最初は敵。
次々悪事を働く不届き者。
でも今は――――
「おおお・・・・!」
とある和風邸宅。
その居間で、住人である『風鳴翼』はきれいにまとめられた荷物に目を輝かせていた。
彼女自身整理整頓が苦手なこともあり、『きっちりそろえられた私物』は十分感動の対象になるらしい。
「ありがとなー、マリア。あたしだけじゃこうはならなかった」
微笑ましく見守るマリアの隣でお礼を言うのは、『天羽奏』。
翼の親友であり、『ツヴァイウィング』というボーカルユニットを組んでいる相棒でもあった。
「じ、自分でもできるようにならねばと、思ってはいるのだが・・・・」
奏のからかうような視線を受けた翼は、感動から一転。
どこか気まずそうに眼をそらしてしまう。
「きっと今からでも出来るわよ」
「・・・・そう、だな」
マリアが励ましを伝えると、持ち直したように手を握った。
「ひとまず、モノは床に置かないってとこから覚えるか!」
「奏ぇ!!」
再び奏がからかい、翼が悲鳴じみた声を上げる。
それもつかの間。
三人分の笑い声が起こり、ほがらかな空気になった。
三人の出会いは、四年前に遡る。
当時、まだ『恩人』の下にいたマリアは、その指示に従って聖遺物の蒐集に当たっていた。
『怪盗キャッツアイ』と名乗り、窃盗を繰り返す不届き者への対抗戦力として。
シンフォギア装者である奏と翼に白羽の矢が立ったのである。
その後紆余曲折を経た三人の間で絆が結ばれて。
現在は、親友と呼べる間柄になっている。
状況を区切るように、壁掛けの時計が正午を知らせた。
「っと、もうこんな時間か」
『そういえば腹が減った』と、奏は腹をさする。
「台所を借りていいなら、私が作るけど?」
「いやぁ、荷造り手伝ってもらった上にそれは悪いよ」
「だな、いつも馳走になっているのだし」
マリアの申し出に、首を横に振る奏と翼。
一様に立ち上がると、腕まくりをして。
「たまにゃ、あたしらがご馳走するよ」
「・・・・じゃあ、お願いしようかしら」
数年来の付き合いの、親友たちの言葉に。
マリアは頷いて答えたのだった。
「材料はそろってたはずなんだよなぁ」
さっそく連れ立って台所に来た奏と翼。
奏がぼやきながら冷蔵庫を開け、中身を確認する。
「たまご、長ネギ、ピーマン、かまぼこ、にんじん、チャーシュー・・・・おっ、キムチもあるな」
「それじゃあ、今日は?」
「おう、キムチチャーハンと行こうか!」
言いながら、手早く材料を取り出していく奏。
「切るのはまかせて」
「というかそれくらいしかできないもんな」
「ぐ・・・・」
「はは、冗談だよ。十分進歩してんだから」
ややむくれながらも、翼は慣れた手つきで包丁を取り。
次々食材を細かく切っていく。
目安としては、ご飯粒と同じくらい。
火を通りやすさ、食感のためだ。
なお、長ネギのみじん切りは、まず蛇腹切り、あるいは十字切りをしてから小口切りにするとやり易い。
「おー、やっぱ翼がやると早いや」
きれいに刻まれた材料を見て、奏は感嘆の声を上げた。
「っと、こっからはあたしだな」
気を取り直して、奏はフライパンを火にかける。
温まったところに油をひき、まずはにんじんを炒め始めた。
五割ほど火が通ったところで、チャーシュー、ピーマン、かまぼこを加えて。
さらに炒める。
しっかり火が通ったら、いったん皿に取り出す。
「たまごはー?」
「溶き終わってるよ」
「あんがとー」
翼からお椀を受け取り、溶き卵をフライパンへ。
細かな粒を作るイメージで炒め上げる。
その後、卵が固まり切らないうちにご飯を投入。
へらで切るように、米の一粒一粒が際立つように混ぜていく。
途中、先ほど炒めた具材、それからネギとキムチも加えて。
更に炒めていく。
「おっしゃ、仕上げだ!」
味付けの塩コショウ、酒を入れてもうひと混ぜした後。
鍋肌から、香りづけの醤油を流し入れれば。
焦げた醤油のいい香りが漂ってきた。
「へへっ、そーれっ!!」
気分が上がってきたのか、中華専門店さながらの鍋返しを見せる奏。
なお、一般家庭のコンロならゆするだけでも良い。
店のコンロに比べて火力が足りないので、やりすぎるとフライパンに張り付いてしまう恐れがある。
「それ好きよね、奏」
「でも、楽しそうで何よりだ」
いつの間に見ていたのか、マリアがのんびりと感心している。
と、思ったら何かやってる。
「何作ってんだ?」
「たまごスープ、じっとしてるのが落ち着かなくて・・・・一応、一言いったわよ?」
「・・・・なるほど」
焼きあがったチャーハンを皿に盛りつつ問いかけると、そんな返事が。
キッチン用のハサミで三等分してほぐしたカニカマを、市販の固形たまごスープの素に加えているようだった。
『一言いった』のところで翼に目をやると、こっくり頷く。
自分が気づかなかっただけかと、奏は一人納得した。
「まあ、そんなこんなで、チャーハンいっちょあがりッ!」
「わー!」
キムチの赤に、玉子の黄色やピーマンの緑が添えられた。
見た目も楽しいチャーハンだ。
『いただきます』と手を合わせた面々は、さっそく一口。
口の中でさっとほぐれるパラパラのご飯に、食感にアクセントを加えるピーマンとにんじん。
焼豚やネギといった食材たちが食べ応えを演出して、その全てをキムチのきりっとした辛みと酸味がまとめている。
「うん、ご飯もぱらぱら、意外と難しいのよねぇ」
「だろ?」
舌鼓を打つマリアに、得意げに笑う奏。
「たまごスープも美味だ、ひと手間でこれほどとは。さすがマリア」
「ふふっ、ありがとう」
汁物を一口飲んだ翼の誉め言葉に、今度はマリアが笑った。
――――最初は敵。
次々悪事を働く不届き者。
だが、今はどうだろうか。
紆余曲折を経たとはいえ、、それがきっかけで絆が結ばれた親友同士であるのに変わりはない。
とても異な巡り合わせもあるものだと、一人改めて感心しながら。
マリアはまたチャーハンを口にした。