ランカ「頑張れ自分…頑張れ自分…」
控え室で待つランカは、自分に言い聞かせるようにボソボソと言葉を繰り返す。
「次の方、どうぞー」
ランカ「はひっ!」
ついにランカの番が回ってきた。
ランカ「114番、ランカ・リーですっ‼︎よ、よろしくお願いしますっ‼︎」
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アルト「へぇー。じゃあミス・マクロスの予選通過したのか。すごいな」
ランカ「えへへ。ありがとう」
いつものように放課後、ランカたちはカフェ''シルバームーン''でのひと時を楽しんでいた。話題は先日ランカが受けたミス・マクロスの予選で盛り上がっている。
ナナセ「ランカさんの可愛さなら通過して当然です‼︎本選も優勝間違いなしですっ‼︎」
ナナセが拳を作って力説する。
ランカ「もお、ナナちゃんったら大げさだよぉ」
ルカ「本選は僕たちみんなで応援に行きますからね!」
そういえばと、ミハエルが思い出しかのようにランカに問う。
ミハエル「ミス・マクロスのことオズマ隊長には言ってあるの?あの人、こういうの、いの一番に反対しそうな感じだけど…」
ランカ「あー…お兄ちゃんには絶対反対されると思ったから黙ってエントリーしちゃった!」
ミハエル「なるほど…」
バレたら大事になりそうだと思ったミハエルだったが、口には出さずにいた。
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エルモ「ジョージ監督、シェリルさんの出演OK出ましたよ!それで…彼女からコレを主題歌に使って欲しいと預かってきました」
ジョージ・山森がデモテープを再生する。
ジョージ・山森「………」
しかし、曲を聴いていた監督にあまり良い反応は無く、首を横に振るばかりであった。
助監督「…監督がおっしゃるには、今度の映画と曲のイメージが合わないそうです」
寡黙なジョージ監督との会話は、いつも助監督を通して行われている。
エルモ「そうですか…弱りましたね。監督のイメージに合う曲が見つかればいいのですが…」
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グレイス「もう!言っておいたじゃない。明日はミス・マクロスフロンティアの審査員をするのよって!」
シェリル「ちょ、ちょっと忘れてただけよ。誰かさんのスケジュールがタイトだから…」
仕事を忘れ、外出しようとしていたシェリルはグレイスからお小言をくらっていた。
グレイス「とにかく…今日中に予選通過した子たちの履歴書に目を通しておくのよ!」
シェリル「はいはい」
シェリル「さてと…」
言われた通り机の上の履歴書にザッと目を通していると、見覚えのある顔を発見する。
シェリル「…この子、この間の…ふふ、素直になる事にしたのね」
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ミス・マクロス本選当日
「ちょっとォ、なあにあの子」
「あんなツルペタな子が出るの?」
ランカ「……」
控え室で好奇な目にさらされながらランカはじっと耐え忍んでいた。しかし周りと自分を見比べて不安は加速する一方であった。
ランカ「(どうしよう…私、場違いな気がする…)」
ナナセ「…ランカさん、ランカさん!」
控え室の入り口でナナセがこっそりランカを呼び出す。
ナナセ「ランカさん、これ、忘れ物です」
ナナセがリボンの付いたリストバンドをランカに手渡す。
ランカ「ありがとうナナちゃん」
「あら?美術科のナナセじゃない。あなたも参加するの?」
二人の前に抜群のプロポーションの女性が姿を現した。
ナナセ「あ、いえ私はランカさんに忘れ物を届けに来ただけです。ランカさん、こちら芸能科のミランダさんです」
ランカ「ど、どうも」
ミランダ「じゃあこの子が?」
ミランダがランカの体を上から下に見て、クスリと笑う。
ミランダ「ま、せいぜい頑張ったら?無理だと思うけど」
ひらりと片手を上げてミランダが控え室の奥へと消える。
ナナセ「あんなの気にしないでください!ランカさんにはランカさんの良さがありますから‼︎」
ランカ「ナナちゃん…」
感激でナナセの胸に飛び込もうとしたランカであったが、その大きさを前にかえってへこんでしまうのであった。
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司会者「さあ今年もやってまいりました。ミス・マクロスフロンティア!今年は特別審査員としてジョージ・山森監督と銀河の妖精シェリル・ノームにお越しいただきました」
ルカ「うわ〜やっぱり生シェリルは何度見てもいいものですね。さすがトップスター」
アルト「ふぅん…そうか?」
ミハエル「そうかってお前…」
ルカ「アルト先輩はいいですよね。ライブの時シェリルを抱っこして飛んでたんですから!それにこの前だって二人きりでどこ行ってたんです?」
アルト「いや、あれは…」
ルカ「あーあ、こっち向いてくれないかなー?」
ルカの思いが通じたのか通じていないのか、その時ちょうどシェリルが客席にアルトを見つけ、にこやかに手を振った。
ルカ「あ!今見ましたか⁉︎シェリルがこっちに向いて手を振りました‼︎」
ミハエル「ああ。まずいな…あれは俺に恋した目だったぜ」
アルト「(コイツらアホだろ…)」
ナナセ「もう!もうすぐランカさんの出番ですよ!静かにしててください‼︎」
司会者「次はエントリーナンバー7、ランカ・リーさんです‼︎」
ステージの上のランカにスポットライトが当たる。
司会者「特技は歌だそうです。では歌っていただきましょう‼︎曲はリン・ミンメイの名曲、『私の彼はパイロット』です‼︎」
ランカ「♪〜」
順調に歌い出したランカ。しかし、突然音が途切れ、観客たちがどよめきだした。
観客「なんだなんだ」
観客「故障か?」
スタッフ「おいどうなってるんだ!
発電機見てこい!」
スタッフたちが慌ただしく駆け回る。
ランカ「(…どうしよう…怖いよ…やっぱり私には無理だったんだ…)」
アクシデントに対処しきれず、ランカはその場で立ち竦んでいた。
ナナセ「ランカさん…」
心配そうにナナセが見つめる。
シェリル「(こんなアクシデントで固まっちゃうようじゃまだまだね…私の見込違いだったかしら)」
「♪〜♪♪〜」
シェリル「!」
アルト「…なんだ?」
どこからかハーモニカの音色が聴こえてくる。
ランカ「(なんだろう…なんだか懐かしい。私…この歌、知ってる…?)」
ランカは瞳を閉じ、体の奥から溢れ出てくるように浮かび上がる言葉を口ずさむ。
エルモ「ヤックデカルチャー…」
シェリル「(すごい…春風みたいにあったかくてやさしい…まるで、鳥や獣、草、木、花に聴かせているような…)」
ジョージ・山森「…天使の声」
シェリル「‼︎」
寡黙な監督が思わず口を開いた。
ジョージ・山森「…心の奥底まで染み渡る癒しの歌…これこそ、私が探し求めていた歌だ…」
シェリルはゴクリと息をのんだ。
シェリル「(…間違いないわ。この子は、私にないものを持っている…)」
グレイス「すごいフォールド波反応…ふふ。ついに見つけたわ…」
会場の隅で壁にもたれかかりながら、グレイスはメガネを光らせた。
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司会者「さあ!いよいよ発表です!今年のミス・マクロスフロンティア映えある優勝は…」
ドラムロールが鳴り響く。
司会者「ミランダ・メリンさんです!」
ステージに上がったミランダにトロフィーが贈呈され、温かい拍手が送られる。
司会者「そしてもう一人!審査員特別賞に選ばれた、ランカ・リーさんです!」
ランカ「ふぇっ⁉︎…わ、私⁈」
アルト「行ってこいよ。みんなお前を待ってるぞ」
ランカ「…うん!」
ブレラ「………」
ステージの上のランカの姿を見届け、そっと会場をあとにするブレラ。その様子をランカは目撃していた。
ランカ「(あれは…ブレラさん?)」
会場を出た長い廊下でグレイスがブレラにすれ違いざまに声をかけた。
グレイス「…疑われるような行動は禁じていたはずだ」
ブレラ「……」
背を向けたままブレラが足を止める。
グレイス「ランカ・リーにフォールド波反応を確認した。これより彼女をコードQ1と称し、次の作戦へと移行する」
グレイス「Q1の監視には他の者をあたらせる。お前は今まで通りシェリルの護衛につけ」
ブレラ「なっ…」
ブレラの抗議にグレイスが応じる様子はなかった。
グレイス「返事はどうした?」
ブレラ「…了解」
*******
コンテストの後、ランカはすぐに会場を飛び出してブレラの姿を探していた。しかし、その鳶色の髪を見つけることは出来なかった。
「ランカちゃん」
名前を呼ばれ振り返ると、シェリルがこちらに歩んで来た。
シェリル「審査員特別賞、受賞おめでとう。あなたの歌、心が震えたわ」
ランカ「あ、ありがとうございますっ!あのとき…シェリルさんがああ言ってくれたから一歩踏み出せました」
シェリル「…ふふ。ランカちゃんの実力でしょ」
でも…とシェリルは続ける。
シェリル「どうしてあなたがアイモを知っていたの?」
ランカ「アイモ…?」
シェリル「さっきあなたが歌った歌よ。あれは私が小さい頃、母から教わった思い出の歌なの。母は祖母から、祖母はどこかの惑星で聴いた歌だと言っていたわ。…もしかしてランカちゃんもその惑星に…」
グレイス「シェリル、ここにいたの。そろそろ帰るわよ」
シェリル「グレイス…ええ、わかったわ。ランカちゃん、続きはまた今度ね」
ランカ「え、あ…」
シェリルとグレイスが立ち去った後、アルトが遅れてやってきた。
アルト「ランカ。シェリルと何話してたんだ?」
ランカ「ううん…なんでもないよ」
******
車で移動中、グレイスはミラー越しにシェリルの顔を一瞥した。
グレイス「…なんだか嬉しそうね、シェリル」
シェリル「そう?」
シェリルはランカという自分の最大のライバルになるであろう存在に胸の高鳴りが抑えられずにいた。
シェリル「真の伝説はこれから始まるってこよ」
グレイス「どういう意味?」
シェリル「ふふ、わかるわよ。そのうち…ね」