とある竜騎士のお話   作:魚の目

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流石にごまかしも効かなくなってきたのでタグ追加しました。
?が付いているのは私がちゃんと表現できているかどうか不安だからです。
予防線を張ったとも言う。






18話 踊りませんか

 気が付いたら新学期だった。

 ショックでしばらくの期間呆けていたようだが漸く自身を取り戻すことができた。

 といっても完全にやる気が抜け落ちている状態だが。

 新学期までの記憶も完全に飛んでいるが、あの娘も何日か前に帰ってきたようだ。

 惰性のままに続けていた図書館通いを続けていた折にばったり出くわしてしまったので逃げる様にその場を後にしてしまった。

 その後は気まずいので図書館には行ってない。

 以前のような微妙な距離で共に本を読み漁っていたのが懐かしい。

 もう戻れない過去であろうことが寂しい。

 さて、俺のS○N値が削れる話は置いといて。

 いつの間にか学院で水精霊騎士隊(オンディーヌ)なんて物が設立されていて物好きな奴らが参加しているとか。

 何でこんな話をしているかと言うと。

 

 

「なあ、ウルド。君も入らないかね。我が水精霊騎士隊(オンディーヌ)にね」 

 

 

「どうだ、ウルド?気晴らしにでも一緒に体動かそうぜ?」 

 

 

 現在進行形で隊長に収まったギーシュと副隊長のサイトに勧誘されている訳だからだ。

 

 

「と言っても、俺はメイジではあるが貴族じゃないぜ?特例でこの学院に居ることを許されてはいるが、それはどうなのさ?」 

 

 

 言外にやりたくないという意図を滲ませつつ返答する。

 悪いが気分では無いんだ。

 出来るなら他を当たって欲しい。

 

 

「なに、貴族でなくとも君だって竜騎士として戦争に参加していたじゃあないか」 

 

 

「そうだぜ、7ま……とにかくお前だって凄い強いじゃないか」

 

 竜騎士と言う言葉が発された瞬間に周りの他の隊員たちにも動揺が広がっていった。

 吹聴されるのは好きじゃあないがまあ致し方ないだろう。

 あと、サイトはもう少し考えてから喋ってくれ。

 でもなあ。

 

 

「お前ら2人はそう言ってくれてるが、他はちょろちょろ嫌そうな奴らが居るじゃないの」

 

 

 貴族じゃないとか色々理由は有るだろうが無遠慮に視線をぶつけられるのは結構堪える訳である。

 指摘するとさっと目を逸らしたりする辺り自白しているようなものだ。

 

 

「う、だが、しかしなあ」 

 

「なら、文句の有る奴と模擬戦でもして決めたりするのはどうだい?」

 

 割り込んできた奴、確かレイナールとか言ったっけ。

 眼鏡を掛けた大人しそうな外見のそいつの鶴の一声であれよあれよと流されてしまう。

 入りたい訳じゃあ無いんだが、抵抗する気力も無い。

 仕方ないなあ、と新学期以来使い古しの杖を身に着けることを止めて腰に差したままの剣の柄に軽く触れながら誘われるままに歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 面倒だから纏めてかかってこいよと見え透いた挑発をかけて、皆さん単純なことに良い感じに頭に血が昇らせてくれたので。

 離れた位置で各自詠唱している所に、パパッと詠唱を終わらせ分裂させた『ファイヤー・ボール』で纏めて牽制。

 良い感じの所で炸裂させ生じる熱波で驚いてる隙に適当に杖を蹴り上げたり腕を掴んで取り上げたり。

 勝ったは良いが結局入隊はせずそんなに言うなら調練位は見るよと非常に微妙な立場になった。

 つまり、軍曹殿の真似事をさせられる羽目になった訳だ。

 基本的に体力が足りねえという事で走らせたり筋トレさせてみたり、妙に腕を上げたサイトと共に接近戦の指南を行ったり。

 というかサイトの奴め、化けやがったな。

 大分いい感じじゃあねえか。

 アルビオンに居る間に探しに来た銃士隊の隊長さんとやらに随分と扱かれたらしく大分サマになっている。 

 暫くしたら抜かれるのは間違いないな。

 まあ。

 

 

「おらどうしたどうした。随分と貧弱じゃねえか!」 

 

 

「く、そう…」

 

 まだまだ筋力では負けはしないがな。

 筋肉は偉大である。

 木剣で撃ち合っている為ルーンが発動しないからサイトはどうしてもパワー負けしている。

 

「ウルド、お前どんな馬鹿力してるんだよ!ゴリラか!」

 

「これも日々の積み重ねの賜物ってね。精進するが良い」

 

 ぐぬぬ、と納得のいかなそうな顔で人をゴリラ扱いしてくる失礼なサイトにドヤァとウザい笑みを浮かべる。

 筋力と体力のアドバンテージと言うのは大きいものなのだ。

 という訳で休憩の後またも走り込みを追加する。

 大丈夫、1ヶ月も走ってたら慣れるから。まあ慣れたら慣れたでまたキツくするがね。

 騎士隊員の後ろを走りながら魔法を使いつつ追い立てる俺に恨みがましい視線が降り注ぐ。

 負け犬共が、悔しかったら俺に勝ってみやがれってんだ。ふはは。

 ……虚しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 憎きクロムウェルは存在そのものを忘れかけていたある竜騎士の手で捕縛され、己が元に転がり込み。

 王党派を、ウェールズを否定した恥知らずな貴族派の手で作られた神聖アルビオン共和国もガリアの手で崩壊した。

 自分の手で引導を渡せなかったことは歯痒いが、良しとする。

 クロムウェルの尋問はまだ終わった訳ではないがこれから先のトリステインの事について考えていくしかない。

 自分は王たるに相応しい人間では無いし、贖罪と言う言葉を使う事すら許されないだろう。

 全ては自分で決めて、考えて、戦争を起こして民を戦に駆り立て、国を傾けたのだ。

 長いトリステインの歴史上でも類を見ないほどの暴君ではないか。

 王位を追われ縛り首にされても文句など言えない筈なのだ。

 だが、マザリーニを筆頭とする忠臣から、貴方は今のこの国に必要な方なのだと言われ、王を続けている。

 ゴーレムやガーゴイルといった心を持たない魔法生物の様に唯粛々と。

 自身を必要としている者達の期待に応えるべく心を封じ込めて、望まれるままの王という偶像として。

 

 

 

 

「ガリア、ですか」 

 

 

「はい、彼の者の口から出た言葉であり、当のガリアの手で共和国は滅びておりますのでどこまで信じて良いかは分かりませぬが…」 

 

 

 クロムウェルの吐いた情報。

 それは、ガリアの手引きによってレコン・キスタを起こしたというもの。

 現実感の無い話である。

 それを為した上で、ガリア主催で開かれた会議で共和国の勃興を防ぐための"王権同盟"に参加しているというのであれば大した面の皮の厚さであろう。

 かの同盟軍の離反もアンドバリの指輪と呼ばれる水の先住魔法の力を秘めた秘宝にて行われたという話だった。

 この戦争後の微妙な情勢下に真偽は定かではないが頭の痛くなる内容が舞い込んできたものだと独りごちる。

 例え、ガリアが黒幕だったとして動くことなど出来はしない。

 戦争での損害から立ち直っていない上に、此度の戦と同じように他の国と同盟を結べるとは限らない上に。

 そもそも。

 国力が違い過ぎる。

 トリステインでは到底太刀打ち出来る訳がない。

 

 

「このことは他の者には?」 

 

「いえ、あまりに物騒な話でありますゆえまだ、誰も」

 

「よろしい。この情報は機密とします。何者にも漏らしてはいけません」

 

「仰せのままに」

 

 自分の蒔いた種とは言え、来る日も来る日も別の問題の対応に追われる毎日。

 自身の心に決着を付けられぬまま忙殺されていく。

 

 だからだろうか。

 

 戦争に対する慰労と新入生の歓迎にと臣下に送り出された魔法学院はスレイプニィルの舞踏会。

 "真実の鏡"というマジックアイテムで自身の理想の姿となってから参加することになるこの会で自身がルイズの姿となってしまったのはなんと皮肉な事か。

 自嘲の笑いが込み上げてくるのを抑えつつ1人佇むこととした。

 そんな舞踏会に於いて。

 

 

「ルイズ…」 

 

 

 甘く囁かれる言葉の主。

 親友であったルイズの使い魔の、自身がシュヴァリエとしたサイトという少年。

 その少年に抱きしめられ成すすべなく、いや広がる安心感のままにされるがままにしているというのが正解か。

 自身を見ている訳ではないが、それでも尚縋るべきを全て失っていた自身の体に人の温もりはまさしく甘い毒その物であった。

 しかし、これではいけないのだ。

 自身がルイズを死地に送ったからこそ、この少年はルイズの代わりに7万の軍勢に立ち向かった。

 結果としては、生きて帰ることができたかもしれないがそれでも自身の采配で死なせかけたのだ。

 この温もりに縋ることなど許されない。

 意を決して声を出そうとしたその時に。

 押し付けられ唇。

 口づけ。

 そして。

 

「姫、さま…?」 

 

 

 目に映る特徴的な桃色のブロンドの長髪。

 ルイズ。

 同時に聞こえてくる喧騒から事態を知る。

 

 

 魔法は、いつの間にか解けていたのだ。

 

 

 走り去るルイズと其れを追うサイト。

 残された少女、アンリエッタはへなへなとその場に座り込んだまま呆然とした表情で見送る事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 騎士隊がタバサを勧誘しようとして、騎士ごっこに興味は無いと断じられ、成り行きで鬼教官ごっこしていた俺のSA○値にまで余計なダメージが入ったりした事もあったが俺の精神衛生上の観点から深くは言わない。

 いや、気にすることは無い筈だ。だって俺は実際竜騎士だったし。

 今はただの国籍不明の学生だけど。

 うん。落ち着け、落ち着け。

 …。

 さて、今現在新入生歓迎のスレイプニィルの舞踏会だかが開催されているが、料理だけパクって1人月見酒と洒落込んでいた。

 サイトやギーシュ他騎士隊のお蔭で少しは気が紛れてはいるが、やっぱりどうにもままならない感情を持て余し気味なので余り騒がしい所には行きたくない。

 

 

『まだ、辛いのかウルド』 

 

 

「そう簡単に割り切れる筈無いさね。はぁ…」 

 

 

 人気が無いので言葉で伝える。

 早々と食べ終わったので既に皿は空。

 レッドの巨体にもたれ掛りながら目を瞑る。

 ああ、フラれたもんな。

 そんな簡単に割り切れるならそもそも最初から告白なんぞする訳無い。

 相変わらず何か忘れている気がするが今はフラれたことの方がショックでどうでも良い。

 満腹感からか眠気が湧いてきてひと眠りでもしようかとしたその時。

 

 

『ウルド、ルイズが会場から飛び出していったぞ』 

 

「うん?」 

 

『ただ事では無い雰囲気だったが、どうする?』

 

「…様子でも見るか」

 

 言うなり学生服と、腰に差した剣に手甲という軽装でレッドの背に飛び乗り空へと舞いあがる。

 

 

「どっちの方だ?」 

 

 

『恐らく正門側だろう』 

 

 

「なら、向かってくれ」 

 

 

 羽ばたくとともに一息に学院の壁を飛び越え正門側へと進路を向ける。

 一瞬の後に正門上空にたどり着くと遠く街道の上に人影のようなものを見つける。

 『遠見』で確認するとやはりルイズ嬢のようで、その角度が付いていた為チラリと見えたその横顔には涙らしき水滴が付着していた。

 

「なんだってんだ、あれ…!?」

 

『ウルド!戦闘だ!』

 

 月に照らされた夜の学院の敷地内、中庭、ヴェストリの広場の方から戦闘音が聞こえてくる。

 敵襲?

 一体誰が?

 学院内での戦闘などただ事では無いとタバサから聞いた学院襲撃事件を思い出しながら、疑問を投げ捨て即座に中庭の方に行くとそこには。

 

 

 氷の矢、『ウインディ・アイシクル』であろう魔法を放つ青髪の少女タバサと。

 

 その氷の矢をデルフリンガーで受け止めるサイトの姿があった。

 

 

 何か良くないことがあったのだと理解する。

 剣を抜き放ち詠唱しつつレッドを降下させ地面すれすれを飛行している所で飛び降り2人の間に割って入る。

 着地して直後にスペルを開放。

 今にも放たれんとしていた『ウインディ・アイシクル』を『ファイヤー・ウォール』で焼き溶かす。

 

 

「サイト、事情は知らんがルイズ嬢は正門から街道沿いに走ってった。レッドを使え」

 

 

「ウルド!…でも、相手は…!」

 

 

「余計なことは考えんでいい。……お前のお姫様だろうが、自分で迎えに行け」

 

 

 

「……分かった。ウルド、後は頼んだぞ!」 

 

 

 

 返答はせずサイトがレッドに乗り飛び立とうとしている所を狙うタバサに肉薄し握りっぱなしの剣を振るう。

 駆け寄る勢いをそのままに、踏み込んだ前足に体重をかけて全力での横一閃。

 分かってはいたがさも当然の様に避ける姿を見るにやっぱりこの娘は訳有りなのだろう。

 剣の腹を当てようとしていたのだが、それでも全身の筋肉を使い全力全開のフルスピードで殴り掛かるのを不意打ちの状態から避けるのは並ではない。

 ひらり、と宙を舞う様に跳躍することで後方に下がり、体勢を崩すことなく即座に詠唱を始める姿には手慣れている物を感じる。

 

 

「良くは分からんがこれも"用事"って奴か?舞踏会だっていうのに随分物騒なダンスを踊りやがって」 

 

「!…貴方に用は無い。下がってくれるなら何もしない」

 

「そういう事言うならさ、魔法を解除してからにしてくれ、よっと!」

 

 "用事"という言葉で少しだけ無表情が崩れるが即座に立て直し、無表情のまま魔法が解放される。

 一撃の威力では無く、如何に相手に攻撃を当てられることを重視したのか『ウインディ・アイシクル』が放たれた。

 むざむざ当たる趣味は無いので『フレイム・ボール』を前方に発射・炸裂させ、そのままその方向に向かって走り出す

 一本一本はそれ程大きくは無い氷の矢の一部を溶かし、炸裂させた衝撃で周辺に散らばっていた他の氷の矢を弾き飛ばして道を開く。

 爆炎に紛れつつそのまま直進、腕と巻き付けた学院のマントで庇うも顔が熱で焼けてちょっと痛いが知ったことではない。

 炎を突破すれば目の前に居るのはタバサ、間合いを調節するように軽く後ろに下がるがその程度では意味が無い。

 全力疾走しつつも短く正確に詠唱するのは『ブレイド』。

 剣を覆う様に光の刀身が構築され、そのまま走りながら剣を振るう。

 振り被りと合わせて精神力を注ぎ込み、刀身を長くして間合いの不足を補う。

 

 

 ガィンッ!!

 

 

 いきなり長くなった刀身に驚いたかどうかは分からないが手に持つ大きな杖で受け止められる。

 しかしそのままの勢いで距離を詰めることは出来た。

 流石に良い杖だ。

 鍔迫り合いのようなこの状態からでは切断できそうにない。

 見た目から想像もできない力で押し返してくるが上から押さえつける様な状態であることとそもそもの体格や筋力量の違いから徐々に手が下がっていく。

 このまま抑え込め…

 ゴスン、と脇腹に突き刺さる衝撃。

 ぐふう、と思わず声にも成らない音が空気と共に口から漏れ出す。

 俺の力が緩んだ瞬間に全力で後方に疾走し距離をとるタバサ。

 もろに入ったタバサの足。

 よくもまあ抑え込まれた状況から蹴りなんぞ出せるものだ。

 ジンジンと痛みを発する脇腹に涙を堪えつつ詠唱し始めたタバサに此方も応じる。

 

 

「いつつ、やるとは思ったが、ここまでとはな。目的はサイトの足止めか?それなら任務は失敗といった所か」 

 

 

「これから追いかければ良い。もう一度言う。退いて。貴方とは戦いたくない」 

 

「俺も戦いたくは無いがね。でも好きな人と友人が殺し合うのは見たくないのさ」

 

 『エア・カッター』が頬を掠める。

 どの言葉に反応したのかな?

 好きな人って辺りだと嬉しいかも。

 

「なら貴方が私と戦っているのは何故?」

 

「さあてな。俺にも良く分からん。でも一つだけ言いたいのは…」

 

 またも放たれた『ウインディ・アイシクル』を用意していた『熱風』で融かしつくす。

 自身の放った氷の矢群が一瞬にして融け落ち、水蒸気に変化した光景に軽く驚いている気がする。

 

 

 

「俺と一緒に踊りませんかレディ、ってな!」 

 

 

 

「そんな暇は無い」 

 

 

 

 最もではあるが連れないことを言うタバサにそのまま躍り掛かる。

 俺としても軽く酔っているのかもしれない。

 酒にも、このシチュエーションにも。

 タバサとしてはさっさとシルフィードで追いかけたいのだろう。

 少し焦り始めている気がする。

 

 

「事情ってのがあるなら話して欲しい所だな。そしたらやめても良いぞ」 

 

「話せない」 

 

 

 ジグザグに動きながら再度展開したブレイドで体に当たりそうな氷の矢だけ弾き飛ばしながら近づこうとするが同じようにタバサもちょこまかと動き回っているので思うように近づけない。 

 

 

「話せないって、何時ぞやの俺みたいだな!」 

 

 

 無理に近づこうとすると氷の矢が制服を切り裂き真っ白なシャツが血で赤く染まる。

 本当になんでタバサとこんなことしてるんだろうな。

 

「…巻き込みたくない!」

 

 理由はやっぱり言ってはくれないが巻き込みたくないってのは本音だと思う。

 そんな辛そうな顔しないでくれよ。

 放っておけなくなるからさ。

 

「ラグーズ・ウォータル・デル・ウインデ…」 

 

 

 良く覚えてはいないが確か『アイス・ストーム』だったか?

 ならば。

 

 

「ラグーズ・カーノ・ラーク・ソル・ウィンデ…!」 

 

 

 発生する2つの旋風。

 方や氷の粒を内包する『アイス・ストーム』、方や炎を纏う『火炎旋風』。

 ぶつかりながら水蒸気を発生させるその2つ。

 優勢なのはタバサの『アイス・ストーム』。

 俺は確かに火のスクエアだが風に関してはタバサの方が上という事だ。

 勢力が弱まり今にも押し負けそうな『火炎旋風』を解除。

 引き寄せられそうになる氷の暴風を避ける様に迂回しつつ術者であるタバサを狙う。

 『マジック・ニードル』を放ち、敢えて回避させることで集中を乱すと暴風が力を失い消えていく。

 そのまま弱い追尾性能のある『フレイム・ボール』を放ち追撃にする。

 一方のタバサの口が微かに動いたかに見えると跳躍、いや飛翔する。

 

 『フライ』。

 

 スカートが翻るのも気にせず飛翔しつつ背後の炎球を撒こうとする彼女に、炎球を分裂させて対応する。

 増加した炎球のホーミング制御に気を取られ俺は動きを止めざるを得なくなる。

 四方八方から肉薄する火の玉に、前後と上下左右、自由自在に飛び回るその姿には優雅ささえも感じられる。

 まるで木の葉の様にヒラヒラ火の玉を避け続け、遂にはその全てを回避しきり、『フライ』を解除。

 まるで猫の様に足を柔軟に使い着地を果たした瞬間には集中する時間が足りなかったのだろうか、ほんの数本に数を減らした氷の矢が飛来する。

 しかし。

 ブシュ、と左腕に突き刺さる一本の氷の矢。

 確かに、ホーミングの制御に立ち止まらざるを得なかった俺も即座にスペルを破棄して自由を取り戻し回避の為全力で疾走していた。

 しかし、初動が遅れたのであろう。

 丁度頭を庇う位置にあった左腕に直撃を受けてしまった。

 凍てつく冷気からか血の出る量が少ない。

 傷口から痛みと共に凍える様な寒ささえ感じる怪我に一瞬だけ気を取られていた間に感じられる巨大な冷気。

 既に春だというのに離れている俺にすら感じられるその冷気の発生源は巨大な氷の槍だった。

 

 『ジャベリン』というスペルだろう。

 

 凶暴な様相を呈しているそれに当たればノックダウンと言うか致命傷になりかねない。

 死すら幻視するほどのそれに半ば反射的にスペルを吐き捨てる。

 此方のスペルは『フレイム・ボール』。

 いささか見劣りするが殆ど完成していた『ジャベリン』にある程度対応できそうで最も早く詠唱できたのがこれだったのだ。

 直後推進し始める氷の槍に此方も負けじと炎球をぶつけんと射出する。

 

 

 ボシュウ、と間抜けな音が聞こえ辺りに蒸気が立ち込める。

 

 

 不意に蒸気をかき分けて此方に向かってくる物が見える。

 それは、体積を落としながらもなお健在であった 氷の槍。

 

 撃ち負けることは予測していた。

 予想より少しばかり大きいままだが、何とかするしかない。

 

 短いルーンと共に展開されるのは『ブレイド』。

 展開と同時に走り出す。

 目標は、徐々に近づいてくる氷槍で、『ブレイド』を纏った剣を構えつつ接触しようというその時に剣を振りその槍の先端付近にブチ当てる。

 ギャリギャリと不快な音を立てつつ、只管直進し続けようとする氷槍の進路を変更する為に。

 未だ氷の矢が突き立ったままであまり力の出ない左腕にも有りっ丈の力を込める。

 一瞬でしかない接触にも関わらず筋肉が軋み上げるのが感じられるが、力の限り耐え続ける。

 思わず、咆哮が漏れる。

 

 

 

「んぎ。ぬぅぅおぉぉオッ!!」

 

 

 

 

 弾かれ宙を舞う剣。

 

 

 

 少し進路をずらされ後方を飛んでいく『ジャベリン』。

 

 

 

 押し勝ったことに喜びを感じぬまま、左腕の氷の矢を引き抜きつつ疾走し、タバサに向かって肉薄する。

 タバサは驚きの表情を浮かべた後に、俺の手に剣が、魔法の発動媒体が無いことを確認するといつもの無表情に戻る。

 そのまま冷静に詠唱を完成させ2本目の『ジャベリン』を撃たんとするタバサに向かって。

 

 

 

 俺は、疾走の勢いのまま、低空で文字通り『飛翔(フライ)』する。

 

 

 

 何の対応もできないまま俺と衝突し一緒になって転げまわるタバサ。

 

 

 別に杖が無くとも詠唱できるという訳では無く。

 何てことは無い。

 ただもう一つ『杖』を持っていただけで。

 右腕の手甲。

 およそ杖とは似つかないそれと無理くり契約した結果、その反動なのか魔法は発動できるが扱い辛いことこの上ない物に仕上がった為普段は使う事すらしないそれ。

 不意を打つためだけに使うそれを、このタイミングで使っただけの事。

 全速で直進する以外碌な制御も出来ないままにタバサと接触しその結果。

 

 

 

 

 

 

 馬乗りで仰向けのタバサのマウントポジションを取って押さえつけたまま、振り上げた右手を覆う様な形でゆらゆらと長さや形状が一定しない無様で不安定な『ブレイド』を展開している俺。

 無表情のまま、俺を見つめ続けるタバサ。

 手に持っていた大きな杖も衝突の衝撃で吹き飛んだからか、タバサは観念したかのように目を瞑り体から力を抜く。

 死ぬことすら受け入れたかのようなタバサの様子に内心狼狽えながらも言葉を紡ぐ。

 

「俺の勝ちだな」 

 

 

「そう、みたい」 

 

 

「だから勝者の特権だ。訳を、話せ」 

 

 

「でも」 

 

 

「お前は俺に脅されて知っていることを吐くだけだ。巻き込むとか巻き込まないとか関係ない」 

 

 

 

 

「俺の意思で首を突っ込むだけだ」 

 

 

 

 

 

 

 事情が有るのは知ってるんだ。

 ちょっとストーカー染みてるかもしれないが助けになれるなら、なりたいんだ。

 強情な俺に諦めたのかぽつぽつと喋り始める。

 

 

「私は、私の本当の名前はシャルロット。シャルロット・エレーヌ・オルレアン」

 

 

 

「父はガリア王家のオルレアン公シャルル。でも、もう居ない。……叔父の、ガリア王ジョゼフに謀殺された」 

 

 

 

「母はまだ生きている。けど、私を庇って毒を呷り、心を壊された」 

 

 

「私は、父が死に、母が狂わされてから、ガリアの騎士として幾多の任務をこなしてきた。今回もその中の任務の1つ」

 

 

「任務はルイズの使い魔、サイトの足止めと、抹殺。報酬は…」 

 

 

 

 

 

「母の心を取り戻すことが出来る、薬」

 

 

 

 

 

 聞き入っていたからか、衝撃を受けたからなのか、言葉を上げることは出来なくて。

 重い口を開いたタバサ、いや、シャルロットの瞳は語るにつれて徐々に潤んでいった。

 そりゃあそうだろう。

 任務は無関係な俺の介入で失敗し、母を救う手だてを失ったのだから。

 それに、こんな少女に碌でもないことを遣らせてきた奴らだ。

 任務失敗によるペナルティだって当然発生するだろう。

 そう。

 

 

 

 俺が、邪魔をしたのだ。

 

 

 

 触れれば折れてしまいそうなほどに華奢なこの少女の悲願は。

 事情を知らなかったとはいえ、たった俺一人の所為で瓦解したのだ。

 

 右手の『ブレイド』が輝きを失い消えていく。

 仰向けに押し倒されたままの青い少女の隣に腰を下ろし。

 震えそうになる唇で、言葉を紡ぐ。

 

 

「邪魔、しちまったんだな」 

 

「…」

 

「本当に、すまない」

 

 少女は黙したまま語らない。 

 

 

「シャルロットって、呼んだ方が良いのか?」

 

「私はまだシャルロットには戻れない。母を救うまでは…」

 

「なら、タバサ。邪魔した俺が言える言葉じゃあないが」

 

 

 

「俺にその手助けをさせて貰えないか?」

 

 

 口から付いて出た言葉。

 贖罪の念からなのか、はたまた、こんな時にも付いて回る醜悪な下心からなのか。

 理由がどちらかなんて事は、俺自身にも分からない。

 ただ、その綺麗な瞳に涙を浮かべながら小さく嗚咽するタバサの力になりたいと思ったことだけは確かだった。

 上体を起こしたタバサが此方に顔を向ける。

 瞳に涙を浮かべたままの困惑したような、驚いたような表情。

 申し訳なくて、どうしようもなくて逸らしてしまいそうになる瞳で何とかタバサを見つめ続けながら言葉を続ける。

 

 

「俺が仕出かしたことだ。償わせて、くれないか?」 

 

 

「そんな必要ない。…それに、途中で、死ぬかもしれない」 

 

 

「死ぬ様な経験なら何度もあるさ」 

 

 

「でも」

 

 

「でもも何もない。君がシャルロットに戻れるまでの間で良い。だから」

 

 見つめたまま、その先を口にする。

 

 

 

 

「君の、騎士にしてくれ」 

 

 

 

 

 

 恥知らずかもしれない。

 自分勝手なエゴで引っ掻き回しておいて。

 けど、言ってしまった。

 知ってしまったのだ。

 この手で機会を奪ってしまったのだ。

 自分だけ安穏と暮らしている訳には、いかない。

 

 

 元の無表情に戻ったタバサ。

 戸惑いがちに開かられた口からの返答は。

 

 

 

 

「……ありがとう、ウルド」 

 

 

 

 

 少し、柔らかな笑みを浮かべたままでのその言葉。

 

 オーケーで、良いんだよね?

 

 

 




あんまり読まなくても良い解説


アンアン、ロイヤルビッチ化…という訳でも無く。
原作通りの展開でサイトさんに抱きしめられちゃいました。
フラグは建ってません。
復讐の熱が喉元を通り過ぎたからかむしろ罪悪感がヤバい。
なのであまりアンアンを責めないで上げてください。



オリ主は手甲も杖にしていました。
3話の時点で一応仄めかしていましたが果たしてどれだけの人が覚えていたのか。
精密なコントロールが全く効かないため、精神力の込め具合で発動する魔法の規模を制御するしかないという産廃。
パワーの収束とか拡散とかするのは不可能。
 

自分で考えて何ですが今回のセリフ回しが臭すぎる気がします。私の脳にもダメージが…。
ギッ○ルが出そう。


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