無能の烙印、森宮の使命   作:トマトしるこ
<< 前の話 次の話 >>

75 / 77
トマトしるこ、です
寒くなってきましたね。
投降されてる皆様の作業BGMは何でしょうか? 最近の私はドルフロとゼロ使ですねぇ


75話 AM0800

目を閉じて静かにその時を待つ。今だけはIEXAのセンサーもカットして、瞼が見せる暗闇に身を溶かしていた。

 

時刻は日本時間で午前七時五十八分。

 

あと二分だ。

 

不安や恐怖は感じない。何せ、入学前はこれが当たり前だったんだから。気休め程度にしかならない防弾チョッキを着て、いつ後ろから撃たれるとも分からない怯えを抱えながら、弾丸やら爆弾やらが飛び交う戦場に飛び込んでは銃を乱射してた。

 

場所と武器が違うだけさ。

 

……いや、身の回りはだいぶ変わったか。背中を預けられる、ってことがどれだけ安心できて満たされることか。もう一人じゃないんだ。

 

後ろにいるのは、背負っているのは俺が護りたくて、守ってくれる人達。

 

だからこそ、今が使命を果たす時だろう。

 

《定刻です》

 

相棒の一声で目を覚ます。ハイパーセンサーが捉えた情報が瞼を空けると同時に徐々に脳へと雪崩込み、両目が常人では茹るほどのそれを的確に処理していく。

 

大和を最後衛に置き、ようやく出番が回ってきたゴーレム三十機が前方厚めに張り付いている。その中心には真空空間故に強みを大幅に削られた凰が腕組みして仁王立ちしている。

 

そこから一キロ離れた先に専用機で構成されたライン。カスタムタイプの打鉄で静かに佇むブリュンヒルデを中心に、大和を守るよう扇状に広がっていた。砲撃可能な機体はやや下がり、それを守るように中近接型が壁を形成している。

 

更に2キロ先。俺たちを含めた三機のIEXAが等間隔に並ぶ。あとたった一言あれば、俺と姉さんの、楯無様と簪様の、デュノアと織斑のIEXAが前方の白い衛星に向かって火を噴くのだ。

 

ハイパーセンサーの望遠画像とレーダーが、はっきり見えなくとも確かにうじゃうじゃとBRがいる事を教えてくれている。羽虫のごとく密集して、物量による厚い城壁を築いていた。

 

『ちーちゃん?』

『ああ』

『んじゃ、作戦開始』

 

その合図を皮切りに、グリップのスイッチをぐっと押し込む。コントロールシリンダーが、そしてスーツを介して思考が伝播し、IEXAは背負った追加装備のミサイルコンテナを解放した。肩越しに銃身が伸びた大型荷電粒子砲にエネルギーが流れ込み、次第に銃口から電流が迸る。

 

『ミサイル第一波で敵全体の数を減らす。各機、送信されたデータと攻撃範囲を基準に弾道をセット』

「……」

 

姉さんが無言で束さんの指示に従ってデータ入力を行う。仕事のない俺はぼうっと整理されていくラインやデータを眺めていた。自分がこの中を突っ切るなら、必死に覚えようとにらめっこでもしていたかもしれない。

 

『斉射』

「一夏」『お姉ちゃん』

「応」『ええ』

 

もう一度同じスイッチを押し込む。百のミサイルが機体のラックから順次撃ち出され、垂直に指定距離を航行してから意志を持ったように複雑な機動を描き、羽虫を平らげようと群がっていく。

 

右端の俺たちと、左端の楯無様達、合計で二百の弾頭が一斉に華を咲かせた。大気の無い宇宙では振動という概念が存在しない為、あれだけの爆発なら必ず響く重低音を耳が拾うことはない。ただ爆散していく光とセンサーだけが、着弾を証明していた。

 

『うおお、すげぇ』

『壮観だな』

 

織斑の呟きとラウラの独り言が全員の気持ちを代弁していた。何せ、一生に一度見れるか見れないかの壮絶な光景だ。勿論、できる事なら見ない方が良いという意味で。

 

『ミサイル第二射用意。侵入口までの道を作る。解析データ送ったから周辺の敵を一掃して。しゅーくん、メガバズーカランチャー発射、薙ぎ払え』

『了解! いくぞ!』

『一夏、加勢するわよ。どうせエネルギー補給前提なんだから派手にかましなさい』

「了解」

 

中心に居たIEXAが一射の為だけに運搬したジェネレーターと直結。十メートル近くあるランチャーを構えた。まるで戦艦の主砲にしがみ付くような態勢だが、あれが正しい姿勢なんだろう。標準装備の荷電粒子砲でさえあれだけの火力が出るのなら、専用のジェネレーターを使ったコイツはどこまでやってくれるのか。

 

レーダーが感知するギリギリの敵機を狙って放たれたそれは、彗星と見間違うほど巨大で輝いていた。俺の荷電粒子砲が米粒みたいだ。

 

向かって左側から右へ薙ぎ払われた光が、滑るように月面と前方の城壁を舐める。

 

『う、おおおっ!?』

 

何も起きない、と思った次の瞬間。光の軌跡をなぞる様に先のミサイルに劣らない爆発が巻き起こる。

 

『にゃははは! すっごーい!』

『は、博士? あまりやりすぎると、月の地形が変わってしまうのでは?』

『だいじょーぶ。どうせ一回きりだから。にしても凄かったね! 一回言ってみたかったんだー、薙ぎ払え! って』

『それが似合うのはどちらかというと織斑先生のような…』

『デュノア、何か言ったか』

『い、いえ、なんでもないですー……』

 

かの名作は国境を越えているらしい。そしてその意見には激しく同意するぞ。

 

レーダーは今の砲撃でかなりの数が減ったことを知らせてくれるが、非常に厄介だが月面にある連中の基地からまだ湧いてくることも知らせてくれた。普通ならあの一発で黙って白旗上げてくれると思うんだが。いや、たったの一発でミサイル二百と同等の戦果を得られたなら上々か? コストは考えたくないな。

 

『じゃ、織斑君は下がって』

『分かりました。追加装備はブレードで良いんですよね』

『ええ。好きなのにしなさいな』

『了解』

 

はしゃぐ束さんに代わって楯無様が指示を出す。素直に従った織斑は既に物言わなくなったランチャーを破棄して月に背を向けた。

 

『いくわよ!』

「はい」

 

減っているはずなのにちっともそう見えないBRへミサイルの第二射を小刻みに放つ。姉さんはさっきのような凝った弾道制御はしていない様で、垂直に打ち上げられたミサイルは弧を描いてまっすぐ群れに突っ込み穴をあける。

 

被せるように打ち上げられた楯無様のミサイルは、俺たちが開けた穴を広げるように敵の数を減らしていった。脈を打つように炸裂していくミサイルが、侵入口までカーペットを敷いていく。

 

が、ちっとも薄くならない。広げたと思ったその数秒後には元通りに戻っていくのをずっと繰り返していた。

 

今はまだミサイルの弾薬に余裕があるが……。

 

「減りませんね」

『全くね』

 

ぽろっと心の声が漏れていたようで、楯無様が返してくれた。

 

『どこにこれだけの資材があったんだろ……』

「…月面?」

「え、あそこって鉱石あるの?」

「さぁ」

『でもまぁ、蒼乃さんの言う通りかも。地球から打ち上げられて廃棄された衛星を拾ったとしてもこの数を維持するほどじゃないし』

「お嬢様、まさか月面開拓なんて夢みたいなこと言い出さないでしょうね」

『私はそこまで夢想家じゃないわ。でも、簪ちゃんが……ねぇ』

『お姉ちゃんは私を何だと思ってるの…』

 

そんな突拍子も無いこと言ったって、更識は国内じゃあその道で知らぬ者はいないほど知られているが、海の向こうに少しずつ手を伸ばし始めた程度でしかない。ウワサは広まっているかもしれないが、所詮はその程度だ。

 

いや、逆に考えてウチが頂いてしまえば一気に世界の更識に躍り出るのか?

 

似合わねぇ。

 

『貴方、失礼なこと考えなかった?』

「いえ全く何も」

『…後で話があります』

「はい…」

 

楯無様のカリスマはそういう類じゃない、と思っていても流石に伝わらなかったらしい。

 

しかし、本当にどうしたものか。

 

そんな馬鹿げたことも実現できそうにないくらい、前に進めないんだが。IEXAならエネルギー任せのトンデモ兵器でかき回すこともできるが、敵と同サイズのISじゃ袋叩きにあってしまう。言葉通り、数は暴力だ。

 

例えIEXAで無理やり突破して大金星を挙げたとしても、外で出口を守ってくれているはずの他が倒れてしまっては意味がない。こっちの主力はISなんだから、ISが十分に叩けるような戦場を整えておくのが俺の仕事。だから、終わりが見えなくてもミサイルを撃ち続けるしかない。かといってそのミサイルも延々と撃てるものでもないし、エネルギーが切れては意味が無くなる。

 

……っよし。

 

「一夏」

「大丈夫。今度は上手くやる」

 

意図を察した姉さんが止めに入るが、今はこれしか思いつかない。どうせこっちは不利なままで、持久戦やられちゃ確実に負ける。

 

正攻法度外視の電撃作戦に無茶は付きものだろ?

 

「……」

 

後ろからため息が聞こえた。

 

「楯無様。突っ込みますので、そのまま援護下さい。私のミサイル残弾置いていくんで」

「任せた」

『ちょ、ちょっと!?』

『だ、だめっ! だって…!』

『っあああもう! 偶にでいいからご主人様の言う事ちゃんと聞きなさいよ!』

 

チャネルから聞こえる制止を振り切るようにペダルをベタ踏みし一気に加速。ミサイルを満載したコンテナを切り離して、もう一機のIEXAから単調に撃ち込まれるミサイルに紛れて戦場に飛び込んだ。

 

センサーが拾った視界は敵ところどころミサイルといった様子。土砂降りの中に傘無しで全力疾走するようなものだが、不思議とずぶ濡れになるイメージが少しも沸いてこなかった。代わりに、始めてISに触れた時とは違う全能感と充足感…温かさがある。

 

スティールシールドをミサイルコンテナが装着されていた箇所に固定し、開いた左手に右手の二連装エネルギーライフルを持ち替え、レーザーブレードを抜刀。

 

荷電粒子砲で爆炎を晴らすついでに前方を蹴散らしてど真ん中に躍り出る。

 

背には主と船と青い星。敵機はたかが千と幾ばくか程度。エネルギー切れを起こす前にかく乱しまくって船を近づけさせればいいだけの話だ。

 

負ける道理が、ない。

 

「夜叉!」

《Shift"Limit-Lv2"》

 

これはいつかの続きで、報復で、リテイク。同じように……いやそれ以上に蹴散らす。だから奮発してやるよ。

 

強化装甲展開は専用機の意匠がそのまま表れる。姉さんの災禍なら白と青のドレスの様に。夜叉なら光沢のない深淵のような装甲と、大小さまざまなブレードが全身に備えられている様に。

 

二段階目のリミッターを外すと、それらのブレードが内側に(・・・)突き立てられる。

 

「……っ」

 

痛みを堪え、夜叉と繋がるまで必死に耐えた。三秒もあれば終わるそれは、痛みに慣れた俺でも結構苦しい類だが、きっちり仕事を終えた夜叉が終わりを告げる。先とは違った高揚感と鋭敏な感覚が証拠だ。

 

肌表面にブスリと差し込まれたブレードを介して夜叉と接続。感覚が広く引き伸ばされ、思考は加速しクリアに、視界はくっきりと鮮明に、身体が滑らかにコンマのズレもなく動く。

 

「おおおお!」

 

ブレードを一振りすれば三機を両断し、ライフルを乱れ撃てば五機を穿つ。荷電粒子砲が火を噴けば十など容易い。

 

ミサイルの誤射を気にする必要はなかった。弾道の入力がされていないのをいいことに、姉さんが近づいてきたミサイルの制御を奪って近づいてくるBRに片っ端からぶつけまくった。

 

密集したBRは俺から逃げようにも味方が邪魔で動けない。俺達は武器をフル稼働させて近づけさせない。

 

「ぐっ!」

 

一様に距離を取りたがる敵機を一撃で屠っていくが、それも長くは続かなかった。

 

視線の先、姉さんが見つけたそのBRは遠距離型らしく大きなライフルの銃口を俺に向けていた。その射線には当然逃げまどう仲間が居た筈だが、それらを無視して、仲間ごと撃ってくるとは。実に、無人機らしい。数があって、命の心配もなく、効率的にダメージを与えられる。幸い装甲に被弾はないが、貴重なライフルを破壊されてしまった。

 

ささっと数を減らしたいところだが、まずはアレだ。放っておいて味方殺しをやってもらおうかとも思ったが、致命的なダメージを受けたくはない。

 

マウントしていたシールドを構えて遠距離型に正面を向け加速。優先して武器とコクピットとスラスターが密集する上半身を防ぐ。はみ出した放熱フィルターやら脚部がBRに掠ってシールドエネルギーを削っていくが、IEXAそのものが弾丸になって遠距離型との間にいるBRを撥ねた。

 

「来る!」

 

姉さんの叫びと同時、シールドがぐっと重たくなった。

 

《スティールシールド、融解します!》

 

硬さがウリと聞いていたんだが、何機も破壊してきた後では流石に耐えきれないらしい。視界を埋め尽くす盾の中心が徐々に赤く変色しては広がっていく。舐め溶かされたシールドが熱で柔らかくなり、緩めない加速の影響で上半分が折れ曲がり千切れていった。

 

同時に熱線を塞ぐものが無くなり浴びる、かという一瞬でたどり着いた俺は重火器ごとBRを熱されたシールドを押し付けて焼き壊す。解けた金属が飛び跳ね、完全に回路を焼き切った。

 

「自分で調理したシールドのお味は如何かな」

「冗談言ってないで」

「分かってる」

 

味方お構いなしに撃ってくる以上、避けるのが難しいIEXAに必須のシールドを失ってしまったのはかなりの痛手だ。代わりのモノは積んでないし、そこらのBRも代用できそうにない。離れすぎてミサイルの援護が届く距離を離れて深く入り込み過ぎた。

 

ブレードを左手でも抜いて切り払う。せめてスラスターは守らねばと荷電粒子砲を背後に向けて連射し、何とか一定の距離を保つ。

 

IEXAはISと違って完全な機械だ。操縦に支障がないように人体を模して造られているが、それでも一種のマシンらしさを残している。

 

なら―――

 

「こういうことだってできるだろ!」

 

両の手首の関節をフル稼働。ブレードを維持したまま高速で回転した腕の先は円を描いたそれはシールドに見えなくもない。

 

触れたものを焼き切るやたらと攻撃的なシールドだが。

 

元の場所へ戻りながら、両腕を振り回し弾丸を防ぎつつ切り進む。これ、思っていたより優秀だわ。夜叉でもできるように改良してもらおうかな。

 

「荷電粒子砲残弾ゼロ。切り離す」

 

エネルギー切れを起こして無用になった砲身を放棄する。これで残った武器は腕と肩のガトリングに、大腿部内蔵のアーミーナイフ二本のみ。この数にナイフはあまりにも無力すぎるし、ガトリングも内蔵火器かつ弾薬の消費量が半端じゃないので、ブレード二本で粘るしかない。格闘はダメだ、夜叉のそれと違って殴る事を想定してないから脆すぎる。

 

いよいよ後がなくなってきた。

 

「まだ来ないのか…!」

「……来た」

 

ぼやいた俺の周囲を熱線が通り抜けていく。出所には……二機のIEXAと数機のIS。白と橙のIEXAがまたしてもデカいコンテナとブレードを抱えてこちらへゆったりと飛んでくる。

 

『ふぅ。無事ね』

「お陰様で」

 

楯無様と簪様のIEXAにはミサイルコンテナに代わって二連ガトリングへ換装したようだ。ゴツイ砲身から伸びた管が、背部に背負ったドラムに繋がっている。

 

『こっち向け、エネルギー補充するぞ』

「…ああ」

 

織斑とデュノアが抱えていたのはバッテリーらしい。横をすり抜けた水色のIEXAが代わって前に出て弾幕を張ってくれている間に俺も機体も補給を済ませよう。シートからドリンクを二つ取り出して片方を姉さんに投げ、もう片方を開封してストローを取り出し咥える。ベルトも緩めた。

 

言われたとおりに背中を向けると、何かが差し込まれた音と同時に計器のメーターがFに近づいていく。

 

『お前でも…』

「ん?」

『こんだけボロボロになることも、あるんだな』

「はぁ……」

 

ため息交じりにストローを口から離す。

 

「俺はそう色々とできるタイプじゃない、要領も良くない。多少荒事が他人より向いてる程度でしかない」

『お前で多少なら他はどうなるんだよそれ』

「それが普通だ。こんなこと出来なくていいんだよ」

 

ずごご、と音を立てて中身を飲み干す。ゴミになったそれをダストボックスに入れて口を拭った。

 

周りと足並み揃えられる人間が一番良い。

 

蹴って殴って撃って斬って、こんなん出来たって生きていけない。まぁ、生き延びるには申し分ないけど。

 

『一夏様、一夏様。お怪我はありませんか?』

「ああ、特には…って機体にへばりつくな桜花まてまてコクピットを無理矢理こじ開けるな!」

『わたくし、お顔を見るまで安心できませんわ』

「後で幾らでも見せてやるから離れろ、姉さんが怖い」

『まぁ、それは、仕方ありません』

 

不服そうにツインテールが離れていく様子にほっとする。どうやら近くにいるのは一緒に乗り込む突入班のようだ。入れ替わりでIEXAに乗る篠ノ之とラウラもいる。

 

『私もマドカも心配したんだ、単機であの数に突っ込むなぞ正気の沙汰じゃない』

「そこまで言うか」

『簪が止めたんでしょ? 兄さんが前に撃墜されたときとそっくりだから、さ』

「戦闘で二度も同じ失敗するかよ」

『だといいけど。ほら、終わったよ』

「ああ」

 

マドカの合図に合わせてシートに座りなおしベルトをきっちり締める。エネルギーも満タンとはいかないが八割程度まで回復できた。篠ノ之と交代するまで持てばいい、これだけあれば十分だろう。推進剤も余裕がある。

 

「楯無様」

『行きなさい。私達はここで大和の壁になる』

 

作戦ではIEXA二機で侵入口まで強行することになっている。篠ノ之が俺の代わりに乗る以上、エネルギー消費が激しい織斑がセットになるのは当然で、消去法で楯無様と簪様が後続になるのもまた当然。それを意識してのガトリング装備だろう。

 

『二人とも。ううん……蒼乃さんと桜花も。私、同じこと二回言わないよ』

 

簪様が言うのは、多分臨海学校の時の事。更識として命令された初めての時で、よく覚えている。必ず無事で帰ってきなさい、か。

 

なんだかんだとあったけど、遅れながらもちゃんと俺は帰ってきた。あのまま戦い続けていたら確実に墜とされていただろうが、今日は違う。

 

「はい」

 

だから短くはっきりと応えるだけに留めた。

 

『IS全機、IEXAの指定位置に機体を固定せよ。織斑、お前が先頭だ。一夏は盾を失っている』

『分かった』

 

ラウラの指示でISが機体に備えられたグリップを握りしめ、装甲版に格納されたベルトで機体を固定していく。姉さんのゴーサインが出たことを織斑に伝えて先を行かせた。水色のIEXAに親指を立てて過ぎ去る。

 

さっきの俺同様にシールドで防ぎつつ轢きまくりながら突進する後ろをついていくだけだ。すげぇラク。

 

そんなルンルン気分で周囲を眺めていると、離れた場所で爆散するBRが目に入った。装備からして少しばかり苦しめられた遠距離型か。

 

その一機を皮切りに各所で同じようにBRが撃墜されていく。少なくともここにいる誰かの攻撃じゃない、射線は背後から伸びていた。

 

『ご武運を祈っていますわ』

『頑張ってね。待ってるから』

 

狙撃装備を持ったオルコットとリーチェだ。ここから大和までは結構な距離があるし、大気のない慣れない空間できっちり当てているのは流石だな。二人のお陰で、遠方から進行を防ごうとする妨害は無く、正面はシールドと荷電粒子砲でうまく織斑が蹴散らしている。

 

全体的な数も最初に比べれば減っており、当初思っていたよりは苦労せずに目的の場所までたどり着くことが出来た。俺の特攻も無駄にはならなかったようで、ほっと胸を撫で下ろす。

 

侵入口はIEXAで入るには小さすぎて、ISなら少し広い程度の大きさだった。元々置いていく予定だったので問題はないが、例え何かあってもIEXAが助けに来てくれることはなさそうだ。

 

機体の四肢を広げて侵入口を機体で覆うように固定し、コクピットを開ける。タイミングよくベルトを外してコクピットまで移動してきた篠ノ之・ラウラと顔を合わせる。

 

「交代だ」

「ああ、ちょっと待ってくれ」

 

最後にもう一個だけドリンクを開封して一気に飲み干す。さっき飲んだ分のゴミも取り出した。あとで焼き捨てよう。

 

……。

 

振り向きざまに抜いたマーゲイバリアンスを篠ノ之へ向けて発砲する。

 

三点バースト方式が採用されたその大口径弾は、篠ノ之が神速の抜刀を見せて軽く防がれてしまった。

 

「私とて流石にあれだけ時間があれば成長する」

「らしいな」

「……言う事は無いのか」

「特には」

「はぁ」

 

紅椿を受領した直ぐの臨海学校で、浮かれた篠ノ之にこうやって説教したことを思い出す。あの頃の情けなさなどもう影も形もない。粗を探せばまだ未熟さが浮かぶだろうが、十分立派だ……と夜叉が言っていたが、信じてもよさそうだ。

 

呆れた様子で横を通り過ぎた篠ノ之は強化装甲展開に切り替えて前座のベルトを締めた。

 

「ラウラ、任せた」

「ああ、任されたよ」

 

地球ならパンと乾いた音が響くであろうハイタッチを交わしてするりと外に躍り出る。十分に距離を離してから強化装甲展開からメットを除いて通常展開に切り替える。ゴミはサクッと姿勢制御ついでにスラスターで焼いた。続けて姉さんも外に出てきて、展開を切り替える。

 

コクピットが閉まり、一度はグレーの装甲に戻ったIEXAが、今度は黒と紅に装甲を染め上げていく。

 

「すまないが武器はレーザーブレードとガトリングとナイフしか残っていない」

『むしろ好都合だ。変に射撃武器があることを意識すると動きが鈍る。今のほうが剣が二本、脇差二本でラクだ』

 

なんともまぁ頼もしい発言だ。

 

『奥に行くまでは盾になる。早く行け!』

 

ブレードの感触を試したIEXAはこちらに背を向けて、ガトリングで牽制を始めた。

 

「姉さん」

「今の内に潜り込む。一夏を先頭にアローヘッドで潜入。二人は殿」

「へーへー」

「はぁい」

 

気の抜けた返事をするオータムとスコールだが、手は装備の最終点検を済ませているあたり問題は無さそうだ。

 

「束」

『はいはーい。いい感じ?』

「侵入口に取りついた。第二フェーズへ移行する」

『りょーかい、気を付けてね。こっちはずっとモニターしてるから』

 

通信を終えた姉さんは手ごろな剣をナノマシンを集めて握りしめる。それを合図に各々が武器をコールして気を引き締めた。俺も一通りの武器を展開してはシールド裏のアームに固定し、ジリオスを右手に抜く。

 

「侵入」

 

姉さんの合図に従って、俺はスラスターに火を入れた。






※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。