なんやかんやあって凹んでいたのですが、復活しました。病み上がりみたいなものです。いよいよ終盤ということで、ここからは三章突入。
71話 半年後の一週間前
亡国機業のクーデターからあっという間に半年が過ぎた。早すぎ? 仕方ないだろ、何時襲撃があるのかとずっと気を張っていたら半年間何の動きも無かったんだ。定期的に宇宙にある私的な衛星を使って束さんが月を見張っていても流れ星一つ地球に近づくものは皆無だったらしい。
と言うわけで、この半年間は訓練もきっちりこなしつつ学生生活を送って来た。クリスマスとか正月とかイースターとか。
卒業式と入学式とか。
今は五月の頭。つまり、姉さんや虚様三年生は卒業してそれぞれの道へ進みだし、俺達在学生は昇級、更には新一年生とかいう後輩まで入って来たのだ。一年なんてあっという間だった。
姉さんは卒業後どうするのか最後まで秘密にしていた。代表のままだから挨拶まわりとかトレーニングとか、営業回りでもするんだろうと思っていたらまさかの非常勤講師として学園勤務。在学中でも手伝いなどで教師に混ざる事もあったから、どうせならという提案を受けたらしい。あれ絶対俺達の卒業待ってるよ。ちなみに虚様は大人しく家に帰った。更識直下の企業で腕を磨いてくるとか言っていたっけな。
新入生には一派の手の人間はいなかった。そもそも同年代は少ないので期待はしてないし、たとえ居たとしても面倒を見切れる自信が無い。織斑は知り合いがいるらしいので、今後もますます修羅場と化していくことだろうざまぁ。
ちなみにクラスはそのまま繰り上がりだった。二年からは整備科という学科が選択できるようになるので、大体はクラスが再編になるのだが、四組は希望者がおらずということで異例の対応。六~八組が整備科、一~五組が普通科となった。リーチェは二組へクラス替え、他の専用機はそのままとなっている。本音様は整備科の六組へと移動した。以降の一組監視は桜花が行う。
担任も変化なし。元々六~八組は整備専門の教員だったから、らしい。テキトーに見えて実は良い大人コンビは続投となり、ひそかに喜んだ四組一同だった。
さて。
エイジェンはと言うと本当に何っっっにも行動しなかった。その分時間はたっぷりあったので伸び伸びと出来たし、宇宙で数日間過ごす上での注意点等もしっかり頭に叩き込んだ。実際に使用することになる船も下見は済ませたし、自室にある程度の荷物も運び終えている。後は決行を待つのみ。
地球のどこかで暗躍している情報も無く、それらしい機影が再突入したという連絡も無し。この半年の間にとうとうメディアが学園襲撃事件を報道したことで、世界的に警戒が高まる現時点で捕捉できないって事は無いはずだ。学園には世界のバランスを崩す膨大な機密が詰まってる。どの国も欲しがっているが、同時に敵へと渡したくない為に躍起になっているらしい。
因みにクーデターで拘束した敵方の構成員は、なんと金を握らされた裏社会の地球人ばかりだった。例外なくエイジェンのエの字も知らない、そんな連中ばかり。実際に月から降りて来たのは、カスタムタイプのセイバーに乗っていた男一人だけ。口を割らなかったので自白剤を飲ませたらあっさり効いて色々と教えてもらった。
地球に降りたのは三十年前。そこで亡国機業を乗っ取り自前の組織へと都合の良い様に扱い始める。ISが発表されてからは危険と判断して対処に動くが、そこで古株構成員が積もった不満を爆発させて、同時期に接触してきた束と手を結んだ。女性だけでなく男性もISに乗ってこそ金が動く。その為にはエイジェンが邪魔で、女性しか使えないデメリットも邪魔だった。束さんにとってもエイジェン邪魔だし、男もISに乗ってもらわないとデータ取れない宇宙行けない、と困っていたので利害の一致で手を組んだとか。あとはご存じの通り、時は流れて男性操縦者現る、と。
他にも聞きたいことは山ほどあったのだが、思っていた以上にこの男は身体が弱く、なんと死んだ。多少は痛めつけて揺さぶりをかけたがそれも痣が数か所出来る程度。ドラマの様に爪を剥いだり歯を抜いたり指を折ったりなんてしてないんだど……。これも技術体系の違いか。結局聞きたいことは何も聞けないままなので、情報無しのまま仕掛けることが決まった。
というのが、昨日までの出来事。
とっくに完成したマスドライバーに乗って宇宙に上がる日は、数日後にまで迫っていた。
放課後の一室を借りて最終確認が始まった。
「揃ったな。では始める」
織斑千冬が教壇に立ち、手元の資料を読み上げる。
「打ち上げは一週間後の午前九時。気象予報は快晴で風も弱い時間を狙う。前日から艦内で生活を始めるので、各自荷物はそれまでに詰め込んでおくように。目的地は月面、到着はおよそ一週間後、帰りは二週間を予定している」
「え、帰りの方が遅いんですか?」
「そうだ。電力は自発出来るが、推進剤には限りがある。戦闘や有事の際に優先的に使用する為、目的達成後には尽きかけている可能性が高い。よって、帰りの方が日数が掛かると踏んだ。最悪の場合は慣性航行、ISで押してもらうことになるが……まぁ、そうならんように努力はする。これでいいか、デュノア」
「は、はぁ」
簪様大好きアニメでは、宇宙の戦闘シーンもあって派手にドンパチやったりガンガン加速してる。が、あれはそもそも宇宙空間でも満足に補給が受けられるという前提があるから、気にせず物資をふんだんに使えているのであって、俺らは違う。宇宙で生活している人間なんて人工衛星で働いている飛行士だけで、補給出来るような物資は積まれていない。
宇宙航行なんてキラキラしたもんだが、実際は貧乏全開らしいな。
「次は搭乗員だが、ここに居る全員に加え、主に更識家と亡国機業から合計三十名のスタッフが乗りこむ。主に炊事や清掃等の生活スタッフと、修理や航行をサポートする整備スタッフ達だ。そして――」
「ま、待ってください! 専用機は国家機密です! 自国のスタッフ以外の、それも敵だった人間に任せるなど!」
「私もそう言ったんだがな……国家から人は出せないと連絡が来たので、止むなくこういう方法をとった」
「人は、出せない…?」
「お前達はこの一件の中心に居続けて、半年その為に努力してきただろうから気合十分といったところだろうが、各々の国家からすれば我々はただ月に居るかも分からない勢力と戦争をする為に宇宙に行くとしか見られていない。宇宙と言えば憧れではあるが、地に足のつかない逃げ場のない空間だ。密林や砂漠とは違った次元の恐怖があるのだろうな…」
「そんな……」
「あぁ、勘違いするなオルコット。応援が無かったわけじゃない。希望者は多く居たそうだ。詳しい内情までぎっちり書かれた謝罪文がたっぷりと届いたよ。それに物資や資金もな。マスドライバー建設から今に至るまで全て各国からの支援で成り立っているものばかりで、学園からは米一粒の物資も用意してない」
さっきよりは安堵した表情のオルコットだが、理解は出来ても納得はしてませんって感じだ。あれこれしてもらったところで、自分の命を預ける機体を触るのが赤の他人じゃ不安も残る。専属スタッフをなんだかんだで寄越さない本国への苛立ちもあるだろうな。亡国機業が絡むんじゃ尚の事か。
マドカから聞いた話では、先生方も色々と交渉を続けたらしいが、あえなく撃沈したらしい。コアと候補生の命が掛かってるんだから何が何でも同行させるべきだとは思うんだが、国の偉い方の中じゃそうでは無い様だ。この場に居る殆どがそんな顔をしているし、そう思ってるだろう。例外はスタッフが搭乗する更識の人間と亡国機業側か。
因みに、ここに居る全員とお茶を濁した言い方をしたのは行けない奴が複数いたからだ。オーストラリア代表候補生のフランと、BT三号機のアリス、そして織斑千春の三人。
フランは両足が義足で、ISに乗るものの身体が強い方じゃない。センスだけで代表候補生に選ばれたと聞いている。大気圏離脱と最突入に身体が耐えられないのだそうだ。本人も宇宙での生活と戦闘には不安しか無いと口にしたこともあり、辞退した。
織斑千春は理由を口にしなかったが、彼女も辞退したそうだ。束さんは留守にしている間の護りに残すと言っていたので、言えない理由でもあるんだろう。手薄な学園を護るのも間違いじゃないので反対意見は出なかった。
アリスは日本で言う小学生の年齢。身体が成長してないのでGに耐えられないとされ、本人の希望と反して強制退艦。まだ駄々を捏ねているが無理なものは無理。当日はこっそり乗りこまないように監視がつくらしい。可哀想に。
完全な余談だが、ラウラと凰鈴音も実はアリスと同じ理由で留守番候補に入っていた。凰は特に機体の主武装が大気を圧縮させる物なので宇宙では自衛も難しいとされたからなのだが……何の奇跡か参加を勝ち取っていた。ラウラは幼児体型ながらも左官を務めるエリートだ、鍛え方が違うので分かるのだが、凰はいか程なのか。一年で素人から専用機を掴んだ超天才らしいので相当頑張ったんだろう。その代わり前には出ず艦船の直援らしい。
「では次だが―――」
その後も先生の話は続いた。
※※※※※※※※※
「あー終わったー!」
時刻は午後の七時を回ったところ。門限までまだ時間があるが、外出する気にはなれなかった。長すぎ。
「仕方が無いんじゃない?」
「まあな」
自室のベッドにダイブして大の字で低反発を堪能する。マドカは腰掛ける形で横に来た。
あんなに必要以上に細かく何度も同じような説明をするのもちゃんと分かってる。それでも愚痴の一つも言いたくなるのが人間だ。だから、普段から織斑千冬に良い感情を持たないマドカも、今回は仕方が無いと折れている。
宇宙空間での生活は俺達が想像しているモノとは全く違うだろう。無重力すら想像がつかない。だから某所でみっちりと訓練された選ばれたエリート数名しか、宇宙飛行士として選ばれないのだ。何年もひたすら勉強して訓練して初めて宇宙で生活を送ることが出来るのである。
そんな場所に素人が、ましてや成人してない学生が行くのだから大人としては心配してもしきれない。臨海学校の数百倍はピリついてる。毎日のように日本人の宇宙飛行士と密に連絡を取り、プランを見直して、物資を厳選し、来日した各国の技師達が機体を整備していく。
学園の生徒は殆どが良家のお嬢様で、出発する代表候補生達はその中でも際物揃いだ。国家有数の貴族、大企業の社長令嬢、織斑千冬の弟に、篠ノ之束の妹。問題でも起きようものなら担任教師の首があっさりと飛ぶ。それを分かっているからこそ、ほぼ巻き込まれた形の教員達は真剣なのである。
ご愁傷さまとしか言いようがない。
尚、学生の俺達はうきうき。簪様なんて興奮してる。ホント申し訳ない、いやマジで。
「でも大丈夫なのかな」
「何が」
「IS。兄さんみたいな全身装甲はまだ大丈夫かもしれないけど、一般的な機体は肌も露出してるしメットもつけてないから…」
「それは…大丈夫なんじゃないか? 元々は宇宙空間での活動を目的としたスーツだろ。多分絶対防御とかシールドエネルギーが何とかしてくれる」
「うーん。エネルギー切れで展開が解けても?」
「そこは、ほら、新しく支給される新型のISスーツ」
「あぁ」
ぼんやりと一ヶ月前を思い出す。あと一週間だというのに手元に届いてないそれは、存在を忘れてしまうほど追加情報が無いままだ。
現行のISスーツは競泳で見かけるような四肢を露出した水着に二―ハイソックスを着用した形のモノが主流。生地は水着とは段違いで、電気信号を素早く伝達できる特殊な防刃防弾素材を使用しており、女性向けのお洒落な物からガッツリ実用性重視な物まで、メーカーも数社あり幅広い。織斑のスーツは男性用に改良された特注品で、機能は変わらない。んで、俺のは機体に合わせた特注品なのでちょっと機械が付属してごちゃごちゃしてるが、まあ大差ない。
宇宙進出を果たしてない現在では、大気のない空間での使用なんて考慮されて無いのだ。マドカが気にしているのは、展開が強制的に解かれた後でも自力で移動できないこと。ISが生かしてくれたとしても味方が拾ってくれるまで放流するのは心臓に悪いし、流れ弾が来たら何もできずに即死は嫌過ぎる。海の様に泳げる場所じゃないからな。
そこで束さんが開発すると言ったのが例の新型スーツ。現行品がスク水ならこっちはダイバースーツ。首から下は完全に保護される。残念ながら頭部は機体のヘッドギアとの兼ね合いもあり露出しているが、ISがしっかり守ってくれるので呼吸できず血が沸騰して死ぬ事は無い。背中には小型のランドセルが付属しており、腰のエアー生成機と繋がっている。スイッチを押し続ける間は前に進めるという設計らしい。どう見てもガンダム。
触ったことも見たことも無いので、半信半疑といったところか。
「俺たちじゃどうしようもないだろ。無いなら無いなりにやるしかない。それに、束さんに造れないなら人類に造れないのと一緒だ」
「確かに」
溜め息まじりに俯いたマドカは倒れこんできた。俺の腹の上に。
「おえっ」
「あはは、おえっ、だって」
「お前なぁ…」
この後は一時間近くくすぐりの計に処してやった。戦争しに行くんだ。慣れたもんだが、今度は色々と勝手が違うからな、苦しい戦いになる。今の内に楽しいことをやるのは悪いことじゃないだろう。
作戦決行まで、あと一週間だ。