--翌日、シェリルのライブ当日
ランカ「やばいやばい!完全に遅刻だよぉ…」
ランカは走っていた。
全然知らない道をただひたすらに。
人が混み合う公共機関を避け、あまり使わない抜け道を利用したことがあだとなり、迷子になってしまったのだ。行けども行けども会場らしき建物は見えてこない。ランカは携帯の時刻に目をやる。
ランカ「どうしよ…あと10分しかないよ…」
ランカ「わっ…!」
携帯に気を取られ、前方を見ていなかったランカはぶつかった拍子に尻餅をついてしまった。
ランカ「いたた…」
「オイ…どこ見て歩いてやがる」
運が悪いことにぶつかった相手は見る限りにガラの悪そうな大男であった。
ランカ「ご、ごめんなさい…」
大男「嬢ちゃんなかなかカワイイ顔してんじゃねぇか…ちょっとコッチ来やがれ!」
大男に強く腕を掴まれる。
ランカ「いたっ…は、離して!」
抵抗するものの、力の差で勝てるはずもなく、どこかへ連れ去られそうになったその瞬間――
どこからともなく現れた鳶色の髪の青年が大男の腕を振り払い、ランカを解放した。
大男「テメェ…なにしやがる!」
青年「…こっちだ」
青年がランカの手を引いて走り出す。その後を大男が追っていった。
大男の追跡から逃れている間ずっと、ランカは繋がれた手に妙な懐かしさのようなものを感じていた。
しばらくして二人は大男の追跡を振り切ることに成功する。
青年「ここまで来ればもう安全だ」
肩で息をするランカに対し、青年は涼しい顔をしている。
あれだけ走っていたというのに汗ひとつ掻いていないのが不思議であった。
ランカ「あの…さっきは助けてくれてありがとうございました」
青年「礼はいい。それより…急いでいたんじゃないのか?」
ランカ「え」
ランカは先ほど繋いでいなかった方の手の中で握りしめていたチケットの存在を思い出した。
ランカ「ああ!そうだった!シェリルのライブ~~!!ど、どうしよ、もう始まっちゃう!」
ランカは火がついたように慌てふためきだす。
青年は少し考える素振りを見せたあと、ランカを抱え上げた。
ランカ「ふえ!?」
突然宙に浮く感触にランカは素っ頓狂な声を思わずあげてしまう。
青年「俺がお前を会場まで送り届けてやる」
しっかり掴まっていろ。そう指示され、戸惑いながらもランカは大人しく従う。
そして青年は遠隔操作により赤紫のバルキリーを呼び出すと、ランカと共にその機体に乗り込む。
そして目的地である星道館へと勢いよく飛び立った。
青年「着いたぞ」
機体はものの数分で星道館の目の前へと辿り着いた。
ランカ「すごぉい…あっという間に着いちゃった…」
青年「さあ。早く行け。もう始まるぞ」
ランカ「あ、待って!私、ランカ・リーっていいます!今日は本当にありがとう!」
ランカ「えーっと…そうだ!お礼!今度お礼したいです。私、娘々って店でバイトしてて――」
青年「礼などいいとさっきも言ったぞ」
ランカ「あぅ…じゃ、じゃあ名前!せめてあなたの名前だけでも…!」
青年「…ブレラ。ブレラ・スターンだ」
それだけ言い残し、ブレラはランカのもとを去っていった。
ランカ「ブレラさん…か。なんだか不思議な人。初めて会ったはずなのに、まるで……」
そこまで言いかけて、ランカの脳裏に何かがフラッシュバックする。
ランカ「なに…今の?」
ランカは気を取り直してライブ会場の中へと入っていった。
「あら、シンデレラのエスコートはどうだった?魔法使いさん」
ブレラ「……大佐…」
振り返った先にはシェリルのマネージャーであるグレイス・オコナーの姿があった。微笑みを浮かべていたその表情はすぐさま、冷たいものに変わっていく。
グレイスはシェリルのマネージャーであると同時に、ブレラの上官でもあった。
グレイス「偵察の戻りが遅いと思ってみれば…こんなこととは」
グレイスは呆れたとぼやいてみせる。
グレイス「アンタレス1、お前のこの船団への随行を許可はしたが、外部の者との接触は許可した覚えはない。それが仮に妹であったとしてもな」
ブレラ「…申し訳ありません」
グレイス「あの娘にはすでに過去は無く、新たな家族と新たな環境がある。今更お前が出てきたところで、お前のつ入り込む余地などない」
ブレラ「……」
グレイス「わかったらすぐに持ち場に戻れ。今後勝手な行動は禁ずる」
ブレラ「…了解」
「憐れなものねぇ。王子様にでもなったつもりなのかしら」
「ただの我々の操り人形だということも知らずに」
電脳空間に響く複数の声。これらはインプラント・ネットワークと呼ばれる視聴覚データ運用技術を用いてグレイスの脳に直接語りかけられている。
「グレイス大佐、彼にはもう少し調整の必要があるんじゃないのか?」
グレイス「いいえご心配無く。あの娘がいる限り、彼には素晴らしい働きが期待出来るでしょう。そのために記憶の一部を残してあるんですから」
グレイスは不敵な笑みを浮かべてみせた。