マリア(偽)さん家のおさんどん   作:数多 命

2 / 3
設定やらつじつま合わせやらに悩んでいたら、大分間が開いてしまいました。
それでも見てくださる寛大な方々へ、この最新話を捧げます。


雨の日のトマトスープ

しとしと、水滴が降り始めた。

一つ二つが、十や二十に増えて。

曇天から、滝のように。

 

「・・・・危機一髪、かしら」

 

取り込んだ洗濯物を畳みながら、外を眺めていた。

畳んだ傍から、各人ごとに取り分けていく。

盛り上がるテレビの音声に顔を上げると、セレナが海外で頑張っている姿が映し出されていた。

『がんばれ』という意味を込めて、薄く笑みを浮かべる。

と、ここで玄関のチャイム。

 

「はーい!」

 

来客か宅配か。

どちらなのかを考えながら、ドアを開けると。

 

「――――あ」

 

濡れ鼠になっている来客。

今まさにスカートを絞っていた彼女。

 

「悪い、雨宿りさせてくれ」

 

雪音クリスが、バツの悪そうな顔で立っていた。

 

 

 

 

 

 

――――マリアがクリスと出会ったのは、つい昨年の話だ。

その頃から恩人の下を離れ、訳あって二課に世話になり始めた頃だった。

朝起きて、ゴミ出しに出たところ。

路地裏で行き倒れているクリスを見つけたのが始まり。

当時も今日のように雨が降っていたこともあり、何よりマリアの性分が『放置』の選択をとれなかったため。

しばらくの間、家に匿っていた。

始めこそ疑い、警戒を示していたクリスだったが。

何かと世話を焼いてくれる態度に次第に絆されてしまい(ついでに胃袋も掴まれて)。

懐いてしまった次第である。

 

 

 

 

 

 

 

「クリス、着替え置いておくわね」

「あ、ああ」

 

風呂にいるクリスに声を掛けて、用意した下着と服を脱衣所に。

濡れた服を入れて荒ぶっている洗濯機の残り時間も確認しながら、リビングに戻る。

外は未だ雨模様、当分は止みそうになかった。

そんな中、ふと。

すぶ濡れで震えているクリスの姿が、頭を過ぎって。

 

(――――そうだ)

 

思いついたマリアは、早速行動に移すべくキッチンへ。

冷蔵庫と戸棚をあさり、必要な材料を取り出す。

 

(まずは)

 

洗った椎茸を切り、柄の部分を気持ち厚めの小口切りに。

バジルもみじん切りにする。

 

(『笠』の部分は、晩ご飯に出しましょ)

 

椎茸の笠は、ひだのある裏側にマヨネーズをたっぷりつけて、トースターへ。

お好みで七味をかければ、『椎茸のマヨネーズ焼き』の完成だ。

食事の小鉢に良し、晩酌のおつまみにも良し。

マヨネーズが椎茸独特の臭みを中和してくれるので、苦手な人でも食べられる。

 

(と、今はこっち)

 

晩ご飯の思考から戻って。

フライパンに少し多めのオリーブオイルを引き、椎茸を炒める。

途中でバジルも投入。

椎茸がややしんなりしてくるまで火を通し、とっておく。

 

(次にトマト缶)

 

取り出して実を潰したトマト缶を鍋へ。

そこに、缶を濯ぎつつ水を投入。

 

(感覚としては缶1.5杯くらい、トマトが濃いなと感じたら二杯でも良し)

 

くつくつ煮えてきたら、ミックスベジタブルと、さっき炒めた椎茸を投入。

更に煮込む。

と、間もなく風呂の戸が開く音。

クリスが上がってきたようだ。

振り向けば案の定、タオルを片手にリビングに入ってくる。

 

「その、ありがと。助かった」

「気にしないで、それと、もう出来るから」

 

一口味見。

火がしっかり通ったことを確認して、コップに注ぐ。

 

「はい、あったまるわよ」

「お、おう」

 

クリスが飲み始めてから、マリア自身も飲んでみる。

まずくるのは強いトマトの味、そこに椎茸から出た旨みが加わってくる。

椎茸の臭みは、狙い通りバジルとオリーブオイルが中和してくれていた。

そこにミックスベジタブルの甘さと、バジルにオリーブの香りがアクセントを加える。

今日はどちらかというと家にいた方だったが、温もりが五臓六腑に染み渡っていった。

 

「――――何だか懐かしいわ、前まではこうやって、二人で食べていたわね」

「・・・・別に、焦がれるほど昔ってワケじゃないだろ。それに、今もちょくちょく来てるし」

「それでもよ」

 

マリアが元の家族と再会したことをきっかけに、今は別居している二人。

昔を懐かしむマリアの言葉に、そっけない反応を見せるクリスだが。

赤くなった頬が、本心を雄弁に語っていた。

 

「晩御飯、食べてく?」

「・・・・ん」

 

ここでからかったら拗ねてしまうので、それ以上は突っ込まない。

マリアの提案に、クリスはスープを飲みながら頷いたのだった。

 

「ただいま・・・・!」

「不意打ちとは卑怯デース!」

 

玄関が騒がしくなる。

調と切歌が戻ってきたようだ。

二人も急な雨にやられてしまったらしい。

マリアがタオルを手に出迎えれば、案の定雫を滴らせていた。

 

「おかえり、お風呂沸いてるから入っちゃいなさい」

「はーい・・・・」

「誰か来てるの?」

 

拭いてやる傍ら、髪を解きながら調が首をかしげる。

どうやら靴に気づいたらしい。

 

「ええ、クリスが来てるの。ごはんも食べてくって」

「そっか」

「お手伝いするデス!」

「お願いね」

 

一通り雫をぬぐって、それぞれリビングに行けば。

くつろいでいるクリスと鉢合わせるのは、当たり前のことで。

 

「あーっ!クリスさん、おいしそーなの食べてるデス!」

「うっわ、バカ!お前まだ濡れてんじゃねーか!こっちくんな!」

「切ちゃん、風邪ひいちゃうよ・・・・」

 

先ほどまでの静けさが嘘のように、一気に騒がしくなるリビング。

不快感はなく、むしろ心地の良い賑やかさだ。

 

「ほーら、調と切歌はお風呂に入る。風邪でもひいたら、セレナも心配するわよ?」

「分かったデス!」

「はーい」

 

今日もまた、温かい時間が過ぎていく。

そして、明日も。

今度はどんな笑顔を見られるのか。

楽しみにしながら、マリアはまた鍋を振るうのだ。




『椎茸のマヨネーズ焼き』は、ビールにも合いそうですね。
作者は飲まない人間なので、想像するしかできませんけども←

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。