10/6 またまたちょっと追加
10/12 指摘により少しばかり文章を変更。
「……じ」
「あ…じ」
倦怠感が身を包む中、聴こえてくる言葉。
何だよ、うるせなぁ。
今良い気持ちで寝てんだから起こすなよ。
次第に体が揺さぶられるようになり、不快感が増す。
いい加減にしろと重い瞼を頑張って開き見えてくるピンぼけしてぼやけた視界。
次第にピントが合ってくると見えてきたもの。
「漸く起きたか、主」
すっくと立ち上がる人影。
鮮烈な紅に彩られ風が吹く度に陽炎のように揺らめく長髪。
まばゆいばかりに白く輝く絹のような肌。
スラッと伸びて均整のとれた肢体。
彫りが深く整った顔立ち。
何処を見ても彫像のように美しい肉体をした全裸の"男"。
「いぎゃあああああ!!誰だてめえ!?俺に何の用があるってんだよ!?」
どう見ても変質者です。
森の中に全裸で佇む美男子。
どこぞの惑星なら「それ、森の妖精さんじゃね?」と某掲示板でネタにされることこの上なく何かがズレた状況。
実際に遭遇してみれば恐怖以外の何物も感じない。
体が言うことを聞かないというのも恐怖に拍車をかけている。
「むう。そんなに驚くことないじゃないか。傷つくぞ」
どこか悲しげに顔を曇らせる全裸。
「そんな顔したって無駄だ!早く名前と要件を言えよ。あと俺のケツには何もしてないだろうな!?」
最後の方は殆ど悲鳴染みたものになってる。
情けないことこの上ないが、童貞の前に処女を失うのは真っ平だった。
「そうか。この姿を見せるのは初めてだったか。」
意味深な事をほざく全裸に段々イライラしてくるが次の瞬間にそのイライラは更なる衝撃で吹き飛ばされた。
「私はレッドだよ。主の使い魔で、人間が言う所の火"韻"竜のな。あとどうしてそんなに尻にこだわるのかは知らんが特に触ってはいないぞ」
「へ?」
俺の尻が無事だと宣言する不審者に絶えず疑惑の視線を送りつつも言われた言葉を反芻する。
はあ、レッド?俺の使い魔?こいつどう見ても人間じゃん。
こいつ気でも狂ってんじゃないかと更に疑いを強めるが気になることを言っていたことを思い出す。
火"韻"竜?
火竜じゃなくて?
てか韻竜って確か絶滅したんじゃなかったか。
この世界での学が無い俺ですら知ってるぞ。
混乱していると全裸が説明してくる。
「まず一つ目に人間は韻竜が絶滅したと思っているようだがそれは間違いだ。人間の立ち入ることのできない環境で細々と暮らしている。」
いい加減フリーズしかかった脳みそでほえー、そうなんだーと相槌を打つ。
いやあ、勉強になるなあ。
「二つ目に韻竜は精霊の力を借りることで自身の姿を偽ることができる。私の場合は火精霊の力を借りている」
「じゃあつまり、その姿は仮のものだということか?」
「そういうことになる」
そんな都合の良い能力なら服を着た姿に変身しろよと突っ込むもそれは無理らしい。
言葉だけの説明では信じきれない為変身を解いてもらうと現れたのは一般的な火竜よりも大きな体躯が特徴の赤い鱗の竜。
額の辺りに存在する『同調』のルーンを確認することで取り敢えず納得した。
「しっかしまあ韻竜なんてけったいなやつ召喚したもんだな」
「打ち明けて何だが韻竜が今なお存在していることは誰にも言わないで欲しい」
「わかってるさ、相棒とその仲間を売り払うようなことはしねえよ」
変身しなおしたレッドが安堵の表情を浮かべる。
全裸なのは気に食わないが服の持ち合わせなんてないから致し方なかろう。
「それと、俺のことはウルドでいい。主と言われるとトンデモ無い性癖だと誤解されそうだ」
「そうか?なら遠慮なくウルドと呼ばせてもらうぞ。これからもよろしく頼む、ウルド」
「おうよ」
全裸のまま打ち解け始めてしまうのに言い知れぬ恐ろしさを感じるも少し話し込む。
今まで秘密を黙っていてすまないとか、あとは。
「名前?」
「そうだウルドから貰った名前以外にも父母から貰った名前がある」
考えてみればそうだ。
人間と同じかそれ以上の知性を持つ生命体。
名前があってもおかしくないしむしろ当然と言える。
「父母から貰った名はククルカン。偉大なる竜から取られた名だ。」
誇らしげに言うレッド、いやククルカンになんだか微笑ましい気持ちを感じる。全裸だが。
「なら今度からククルカンって呼んだ方が良いか?」
「いや父母から貰った名も大事だが、ウルドから貰った名も同じくらい大事だ。今までと同じようにレッドと呼んでくれ」
今更ながらに安直な名前を付けたことを後悔する。
こんなことならもっと凝った名前にすりゃ良かった。
嬉しそうに言うレッドに後ろめたい気持ちを覚える。
で、でも、某山に一人佇む幽霊疑惑のある頂点さんと同じ名前だし。強そうだよ、うん。
「しかし、俺はどうしてこんな所に居るんだ?体も思うように動かないし」
森の中で目覚めた俺は何故こんな所に居るのか前後がサッパリだった。
俺の発言を聞きレッドが今までの表情を一変させ神妙な表情を浮かべる。
「ウルド、落ち着いて聞いてほしい」
そう前置きしてから語りだすレッド。
レッドから語られる内容に俺は次第に顔を青褪めさせながら靄がかった記憶を思い出す。
クロムウェルとかいう金髪カール野郎に変な指輪を翳されて。
それまで王党派だった俺はさも当然の様にレコン・キスタに鞍替え。
レッドを駆り王党派の貴族を何の感情も無く駆逐殲滅する生活。
騙し討ちの形で始まる対トリステイン艦隊戦。
上陸の為のタルブ焼き討ちとそして。
零式艦上戦闘機。
ピンク女の放った謎の光。
焼け落ちていくレコン・キスタ艦隊。
既視感。
俺は今世ではなく前世、某トップをねらうアニメで最終的に質量兵器に仕立て上げられるあの星で生活していた頃にこの一連の流れを見たことがある。
そう、あれは、確か。
(何とかの何とかってライトノベルだ!)
ってなんなんだよ!
結局覚えてないじゃん!
クソが、全然内容覚えてないよ。
どうしようもねえよ。
ああああああと唸り始めた俺を心配するように覗き込んでくるレッド。
「だ、大丈夫か、ウルド?どこか痛むか?」
「いや、大丈夫だ」
強がりを言う俺に心配の眼差しを投げかけてくるレッドが説明を続ける。
どうやら俺はクロムウェルの野郎の指輪の力で操られ良いように使われてきたらしい。
レッドが火精霊の力で指輪の力、水精霊の物らしいがそれを中和しようと試みるも下手を撃てばあっぱらぱーの廃人一直線だったらしく思うように進まず。
それが先のゼロ戦との戦いでの負傷で一瞬感情が復活、綻びが生じ更にあの光を受けた衝撃からか水精霊の働きが弱まりレッドによる中和が効果を発揮したようだ。
自分の意思ではないが確かに自分がやってきた数々の蛮行の記憶はある。しかし、まるで映画でも見るかのような感覚で、正直に言うと実感が湧かない。
それよりも。
指輪。
読んだ話でもそんな感じのがあったような。
言われてから気付くなんてどんだけ鈍いんだよ。
この先似たようなことが間違いなく有るだろうという切ない確信を持ってしまったところで話が終わる。
沈黙の中で一つだけ質問を絞り出す。
「なあ、あれからどれ位時間が経ったんだ?」
日が落ち始めているため夕刻であることだけは確かだがそれが「何時」のかは判断できなかった。
「まだそこまで時間は経っていないぞ。戦闘が終結して2、3刻といった所か」
「そうか、ならやることは一つだな」
やる気のない全身に喝を入れてフラフラしながらも自分の足で立つ。
キョトンとした顔で俺を見つめる全裸が聞いてくる。
「何をするんだ?」
「投降」
「えっ」
沈黙するレッドにもう一度言い放つ。
「だから、トリステイン軍に投降するんだよ」
「えっ」
負けたならこうするしかないだろう?
その後未だタルブに留まっていたトリステイン軍の前にノコノコと出ていき武器を捨て下着一丁となったとある男が使い魔の竜と共に捕縛された。
捕まったからと言って別に暴行三昧という訳でも無く。
恭順の意思を示したスクエアメイジ(竜付き)を其処まで無下に扱いはせんだろうという思惑が上手くいった為心の中でほくそ笑む。
自分で言うのもなんだがこう見えて優秀なのだ。操られていようと竜騎士団の筆頭になれる程度に、ゼロ戦からの銃撃をあの手この手で避ける程度には。
竜騎士団以外のアルビオンの軍人も精強だ。
なんてったって遥か天空に浮かぶ大地に住んでるのだ。
普通に暮らしてるだけで心肺機能が他の国の人々よりも鍛え上げらえる。
軍人など、もはや一級のアスリートみたいなものだ。
数ではガリア、ゲルマニアに劣るが全体の質としては引けを取らないどころか勝っていると言えよう。
敵地での経戦能力はクソみたいな物だが。
あと飯がマズい。日の出づる国出身の俺には結構キツい。食わんとやってられんので気合で掻き込むが。
と、いう訳で現在キツい視線を無視しながらアルビオン竜騎士団のノウハウを教えている所。
これくらいの憎しみの視線に耐えられなきゃ戦争なんてやれんよ。
今は機動に耐える為の取っ手と身体固定用のベルトが追加され改良された竜専用の鞍を教えている所。
咄嗟の脱出とかはやり辛いが飛躍的に空戦能力がアップするからね。動きに耐えられれば。
俺はそもそもレッドを見捨てる気も無いし、そもそもつけなきゃバレルロールとか絶対無理。付けても出来ない奴が殆どだがね。
戦闘技術に関しては取り敢えず対ゼロ戦で見せたような限界ギリギリのアクロバットは置いといて一般的な高度を利用して速度を上げるとかどうやって速度を落とさず相手の上を取るかとかそういうのを教える予定。
俺以外にも生き残りはいるが結構酷い怪我だったり竜が死んでたりするので時間がかかるようだった。
質素ながらも祖国より格段に美味い飯を食ったり指導したりして日々を過ごしていたらいきなり召集を喰らった。
通されたのは玉座の間。
は?
「貴方が竜の羽衣を落とした竜騎士ですね」
竜の羽衣。
この世界でのゼロ戦の名称。
本当の名前教えたら絶対疑われるので何も言わない。言えない。
発言したのは麗しき元トリステイン王女、現女王アンリエッタ・ド・トリステイン。
天上の存在にも等しい可憐な、しかしどこか怖ろしい空気を放つ少女。
怖い目をしている。
空虚に見えてその実何か熾烈なモノを孕む眼光。
「はい。ウルダー…」
「発言は許可しておりません。それと、貴方の名前などどうでもよろしいのです」
にべも無く切り捨てられる。
「貴方にはとある人物の専属の竜騎士となってもらいます。それに伴い『制約』の魔法を受けてもらいます。拒否権はありません」
『制約』までかけるとは念入りである。たしか禁呪だったような。
そこまでする様な案件かと戦慄する。
まあ始祖の血脈にケンカ売った奴に対して涙が出るほど優しい対応だと思うが。
内容はトリステイン王家への絶対服従。
偽名を名乗り、偽のもの以外自身の素性を語らないこと
任務内容とそれに付随する情報を口外してはならないこと。
「安心なさい。任務が終われば『制約』は解除します」
全く持って安心できない表情で言い放つ女王陛下に対して俺の忠誠心は溢れんばかりだ。勿論皮肉。
内面などおくびも出さず部屋を退出すると直ぐに『制約』の準備が始まる。
『制約』をかけられる前に精霊の力などはぼかしてクロムウェルは人を操る何らかのマジックアイテムを持っていることは伝えておいたが何処まで信じてくれたことやら。
俺が操られている時に見た感じ一度に術をかけられる数は少なそうだったことも一応言っておく。操られていたこと言わなかったけどね。
もしかしたら勘違いかもしれないということも忘れずに。
しかしどうしてこうも最近の俺は精神系の魔法に好かれてるんだろうね。
ルーンが完成して『制約』をかけられた俺は、架空の貴族、ロナル・ド・ブーケルとなった。
レコン・キスタでの爵位はどうでも良いが俺の名前は一体どれだけ変わるのかね。
唯のウルドに戻れる日が待ち遠しいよ。
超簡単キャラ解説
ウルド
洗脳解けるも再度魔法で縛られる。
なお地の文の微妙に乱暴な言葉遣いが本性。
レッド
オスの火韻竜。テンプレ。
アンリエッタ
女王即位済み。病ンリエッタ。