とある竜騎士のお話   作:魚の目

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11話 戦火の大地にて

血塗れで帰艦したら化け物を見る目で見られたでござる。

敵竜騎士9騎とフネ3隻。

何処をどう見ても大戦果なのに誰も祝ってくれない。

やっぱ血化粧はいかんかったか。

内蔵から漏れ出した汚物も微妙に混じってるから臭いしね。

そこはかとなく感じるアウェーの空気に耐えつつ漸くロサイスに降りて主従共々じゃぶじゃぶ井戸水で体を洗い流すと既に夜。

速やかに与えられた粗末な天幕に侵入して睡眠の任務に就いた。

大活躍したんだから休み位くれても良いんじゃないのと思いもするが社会というものはそんなに甘くは無い。

竜騎士なんて華々しそうに見えるが実際には便利屋も良い所だ。

哨戒や敵竜騎士の迎撃は勿論の事侵攻作戦時には歩兵への航空支援だってする。

挙句の果てには作戦命令書の配達だってやらされることもある。

あんまり休んでいる暇は無い。

ロサイス上陸してから直ぐに始まった哨戒任務に翌朝早朝に参加するなんて全く運が悪いものだ。

1度寝れたからまだマシだけどね。

何故か知らないが第2中隊の奴らが全滅しているためそのシワ寄せも来ている。

あいつら風竜のみで構成された機動力重視の特化部隊だったから非常にもったいない。

艦隊戦に参加していなかったのに全滅しているという所に不審さは感じつつも偵察をこなす。

厚手のコートに身を包み寒風を凌ぎつつも眼下に広がる光景の懐かしさ。

時期も時期なのでそろそろ雪が降るだろう。

歩兵にも竜騎士にもやり辛い季節。

本当に勝てるかなー?

 

『しっかし、なんで態々こんな時期に攻めることにしたんだか。もうちょいで降臨祭だしじきに冬だぞ』

 

『ウルドに分からないんなら私にも分からんよ』

 

かの有名なナポレオンだって「ロシアの冬には勝てなかったよ…」と言ったとされるのに。

え?言ってないって?

いいんだ、細かいことは。

 

『寒いし雪が降ると足場も悪くなるし、春くらいまで経済封鎖でもして置けば良かったんじゃないか?』

 

『確かに私も寒いのは嫌だな』

 

『火竜だしな』

 

『うむ』

 

火だし、竜とは言え爬虫類だし倍率ヤバいなと思考が逸れたその時に次の担当が来た。

ハンドサインで頑張れよと送ってから僚騎と共に離脱する。

はやくスープなり飲んで暖まりたいや。

 

 

 

 

 

 

 

同じ仕事ばかりやり始めて5日ほど。

一向にアルビオンの竜騎士に出くわさないので緊張感が無くなり始めた。

完全にロサイスを放棄したのかと考えながらいつも通り哨戒上がりに小銭握りしめて飯を食いに街に繰り出した帰り。

第2大体の天幕の中で一番豪華だが同時にお葬式みたいな雰囲気を醸し出しているそれから丁度ルイズ嬢が出てきた。

俺の姿に気付いたのかこちらに向かってくるルイズ嬢に手を上げながら挨拶をする。

 

「どうも、ミス・ヴァリエール。何だか元気なさそうに見えますがどうしました?」

 

「ちょっと、来てくれないかしら」

 

暗い顔で躊躇いがちに言ってくるルイズ嬢の後ろを着いて行き彼女の天幕に入ろうとしたところでそいつを見つけた。

 

「サイトか?一体どうしたんだよ?」

 

此方に背を向ける少年、サイトからの返事は無い。

仕方ないのでルイズ嬢に話を聞く。

任務の性質上詳しいことは言えないがロサイス上陸作戦の際、第2中隊とともに出撃したはいいが自分達しか生き残らなかったと。

よく聞くような話ではあるが。

 

「それでこれか」

 

「ええ。確かに私だって彼らの死は哀しいけど、でも彼らの犠牲のお蔭で私たちは…」

 

言い淀むルイズ嬢。

スレていない2人の少年少女に言い表せない眩しさみたいなのを感じる。

犠牲無き戦争なんて有り得ない。

ついさっきまで笑い合っていた同僚が突然死ぬことなんて特に珍しくない。

親しい人間が死ぬのは確かに哀しいがだからと言ってそこで足踏みしてたら次は自分だ。

だから、気にしない。気にしてはいけない。

少なくとも、戦地に居る時は。

そんな風に考える様になった俺にはなんて声をかけていいのか分からない。

こればっかりは自分で折り合い付けるしかないのだ。

 

「なあ、サイト。詳しいことは知らんがあまり思いつめるなよ」

 

「…」

 

「参考にはならないと思うが、俺は死んだ人間の事は気にしないようにしている。うだうだ考えても死んだ奴は戻ってはこないし立ち止まったら死ぬのは自分だ。生きてる奴が死んだ奴に引っ張られるなんて有っちゃいけないんだよ」

 

やはり、反応は無い。

それでも言葉を続ける。

 

「無視はきついなあ。まあいい。話したくないんだったら俺はもう行くからな。じゃあ…」

 

「…なあ、ロナル」

 

漸くの反応。

天幕の扉から体が半分出かけた状態。タイミングの悪い奴め。

体を戻して向き直る。

 

「どうした?」

 

「お前も、名誉の為なら死んでも良いって、思ってるのか?」

 

「へあ?」

 

突然の意図の読めない質問に目を白黒させてしまう。

名誉、かあ。

 

「どうなんだよ、ロナル?」

 

「うーん…。正直に言うと俺が命を懸ける理由なんて生きる為のお金が欲しいとかそんな俗な理由が大半だけどね。まあ今回は他にもあるけど…」

 

「…つくづくお前って貴族っぽく無いよな。でも、俺にはそっちの方が解る、かも。少なくとも名誉なんて馬鹿げたもので命を懸けるくらいなら…」

 

「でも、生きていくためにはお金とかが必要になる様に、貴族にとってしてみても生きていくためには名誉とか見栄ってのが必要だってのは分かる、気がする」

 

一度急上昇しかけたサイトの機嫌が急降下していくのが見て取れた。

目がヤバい。

 

「…どういうことだよ」

 

「貴族ってのは面倒臭い生き方をしなきゃ生きていけない人種だってことさ。特権貰ったり威張り腐るにもそれ相応の実績とかが必要なんだよ、多分ね」

 

「…すごい曖昧だな。というか貴族がそんなぶっちゃけた話しても良いのかよ」

 

「田舎貴族だからね、俺」

 

嘘だけど。

 

「そういう問題かよ…」

 

「そういう問題でいいのさ、面倒だから」

 

頭が痛そうにしているサイト。

人をバカを見るような目で見やがって。

こんなもんでいいかな、少しは気が紛れたみたいだし。

 

「まあ、あれこれ悩むのはしょうが無いと思うがあまり時間はかけるなよ。今は静かなものだが何時まで膠着状態が続くかは分からない。もし敵が来てその時に戦えなかったら次に死ぬのはお前だ」

 

そういってから天幕を去ろうとする。

 

「…色々言いたいことはあるけど今回は勘弁しといて上げる。……もう少し、言い方とかアドバイスとかあるんじゃないの?」

 

「こういうのは他の人があれこれ言って納得できる問題じゃないですよ。自分で納得できる答えを見つけない限り悩み続けるだけです。あんまり力に成れず、申し訳ない」

 

軽く睨み付けながら聞いてくるルイズ嬢に謝りながら今度こそこの場を去る。

冷たいようだがおセンチになった奴のカウンセリングをしてやれるほど俺は大層な人間ではないのだ。

どうやって折り合い付けるのかは人それぞれだがサイトが乗り越えられることを願う。

 

 

まあ結局この数日後には妖精さん(仮)だかに助けられたとかで第2中隊の奴らは1人を除いて騎竜を失ったが全員帰還したのだが。

…結構真面目にサイトに説教しちゃったんだけど。

本気で恥ずかしい。

 

 

 

 

 

 

 

何故かルイズ嬢とサイトの天幕で連日行われる宴会に青筋を立てつつも暇では無いが変わり映えの無い日々が続く。

なんで第2中隊の奴らは食い物や酒をあんなに輜重の方から貰えるんだろうか。

決められた3食以外は寄越してもらえないからこっちは仕方なく任務終わりにアルビオンのお世辞にも美味くないスープを飲みに行ってるというのに。

いい加減腹が立ってきた。

ロクに働きもせずにバカスカ食いやがって。

注意しても「護衛任務中であります!」と無駄に威勢よく返事してきやがる。

…歩兵連隊にでも組み込まれないかな、こいつら?

無駄飯ぐらいは置いておいて、膠着した状況を打開するためにシティ・オブ・サウスゴータ攻略作戦が計画されているようだ。

その煽りを喰らいサウスゴータ近辺の哨戒飛行が強化され始めた今日この頃。

有り難くないことにルイズ嬢と第3中隊の隊長が何日か前に強行偵察を敢行したらしく目標周辺の敵騎士の動きが活発しているのが厄介だ。

空高く飛んでいるアルビオンの更に高く、太陽に隠れながら高高度から『遠見』の魔法での偵察。

じりじりと強い日差しに焼かれ、天空故の寒さに身を震わせつつただ都市を見やる。

敵さんもこちらの動きに気付いているのか軍の物と思しき馬車や一団の行き交いが活発化している。

街に入ってくるのは亜人の部隊で、出ていくのは人間の部隊。

亜人を主体とした防衛線なんて中々聞かないがどういうつもりだ。

図体はデカい為バリスタを引くのには役立つだろうが頭は悪いしノロマだからあまり使い道なんてなかろうに。

一兵卒の癖に無駄に戦術の事など考えながらメモを取っていると視界の端に移る複数の点。

 

『来たぞウルド』

 

『分かってる』

 

高速で飛来する竜騎士の一団の姿を見て即座に撤退を決定。

大きな戦いを控えているのに無茶は出来ない。

 

「撤収するぞ、遅れるな!」

 

俺と同様に偵察に励んでいた僚騎に声を張り上げそのまま降下して速度を上げながら味方の勢力圏まで引き返す。

高度差も手伝い交戦することなく帰還することに成功した。

 

 

 

『野ざらしは結構堪えるのだがな』

 

『悪いな、少し街の方で肉でも買ってくるから我慢してくれ』

 

帰還後、レッドを杭に繋ぎ一息ついた所でぼやかれた。

屋根も壁も無く藁が敷き詰められている訳でも無い唯のだだっ広い草原に杭で繋がれた竜たち。

大隊長に文句を言った所で特に変わらずそのままなので、せめてとご機嫌取りをする。

肉、と伝えた瞬間にいつもより尻尾の振りが大きくなるレッドに苦笑してしまう。

 

「やっぱり、立派なものだね。君の相棒は」

 

不意に聞こえる透き通るような美声。

声の主を知らなければ胸を高鳴らせてしまうかもしれないそいつに癪ではあるが反応してやる。

俺より高い身長で顔立ちの整った美形の男。

日の光にキラキラと輝いて見える金髪に月目が特徴的なロマリアの神官。

 

「一体全体こんな一兵卒に何の用ですか、中隊長殿」

 

「どうやら僕は歓迎されていないようだね、『血塗れ』殿」

 

第3中隊の中隊長であるロマリアの坊主、ジュリオ・チェザーレ。

外人部隊であるという理由もあるが、それにしたって早過ぎる異例のスピードで中隊長に抜擢されたため色々とやっかみをかけられている男。

ちょろっと見ただけだが、確かにその操竜術には卓越したものが感じられたので俺からは特に言うことは無い。

しかし。

 

「その渾名で呼びやがらないでくださいな、中隊長殿」

 

「中々勇ましいものじゃないか。僕は似合っていると思うけどね」

 

クソ坊主め。誰が野蛮人だ。

胸の内で吐き捨てる。

上陸作戦において血みどろで帰艦した俺に何時からか付けられていた渾名。

『血塗れの悪魔』。

致し方ないかとスルーしていたがこうも面と向かって言われるとムカつく。

なので厭味ったらしく態々中隊長"殿"と呼んでやることにする。

ジトっとした視線で見ていると月目の神官は飄々とした態度のまま口を開く。

 

「偵察任務ご苦労様。どうだったんだい?」

 

「何処かのバカ野郎の所為で敵竜騎士が張り切っていたこととイヤに敵部隊に亜人が多かったのを除けば特に問題ありませんよ」

 

コイツが風竜単騎で9騎だかの敵騎を叩き落としやがったせいで無駄に空高く飛ばなきゃならんかったのだ、嫌味の一つも言いたくなる。

本当にやったのかは知らんが何処となく他とは異質な雰囲気があるのでなんとなく事実なんじゃないかなと思ってしまう。。

 

「亜人が…」

 

「悩むのは勝手ですけど、俺は報告行きますからね」

 

悩みこむ中隊長殿を尻目に大隊本部に向かう。

手に入れた情報を元にどんな作戦を立てるかは知らないが出来ることなら楽に攻め落とせるようなものを考えてくれるのを望む。

 

 

 

 

 

 

 

 

シティ・オブ・サウスゴータ。

古都と呼ばれるほど歴史が深いその街に連合軍は侵攻した。

まずは竜騎士隊にて敵の竜騎士隊を撃滅。

制空権を完全に確保した後に艦隊からの砲撃で都市防衛用に配備されていた大砲を破壊。

それからまたも艦砲射撃で城壁の如き街を囲む岩壁を破壊し陸戦に移行し占領。

作戦の概要はこんなもの。

露払いの任を帯びた同盟側の竜騎士隊は第1大隊の第1~第3中隊、第2大隊の第1、第3中隊の計5中隊が作戦に参加しており、残りはロサイスの防衛に当たっている。

計50騎もの竜騎士に対抗する、数に劣るアルビオンの竜騎士たちは奮戦しているがそれも何時まで持つものか。

アルビノなのか白い鱗が特徴的な風竜を駆る騎士。

野生的で有りながらまるで人間であるかのような狡猾さを感じる機動は圧巻の一言。

同盟側の竜騎士が追い立てて1か所に固まってしまった複数の敵騎からの攻撃をロール、蛇行して器用に避けながら接近。

一部を風竜の物とは思えない威力のブレスで吹き飛ばしながらすれ違いざまに爪や尾を用い戦闘能力を奪い去るその手際に目を見張る。

竜をあたかも自分の手足を動かす様に操っているジュリオ。

中隊長を任されるにたる実力は本物である。

俺にはあんな風に騎竜に接近戦をさせる度胸は無い。

1歩間違えば接触事故を起こしかねないからな。

しかし、此方も負けては居られない。

 

『レッド。奴の動きは見たな』

 

『応。負けては、居られないな!』

 

不用意に前に出てきた敵騎にブレスを放てば、業火に焼かれながら落ちていく。

1騎。

此方に目を付けたのか敵騎が高高度からの突撃をかけてきて後方に付く。

バレルロールで魔法の一斉射を避けつつ、機動終了後にレッドに速度を落とさせる。

詠唱。スペル、『ブレイド』。

刀身の伸びたハルバードを横一閃。

俺達の位置が側面にずれ尚且つ速度を落としたため、降下の勢いのままに側面を通り過ぎる格好となってしまった敵騎士の胴が横一文字に分かたれ、上半分が血飛沫を上げながらくるくるとあらぬ方向に飛んでいく。

腹圧からか切断面から内臓を溢れさせる主人の下半分を乗せたまま前方を飛ぶ竜をレッドのブレスが打ち抜いた。

2騎。

多勢に無勢。

見れば敗走し始めた敵騎を追い立ててを撃ち落としていく味方。

あまり気持ちいいものでは無いが後に響くので今の内に出来る限り落としておく方が良い。

大きく羽ばたいたレッドがスピードに乗ると滑空し始める。

逃げ惑う敵騎の背中をブレスで打ち抜く。

そうして辺りが漸く静かになったところで艦砲射撃が始まった。

 

事前に指定された艦の上で静かに見守る。

今頃は陣地を構築した陸戦隊も見守っている筈だ。

明日以降陸戦隊が街に突入しやすいように街のいたる所に置かれている砲台が根こそぎ破壊されていく。

位置を特定したのも竜騎士隊だ。マジ便利屋。

明日からは哨戒と陸戦隊への航空支援。

レッドは火竜ということになっているので航空支援か。

いたる所から煙が上がり空を黒く汚していく風景をそのまま呆けたように見続けた。

 

 

 

 




オリ主、SEKKYOUに失敗する。

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