とある竜騎士のお話   作:魚の目

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昨日気が向いたので初めてGUNDAM CONVERGEを買ってみたら一発でF91 ハリソン機が当たりました。
このお話と良い、ここ最近全体的に運気が天元突破している気がします。
近々私は死ぬのでしょうか?



16話 捜索隊

『おいレッド、お前なんで俺のとこに来なかったんだよ。お蔭でタバサに看病させることになっちまっただろうが』

 

 トリスタニアに向かう短い空の旅路。

 アルビオンに向かう前に少々とある人物に確認したいことがある為に向かう道すがら。

 レッドに並んで飛翔するタバサとシルフィードを横目にレッドを問い詰める。

 

『実は一度様子を見に行ったのだが既に先客がいてな。…それにウルドとしても私に看病されるよりは同族の雌に看病された方が嬉しいだろう?』

 

『雌とか言うなよ生々しい。…余計な気を回しやがって。褒めてやる』

 

 前世と今世合わせても経験が無かった、女の子に看病されるというシチュエーションに心動かされたのは事実だから素直に褒める。

 それに、相手は…。

 チラリと横目で並走するシルフィードの背の上の少女、タバサを見る。

 風圧で本がめくられぬように魔法で器用に気流を制御しているのか、何時もの調子で本を読んでいる。

 短めに整えられた空を思わせるような青い髪。

 宝石を思わせるような透き通った青色の瞳。

 無表情ではあるが目鼻立ちの整った、どこか気品の感じられる顔立ち。

 出発前のやり取りで意識しているのか、見ていると胸がどきどきしてくる。

 先ほどからちょくちょくチラ見しているので気付かれているかもしれない。

 まだ、自分の気持ちに整理はついていない。

 どんな意味での「好き」なのか。

 学友として?

 それとも…。

 前方にトリスタニアの城壁が見えてきた為そこで思考を打ち切る。

 降下し民営の竜舎に一時預かって貰い目指すのは、トリスタニアの外に臨時で設けられている撤退してきた同盟軍竜騎士部隊の天幕。

 目撃者に話を聞いてやろうというのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に、お前らが撃墜されたのはロサイスとサウスゴータの間で良いんだな?」

 

「ああ、そうだとも。しっかし帰りのフネに居なかったものだからてっきり死んだものだと思っていたよ」

 

 第2大隊第2中隊の中隊長、ルネ・フォンクとの再会に積もる話もそこそこにして本題を尋ねた。

 彼らが撃墜された位置と共和国軍にカチコミをかけた場所は、期待通りそこまで離れていない位置関係だった。

 ならば、妖精とやらにサイトが助けられている可能性も無いとは言えないだろう。

 

「…サイトが7万の軍勢に立ち向かったってのは本当なのだろうか?」

 

「そういう話だがな。それを確かめる為にも探しに行くって寸法さ」

 

 良い結果を期待しているよ、とルネは俺を見送ってくれた。

 さも知らない風にしているのはカチコミをかけたもう片方、竜騎士が俺だという事は一応秘密だからである。

 というか、『ロナル・ド・ブーケル』は実在する竜騎士では無いからね。俺の希望と言うのもあるが、公表は無しになったらしいというのを風呂作ってる時の手紙のやり取りで知った。

 尚、手紙は証拠隠滅の為燃やした。

 その為足止めをしたのは剣士だったとか竜騎士だったとか2人いたとか色々と情報が錯綜している、らしい。

 まあ、関係ないことだ。

 流石に天幕にタバサを連れていくわけにもいかなかったので、噴水のある街中の広場で待って貰っている。

 量が量であるためか分割払いとなった褒賞金の一部を下ろしてから向かう。

 活気付く街の中を人ごみをやり過ごしつつ抜けていくと開けた場所に出ると。

 冬だからなのか水が噴き出ていない出ていない噴水があるこの広場には戦が終わったことで多くの露店が立ち並んでいる。

 そのうちの一つで軽食にとサンドイッチを買ってから待ってくれているタバサを探す。

 大道芸人のショーに歓声を上げる人々。

 玩具をねだる子供とそれを阻止しようとあの手この手で懐柔を試みる母親。

 漸く得られた平穏を心から喜んでいる人々の微笑ましい光景を目にしつつ、遂に見つけたタバサは予想通りと言うべきかベンチにて本を読んでいた。

 

「遅くなってごめん。これ、ラ・ロシェールに行く前に軽くでもと思ったんだけど…要らなかったみたいだね」

 

「大丈夫、まだ食べられる」

 

「そう?……あー、ソース、付いてるよ」

 

 口元に少しばかり残っていたソースから不必要だったかと判断したが、随分と食い意地が張っているものだ。

 タバサは少し顔を赤らめながら指でソースを拭い舐め取った。

 指をちょろっと舐めるというちょっとした仕草に妙な艶めかしさを覚えてしまった俺は既に末期かもしれない。

 気恥ずかしいがタバサが座っているベンチに2人並ぶように腰を下ろし俺もサンドイッチに齧り付く。

 タバサは、今度こそは口元にソースを付けないようにと、少しゆっくりめに食べていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時期的にアルビオンはハルケギニアから大分離れた位置にある為一度ラ・ロシェールを経由、一泊した後に早朝から丸2日ほど夜通しで飛び漸くアルビオンはロサイスに到着し、そこで宿を取る。

 勿論部屋は別である。

 飛んでいただけとはいえそれでもレッドとシルフィードの体に溜まっている疲れを癒す為に2日ほどロサイスで休養がてら情報を収集する。

 ガリアが駐屯するようになって人が居なくなったかと思えばそうでもなく。

 むしろ金の匂いを嗅ぎつけたのか商人たちが集まっていたり、木の板に名前を書いて人を探している者もいる。

 戦争が終わった直後で街のいたる所に破壊された箇所があるというのにご苦労な事である。

 夜には宿で戦争中の事とかの雑談も交えつつ手に入れた情報を交換する。

 どうやら俺らが居なかった時にアルビオンの奴らが学院を襲撃したらしく、コルベール先生の活躍でなんとかなったらしい。

 コルベール先生も瀕死の重傷を負い、更には何やら因縁の有るらしい人が学院の女生徒に戦闘訓練をさせていた銃士隊の中に居たため、死んでしまったと偽りキュルケが領地に連れ帰り療養中とのことだ。

 敵にはスクエアが居たらしく、俺やサイトが居ればもっと楽だったと言われたがそんなこと言われてってどうしようもない。

 雑談はこれくらいにして。

 

 真面目な情報交換の結果、ロサイス―サウスゴータ間に存在する人里の情報、妖精と見紛うばかりに美しい金髪の女性などなど色々聞いたが明確には分からず実際に行って確かめるしかないというある意味当然の結果となった。

 

「陸は俺ら2人、空からはレッドとシルフィードに見てもらおうか。幸い俺ら2人、方向性は違うけど気配にはそこそこ敏感だし」

 

「わかった」

 

 どちらも高位のメイジであるため、俺は温度に、タバサは音に敏感である。

 サイトが死んでいれば全く持って意味を為さないがまあそこは気にしない。

 相場より高めの金額を提示することで人でごった返すこのロサイスでなんとかとれた宿の1室。

 俺の方の部屋で作戦会議と言う名目で話込んでいた俺ら2人。

 決して無理に連れ込んだわけではない。

 ちゃんと確認は取った。 

 …これじゃあエッチな感じに聞こえてしまう。

 落ち着け、ウルド。

 

「サイトらしき剣士は森の中へ消えてったって話だから、取り敢えず明日戦場になった街道沿いの草原に行って上空から一応見渡してその後で森の方を調べてみようか。こんなもんで大丈夫かな?」

 

「…異論は無い」

 

 何かあった時は魔法で音を立てて知らせるとか、細かいことも色々決めていけばいよいよ夜も深まってきた。

 タバサも少し眠いのか目を擦りながら「戻る」と一言言って部屋を出ようとする。

 

「おやすみ、タバサ」

 

「…おやすみなさい」

 

 就寝前のこんなちょっとしたやり取りでも暖かい気分になれるのはどうしてなのか。

 答えなんてとっくに分かっている筈なのに一歩が踏み出せなかった。

 まあこんなムードもへったくれも無い所で踏み出されても嫌だろうけどさ。

 ……タバサは、俺の事、どう思っているのかな?

 悶々としながら眠りにつこうとする俺は19歳。

 もう少しで20歳で。

 前世を含めればもう40過ぎのオッサンである。

 実に、情けないです…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 所々ハゲている部分が見える草原、7万の軍勢を迎え撃った正にその場所をぐるっと周回し目立ったものが無いことを確認し、本命の森へと向かう。

 事前の打ち合わせ通り俺とタバサが二手に分かれて森の中を、レッドとシルフィードが上空からめぼしいものを探そうとしたわけだが。

 

『ウルド、村のようなものがあるぞ』

 

「早いよ!」

 

「………何が?」

 

 さあ森の中へと言う所で先に出発させたレッドから知らせが届く。

 いきなり叫びだした俺にタバサの視線が突き刺さる。

 ああ、この視線はかわいそうな物を見る視線だなと当たりを付けながら弁解する。

 

「いや、レッドが村みたいなのを見つけたんだってさ」

 

「…行く?」

 

「下手な鉄砲、数撃ちゃなんとやらってな。行ってみよう」

 

 そういうことになった。

 

 どうやら街道から小路が伸びていたようでそれに沿って歩き続けること十数分。

 丸太と漆喰で作られているらしい建物がいくつか立ち並ぶ開けた場所が目に入る。

 少し離れた茂みに隠れ様子を窺いながら相談する。

 

「どうしよっか?」

 

「率直に要件を言うべき」

 

「まあそうするしかないよね」

 

 とは言ったが相手の出方によっては対応を変えざるを得ないかもしれないがね。

 でもまあ。

 

「そうはならない…かな」

 

「どうしたの?」

 

「いや、なんでも」

 

 建物がほんの数軒並んでいるだけの小さな村から聞こえてくる子供たちの声。

 メイジみたいなおっかないのが2人も居るんだから下手なことはしないだろう。

 どこの村や町でも聞くことのできるそれを聞きながら村で一番大きな家、恐らく村長の物であると思われるそれに近づいていく。

 レッドとシルフィードは空中を旋回しつつ待機。

 ドアノッカーでごんごんとドアを叩きしばらく待つ。

 …。

 中々出てこないな。

 タバサと顔を一度顔を見合わせてからもう一度叩こうとするその時、中からの人の気配を感じた。

 

「遅くなってごめんなさい。…あの、どちら様ですか」

 

 デカい。

 じゃなくて。

 中から出てきたのは室内である筈なのに深く帽子を被っており、その帽子から流れるような金色の長髪を覗かせている少女。

 影になっていて見辛いが美しく整った顔をしている、気がする。

 何か最近周りの美形人口多くね?とズレた思考のまま、少女をまじまじと見ているとタバサに脇腹を小突かれて我に返る。

 向かい合う少女は戸惑ったような表情をしていた。

 

「いきなりジロジロと見てしまって申し訳ない。私たちはちょいと人を探しているのですが…話を聞いて貰えませんか?」

 

「はあ。良いですけれども」

 

「有り難い。探している人ってのはそうですね、黒髪の男性、いや、少年なんですが…」

 

 少女が少し思案するように伏し目がちになる。

 心当たりでもあるのだろうか。

 これは、当たりか?

 いや、まさかそんな簡単に見つかるはず無いよな?

 …無いよな?

 少女の様子に黙り込んでいた俺を、当の少女本人が言葉を促す。

 

「それで、他にはどんな特徴があるんですか?」

 

「ああ、すいません。えーっと、喋る剣を持ってますね。あとちょっと変わった服装です」

 

「…」

 

 あ、これは。

 

「…あなた方とその人はどんな関係なんですか?」

 

「えっ……戦友、ですかね」

 

「知り合い」

 

 脈絡のない質問に詰まりながらも答える。

 考え込む様に押し黙ってしまった少女が口を開くのを待つ。

 不意に金糸のような髪を揺らしながら少女が顔を上げる。

 

「どうぞ、入ってください」

 

「はあ?」

 

「案内します」

 

 

 

 あっさりと見つかったことを喜ぶべきなのだろうがあまり納得はできない。

 此処までうまくいくと何処かでケチが付きそうだ。

 探し求めた男、サイトはその肌を包帯に覆われベッドで眠り続けている。

 金髪の少女ことティファニアさんが言うにはこの村、ウエストウッド村は孤児院らしいがその中の1人の少女が丁度あの戦いの次の日辺りに見つけたらしい。

 見つけた時は酷い傷で死にかけていたらしいがなんとか治療できて、傷は殆ど癒えてはいるがそれからずっと目を覚まさないらしい。

 この人、死にかけの人間を治せるような凄腕の水のメイジなのだろうか。

 竜騎士隊の言っていた「妖精」とやらはこの人で間違いない…かな。

 なんとも良くできた偶然である。

 まあ、生きていたしどうでも良いか。普段は祈らないブリミルさんに感謝する。

 まだ眠りこけているけど。

 

「でも、この人、サイトさんでしたっけ、知り合いの人が訪ねてきてくれて本当良かったです」

 

「こっちこそ、サイトの事を助けてくれてありがとう。見ず知らずの行き倒れを助けられる奴なんてそうは居ない」

 

「そんな、大げさですよ」

 

 少し照れているような少女。

 少なくとも俺は知らない奴がぶっ倒れていても助けないだろう。

 こっちが切羽詰まっている状況なら身包みを剥ぐのも辞さない。

 その程度には人間性が腐っている。

 まあ俺の人間性の話は置いといて。

 

「あっさり見つかったけど…どうする、タバサ?俺はサイトが目を覚ますまでは居ようと思っているが…」

 

「私もそうする」

 

 らしい。

 そんなこんなでティファニアさんに頼み込んで了承してもらい、お世話になるので袖の下を渡しつつ。

 薪割ったり力仕事を任される。

 なんでさん付けかって?

 いやあ、見事なモノだろう?

 何がとは言わないが。

 不審そうな目で見てくるタバサに謝りつつ休暇みたいな感じで過ごす。

 あれ、俺って、褒美でわざわざ学院に残らせてもらったのにこんな所で何やってんだろう?

 そろそろ、学院も始まるだろうに。

 

 …。

 

 考えないことにした。タバサも素でサボってるし。

 

 

 

 

 

 

 

 カン、カンと小気味良い音を立てながら薪を割る。

 力仕事をもりもり出来るような人が居ないらしいからやってくれませんか?との事。

 立派なモノをお持ちであり、上目遣いで且つ遠慮がちに言われればやるしかない。あざといのは罪である。

 子供たちは遊びながら遠巻きにこっちの様子を見ている。

 興味の対象は俺…ではなく俺の近くにいるレッドとシルフィードだろう。

 ロマンだもんな、うん。

 薪割りの前に子供たちに混ざって遊ぼうかと思ったがギャン泣きされかけた。

 「顔が怖いからウルドには無理」とタバサに毒を吐かれ仕方ないのでご覧の有様である。

 当のタバサは本を読みつつ魔法を使って子供たちを浮かせたりしてキャッキャさせている。

 解せぬ。

 うむ?

 後方に感じる熱量。

 

「お、お疲れ様です。あの、これ…」 

 

「ああどうも。なら遠慮なく」

 

 おずおずとお茶を差し出してくるティファニアさんから受け取りぐいっと傾ける。

 寒空の下働いていると美味い物である。

 帽子、好きなのかな?

 ずっと被ってる気がする。

 

「わざわざこんなことありがとうございます、えっと、ウルド…さん」 

 

「ウルドで良いよ。それにこの程度何の問題もないさ」 

 

 何となく男慣れしていなさそうなティファニアさん。

 視線があっちゃこっちゃ行ってる。

 

「しかしまあ、1人でこの孤児院を経営してるのか?大変じゃないか?」 

 

「ううん。もう1人、姉さんがいて、姉さんが此処にお金を入れてくれてるの。滅多に帰ってきてくれないけど…」 

 

 お茶でほっこりした喉で疑問を投げかけてみればもう1人居るとのことで。

 『姉さん』とやらの事を口にするティファニアさんは何となく寂しそうな不安そうな心配そうな顔をしていた。

 …孤児院を動かせるだけのお金を稼ぐなんて凄いな。どんな職業なんだろう?

 まあ、ティファニアさんみたいな良い人のお姉さんなんだ。きっと良い人だろう。

 子供だけの孤児院。

 入り組んだ事情とかは有りそうだが、それをむざむざ突っついたりはしない。

 嫌じゃん。痛いとこ突かれるの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後すぐにあっさり目を覚ましたサイトになんとも言えない気持ちを覚える。

 タイミングの良い奴め。

 起きて早々ティファニアさんにちょっかいかけて子供たちにボコボコにされたりガンダールブ?だか言うルーンが無いと大騒ぎしていた。

 良くわからん。

 灰色の?

 まあいいや。

 

「しっかしお前生き残るぞって約束する位ならきっちり相手に止め刺しとけよな。後ろから撃たれたらどうすんだよ?」

 

「いや、そういうのも考えたけど、でもさ…」

 

「いいさ、別に理由を聞こうって事じゃあないんだ。こうして生きてるんだから良しとしようぜ」

「まあ、これに懲りたらもう2度と敵軍にカチコミかけようとか、あんな真似するんじゃあないぞ。命がいくつ有っても足りはしないからな」

 

「うん、そうする。俺も死ぬような経験はもうごめんだ。ていうかお前もしてたじゃねえか!」

 

 愚痴のようなものに反応するサイトを抑える。

 これでも、お前の事は尊敬してるんだぜ。あんな救いようのないバカな真似出来るくらい凄い奴だってな。

 褒め言葉だぜ?

 面と向かって言いはしないが。

 

「で、やっぱり帰んないのか?」

 

 と本題に入る。

 

「ああ。ルーンが無い今の俺じゃあアイツの力にゃなれねえからな……」

 

 言ってる途中でどんどんテンションが下がっていくサイト。

 なんでも使い魔としてのルーンがサイトに力を与えていたらしく、一度心臓が止まったせいでルーンがオサラバしてしまって力が使えなくなったとか。

 心臓が止まった奴を癒したティファニアさんって凄いのを通り越して逆に怖いとか、あらゆる武器を扱うことができるようにするルーンって手足が発達した奴限定だけど反則じゃねとか、それでゼロ戦動かせるなんてそんなのアリかよとか思いつつサイトの愚痴に付き合う。

 ルーンが無くなっちまったら俺なんて唯の人じゃねえか。

 もう、帰れねえよなあ。

 ルイズ…。

 暫く付き合っていたがいい加減こっちまで暗くなりそうだったので聞こえてきた子供たちの歓声の方に目を向けるとレッドとシルフィードがいつの間にか子供たちの玩具になっていた。

 レッドの方は特に嫌がっては居ないみたいなのでされるがままにしておく。

 シルフィードは…ごめん。

 一応注意の声はかけてみたがあの分じゃ変わりはしないだろう。

 本当にごめん。

 サイトに注意を戻してみると鬱病一歩手前みたいになっていたので思いついたことを言ってみる。

 

「なら、ルーンが必要ないくらいに強くなれば、良いんじゃないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、朝から走ったりデルフリンガー振ったりしているサイトに興が乗ったので適当に木を伐り出して木剣を作り相手してみる。

 体が覚えているのか剣の握りとか振り方とかは良いが、肝心の体力、筋力が足りていないようだ。

 後、攻め一辺倒の戦い方なので大して得意でもない俺のフェイントにすら面白いように引っかかってくれる。

 間合いをどうとるか。

 攻めだけでなく受けも大事なんだとか。

 相手を見て、どの様に回避するか、または受けるのか。

 その際にどの様に自分がして欲しい攻撃を誘うか。

 そういった戦術を考えることも大事なんだぜと教えておく。

 俺もそんな出来てる訳じゃないけどね。本業はレッドの上で魔法ブッパだし。

 

 木剣を撃ち合う俺とサイト。

 そんな簡単にできるものでは無いのだが、筋が良いのかさっきより動きが少し良くなっている。

 良く俺の動きを見て避けれるものは避け、避けきれないものはぎこちないながらも受け流したりして衝撃を抑えている。

 攻め気も抑えているが抑え過ぎていて逆に受けに徹しすぎているのはちょっと頂けないが。

 少し、籠める力を強くする。

 踏み込む足の裏が靴越しに地面を掴み、曲げられている関節を伸ばす時に地面との間に生まれる反発力で体を押し出す。

 先ほどまでと比較していきなり跳ね上がった速度に回避を諦め受けることを選択したサイトの視線が良く感じられる。

 あまり大げさになり過ぎないように上段で構えサイトの視線を上方に集中させる。

 剣を寝かせ上からの攻撃に備えるサイト。

 そのまま剣を振る……ことは無く、サイトが剣を持つその手を右足で強かに蹴り上げる。

 完全に注意の範囲外だったようで木剣を手放し目を白黒させているサイトを、蹴り上げたままの右足で体重をかけて押し倒す。

 上手い具合に受け身は出来たようだが首元に剣を突きつける。

 

「このように剣では無く足が飛んでくることもあるので、剣だけに集中せずに相手の一挙手一投足に注意を向けること」

 

「…汚えぞ、ロナ……ウルド」

 

「確かに今のタイミングはサイトも剣の鍛錬だと思い込んでいただろうから卑怯かもな」

「でも、実際の殺し合いでは卑怯も汚いも無いので教訓にして貰えると嬉しい。不意打ちなんて、結構あるよ」

 

 一応事情を話しておいたのでサイトは俺の事をウルドと呼んでくれる。

 喉も乾いたのでその辺に置いておいた桶から水を直接飲む。

 サイトも同じように飲んでいる。

 日が傾き始めているのでここで終わり。

 見ていたタバサやティファニアさん、子供たちと共に食事をとる。

 シチューを食べながらその席で声を上げる。

 余談ではあるがこのシチュー、アルビオンにしては良いお味。

 

「そろそろ帰ろうと思うんだけど、タバサはどうする?」

 

「…私もそうする」

 

「そうか」

 

「そっか、帰っちまうのか」

 

 寂しそうな顔で呟くサイト。

 

「そろそろ授業も始まるだろうしね」

 

「私も用事がある」

 

「…授業にでる訳じゃあ無いのね」

 

 コクンと頷くタバサ。

 授業よりも大切な用事なんて……まあそこそこあるか。

 

「そうだよな…」

 

「そんな顔すんなよ、また来るからさ」

 

 しんみりしてしまう空気。

 俺のせいなのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウエストウッド村の人々に見送られながら飛び去る俺とタバサ。

 途中アルビオンのロサイスで別れ1人レッドに跨りながら学院に帰る俺。

 案の定授業が始まっており出遅れてしまった。

 ギーシュを筆頭に活躍した奴らがちやほやされていたりしていたがそれよりも問題だったのはルイズ嬢で。

 部屋に籠りっきりで偶に顔をみたらこの世の絶望全てを鍋に突っ込んで煮詰めた様な表情をしていた。

 一応サイトからルイズに生きていることを言わないでくれと口止めされていたのだが。

 今にも自殺しそうで見ていられなかったので、「ロサイスとサウスゴータの間でやりあったらしいのでもしかしたら「妖精」とやらに助けられているかもしれませんよ、死体も出てないらしいですし」と伝えておいた。

 生きてるよ、とは言ってないし正確な場所も教えていないので約束は破っていない、筈。

 暫く悩んだみたいだが、例のメイドと共にアルビオンに行くらしい。

 

 なんとか上手い具合に丸く収まってくれると俺としても嬉しいなと思いつつも、改めてクラスメイトに挨拶して回る俺だった。

 

 

 




オリ主とタバサさんがサイトさんを探す話にして、あんまりラブコメになっていないラブコメ回その2。
オリ主、ティファニアさんの事情をスルー。
ティファニアさんは2人に何も知られなかったので記憶を奪いませんでした。

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