無能の烙印、森宮の使命(完結)   作:トマトしるこ

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お久しぶりです
どんがめ更新の拙作に感想ありがとうございました

突然ですが前話の感想で「超展開に草」という内容を複数頂きました。
そんなまさかと思いながら続きをちまちま書きながら、今までの話を読み返していると「何だこの超展開は」と自分でも思ってしまいました。

この作品を思いついたのは五年以上前のことで、その時からずっと自分の頭の中におおまかなストーリーがずっとあって、そんなこと考えもしませんでした。

自分一人で考えてたら視野狭くなってなんかおかしなことになっちゃうもんですね。それを教えてもらえる&頑張ろうって思わせてくれる感想ってやっぱり大事ですね。

って話でした。


66話 行き先

先陣を切ってラボに設けられたミーティングルームに入ると、昨日の戦闘に参加した人間が殆ど揃っていた。

 

スコール、オータム、アリス、フラン、ナターシャ。

 

織斑千冬、織斑秋介、篠ノ之箒、セシリア・オルコット、凰鈴音、シャルロット・デュノア、ラウラ・ボーデヴィッヒ、ベアトリーチェ・カリーナ。

 

そして篠ノ之束と、ラウラと同じ強化を受けた少女クロエ。

 

凄いな、ここにいる殆どの人間が最新型専用機を持っているんだから。亡国機業やエイジェンでなくとも世界を支配できる戦力がそろい踏みだ。

 

全員の視線が向けられ、全員と視線が合う。それらを無視して空いている席に案内し、最後に自分が腰掛けた。

 

「姉さん、確か二年生と三年生に一人ずつ専用機を持っていた先輩居なかったっけ」

「強制送還された。損傷が酷かった」

「マジ?」

「まじ。機体修復に加えて安全対策の為に、らしい」

 

確か二人ともアメリカの人間だったな。あまり面識が無いので何とも言えないが。

 

「じゃあ全員そろったことだし、聞かせてもらおうかな」

 

聞かせてもらおうかな。その言葉はつまり現状を知った上で君達はどうするのか、ということ。スコールチームはその後の活動を条件にしている以上降りることはできない。つまり専用機を持つ代表候補生達と我々更識に問いかけている。

 

「姉さんさえ良ければ、俺は協力したい」

「好きにしろ。無理と迷惑をかけないならな」

「箒は?」

「やるぞ。煮え湯を飲まされた借りがある」

 

まぁそこはそうなるだろうな。国家から預けられた機体じゃないのだから好きに出来る。

 

「申し訳ありませんが、即決は無理です」

「ふぅん」

 

と、以外にも代表候補生の面々が、オルコットの難色を示す応えに同意した。それを聞いて笑顔が一転した束さんを見て尻込みするも、諦めた様子で説明を始めた。

 

「秋介さんと箒さんの帰属先は国家にありません。つまりは個人の専用機と同義ですが、代表候補生の私達は最新鋭機をデータ収集の為に借りている身。帰属先との相談が無ければ、たとえ博士の仰ることであっても……」

「あぁー、そう言うこと。他も?」

 

その問いかけに全員が首を縦に振る。

 

……まてよ、その壁はウチも例外じゃないぞ。日本代表の姉さんと代表候補生の簪様、ロシア代表の楯無様とイギリスBBC所属のマドカ。四人も引っかかってしまう。俺と桜花の機体は更識傘下にある上に代表候補生でもない企業お抱えという体なのでコレと言った障害は無いが。

 

がりがりと面倒くさそうに頭を掻いた束さんはポケットから携帯を取り出して数回タップした後に耳に当てた。誰かに電話をあかけているらしい。

 

「もしもし。タヌキジジイだして。誰か? 束さんにきまってんじゃん早くしてよ…………もしもし、私の名前使っていいから国際IS委員会名義で学園一年の代表候補生所属の国に打診して。………そうそう、この前話した件について、どうせ掴んでるんでしょ。そ、じゃあね」

 

と通話を切って携帯をポケットにしまう。

 

「これでいいよ」

「な、なにがでしょう?」

「直ぐに分かるって」

 

ニヤリと笑った束さんのその言葉通り、代表候補生達の携帯が一斉に鳴りだした。隣の姉さんの携帯からもだ。相手は誰だろうかと画面をのぞき見すると日本政府(マネージャー)という表示がはっきり見えた。ここのみんなマネージャーがいるのか、凄いな。

 

携帯を耳に当てたまま視線が交差しまくってる。多分というか絶対同じ内容の電話だ。

 

許可するから付いて行け。

 

「君らは来るんだろう?」

「ええ」

「なら続きといこうか」

 

即答した楯無様を見て満足気な束さんは正面のディスプレイを操作し始めた。

 

「半年後、月へ向かう」

「え、もう?」

「やる事やったからね。後は行き帰りの手段と作戦だけさ」

 

本当ならここから色々と進めなければならないところを省くために、今まで暗躍してきたのだ。流石に隠れながらでは限界がある工程が幾つかあるので、あと三ヶ月もかかるんだが。

 

「今から私は大気圏外拠点の船やらマスドライバーやらを作る。だから君達にはそれまで襲撃に備えつつ、宇宙空間の勉強もして貰う。シュミレーターとかね」

「それが完成するのに三ヶ月かかるということですか?」

「そういう事」

 

船というと……宇宙船か。

 

「宇宙船。宇宙戦艦……おおぉ」

 

案の定簪様が感動していた。

 

「片手間で良ければ君らの機体も見てあげよう。それが難しいなら本国の技師を呼びな」

「待て束、ここでその宇宙船とやらを作るつもりか?」

「え? そうだよ?」

「馬鹿を言うな、ここは学校だぞ? いくらお前のラボがあろうとこんな所にドックを作れん。マスドライバーの建設なぞ以ての外だ」

「そうは言ってもさー、ここ以外に場所が無いんだってば」

 

まぁ確かに。どちらの言い分も何となくわかる。

 

学校に必要の無いものを作るスペースなんて無いし、騒音で授業妨害も有りうる。何よりエイジェンが放っておくとは思えないのだ。壊しに来る事を考えれば、一般生徒を巻き込む危険が生まれる。親から生徒を預かる身としては認められないだろう。

 

だがIS学園以上に最適な場所などないことも事実。一種の治外法権が働くこの土地以上に使用が認められる地域は存在しない。何よりここには連中の手がかりがある。

 

悩む束さんと織斑先生。ちょうどいい着地点を探そうとあれこれ議論を交わしているが、中々見つからないようだ。

 

学園には近い方がいい。長くとも片道三十分の範囲じゃないと学園との行き来が大変になる。だが近すぎると悪影響が大きくなるので不可。しかもここは離島なので新たに土地を探すことも難しいだろう。近くに無人島も幾つかあるがどれも購入されていると聞くし。

 

「あのっ! マスドライバーとドックと校舎が建造できる程の土地があればいいんですよね!!」

 

そこに割って入ったのは意外にも簪様。目が輝いて鼻息が少し荒い。

 

《宇宙戦艦、見たいんでしょうね》

 

そういうことか。少しも意外じゃない。

 

「案があるのか?」

「私、島を持ってます!」

「何?」

 

……え? いつから更識は地主になったんだ? 俺も知らない。

 

「楯無様、どういうことですか?」

「近くに無人島が幾つかあるの知ってるでしょ? その中にあるのよ、ウチの島」

「えぇ……?」

「ほら、いつかの夏休みにキャンプに行ったところ」

「……ああ。かすかに覚えています。しかしそれは更識の土地であって簪様の所有地ではないのでは? あまり大差ありませんが…」

「あはは。それがそうでもないのよ、私達。お父さんからプレゼントでもらっちゃって」

「嘘だ……」

 

ありえない。無人島とはいえ島一つがプレゼントってありえないだろ。金持ちすぎる。

 

「地図の…………ここです」

「学園からは船で移動するとして……片道一時間程度か。ありがたい話だが時間が掛かり過ぎる」

「大丈夫です、もっと早いものを用意します。良いですよね?」

「え? アレ使うの? まぁ確かに出来なくはないけど……いや、良いかも」

「束のやっつけモンスターマシンはアテにならん。三分で爆散する」

「大丈夫です、その爆散済を私が改修しました」

「ほぅ?」

「大丈夫ってなにさ!?」

「船……シャトルシップの巡航速度で片道四十分、最速で二十五分と言ったところですね。必要でしたら海底にリニアモーターカーを建設すれば良いかと。IS戦は空中が主ですし、BRは水中を嫌いますから」

「悪くない」

「無視!?」

 

キィキィ騒ぎ始めた束さんを他所に二人でぐんぐん話が進む。一番の悩みのタネが解消されたのだ、あとは頭脳派が綺麗にまとめてくれるだろう。大抵は篠ノ之束の四文字が片付けてくれる。

 

それにしても扱いが上手いなぁ。簪様そんな人付き合い上手な方じゃなかったのになぁ。大変なんだろうなぁ。

 

「あなたねぇ、いつの間にそんなおじいちゃんみたいな目をするようになったのよ」

「前からじゃないですか? 最近やっと心の余裕が出来ましたので」

「喜んで良いのかしら?」

「良いんじゃないですか? 悪いことはないでしょう」

「そうね」

「楯無」

「はい?」

「一夏は前からジジ臭かった、駄洒落とか」

「へ、へぇ……。あなた駄洒落言うのね」

「寒すぎて嫌って姉さんが再三言うので封印しました」

「……」

 

わいのわいのしていた奥の数人も話が付いたようだ。どうやら島ひとつを学園に売って新しい学習施設の一つとして建設にかかるとの事。幸いにも学園と島の間には個人が所有する島は地図上存在しないとの事なので、海底にリニアレールを敷くことも決まった。

 

しかしリニアレールか。モノレールは学園にもあるからわかるが、リニアレールなんて代物を使えているのはまだ新幹線とかくらいじゃないのか? 海底ともなると水圧の問題もある気がするが・・・・・・

 

「明日から取り掛かるから、手伝ってね」

「私が?」

「水中適正の高いISはお姉ちゃんと一夏だけだから。訓練機を借りるわけにもいかないし」

「流石の私も海底の水圧には耐えられないわよ」

「夜叉も適正はありますが薄い特殊装甲ですので・・・・・・」

「・・・・・・」

 

案の定、いきなり壁にぶち当たるのであった。

 

ちなみに翌日には、海底より更に下の地層を掘削してシャトル便をつくるという代々案が用意されていた。こうなるともはや水中適正とか水圧は関係なくなるので、二十にせまる専用機が総出でトンネルを掘り進め、資材を運搬し、建設まで行ったため僅か一週間で開通となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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新設の造船ドック(後の整備科特別教棟)に設けられたトレーニングルームから背を伸ばしながら出る。早いもので、亡国機業のクーデターから一ヶ月が過ぎようとしていた。相変わらず慌ただしい毎日で、朝起きて訓練し、授業を受け、放課後にまた訓練し、更に五ヵ月後に迫ったエイジェンへの攻撃準備と暇が無い。

 

それでも隙間を見つけては、留守にしていた間の諸々を埋めようと必死だった。クラスメイトのこと、家のこと。主に人間関係である。結果を見れば篠ノ之束とのパイプ形成であったり記憶が戻ったり三姉妹がそろったりと良いことは多かった(記憶についてはノーコメント)のだが、実際そう簡単に割り切れるものじゃない。敵として武器を交えた以上は「はい元通り」とはムシが良すぎる。特に、織斑とその周囲の女子達は。

 

今までは不干渉を貫くことが出来ていた。顔見知り~嫌な奴程度の関係だったがこれからはそうもいかない。世界中のエリートをかき集めた対エイジェン部隊が結成されるとなれば、矢面に立つのは交戦経験のある学園の専用機と各国の代表達なのだから。連携を磨く為にも、普段から交流を深めることが目下の目標なんだが……ハードル高すぎ。

 

織斑は半ば諦めている。というか俺が嫌だ。織斑姉弟とはなるべく関わりを持ちたくない。本当の本当の本当に最小限度に留めておきたいので、優先度は下の下としても、他国の女子はなんとかと思っていた。

 

とりあえず、朝の挨拶から。

 

「おはよう」

 

―篠ノ之箒の場合

「あ、あぁ、おはよう……」

「機体には慣れたか?」

「そ、そうだな。

 

以前は明らかに避けていますという雰囲気だったが、こちらから挨拶する度に困惑した様子で返事を返してくれる。彼女の性格からして無視されないだけでもかなり良好だろう? 束さんと復縁したらしいので、色々と聞いて戸惑っていると見た。加えて織斑一夏であると知ったのも要因の一つかもしれない。覚えちゃいないが、一緒に遊んだりしたのかもな。

 

―セシリア・オルコットの場合

「……おはようございます」

 

貴族のプライドで返事しましたって感じの嫌悪感丸出しだった。さっきの篠ノ之さんが意外だっただけでこうなることは分かっていた。彼女の場合はマドカのサイレント・ゼフィルスだったり、亡国機業に盗まれたサザンクロスだったりと悪い因縁が積み重なっているので、関係の進展は大変難しい。多分遠ざけていた五人の中で一番。気長に行こうと言うだけの時間もない。一先ずこれ以上悪化しないように気を付けよう。

 

―凰鈴音の場合

「……ふん」

 

まぁ予想通りである。トーナメントではかなりエグイ倒し方をした(実際は姉さんの無理矢理だった)ので一層近寄りたくないと思われているだろう。ストイックな努力家らしいオルコットと違って、彼女は超感覚型の天才肌らしいので出来れば俺も必要以上に近づくつもりはない。以下同上。

 

―シャルロット・デュノアの場合

「や、おはよう」

 

彼女はかなりの温厚な性格であり、基本的に優しい。特にルームメイトのラウラと親しい間柄と聞いている。彼女ともあまり良い出会い方をしていないはずだが、ラウラと何か話しているのかもしれない。ともかく、個性派ぞろいのチームを上手く取りまとめている潤滑油の様な存在だ。関係修復には欠かせない。あと、絶対腹黒キャラなので怒らせないように気を付けよう。てか表に出さないだけで怒っているのかも。

 

―ラウラ・ボーデヴィッヒの場合

「ああ、おはよう」

 

全く心配していない。それ以前に険悪でもない。ただ、騙していたことには御立腹の様子なのでしばらくは言う事を聞くつもりだ。

 

とまぁこんな感じだった。

 

「頑張ってるー?」

「自分なりには頑張ってますよ」

「よいよい」

 

報告のついでの現状報告に、楯無様はパソコンをカタカタと叩きながら頷く。一瞥もしないがこの人のことなのでしっかり聞いているのだろう。

 

「では」

「ちょいまち。まだ聞いていない」

「……はて?」

「とぼけるって事は分かってますってことよ」

「……」

 

避けてますって、言いませんでしたっけ?

 

ややこしくなる前に片付けなさいって言ってるのよ。

 

僅か二秒のアイコンタクト。全く持ってその通りなのでぐうの音も出ない。

 

そう、織斑の件である。もっと言うなら、俺は織斑一夏で、マドカは織斑マドカで、織斑千冬、千春、秋介とは血のつながった関係にある。マドカはさておき、俺自身その事実はつい最近になってやっと思い出した事だ。一ヶ月前から関係者にだけ周知されている。

 

一ヶ月前から隙を見ては突撃してくる三者を、俺はすり抜け続けていた。

 

何を言おうとしているのかなんて考えなくても分かる。つーか前にポロっとこぼしてたらしいしな。

 

でも、俺もマドカもあいつらの言葉なんて聞きたくないんだ。今更何を言われようが、俺達の心には絶対に響かない。まだ織斑だった頃に受けた屈辱は消えないし、許すなんて以ての外。ただでさえ出来の悪いガキだった俺がもっとポンコツになった苦しみがわかるものか。今の環境には文句ないけどだ。

 

織斑一夏と織斑マドカにとって、織斑という名前も言葉も毒でしかなかった。ただの悪。意味もなく苦しめられるだけ。

 

時間が解決してくれるなんて甘い考えは、ない。

 

だったら最初からそう叩きつけてしまえばいい、と思っていたんだが、今後は連携を余儀なくされることもあるだろうし自己都合で悪化させるのもなぁ、なんて考えていた。でも引きずることは少しも良いことじゃないのでどこかで宣言してやる必要がある。個人的にはそうしたい。でも作戦がなぁ……という無限ループに嵌まっていた。

 

「今は番外編みたいなものだったのよ、あなたにとっては。私の予想なんだけど、もし何事もなく織斑一夏として生きてきたらきっと彼の居場所はあなただったんじゃないかなって。それが本当の人生だったのかなーって」

「いやぁ、それは流石に」

「どうかな? 私はお姉ちゃんの言うことなんとなくわかるよ」

「でしょ?」

 

後ろからひょっこりと顔を出した簪様に、うんうんと頷く生徒会長。

 

「一夏はね、負けず嫌いで一生懸命で、ちょっとおじさん臭いところがあるから」

「おじさん臭い」

「うん。だから、何だかんだで自分の居場所は自分で作れてたんじゃないかなって思うの。仲良く出来てるかは別だけど」

「一組の子達はかなり個性的だけど、面と向き合って話せば分かってくれるタイプじゃない? 口より手が出る方が多いけど。だけど、生きやすい様に人間関係築いていきそうだわ」

「はぁ」

 

申し訳ないが少しもイメージが湧かない。臨海学校じゃあの五人にまぎれて水着でキャッキャウフフしてるのか? いやー。ないわー。

 

しかしまあ、俺よりも俺のことを見て知っている二人が言うのならあながち間違いじゃないのかも。のらりくらりと生きてそうだ。その点に関しては賛成。

 

「一夏の人生において、大きな分岐点じゃないかしら? 回り道をして大筋に戻るのか。それとも、このまま進むのか。相談くらいは欲しいけど、あなたが自分でそう決心したのなら、私は尊重する。だからきっちり話してきなさいな」

「そう、ですか……。簪様はどうお考えで?」

「私? お姉ちゃんと同じだよ。一夏が決めるのなら、それで良いと思う。たとえそれが私達から離れる事になっても、良いんじゃないかなって。本心はそんなこと思ってないよ。でも、今までの一夏は自分で自分の行き先を決められなかったでしょ? だから、これからは一杯悩んで考えて、選んでほしいなって思うから」

「自分の、行き先」

 

振り返ってみる。

 

生まれは選べない。だけどその先は自由だ、ただスタートラインが周りと違うだけで、それが普通。俺は周りよりも大分遅いわけだが……努力は否定されて、誰とも打ち解けられず、攫われて、良い様に扱われて、記憶なんて無いに等しいまま生き続けて、やっと最近になって位置に着いた。

 

言われてみればそうだ。俺はその場でそうするしかなかった。生きるには、それ以外の選択を捨てる他なかっただけだ。選ばされた人生だった。

 

今度は違う。

 

これからは違う。

 

自分で選ぶ。自分の行き先は自分で決める。

 

……そっか。これが、今まで欲しがってた普通なんだな。

 

「決めてみます、自分の行き先」

「うんうん」

「いってらっしゃい」

 

そう宣言する。

 

気持ちを固めた俺は、ポケットから携帯を取り出して人生で掛ける予定の無かった男を電話帳から呼び出した。


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