無能の烙印、森宮の使命(完結)   作:トマトしるこ

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トマトしるこ、です。

大雨すごかったですね。私はそこまで被害の無い方で、せいぜい社泊程度で済みました。

一刻も早い復旧や救助をお祈りしております。


73話 前哨戦

「大気圏離脱を確認。全外装パージ終了しました」

「よし、月に進路をとり慣性航行に入るよ。本格的に舵を取るのはおよそ四日後。それまでにここでの生活に慣れるように」

「了解しました」

「じゃあ皆、早速お外に行こうか。各スタッフはそれぞれ作業開始、昼食の十二時半までね」

「ま、マジかよ・・・」

 

織斑がビビりだした。ビビってどうする。戦闘になればどうせ出なきゃならんのだ、それなら時間に余裕のあるうちに慣れておいた方がいいだろう。

 

「宇宙…無重力…真空…」

「ほらほら、もうちょいこの子を見習ってさ」

「うぇへへへへ、うぇへ」

 

年頃の乙女が口にしてはいけない言葉を漏らしながらよだれを垂らしている姿は、流石の俺でも見るに堪えなかった。楯無様でさえ溜め息をついて頭を抱えている始末。先代楯無が見れば卒倒するに違いない。

 

まぁ、俺達とは違って明確なアニメという趣味があって、宇宙空間が舞台の物も多かったから感動もひとしおだろう。あっさりとそんな言葉で片付けていいのか疑問は残るが…。幸い(?)にもこの場の全員にはお約束として映ったようだ。

 

「ってことで、各自一度自室に戻って軽く荷物整理後、格納庫集合! さっきの大気圏離脱時に散らかってるかもしれないからね。ああ、あと戦闘になると船も揺れるから散らかさないように。疑似重力装置はまだ動かさないんで壁や床を蹴ってね」

 

というわけで、束さんからルームを追い出された俺達は固まって居住ブロックへと移動していた。何時か見たアニメの様に床を蹴って慣性に乗ってふわふわと通路を進む。

 

「きゃ」

「おい秋介押すな」

「悪ぃ箒、なんか真っすぐ進めなくて…いてっ」

「む、すまん」

「流石のラウラも慣れないみたいだな…」

 

ただアニメと違うのは、俺達は初めて宇宙に来たってところか。ただ床を蹴れば真っすぐ進むわけでなく、正しくベクトルを作らないとすぐに壁やら人にぶつかってしまう。すいすい進むにはコツが必要な様だ。

 

「しかし、無重力と言うのはどうも落ち着かん」

「そうだな。やっぱ地に足ついてるのが人間らしくていいよ」

「ISではびゅんびゅん飛んでるけどね」

「確かに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

船は主に四つの区画によって構成されている。

 

一つは艦橋(ブリッジ)。船の制御に関する作業は八割がここで行われる。隣接して大気圏離脱時に集まったあの部屋やミーティングルームもあるそうだ。

二つ目が居住区。各々の個室や食堂、バスルーム、ランドリー等々。生活に関する施設は全てここ。

三つ目が動力区。要するにエンジンやバッテリーだ。自家発電設備完備。

そして四つ目が今居る格納庫だ。

 

「集まったね」

 

格納庫は機材や予備パーツの倉庫も兼ねておりかなり広い。倉庫を作る手間を省くために兼用にしたそうだが、格納庫と言うだけあって本来の用途は別にある。

 

俺達の眼前、束さんが背を向ける方向には、ズラリと並んだ整備用ハンガーとそれに繋がれる灰色の無人IS達。およそ三十機のゴーレムと呼ばれる機体が整列していた。

 

「改めてみると凄い数ですわ」

 

桜花の呟きに多くが頷く。

 

ISが一個小隊でも揃っていれば世界相手にしても戦争が出来る戦力だというのに、これだけの数がたった一隻の船に押し込められる光景は背筋が凍るものがある。ただでさえ専用機が十を超えているというのに、無人機を合わせれば約五十ときた。その気にならなくとも周囲が勝手に媚びへつらう戦力だ。

 

改めて篠ノ之束の恐ろしさを垣間見た気がする。

 

それでも今回は足りないんだが…。

 

「じゃあ今から宇宙での戦闘訓練をするわけだけども…その前にこっちのISスーツに着替えて、今から渡すデータを取り込んでくれる?」

「これは…宇宙服みたいなもんですか?」

「そうだね。ISはどれだけエネルギーが無くなっても絶対防御だけは維持するよう設定されてるんだけど、それもコアのエネルギーが枯渇すれば無くなるからね。緊急時に少しでも長時間可動出来るように露出を減らしたタイプだよ。頭以外はスーツで覆ってる」

「でも、布が無い部分もありますけど…」

「それは透明になってるだけでちゃんとあるよ。元々露出が多かったのは神経伝達をより素早くするために無駄な障害を省くためだけど、今回は仕方が無いからね。その代わり、少しでも阻害しないように透明にしてるんだよ。今までと同じように機体を動かせると思うから心配要らないんじゃない」

「へぇ」

 

どうやらしっかり考えていてくれたようだ。少しほっとした。

 

それぞれで着替えて戻って来た。事前に受け取っていたデータは解凍も済み。俺のコスプレ同然のスーツは何故かコスプレ感を増して帰って来た。元の機能もしっかり引き継いでいるらしいので文句は無いが、どうせならマトモな奴を寄越してほしかったな。

 

「うんうん、サイズは合ってるね。続けるけど、大きな違いは頭部以外を覆うスーツと、もう一つが各所に取り付けられた小型の機械だ。ベルトに取り付けてる酸素供給機から排出された酸素を各所から噴射して、無重力下でも移動できる装置だよ。使い方や練習は…後でやっといて」

「頭部はヘルメットの様なものが無くて大丈夫なんですか?」

「絶対防御が発動するから大丈夫だよ。それすら尽きたらもうおしまいだね。そうならないように、まずはエネルギーを切らさないことと、もしそうなった場合は救助を最優先に動くこと。頭部はセンサー類の塊で、距離感のつかみにくい宇宙でコレを妨げるのは自殺行為だから、どうしても露出させるしか無かったんだよ」

「はぁ、そういうことなら…」

 

ISもエネルギーが尽きれば強制解除。もし戦闘中にそうなってしまえばほぼ死亡確定のようなもんだが、コレがあれば自力で船には帰れる。延命装置が貰えただけでも良しとしよう。

 

「では、さっき取り込んだデータを起動」

 

束さんがポケットから取り出したリモコンのスイッチを入れると、勝手に全員のISが起動。装甲を纏って行くが…通常とは全く違った形態で落ち着いた。デカイ四肢や非固定武装は一切無く、ただスーツにそれっぽい装甲を貼りつけただけ。周囲も同じような形態ばかりで、違いと言えば装甲の色や形など。それぞれのISの特徴が表れていると言われればそんな気がするような…。

 

「通常展開とは違って、それは強化装甲展開。生身と通常展開の中間って言うと伝わりやすいかな。PICは一切無いけど、ちょびっとだけセンサーとパワーアシストが使用できる。独立した酸素供給機と噴射機能を持ってるから万が一の帰還も可能」

「さっきのスーツと同じ機能があるのですか?」

「どちらかと言うとスーツの方が最終手段。通常展開が維持できなくなったら強化装甲展開に移行、それも不可能な場合は解除されて、絶対防御頼みのスーツ漂流って感じ。他にも機能があって、どっちかというとそっちの方がメインなんだけど…これはそんときでいいよね」

 

じゃあいってらっしゃーい。と手を振る束さんに見送られて、機体を通常展開してハンガーに繋げられる。アームによって固定され、ハンガーが丸ごと移動し始めると同時に、束さんから通信。

 

「出撃の時は今みたいにハンガーに固定してから撃ちだす。気密を保つために必要なことだからね。射出口は全部で八つで、その内七番八番は直援機…ほぼゴーレム専用だから君らは使わないよ。ああ、中国のみたいなのならオッケーだよ」

 

重厚な扉を二枚ほどくぐると、両腕を伸ばせば届く程度の狭い部屋で停止した。背後の扉が鈍い音を立てて閉まると、続いてかなり高い天井が蓋を開く。空気が漏れていくのを肌で感じると同時に、真っ黒の空間に光点が散りばめられている風景に胸が高鳴る。

 

そうだ、宇宙なんだ。

 

「ここで外の安全が確保できたらランプがグリーンで点灯。直後撃ちだす。少しでも推進剤やエネルギーは温存しておきたいからね、勢いはかなり強いから気を持っておかないと気絶して放り出されるよ。んじゃ」

「ッ――」

 

言い終わると同時にハンガーが急上昇し、全身に大気圏離脱を思い出させる負荷が掛かる。半ばを過ぎたところでアームが外れ、撃ちだされる寸前に機体がオートで屈伸しスラスターによる跳躍とハンガーの加速が加わり、高速で船外へと躍り出る。

 

見わたす限り真っ黒で、宝石のように光が散りばめられているだけの空間。上下の無い無重力は、縦横無尽に飛びまわるISでも違和感を訴えてくる。

 

でもそれ以上に、大和の背後にある地球が美しくて、少しの間自分を忘れていた。

 

やれ海面上昇、やれ大気汚染と地球がどんどん汚れていく様をメディアが報道しているが、それらが全部実は冗談なんじゃないかって思わせる絶景だ。

 

『ほらほら! 先に出たら道を開ける! 後から来るのとぶつかって事故っても拾ってやんないよ!』

「だって、一夏」

「分かってるよ」

 

呆けるのも一瞬。姉さんの言うとおり道を譲り、前進する大和に合わせて併走し指示を待つ。

 

『よし、全員無事だね。じゃあ先ずは―――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自室のベッドに大の字になって寝転がる。

 

時間と言うのは意識しなければ早く過ぎるもので、既に四日が経過していた。進路は変更なし、襲撃も今のところなし、訓練は上々。中継地点の様な場所があるかもと織斑センセが予想していたが、そう言った類の物は今のところ見られない。要するに、ビックリするほど順調だった。

 

午後からはまた訓練があるらしい。それに備えて休養中だ。

 

しかし、シャワーが自由に使えないのは辛いな。一昔前に戻ったと思えばなんてことは無いが…女性陣は辛そうだ。

 

「全く…シャワーが日に一回だけっていうのはいただけないわね」

 

と、隣部屋のスコールが言っている。

 

「仕方ねぇだろー。補給出来るタイミングなんて無いんだからよ」

 

と、スコールの隣部屋のオータムが言っている。

 

「うっせぇ!」

「ん。俺は何も言っていない」

「顔が物語っているわよ」

「何を」

「五月蠅い」

「勝手に部屋に上がられて俺をのけものにして話をしてりゃそう思っても仕方ないと思わんかね?」

「はあ、こんなことならボディーシート持ってくれば良かったわ」

「貴様ら…」

 

ふん、いいさ、今に見てろ。料理長は皇から出向してきた人だ。桜花の一件で俺を良く扱ってくれる珍しい人だからな、ちょっとしたお願いくらいなら聞いてくれる。夕食にお前等の苦手なキノコ料理を嘆願してやるからな。

 

「ちょっと聞きたい事があってよ」

「最初からそう言え。BRだろ、俺も詳しくは知らない」

「そう言わずに付き合え」

 

オータムが放り投げてきたのは炭酸水。わざとか? そのにやけ面はわざとだな。ピーマン追加な。

 

「奴らのオーバーテクノロジー…瞬間移動したり、単独で大気圏突入できる点もだが、あれだけの技術を持っているなら俺達が近づいていることぐらい分かるだろう? 半年近く音沙汰が無かったことも腑に落ちない」

「そんなこと、スコールか桜花に聞けばいいだろ」

「あなたの意見が聞きたくて。それに、彼女には話しかけづらいのよ」

 

そりゃ嫌われているからだ。

 

「単純に、人数が足りないはずだ。亡国機業に潜りこんだのがたった一人だけってのが十分過ぎる証拠だろう」

 

情報が正しければエイジェンの連中は百年以上地球から離れて生活をしてきた。もはや異星人と言って差し支えない、全く…は言い過ぎだが異なる技術と生活スタイルを確立しているはず。地球上でならスパイが一人と言うのは納得できる。だが、連中からすれば地球とは異世界そのものであり、一人だけしか派遣しないのは流石に考えづらい。

 

であれば、派遣しない、のではなく、派遣できない、と考える方が自然。

 

百人が放逐されたとして、月に定住するまで全員が健全な状態であるはずが無い。慣れない環境やストレス、足りない医薬品、意見の食い違い、宇宙空間……色々と問題があったのは容易に想像できる。男女比もあるだろう。

 

そもそも月で生きている事自体がおそろしい。もっと言うなら出産後の育児まで可能な点も疑問だ。

 

なんにせよ、子供を生み、育てることができたとしても、大した人数ではないだろう。

 

それに資源にも余裕が無いはず。攻めるにしろ護るにせよ、中継地点が存在しないことからこれも間違いない。以前の大量降下はおそらく慣性航行だけで地球に送りだした、か。あるいはBRを製造し過ぎたか。

 

「ま、そうよね」

 

うんうんと頷く二人。

 

「生きてる人間は百程度じゃないかしら」

「さぁ? 五十は切ってるとみた」

「そんな気がしてくるな…」

 

捕虜にした男が、ちょっとの薬剤投与で死亡した。あれは恐らく医薬品の類がほとんど無いことを証明している。製剤に使用できる植物が無いのだからそれも当然。あっても科学的に処方したビタミン剤程度。そもそも細菌やウイルス自体あるかも怪しい。頼る必要が無い以上、耐性も無くて当然だ。

 

 

 

突然、非常サイレンが鳴り響く。

 

 

 

『敵襲! 戦闘体勢! 専用機は格納庫集合!』

 

束さんのそれだけの放送に即座に反応した俺達は直ぐに部屋を出た。プライベートチャネルからは、格納庫で休憩した連中が先に出撃していく様子が聞こえる。この調子じゃ俺達はラストかもな。

 

『正面…月の方角から二百のBRが進行中。足は遅いけど出撃した専用機を先行させて迎撃してる。ゴーレムは言った通り直援と防衛ラインにしか回せないから、直ぐに出て。あと、エネルギー補給が済んでない機体もあるから、連携を密に、ね』

「了解」

 

辿りついた格納庫、手すりを蹴って真っすぐハンガーへ向かう。視界の隅ではがっちり固定され配線まみれになったイギリスの二機が微かに見えた。あと二、三機は居ると思うと、初戦はかなり苦しい戦いになりそうだ。

 

アームで固定され、射出口へと運搬される。流石にこの景色やこの後のGも慣れたもんだ。

 

「ごめん、兄さん。さっきのでついやり過ぎちゃったから…」

「いいさ、慌てず来い。出番は無いだろうがな」

「それはそれで困るんだけど」

『いっくん出すよ?』

「どうぞ」

 

返事と同時にランプがグリーンへ。夜叉が撃ちだされる。

 

「もう慣れたか?」

《ええ、流石に。真空というのは面白い場所ですね、摩擦が無さ過ぎて不安ですけど》

 

スラスターを起動させて滑らかな曲線を描きながら、勢いを殺さずに進路をとる。続けて背後からはスコールのシャングリラとオータムの新型が追いついた。

 

オータムの新型は…エンプレスだったか、ガワはアラクネを踏襲しつつ中身は別物らしい。操作性はそのままにアップグレードしたようなものだそうだ。大層喜んでいる。

 

二機は夜叉のシールド内面に標準装備されたグリップを掴む。今回の様な状況をあらかじめ想定していた楯無様の案で、ずば抜けて足の速いステラカデンテ、夜叉にはこんなものをつけて他を運ぶ為の装備だ。先行した連中はリーチェが運んだのだろう、バッチリ活躍しているな。

 

「よし、飛ばすぞ」

「ええ。期待してるわよ、オータム」

「まかせときな」

 

第二形態へ移行した夜叉の速度はさらに磨きが掛かっている。二機程度は造作も無い。ロケットの様に徐々に火を入れるエンジンの数を増やし、距離をぐんぐん縮めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘の光を目視できる距離まで来た。

 

「ミサイルで数を減らす」

 

グリップを掴んでいた手を離した二機は俺よりも前に出ない程度に加速し、斜め後ろを併走。シールドに障害が無いことを確認して、先行した全機へアラートを流し退避させた。

 

「撃つぞ! 上手く避けろ!」

 

トリガー。五つのミサイルを扇状へ発射、それぞれが十分に距離をとったところでそれぞれ八発へ拡散。計四十のミサイルがランダムに狙いを定め、カーテンを作る。

 

「助かったわ。性能が上でも数で押し切られるところだったから」

「何より」

 

物量が何より恐ろしいのは経験済みだ。それに、ISはここまでの対多戦を想定しないこともある。やり合うなら今の様な面制圧が欠かせない。以前一機ずつ仕留めたような間違いは踏まない。

 

「……今ので五十二機は減ったね」

 

デュノアがレーダー装備で拾った情報を流してくれる。弾頭以上の数が減ったなら上等、と言いたいがあれだけ撃ち込んでも大して減っていないのか…。残り百は堅いぞ、敵の増援が来るとなればもっとヤバい。

 

まだ後続は来ない。ということは一人二十機やればいいのか?

 

ゴーレムは一機でも多く温存しておきたい、というのが束さんの考えだ。月にいけばどれだけのBRが出てくるか分からない以上、投入すべきはそこしかない。遭遇戦程度で減らすわけにはいかないのだ。

 

「どうされるので?」

「各個撃破しか無いでしょう、こんなところでバカスカやって本番で弾切れなんて嫌よ」

「ですね」

 

こういうときこそ武器弾薬が豊富な夜叉の本領発揮なんだが、補給なしとなると控えざるを得ない。ここは頑丈な近接や単発高火力な火器で堅実にいくか。

 

ディアダウナーをコールし担ぎ加速。

 

手ごろな位置の一機に振り下ろして鍔迫り合いになるがそれも一瞬だけ、重さと加速で強引に振り抜いて両断する。

 

十字砲火を身体のひねりで回避し、右側のBRへ斬りかかる。腰だめにディアダウナーを構えたところでグレネードが目前に投擲。シールドを使って受け流しあらぬ方向へ弾き、魔剣を振り抜いて二機目を落とす。脇をすり抜けると、今までいた場所にはマシンガンの嵐が降り注いでいた。

 

「こいつら…」

《以前よりも一機が手強いです、ね!》

「ああ」

 

それぞれが人が扱うように、柔軟な思考で動いている。そこまで強いとは感じないが、ただ近づく、撃つ、斬るといった単調な動作はみじんも見られない。

 

十字砲火。お土産グレネード。援護射撃。連携まで混ぜてくる。各個撃破も一苦労だな。数が増えればゴーレムでも対処出来なくなる。

 

直上の纏まった二機へ剣を振り下ろす。纏めてぶった切りを狙った一振りだったが、肩を切り裂いた時点で腕を使ってがっちり掴まれてしまった。

 

「っち」

 

即時手放し、両手の手刀で手前の喉元へ突きいれ引き裂く。次いで右肘の尖った装甲を奥の奴へ突き刺し、左の手刀をその穴へ突きいれ中身を引きずりだす。頭部のカメラから光を失い力が抜けたBRからティアダウナーを取り返し、次の獲物を斬りかかる。

 

両手のマニピュレーターや、突きさした右ひじの装甲は思った以上にボロボロになってしまった。更に速度が磨かれた反面、こんなところまで強度や装甲を削っている様だ。胴体はさておき、腕や足は攻撃にもよく使うからな、後で考えておこう。

 

《マスター、何か、後ろからきます!》

「後ろ? ……な、何だこれ」

 

後ろ…大和のある方角から確かに何かが近づいてきている。が、まだ登録の無い機体が一つと、その周囲には桜花とラウラの反応がある。どういうことだ? 未登録の機体を護りながら来てるのか? ってか早いなコイツ。それにデカイ。

 

「全機、退避せよ! 巻き込まれるぞ!」

 

ラウラからのオープンチャネルだ。デカイのはどうやら味方らしい。それとなく全員が状況を察していたらしく、足止めもそこそこに距離をとる。織斑が最後に荷電粒子砲をお見舞いして離脱した直後、直径が一メートルに迫る程の熱線が宙域を両断した。大部隊に大穴が生まれ、一拍置いて大爆発が巻き起こる。

 

現れたのは。

 

「兄さんお待たせ!」

「お待たせしましたわ!」

 

六メートル近くもある鉄の巨人だった。


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