目の前に現れた、憧れのシェリル・ノーム。ランカはこれが夢ではないかと頬をつねってみるが、変わらない。これは夢ではなく現実なのだ。
シェリル「私はいつだって自分の出来る全てを懸けて、全力で歌い続けてきたわ。それを才能なんかで片付けて欲しくないわね」
シェリルは静かに目を瞑る。
"銀河の妖精というより白鳥ね。血の滲むような水面下の努力を誰も知らない…"
いつかグレイスに言われた言葉。
シェリル「(そう。私はシェリル・ノーム。銀河トップの歌い手で在り続けるため、必死で歌ってきた…)」
ランカ「あ、あの…シェリルさん?」
突然、黙ってしまったシェリルにランカはおずおずと話しかける。
シェリル「あなた、名前は?」
ランカ「へ⁉︎あ、ランカ・リーです!」
シェリル「そう、ランカちゃんね。あなたには何か…可能性を感じるわ。この私が言うんだから間違いないわ!あなた、歌手になりなさい!」
ランカ「…え!」
そしてランカに近づき、耳元で囁く。
シェリル「私を超えられるぐらいのね♡」
ランカ「あわわわ…⁉︎」
驚きと緊張で金魚のように口をパクパクさせたままのランカをシェリルは面白そうに見つめる。
シェリル「ふふ…この私を目指しているのならそれぐらいの意気込みでないと困るわ」
ミハエル「あれ?おーいランカちゃーん!」
ランカ「あ、ミシェル君、アルト君、ルカ君!」
シェリル「!」
オズマからの呼び出しを終えた3人が、ランカを見つけてやってくる。3人からはシェリルの姿はランカの陰になって見えていなかった。
ミハエル「いやー折角の放課後のランカちゃんとのひと時だったのに、途中で俺たち抜けちゃってごめんね。今終わったとこなんだ。お兄さんの迎えだよね?まだ中にいるから…」
ルカ「あれ?ランカさん、そちらの女性は?」
ミハエルの話を遮るようにルカが口を挟んだ。
シェリル「探したわっ!早乙女アルト‼︎」
勢いよく指を突きつけられ、アルトは注目の的になる。
アルト「俺っ⁉︎」
シェリル「ちょっと付き合いなさい!」
アルト「お、おい‼︎」
そのままアルトの腕を引いてシェリルはどこかへ行ってしまった。
ランカたちは呆然と成り行きを見守っていた。数秒の後、ミハエルが口笛を鳴らす。
ルカ「…今のってシェリルですよね」
ランカ「……」
アルト「イヤリング?」
建物の裏手までアルトを連れ出したシェリルは、要件であったイヤリングの話を早速持ち出した。
シェリル「そう!昨日あなたとバジュラから逃げてる時に片方を落としたのよ。一緒に探してちょうだい」
アルト「はあ?なんで俺が…」
お願いというよりも命令に等しい物言いにアルトは思い切り顔をしかめる。
シェリル「あなたのEX-ギアの移動が荒っぽいせいで落としたんだから当然でしょ?」
アルト「なっ!助けてもらっておいて何だよその言い方!あの時は俺だって必死に…!」
シェリル「なによ!あんたのせいで無くなったんだから、一緒に探しなさいよ!あれは…大切なものなのっ!」
よほど大事なものなのか、シェリルの表情にはいつもの余裕が無い。それを見てアルトは溜息をこぼす。
アルト「あ〜〜〜…わかったよ。一緒に探せばいいんだろ。けど探すってどこを…」
シェリル「そうね、まずは…」
その時シェリルの胸元が震え出し、谷間から鯛焼きの形をした携帯が飛び出してきた。アルトはシェリルの胸元から慌てて目を逸らす。
シェリル「電話だわ。ハーイ、グレイス。--商談?そんなの後に…え、もう来てる?…もう!わかったわ…」
ピッ。
シェリル「残念だけど今日の所はここまでだわ…」
アルト「呼ばれてるんだろ、早く帰った方がいいんじゃないか?こっちも探しておくから。見つけたらお前に返しに行けばいいんだろ」
シェリル「…必ずよ!絶対に見つけて私のとこに返しなさい‼︎いいわね‼︎」
そう言い残し、シェリルは急ぎ打ち合わせ場所のビルへと向かった。
打ち合わせ場所に着くと、可笑しなサングラスを掛けた男がシェリルを待っていた。
グレイス「お待たせして申し訳ありません」
グレイスが深々と頭を下げる。
エルモ「いえいえ。銀河の妖精がご多忙ということは重々承知の上です。こうしてお時間を頂けただけで有難いことですから」
エルモ「お初にお目にかかります。私、エルモ・クリダニクというものです」
エルモと名乗った男が名刺をシェリルに差し出す。名刺にはベクタープロモーション代表と書かれていた。
エルモ「早速なのですがシェリルさんに、今度のジョージ・山森監督の映画に出演をお願いしたくて参りました」
シェリル「へえ。映画ね、いいじゃない受けるわ」
二つ返事で了承を出したシェリルは、それと…と、付け加えるように話す。
シェリル「どうせだったら主題歌も担当したいわ。曲はもう決まっているの?」
エルモ「いえ、主題歌の方はまだ…」
シェリル「だったら今から考えるわ」
エルモ「い、今からですか⁈」
そう言うなりシェリルはグレイスに譜面とペンを持ってくるように指示する。
シェリル「その映画ってどんな映画なのかしら?」
エルモ「マヤン島を舞台に、鳥の人の真実と--」
シェリル「なるほど南の島ね。照りつける太陽、メラメラ…いやギラギラって感じかしら…」
エルモ「え、えっと…?」
シェリル「静かに!…今降りてきてるのよ!」
エルモを置いてけぼりで黙々と言葉を書き込み出すシェリル。困ったエルモにグレイスがフォローを加えた。
グレイス「ごめんなさいね。あの子、ああなると止まらないから…」
シェリル「出来たわ!曲名はギラギラサマーよ!これを監督に届けてちょうだい!」
それから数十分も経たない内にシェリルは映画のための曲を書き下ろしたのだった。
その頃、家に帰ったランカはノートパソコンに向かい一人悶々と考え込んでいた。
ランカ「(アルト君とシェリルさん…どういう関係なのかなぁ…あ〜ダメ!気になって課題どころじゃないよお)」
頭を抱えるランカ。ふと一つのニュース記事が目にとまる。
ランカ「…ミス・マクロスフロンティアか…」
それまでアルトとシェリルの関係で頭を悩ませていたことなど忘れ、ランカは夢中でその記事の詳細を開く。
ミス・マクロスフロンティアとは、この船団で知らぬ者はいないほど古くからの伝統の祭典である。ランカもいつかはこのコンテストで自身の歌を披露したいと夢に描いていた。
ランカ「そっか、今度の土曜なんだ。…エントリーはまだ出来るみたい…」
"あなたには何か…可能性を感じるわ。あなた、歌手になりなさい!''
シェリルに言われた言葉が蘇る。
ランカ「…よし!」
ランカは意を決して、ミス・マクロスの参加フォームを開いた。
エルモは弱小プロダクションの社長ではなく、そこそこの芸能プロダクションとして成功しているという設定に変更しています。
あと4話と5話のサブタイトルを入れ替えました。