星道館にはびっしりと観衆が押し寄せ、銀河の妖精のライブを今か今かと待ちわびていた。
やがて、スクリーンには多言語で文字が表示されていく。
「はじめに歌ありき」
「星々は歌う、まるで天界の音楽を奏でるように」
かつて銀河に名を馳せた、リン・ミンメイやシャロン・アップ、ファイアーボンバーらの名だたる面々が写し出され、そして、画面は大きく2059を表示して、照明が落ちる。
シェリル「あたしの歌を聴けーーっ!」
その掛け声を合図に巨大な歯車の舞台装置が回転を始め、『ユニバーサル・バニー』が流れ出す。
サーチライトに照らし出されたシェリルが歩き出し、ゼンマイ仕掛けの人形が踊り出す。シェリルの登場に会場は興奮で沸き立つ。
ランカ「デ、デカルチャー!!」
初めて生で見るシェリル・ノームに感動し、ランカは身を乗り出す。
ミハエル「すごい熱気だな。これが銀河の妖精か…」
アルト「……」
バックステージで出番を待つミハエル達は、その様子を見て思わず感嘆の声を漏らす。しかし、アルトは何か別のことを考えていたようで静かに目を細めていた。
ミハエル「どうしたアルト?シェリルにアマチュア呼ばわりされたこと、根に持ってんのか?心配しなくてもお前の腕前なら--」
アルト「別に。そろそろ出番だろ、俺たちも行くぞ」
ミハエルは小さく溜息をつく。
ミハエル「おいおい勝手に先導すんなって。リーダーは俺だぜ?」
2曲目の『My FanClub's Night!』のイントロにあわせ、星道館会場の上空で、ステージ中央へ進む色とりどりの光の帯が5つ。アルトやミハエル達のアクロバット部隊である。
ランカ「あ!アルト君たちだ!」
ランカが手を振ると、それに気付いたアルトは小さく微笑んだ。
ミハエル「お前ら!歌に聴き惚れてトチるなよ!アップワードエアブルーム!」
アルト「(それはお前だけだろ)」
内心ツッコミを入れつつ、急上昇したアルトは空中に光の螺旋を描くように飛び出し、光の粒子が会場へ舞い降りる。
ランカ「わあーー!キレイ!」
ランカはその美しさに思わず手を広げた。
空中ステージで歌うシェリルにスポットライトが当たる。シェリルは銃を構えると、旋回飛行するアルトに狙いを定め、大きなハートの光弾を発射する。
アルト「⁉︎」
光弾を避けたアルトに対し、シェリルは挑発的な笑顔で銃をクルリと回してみせた。
アルト「…ふざけやがって!」
体勢を直したアルトはシェリルに向かって突撃する。
ミハエル「あのバカ…‼︎簡単に挑発に乗りやがって‼︎」
シェリルはステージの端、飛び込み台のような細い場所まで走り出し、そこから勢いよく飛び降りた。
アルト「なっ……‼︎」
落下していくシェリルにギョッとしたのはアルトだけではなかった。
ランカ「うそッ……‼︎」
観客全員が息を呑んでその光景を見つめていた。
アルト「うぉーーーーー!」
落下していくシェリルを追って急降下したアルトは、空中で彼女を受け止める。
アルト「お前何てことをッ!」
シェリル「しっ。黙って」
シェリルは抱きかかえられたまま、アルトの口元を指でふさぐ。
シェリル「このままもっと行くわよ!」
アルト「……はぁ〜…たく!」
仕方なくアルトは歌うシェリルを抱えたまま、飛び上がる。
ミハエル「ヒヤっとさせやがって…全機!二番機をフォロー!」
アルトを中心に集まった部隊は何事も無かったかのように見事なフォーメーションで旋回をする。
ランカ「なあんだ、演出だったんだ。良かったぁ〜」
その様子を見て、ランカは安堵の表情を浮かべた。
アルト「ステージから飛び降りるなんて…何考えてんだ!」
星道館の天井部のデッキに着地するなり、アルトはシェリルに食って掛かった。
シェリル「決まってるじゃない。演出よ、演出」
アルト「ふざけるな!もしオレがあと一歩でも遅かったら、お前だけじゃなく観客だって!」
シェリルは鼻で笑う。
シェリル「予測可能な人生なんて何が面白いの?あたしはもっとスリリングに歌いたいだけ」
アルト「なんだと!」
シェリル「あたしは出来る限りとことん観客を楽しませたい。…ほら、聞こえるでしょ?」
会場では鳴り止まないシェリルコールが聞こえてくる。
シェリル「あたしのライブに来て、みんなにサイコーだったって気分になってもらいたいのよ!…それにほら」
スカートを急にめくり上げるシェリルにアルトはたじろぐ。
アルト「ガ、ガスジェットクラスター⁉︎」
アルトの反応にシェリルは堪えきれず吹き出す。
シェリル「バカね、アマチュアなんかに命を預けるわけないじゃない」
アルト「くっ…」
アルトは唇を噛みしめる。
シェリル「さあ、さっさと次の曲行くわよ、みんながあたしを呼んでるわ」
その瞬間、照明が点灯し、会場が大きく揺れる。
シェリル「な、何⁉︎」
けたたましいサイレンの音が鳴り響き、会場のホログラム映像が次々と艦内放送へと切り替わる。
艦内放送「避難警報発令。避難警報発令」
それはライブ会場だけではなく、サンフランシスコや渋谷の街中でも放送され、人々は足を止め、モニターを見上げた。
艦内放送「市民の皆様は、速やかに最寄りのシェルターに避難して下さい。これは演習ではありません。繰り返します--」
グレイス「来たわね。アンタレス1、フェアリー9の回収に迎え」
ブレラ「了解」
観客「避難って…⁉︎」
観客「まじかよ⁉︎」
警備員「皆さん慌てず落ち着いて、こちらへいらしてください!」
客席で動揺する観客たちを警備員が順に誘導していく。
ミハエル「--了解!直ちに戻ります!」
通信を切ったミハエルがアルトやルカに向き直る。
ミハエル「ミッションコードビクターだ!」
ルカ「コード『ビクター』…それって隊長が言ってた例の⁈」
ミハエル「アルト、お前はシェリルを連れて先に避難しろ!」
アルト「わかった!」
シェリル「避難ですって⁉︎私のライブはまだ始まったばかりなのよ!…きゃ!」
たまらず抗議の声を上げた直後、再び会場が激しく揺れ、シェリルがよろめく。
後ろからアルトがそれを支える。
アルト「そっちは任せた!」
ルカ「はい!」
ルカとミハエルはその場を引き上げた。
アルトはシェリルに下で待っているように伝え、天井の非常ハッチから屋外に出る。空を見上げると、大窓越しに宇宙戦闘が写し出されている。
シェリル「何なのよ、これ…」
背後から下で待っていたはずのシェリルが息を呑む音が聞こえる。
アルト「バカ!ここは危険だ、早くシェルターに避難を」
シェリル「!」
大きな音に驚いて見上げると、蟲のような巨大な宇宙生物がアイランド1に着地し、大ドームに亀裂が走る。
シェリル「(あれは、バジュラ…⁉)」
巨大な蟲、バジュラが放ったビームがついにドームを貫通し、星道館の周辺に着弾する。衝撃波でアルトたちは空中に放り出される。
シェリル「キャーーーーーー!」
すぐさまアルトは、ジェットをふかしてシェリルに近づき手を伸ばす。しかし翼に破片が当たり、バランスを崩して手を掠めてしまう。ビル街がすぐそこまで接近している。
アルト「シェリル!腰のジェットで飛べ!早く!」
言われた通り、シェリルは腰のスイッチワイヤーを思い切り引いて、ガスジェットを噴射する。
着地する寸前バランスを崩し、瓦礫の上に投げ出されうめき声をあげる。
天井に空いた穴からは大小のバジュラ達が次々に突入し、街を混乱へと陥れる。
燃えるビルや車列の間をすり抜け逃げ惑う人々。ランカはパニックになった群衆に押しのけられ、倒れこんだ。
アルト「シェリル!」
シェリルを見つけたアルトは、膝裏に腕を入れ、抱え上げたままホバリングする。
アルト「しっかり掴まってろ!」
爆風やビームを掻い潜り、追ってくるバジュラを狭い路地に飛び込んでやり過ごす。壁の陰で身を低くして辺りの状況を伺う。
ランカ「きゃあああああっ!」
悲鳴のする方に振り返ると、遠くでへたり込んだランカの目の前に大きなバジュラが迫っていた。
アルト「ランカ⁉」
アルト「シェリル、ここでじっとしてろよ!」
駆けつけようとするアルトだったが、すぐ近くの装甲車両にビームが当たり、爆炎で道を阻まれる。
アルト「くそっ!」
「どけ!」
アルトの目の前を見慣れない赤紫の機体が通過する。
アルト「なんだあの機体は!」
アルトは目で追いつつ呟いた。
バジュラの目が赤く発光し、恐怖に目をつぶるランカ。
ランカ「やめて…来ないで…いやあぁぁぁぁあっ‼︎」
ルカ機のモニターが襲われているランカの姿を捉える。
ルカ「オズマ隊長!大変です!ランカさんが…!」
オズマ「なにっ⁉︎」
ランカに腕を伸ばしかけていたバジュラの動きがピタリと止まった。
グレイス「フォールド反応…?一体どこから…」
動きを止めた隙を突き、赤紫の機体がランカを庇うようにバジュラとの間に割って入り、その躰にミサイルを撃ち込んだ。
ミサイルは頭部に命中し、バジュラは倒れ込む。
怯えるランカが恐る恐る目を開けると、そこにはあの時、星道館まで自分を送り届けてくれたのと同じ機体が目の前にあった。
「ランカ!無事か⁈」
遅れてオズマ機が現れ、ランカの無事を確かめる。
ランカ「お兄ちゃん!私は大丈夫、この人が助けてくれて……あれ?」
振り返るとそこにはすでにブレラ機の姿は無く、ランカは虚空を見つめた。
オズマ「立てるか、ランカ!俺の機体に乗れ!早くこの場を離れないと」
ランカ「う、うん…!」
シェリルはよろけつつ、アルトの方へ向かおうとする。しかし背後から何者かに腕を掴まれる。振り解こうとして体勢を崩し尻餅を着いてしまう。
「お迎えに参りました、シェリル様」
シェリル「…ブレラ!…何よ今頃!」
頭上からブレラの手が差し出され、シェリルは体をおこす。
ブレラ「…右肩と左足、計7カ所に打撲、大臀部に内出血が見られますが、いずれも軽傷です」
ブレラはシェリルの全身をスキャンし、傷の具合を機械的に述べていく。
シェリル「ちょっと、やめて!勝手に人の体をスキャンしないでって何度言わせるのよ!」
シェリルは体を隠すように腕を組み、叱責するものの、ブレラ本人は気にすることなく辺りの警戒に意識を向ける。
ブレラ「グレイス女史がお待ちです。騒ぎに巻き込まれる前に帰還します」
無遠慮にシェリルを抱え上げるブレラ。その目は少し先のマンホールをロックし、彼の脳内で進むべきルートが確立される。
ブレラ「最短コースで帰還します」
シェリル「ちょ、ちょっと…!どこから行くつもりなのよ!」
マンホールの蓋を飛ばし、ブレラは中に飛び込む。
シェリル「下水道はやめてぇえええ‼︎」
シェリルの悲鳴がマンホールの下へ遠ざかっていった。
ここで少しこの小説内での設定を説明。
基本は劇場版設定をベースにしていますが、開始時点からアルトはミシェルやルカらと共にSMSに所属しているという設定にしています。もちろんきちんとミシェル呼び。