無能の烙印、森宮の使命(完結)   作:トマトしるこ

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トマトしるこです。

新元号発表されましたね。今年で終わらせます。


78話 PM0100~

PM0100

 

自分を中心とした透明な膜が扉と干渉して、緑色の粒子がふわふわと接触面から舞っていく。ニュードが発生させる人工的な蛍の光はその数を増やし、次第にこの広間一体に雪が降る様に充満した。発生源は透明な膜…リペアフィールドの境界面。扉に触れた箇所からは、まるで溶接の火花のように粒子が散っており、少しずつ、だが確実に、やがて穴になるであろうくぼみを深めていく。

 

まさかと思いながらも試したリペアフィールドはアタリだったらしい。びくともしない岩を押し続けるような感覚を受け続けているが、目に見えて成果が表れているのは精神衛生上たいへんに良い。

 

「どういう原理なんでしょう?」

「さぁ? 簪が居れば教えてくれたかもしれないけど」

 

生憎とそちら方面に明るい人間はこの場に居ないので、桜花の当然の呟きには誰も答えられない。帰ったら聞いてみるのも良いだろうが、今回の一連の出来事は長すぎて気怠く、重たいので振り返りたくないのが本音。今日の経験が役に立つ日が来るとも思えないし、忘れていいと思う。

 

しっかし、まさかこれが日の目を見る日がくるとはなぁ。夜叉……ISのコンセプトからかけ離れた設計だから、正直なところ下ろしていこうか迷ったんだが、良かった良かった。

 

「どう?」

「今のところは問題ないよ。帰りも同じように溶かす必要があるなら、ちょっと心配だけど」

「それは気にしなくていい。早く片付けて戻らないと」

「オッケー」

 

私が何とでもする、と頼もしい言葉を頂いたので、節約なんてケチを止めて出力を上げる。自分を中心とした球が広がることは無いが、境界面の膜は透明から半透明へとくっきりと映り、緑の火花はより激しく舞い散っていく。

 

俺達を置いて引くことは流石にしないと思う、うん。たった一つの出口を死守してくれていると信じて、一秒でも早く本丸を落として脱出しなければ。IEXAはISとは比べ物にならない火力と防御力、継戦力を誇るが無敵じゃないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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PM0038~

 

ゴーレムや直掩組からの手厚い声援を受け取って前線に復帰したのは、予定から少々遅れた20分後の事だった。

 

「次の補給は見込めない。だから、ありったけの装備と燃料系を持って行って」

 

整備が終了するまでの待機時間、先の戦闘で得た感覚を二人ですり合わせていると、現れた篠ノ之博士はそれだけを言い残して踵を返した。

 

篠ノ之と無言のアイコンタクトをとった後、そろってIEXAを見上げれば、地上だったらどう見ても積載過多で身動きが取れなくなりそうなほど、コンテナやら装備をマシマシに積んだ一号機がいたのはちょっと引いた。だってつい数分前に外に出た時はブレード以外を使い切ったスリムな外見だったのに。

 

そういうわけで、必要な分を必要以上に積んでしまった為に、戻るのに時間がかかったのであった。

 

しかし、時間を掛けただけの甲斐はあったようでエネルギーやら推進剤やらは枯渇寸前、いよいよ投棄するや否やの瀬戸際だったらしい。

 

『こっちは補給完了。そっちは?』

『バッチリです。いやぁ、助かったよ二人共』

「礼なら姉さんに言ってくれ。私達は運んだだけだ」

 

適当に離れた箇所に自分に必要な分を残してパックを切り離し、最後の補給が終わった。ありったけ、とは良く言ったもので、実際は余り物の詰め合わせでしかない。燃料は全機八割、エネルギーも七割、装備は豊富だが、予備弾薬が足りずほぼ使い捨て前提。先の様に内蔵武器を使い切ってレーザーブレードは最悪の最悪だろう。もう補給は望めないのだ。

 

ケチっては数で圧倒されるので、出し惜しみは禁物。使う時はしっかり使う。その上で無駄弾を減らすことが肝心だ。

 

そして、ポイントとなるのが、零落白夜と絢爛舞踏の使いどころと物理近接武器の扱いだろう。

 

作戦としては

 

『織斑君を先頭にして私達が殿。どうせ主砲はニュードだろうし、零落白夜でちゃちゃっと消しちゃって』

『ちゃちゃっと…まぁ、分かってましたけど』

『中に入ったらまず主砲を破壊。その後は外縁の砲台を破壊しながら突入口を探って制圧の後爆破。以上』

 

こうなる、というよりそれしかない。主砲を撃たれては全滅を免れられないし、主砲だけを潰せばいいわけでもなし。ある程度の安全を確保しなければ、IEXAは良くてもISはダメだろう。ISの方がエネルギー周りはシビアなのだ。大和はもっとダメ。

 

ということになったので、作戦に沿った武器編成で装備を固めている。

 

(私達)は篠ノ之用の近接武器を幾つかと、残りは全て私用の支援火器に割り切った。(織斑・シャルロット)も同様だが、役割から大型のシールドを多数装備し、また大した誘導機能を持たないものや、そもそも狙う必要のないミサイルを中心に搭載。(更識姉妹)は槍一本以外を多様な射撃武器で統一した。隊列やそれぞれの得意不得意を考慮すれば、妥当な配置だろう。

 

以降、主砲に取りつくまで私達は会話という会話を失った。

 

ため息をついた織斑は言われるまでも無くブレードとシールドを抜いて先陣を切り、100mと間隔を空けずに私達が続き、同様に青のIEXAが殿につく。いつの間にか専守防衛に作戦を変え静観していたBRは一斉にこちらへ銃口を向け、火を噴いた。

 

先頭の織斑は大型シールドを複数装備し前方は完全に塞がれて全く隙間がない。よって攻撃は通さず、一種の質量弾となって肉壁へ突撃しては触れたものを鉄塊へと変えていく。俯瞰すればカラフルな槍に見えただろうそれは、容易く分厚いBRの壁を貫く。

 

最も数の多い層を突破した織斑は構えていたシールドの三分の一を切り離し、振り返ることなく簪が得意の誘導弾でシールドを爆破。あらかじめ仕込まれていた爆薬が追いすがろうとした機体を吹き飛ばし、別途起爆した散弾と砕かれたシールドの破片が横殴りの雨となって降り注ぐ。全体から見れば二割程度だが、最も切り返しの早い集団の足を挫いたことで、結果的に最初の難関突破に成功する。

 

多勢を置き去りにすることは背後に敵が控えているということ。前方にもまだ大量のBRが待ち構え、包囲されたに等しい状態だ。ここで更識が次の一手を打つ。

 

全方向へ一斉にばら撒かれたミサイルが一定距離で起爆。ECMとスモークを内蔵したそれは一体の空間に瞬く間に充満し、巻き込まれたBRは前後不覚に陥り、また逃れたBRは覆われた空間内の信号を全て認識できず硬直する。古典的だが、センサーが全ての無人機には効果覿面といったところだ。

 

スモークを抜けたところで、三機が全方向に対して一斉射。残ったECMも織り交ぜて放出されるミサイル群は程よく命中し、また迎撃された。気を散らすことが出来れば十分程度の攪乱は、これまた面白いようにハマった。

 

残り数キロまで接近した地点で、ようやく要塞が動きを見せる。外縁部からはミサイルが放たれ尾を引いてこちらへ殺到し、真正面の主砲からエネルギー充填の光が溢れ、遠くからは見えなかった機銃が猛威を振るう。

 

ここまで来れば対策など関係ない、とばかりにただ一言

 

『ゴーゴー! 突っ込みなさい!』

 

と更識が叫び、織斑から順番にスラスターが焼き付いて使えなくなるんじゃないかというほど出力を上げた。素早くなる程近づけるが、危険や弾幕の密度は増してシールドが摩耗する。小細工に割けるだけの弾薬は底をついている、流石にここまで来れば被弾は避けられないが、それも厭わずただ織斑の後に続く。

 

「くそ、かすり傷で逸れる」

「構うな。軌道修正だけに注力しろよ」

「分かっている。後でいたぶってやるさ」

 

黙ってやられるのは私だって趣味じゃない。だから、うんと堪えて爆発させるのが吉。その為にも今は我慢だ。

 

シャルロットが背面装備のショットガンでミサイルを迎撃しているが、漏れたものや機銃が少しずつIEXAの頑強な装甲に傷をつけては機体が揺らぐ。篠ノ之が言うようにかすり傷程度だが、塵も積もればとはよく言ったもので無視はできない。現に全身の損耗度が急激に増してあっという間にイエローに到達している。

 

「まだか……!」

 

更識の合図で散開して叩く段取りになっているので、合図が来るまで…つまり十分に接近するまではこのまま走らなければならない。前を向けばそろそろ充填を完了させる砲口がある。このまま突っ込めば全員が塵になるぞ。

 

……いや、そういうことか。わざと撃たせるつもりだな。背後には船もISもある。零落白夜でしか防げない。

 

直感だが更識の意図を確信すると同時、篠ノ之もそれを察したようでケツを追うどころか両手で押し始めた。示し合わせたかのようにそれぞれが最適の行動を起こし、織斑はスラスターの出力を弱めて委ね、更識もまた私達の背中を押す。

 

直後、衝撃が織斑に叩きつけられる。

 

そして、一瞬にして霧散した。

 

タイミング良く篠ノ之が押し出したことで手が離れ零落白夜によるエネルギー消失を受けず、それを肌で感じた織斑が零落白夜を発動。ブレードを抜いて黄金のオーラを纏ったそれを振り抜き、三機とも容易く舐め溶かす筈だった一射を何事も無かったようにかき消してブレードを担ぐ。

 

『攻撃開始』

「よし!」

 

その言葉を待っていました、とばかりに生き生きと三機がうねる。

 

零落白夜を纏ったまま砲口の中へ吶喊してはブレードを振り回し、ライフル二丁を主砲基部へ乱れ撃ち、砲身にブレードを二本とも突き刺しながら基部へ向かって切り進む。

 

陥落するのは最早秒読みで、内側から爆破され貫通した穴から織斑が飛翔した後に叩きこまれたグレネードで主砲は完全に沈黙した。

 

『下部にBRの射出口があるわ、(織斑・シャルロット)は左、(篠ノ之・ラウラ)は右から潰して。適当なところで切り上げて降下、中央部で合流してBR射出口から中に侵入して制圧よ』

「む、別れるのか?」

『前半分が潰せれば十分だし、固まって動く方が被弾する。的を三つに散らせばIEXAなら避けきれるわ。そのままツィタデルまで壊してくれるなら儲けものってことで』

『え、じゃあ先輩は?』

『ここで食い止める。じゃないと残ったBRが追いかけるか大和に攻めるかに別れちゃうでしょ』

「いや、しかし…」

『いーの! 元々そのつもりだったから。ブレードぶんぶんを覚えたばかりなんだから、それらしく突っ込んで暴れるのが性に合ってるでしょうが』

『うぐ』「ぐぎぎ」

 

性に合っている、というよりそれしかできない。とは言ってはいけない。

 

『行きなさい』

『…うす』

 

納得していない様子だが、ごねる事無く一つ返事で返した織斑は指示通りに向かって左側へ飛んだ。篠ノ之は急かされる前に踵を返して右側へ加速する。

 

「背中を向けろ。その方が当てやすい」

「了解した。こうだな」

「ああ」

 

二号機の両手には篠ノ之の使い慣れたブレードが握られているが、腰の予備と格納されたナイフを除いた全てが射撃武器であり、背部を中心として機体各部にマウントされる。すなわち、それらすべてが私の手足なのだ。

 

私のオーダー通りに背面飛行に切り替わり、無数の機銃と発射管が眼下に広がる。これら全部を平らげてよいというのだから、なんと太っ腹なことか。大和やオルコット達の安全の為に今から制圧するのであって、決して溜まったストレスを発散する為ではない、決して、うん。

 

幸いにも、簪達がとても良い仕事をしてくれているようで、邪魔という邪魔は入らない。

 

「ふはははははは!!」

 

思わず高笑いが漏れてしまう。しかし、実に良い光景だ。レーゲンでは決して扱えない類の武装を次から次へと使っては捨て使っては捨て、繰り返せばそれだけ要塞表面が焦土と化していく。ミサイル、ガトリング、グレネード、迫撃砲、散弾、チェーンガン、機雷、レールガン…はいいか、最高だ。急造とはいえあの篠ノ之束が手掛けた作品だ、無駄やムラがなく扱いやすいのが拍車をかけている。

 

やりたい放題に見えるだろうが、考え無しではない。屋内戦闘を控えているのだから、余分な武装は逆に危険因子になりかねないのだ。ただでさえデカいIEXAが武器のせいで通れませんでは困るし、跳弾が爆発武器に引火して損傷しては笑えない。

 

これは計画的発狂なのだ、うん。篠ノ之が若干引いているようなので、このように弁を述べた。

 

「そ、そうか」

 

ダメだった。まぁいい。

 

「気は済んだか? 秋介と合流するぞ」

「うむ」

「ご機嫌でなによりだ」

 

一帯……任された右半分前方は焼け野原という表現が正しく、地獄絵図そのものだった。

 

シャルロットも同じように蹂躙しているとすれば、機能の大半を失った事に。というかああいうタイプが怒ると一番怖い。現に私はクラリッサよりもシャルロットが怖い。

 

舵を予め定めていた合流地点へ切った篠ノ之。当然ながらここでも背面飛行で、漏れの無いよう入念に潰していく。

 

こちら同様に大量の武装をキャストオフした一号機の中の人は予想どおりに清々しく返事を返すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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扉の奥は程よく重力を感じることが出来る場所で、そこが地球を模した環境であることは直ぐに想像ができた。これだけ深く潜ったにもかかわらず何が目的なのかさっぱりだが、一先ず暴力的な事だけは間違いなく分かっている。じゃなきゃBRなんて武力を用意したりしない。

 

くぐった先は落とし穴……ではなく、巨大な空間の天井スレスレにこの出入口があるようだ。非常灯が煌々と照っていても底まで届かず、眼下には闇が広がっていた。センサーとソナーが備わっていなければ空間の全容を知ることはおろか、底なし沼としか思えなかっただろう。

 

部屋は長方形柱。かなり広く、そして深い。底には何か大きな物体がある。

 

それ以上は目視するしかないと諦め、意を決して突入。弱い重力に任せてセンサーを頼りに降下を始めた。今ではもう慣れた拾い過ぎる聴覚もフルに活用し、時折噴かす逆噴射で床までの距離を測り大きな衝撃を与える事無く着地。データリンクでおおよその落下時間と深さを共有し、全員が無事に降り立つ。

 

それを待っていたかのように、光源がその強さを増していく。先ほどまでの暗さが嘘の様だ。

 

ライトアップした空間には、俺達とは別に大きな蜘蛛がそこにいた。

 

やたらと物騒な巨大な主砲を背負った長方形の本体。その頂点から生えた四つの脚それぞれに大砲が備えられ、所せましと機銃が並ぶ。良くは見えないが穴が設けられているのか、ドローンがぽこぽこと産み落とされ守る様に浮遊した。

 

取得したデータから該当する兵器の情報が無いかを検索。

 

一件だけヒットした。武装や出力は字が伏せられて一切が不明だが、名前だけは判明した。

 

アルド・シャウラ。

 

トップシークレット扱いだったらしいな。

 

マップが正しければここが最奥だ。規格外のデカブツといい、あからさまな大部屋といい、コイツを潰してしまえば終いだろう。

 

「おい」

 

言葉が通じるかどうかの段階で謎だが、一応話しかけてみる。

 

「聞こえるか? というより、通じているのか?」

『―――〓〓■■〓』

「伝わっているみたいね。スピーカー壊れてるけど」

『――n Ni m 莠コ髢薙°?』

「わ、文字化けしてる。だめじゃん」

 

顔らしき箇所をこちらに向けながらコミュニケーションを図ろうと四苦八苦する蜘蛛。スピーカーが壊れているらしくノイズばかり、空間映写は文字化けと上手く意図が読み取れない。

 

繰り返すも一向に改善される様子は見られず、しびれを切らしたのか顔の部分が割れ中から何かが出てきた。

 

真っ黒の装甲に金色のラインが迸るBR。今までわらわらと飛びかかってきた量産とは全く違う、数度撃ち合ったカスタムタイプとも一線を画したオーラを感じる。

 

その風格と装備、間違いなく首魁だ。

 

「地球から来た人間だな」

「そうだ。ここのリーダーか―――ッ!」

 

俺の問いかけに対する返答は、前足に備わる大砲の不意打ちだった。バックステップの要領でブースターを噴かして避ける。微妙な射角制御の動作が無ければ直撃を受けていたかもしれない。

 

床は無傷。あの扉同様の技術が使われているらしい。きっとリペアフィールドを使えば粒子が待って削れるんだろうけど、そんな余裕は無いし必要も無いか。

 

「随分と物騒ですわね。それが貴方方の挨拶ですか?」

「挨拶など必要ないな。それが地球から来た人間であれば尚更よ」

 

アルド・シャウラが唸りを上げる。各所の蛍光部分がぼやりと光って、四つの脚がバランスを保ちながらぐんと伸びて立ち上がり、主砲は砲身を伸ばし、機銃が一斉こちらを向く。ドローンもまた数を増やし、立ちはだかるように壁を作った。

 

「さあ、すり潰してやるぞ」

 

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