなかのものだろう。ニュードとかいうエネルギーも測りきれないところがある。

 

が、そんな事は瑣末である。

 

一言で言えば殲滅だった。

 

「一匹も通すなよ!」

 

織斑先生を中心とした教員部隊は圧倒的だった。何倍もの敵に躊躇いもなく突っ込んではかき乱して、雑草を刈るように数を減らしていく。乱戦に持ち込んでいながら第二陣に銃を向けることも出来ずに、BRが次々と爆散していった。

 

「やるっすねぇ……」

「えらそーにするだけはあるってこった」

 

先輩二人はもう見慣れたモノって感じね。まぁ、あの二人は結構お茶目する度にブチのめされてたからかしら……。

 

「すげ……」

 

後輩たちはそうでもなさそうだけど。

 

マスコミがそう取り上げるからだけど、学園は織斑千冬の一強と勘違いされやすい。確かに彼女が最強である事は事実なんだけど、決して一強ではないのだ。世界で唯一のIS専門学校が、そんなヤワなラインナップのはずが無い。少し考えればわかる事なのに、ブリュンヒルデのネームバリューに全て霞んでいるのが……。

 

例えば、簪とマドカのクラス担任を務める大場先生は第一回モンド・グロッソの格闘部門と機動部門のヴァルキリーだったりする。専用機だって当時は所有していた。

同じく副担任の古森先生は白式を製造した倉持のテストパイロットを勤めていて、打鉄を産んだもう一人として教科書にも載っている。

 

一人一人を語ろうとすればキリがないくらい、教員部隊の面々はエリート街道のど真ん中を歩いてきたのだ。

 

当然、量産機でもその辺に転がっている代表候補生より何倍も強い。

 

「やっぱ先生って凄いな」

「今のアンタより何倍も強いのは確実ね」

「うっせ」

「こら、気を抜かないの」

 

気持ちは分かるけどね。三重の防衛線を引いても結局は直ぐに乱戦になると思っていたのだけど……。

 

……こんなものじゃないわ。一夏の戦った機体と同じとはとても思えない程に弱い。なぜ? 作戦? 遅れて本隊が来るとでも?

 

「……! そういうことね」

『更識さん! あ、これだと妹さんまで混じっちゃいますね、楯無さん!』

「山田先生、分かってます」

 

同じ、同じだ。

 

突然現れた連中は次々と増援を送り込んで一夏を追い詰めたのだ。斥候の後方からでも、挟撃するように背後からでも無かった。

 

『大気圏外から多数のBRが! 百を超えてます! 落下予測は学園のアリーナです、直ぐに!』

「聞いたわね、第三陣は直ぐに学園に戻るわよ! 第二陣も何人か来て頂戴!」

「簪、行くぞ!」

「うん!」

「先生」

「構わん。その分はオルコットとデュノアが埋める」

「全速後退!」

 

近くにいたマドカと簪の手を握った私は海中に潜って人魚姫を起動。ボコボコと泡を吹き出しながら高速で移動を始めた。

 

「ちょっと、重たいんだけど?」

「いいじゃないっすか、省エネ大事っすよ」

「堅いこと言うなよ」

 

いつの間にかフォルテとダリルが両足を掴んで楽をしている。いや、別に良いんだけどふてぶてし過ぎない? 感謝が足りないわね。

 

「楯無、追い抜かれたぞ」

「無理に決まってるでしょ、基礎からして違うのよ」

 

多分だけど、海上のベアトリーチェのことを言っているんだと思う。運べなかった他のみんなを連れていても私を追い抜くくらいは造作もないらしい。これでも十分速いんだけど……流石。十機近くぶら下げてもまだ早いってどうなってるのかしらね。

 

『電磁シールドを張って時間を稼ぎます。楯無さん、全BRを撃破してください!』

「了解!」

 

学園にはその特性からテロ対策が幾つか施されている。頑丈なファイアウォールもそうだが、物理的防壁として電磁シールドを張ることができるのだ。アリーナで使われるそれで学園の島を覆うことで、島全体を守る。

 

ただし、島には攻撃する設備はない。機関砲やらミサイルは置いてないのだ。ISが最大の武力である事を考えれば納得できとくこともないんだけど。

 

そんなこんなで、ISが無ければ無防備に等しいのである。

 

「迎撃に学園に残ってるラファールを出せば良いじゃないか」

「それが無理なのよ。整備中が殆どだし、乗り手がいないわ。マトモに動かせるのはもう教員部隊が使ってるの」

「かぁーっ。何よそれ!」

「ぼやいても仕方ないっスよ」

「言うじゃねぇか先輩」

「うるさいっス先輩」

「そろそろ着くわよ」

 

ギャアギャアと四肢がやかましいようで何より。

 

「ささっと全部落とすわよ!」

 

海面を切り裂いて浮上。人魚姫を解除して四機を放り投げた。

 

学園は薄い波打つ幕で覆われ、その外縁部で閃光と火花が入り乱れているのが見える。四つの星は吸い込まれるように戦火に飛び込んでいった。

 

「さて……」

 

ガトリングを構えて私も飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ふっ!」

 

ブレードを振り抜いて何機目かもわからないBRを両断する。ジリジリとショートした電線が漏れたオイルに引火して爆発。たった数十分の間に飽きるほど見てきた。

 

人が乗っていたらと思うとぞっとするな……。流石に人を斬りたくはない。

 

打鉄の腕で額の汗をぬぐって周りを見渡す。

 

接敵から乱戦に持ち込んで今に至るが、ラインはまだ機能しているようだ。第二陣からの援護もあって少し息を整える程度の余裕はあった。被弾が幾つか見られるが大きな損害もなく、皆無事だ。

 

今は。

 

「これだけの機体を一体何処に隠していたのやら……」

 

撃墜カウンター(敵の戦力を測るためにと束が付けた)は三十を超えており、全員を含めて二百は確実に墜としている筈なのだが、一向に数が減る気配がない。それどころか本隊らしい連中が大気圏外から学園めがけて降下してくる始末。

 

これだけの数、何処に隠せる?

 

束は連中のデータはほとんど持たないと言っていた。以前の福音事件で得た映像から解析した物しかない、と。

 

つまり、篠ノ之束の手を潜り抜けた組織を相手にしている事になる。

 

思っているより厄介なヤツらかもしれないな……。

 

「先生! 何か来ます!」

「どういう事だデュノア」

「わ、わかりません、速すぎて……。あっ、掴んだ! IS反応! 正面から突っ込んできます! 凄い速度……!」

「私でも捉えましたわ。高速で接近する機体が一、それを追うように……五機?」

「……オルコット、間違いではないな?」

「……はい」

「そうか」

 

合わせて六機。全てがIS。要するに。

 

「この間の連中ってわけか」

「大場先生」

「よぉ織斑センセ、無事で何よりだ」

「当然。私達が倒れるわけにはいかんだろう」

 

ふん、と短い返事が返ってくる。

 

「どうする?」

「どうもこうもない、ラインは崩さない、戦線も下げない。斬り伏せるまでだ」

「だろうな、了解したブリュンヒルデ。踏ん張るぜ」

「誰にモノを言っている?」

「その言葉そっくり返してやーーー

 

チリリ。脳を掠めるような嫌な電気が走った。次の瞬間には体に従って、ミナト共々磁石が弾けるように後方へ瞬時加速。遅れて周囲へ呼び掛けた。

 

「逃げろ!」

 

その一言で察した全員が一目散に方々へ逃げる。

 

緑色の閃光がまるっと無人機の群れを飲み込んで過ぎ去った。

 

「な……」

 

巨大なエネルギーが失せて空間には残されたボロボロの機体達が浮かび、一拍置いて一斉に爆ぜた。左腕で飛び散る破片から顔を守る。

 

「おーおーやってくれんじゃん。楽になった」

「倍以上に厄介なヤツらのお出ましだが、な」

 

あれ程機体を投入していたというのに、ISが来るとぱったりと増援が止んだ。その代わりがBR数十機分の戦力を持つISな訳だが……あんまりだろう、これは。

 

デュノアとオルコットが得たデータをリンクして閲覧しているが、流石の私も片眉が吊り上がった。

 

アルカーディア、サザンクロス、銀の福音、ナイトメア、データに無い新型機。

 

そして、先行する夜叉。

 

量産型のラファールや打鉄一機でさえ核を超える戦力として数えられるというのに、連中はどうしたものか……アホか、アホなのか。

 

「おーい」

「……なんだ」

「ボケてないでやるぞ」

「……そうだな。各個撃ーーー

「タンマ! 何か様子がおかしい」

「何だ全く……」

 

オープンチャネルで指示を飛ばそうとした矢先にミナトが静止する。焦点を合わせ、眼を凝らす。

 

「ありゃあ……」

「同士討ち、か?」

 

違和感の正体は、ボロボロの夜叉と、それを追い回す五機だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「楯無! そっちに三機行ったぞ!」

「了……かい!」

 

ラスティー・ネイルで近づいてきた一機の胸を貫き、小規模な水蒸気爆発を起こして最後尾の三機目を手前に弾き、蛇腹を伸ばして鞭のように二機目に一機目を叩きつけ、ランスで一息に三機を串刺しにした。

 

「ったくもう! 多すぎ!」

 

ランスを振り抜いて三機を放る。数秒おいて爆散し、破片を林の中へ散らせた。

 

そう、先行したリーチェが駆けつけるも既に遅く、電磁シールドの一部分を破られて侵入されていたようだ。更に遅れて私達が合流した時には、破れた穴を塞ぐのではなく、近辺一帯を切り捨ててより学園に近い場所でシールドを再構築する事を選んだ後だった。

 

中に入り込まれた夥しい数のBRはリーチェ達が、外で再びシールドを破ろうとしている倍以上のBRは私達が相手をしている。

 

単機の性能はやはりISが俄然上だが、流石にこれだけの数を覆すのは無理があるらしい。そう考えるとやっぱり一夏は凄かった。

 

「更識の妹ォ! こっちにミサイル寄越せ!」

「はい!」

 

奇襲のおかげもあって最初は切り崩せたものの、徐々に流れがあちらに傾きつつある。終わりは見えず、敵の数は増すばかりだ。百じゃきかない。

 

と言うのも……。

 

「中々に手強いなぁ。なぁ、イオ」

「ね、ニア」

 

突然に現れた指揮官の様な二機が統率しているからかもしれない。

 

「……あなた、前に私と会っているわね?」

「あぁ、やっと思い出してくれた? あの時は申し訳なかった、相手をしてあげられなかったからね」

 

以前、タッグトーナメントの際に無人機が乱入してきた事があった。会場に飛び込んできた機体は出場者によって片付けられたものの、似た反応を学園の外から確認した私は単独で接近し……ニア、と呼ばれた人物と遭遇した。

 

全体的なフォルムに変化はないけど、装甲の各部が蛍光色を発しており目立つ。以前の様に隠れるつもりはないってわけね。見たところ重量級の機体で、武装も長射程で重たそうなものが多い。

 

並ぶもう一人……イオのBRは異形の一言に尽きる。装甲の無いS字に曲がった腕に、踵の脆そうなリング。薄めの装甲が目立つが何より腕だ。あれは恐らく、生身の両腕が無い。一夏と同じリヒトメッサーを背負い、反対のラックにはマシンガンがかけられている。多分、近接寄りの高機動型。

 

「今回はたっぷり時間がある。嬲り殺しだ」

「ふん。やれるものならね」

 

両手でランスを握りしめて突進。しかし渾身の突きはイオの刀にいなされてしまった。流されたままに身体を滑らせ、PICを上手く使って鍔迫り合いまで持ち込む。

 

「やる」

「私ほどじゃ無いけど!」

 

人魚姫を瞬間的に起動。前後へ均等にエアーを噴射する。私自身は推力が発生せずにその場に固まり、イオはゼロ距離で空気の壁に叩きつけられ吹き飛んだ。

 

「くっ!」

「お姉ちゃん!」

 

追撃に剣を伸ばすものの、左からのミサイルと右からのグレネードが爆発した衝撃で斬ることはできなかった。……あのまま突撃していれば、グレネードに直撃していたかもしれない。

 

イオは体勢を立て直して、再びニアの前に立ちふさがった。

 

「ありがと、簪ちゃん」

「ううん、それより……」

「そうよね、早くしないと」

 

逞しくなった最愛の妹に鼻血を撒き散らしたくなる衝動を抑えて周囲を見やる。ダリルとフォルテの《イージス》コンビが元々守りに向いていたことと、マドカの技量と多数向きの機体のおかげでなんとかバリアは破られていないが時間の問題だ。確実に守りきれていない。

かといって私達が守りに回ると振り出しに戻ってしまう。それに、今度はこの二人も傍観してはいないはず。

 

学園を護るには、ここでこの二人を倒すしかない。それしかない。腹をくくれ、楯無。

 

「かん……」

「お姉ちゃん避けてぇ!」

 

閃いた作戦を伝えようと左を向くと、ぐいっと腕を掴まれて引き寄せられた。耳を切るような叫び声と様子からある程度を……恐らくは、本人曰く嫌な予感のアレだ。避けると言われてもアバウト過ぎて何処までとかよく分からないけれども、なるべく離れた方がいいと判断。

 

引き寄せられるままに簪ちゃんに飛び込んで抱きしめる。

 

人魚姫起動。一直線にその場を離れた。

 

「待ーー

 

目の前で戦っていた二人は、いきなり現れた二本の閃光に飲まれて機体もろとも蒸発した。何を言おうとしたのか、その先は分からない。

 

見えた、見てしまった。装甲が剥がれ、露わになった生身の人間を。ニアはボロボロのヒビ割れた肌が、イオは四肢を失ったダルマのような身体が、じゅわっと、消えた。

 

「ひっ……!」

 

これが、嫌な予感の正体、ね。死体も池のような量の血も見慣れているけど、流石に人が目の前で蒸発するのは初めて見たわ。気分が悪い。

 

でも、今のは……。

 

「おい、なんだ今のは!? 無事か!?」

「なんとか、ね」

 

マドカから私達二人へチャネルが繋げられる。レーダーには三人とも反応がまだ残っている。良かった……。

 

「今のでバリアぶち抜かれたッスよ!」

 

安堵するも反転して警戒。敵の頭を潰してくれた事には大助かりだが、穴があいてしまっては意味がない。

 

「迎撃! 再展開まで死守よ! 手前は馬鹿二人がなんとかしてくれるから、奥へーー

「楯無!」

「あぁもう今度は何!?」

「超光速のISが一機と、遅れてISが五機真っ直ぐ向かってくる。多分、さっきのアレはこいつの仕業だ」

「……六機、ね」

 

なんとなく誰が来たのかはわかる。この速度に六機ものISなんて奴らしかいない。バリアを破壊した攻撃は間違いなく、ニュード兵器『アグニ』だ。

 

……一夏。

 

成る程、亡国機業はこれだけの戦力を備えてたってわけ。何をするつもりなんだか……。

 

「簪ちゃん、エネルギー撹乱幕斉射。実弾と接近戦で時間を稼ぐわよ」

「はい!」

 

最初からそうするつもりだったのか、瞬きした後には八つの弾頭が空で弾けた。キラキラと雪のように光る特殊な片紙が飛び散り、爆風であっという間に一帯に散らばった。

 

さあこい、今度こそとっ捕まえて引っ叩いてやる。

 

「……きた!」

 

肉眼では黒い点の夜叉をレーダーて捉え、そこからさらに六十に近い数の弾が吐き出された。ミサイルだ。

 

直ぐにランスを構えて斉射。妹とマドカはBRからマシンガンと機関銃をひったくってトリガーを引いていた。

 

誰かの弾が的中し、一拍置いてばくはつ。誘爆が誘爆を起こしてほぼ全てのミサイルが消えた。しかし、実弾に紛れて煙幕でも混じっていたらしく、爆炎とは違った煙が撹乱幕と混ざり合って立ち込める。

 

「ゲホッゲホッ……」

 

急いでアクアヴェールで自分を包み込んで守りの態勢をとる。その中で私が見た光景は……。

 

ボロボロで肌とスーツが覗き、フルフェイスヘルメットから白髪が溢れているボロボロの夜叉。そして仲間であるはずの夜叉へ銃を向けるスコールたちの姿だった。

 

 

 

 

 

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