2015.10.20 加筆修正
ルイズが、"虚無"の魔法使いが誘拐されかけた。
自身の甘さから出た失敗により精神的な衝撃を与えてしまったルイズ。
サイト少年との一部始終を目撃され走り去った彼女は不審な人物に精神的な隙を衝かれた所を、あわやという所でサイト少年と、巨大なフネを伴って現れたコルベールという名の教師に救われた。
サイト、ルイズ両名の話から不審人物はガリアからの間者であることが判明したのだった。
また、ガリアである。
無能王と呼ばれる美丈夫、ジョゼフ1世。
クロムウェルからの情報が正しいのであれば、レコン・キスタと同じであの男の手による謀略の一環なのだろう。
4匹の"竜"を集めて、戦わせる。
誘拐騒動の次の日にルイズから聞いた間者の言葉である。
言葉通り"竜"がルイズを表しているのであれば、"竜"とは"虚無"の使い手の事を指しているのだろう。
そして竜は4匹居るということだ。
伝承によれば始祖は我がトリステイン、アルビオン、ガリア、ロマリアの開祖に自身の力を分け与えたという。
つまりトリステインの"竜"がルイズであれば、他の三国にも同じく"竜"が存在しているのではないか。
その考えに至った時、体が震えた。
少なくとも強大な大国であるガリアは敵に回っていると考えられる。
ただでさえ強大であるのに、トリステインの持つそれと同等、或いは更に強力かもしれない
黒幕の存在は腹立たしいが相手が悪すぎる。
降って湧いた更なる問題に頭を悩ませていた時に追い打ちをかける様に新たな問題が舞い込んだ。
ルイズたちの級友だったガリアからの刺客である少女、そしてクロムウェルを自身の前に引きずり出した竜騎士の失踪。
2人の失踪そのものは特に問題は無かった。
例えガリア王族であろうとトリステインに仇なした者に慈悲など与える必要も無く、竜騎士についてもトリステインに正式な軍籍は無く知らぬ存ぜぬで通せる人物だった為である。
問題なのはその二人を自身の近衛である"水精霊騎士隊"が捜索・奪還の許可を求めてきたことである。
他国の武装勢力が領土内を自由気ままに闊歩することを許すほど国家という物は甘い存在では無い。
間違いなく戦争になる程度の外交問題となる。
頑として譲らないサイト達を説き伏せることも敵わず、貴族の位を返上するという前代未聞の行動を前に拘束することでしか応えることが出来なかった。
もっとも、結局彼らは牢を破ってガリアへと向かって行ってしまったのだが。
無事に戻ったというルイズからの手紙が来るまで気が気では無かった。
親友(今でもそう呼ぶことが許されるのかは疑問だが)の安否もさることながら、いつガリアからの宣戦布告が有っても可笑しくない状況に生きた心地がしなかったのだ。
唯一情報が回ることを処理できたのは幸運だった。
下手をすれば暴動が起きても不思議では無かっただろう。
ラ・ヴァリエールの領地で待つと返答したのは今回の問題を内々で葬る為でもあった。
娘を心配する親の気持ちを利用する人でなしの策ではあるが明るみに出るよりはマシだった。予想よりも少々折檻が過激だったのは誤算だったが。
"水精霊騎士隊"の処遇について今回の件はガリアが不気味な沈黙を保っていることを理由に不問とし、貴族位の返上を無かったこととした。
彼らと同様に騒動の原因の片割れである男も呼び出して問い詰める運びとなった。
目の前で片膝をついて臣下の礼を取っているウルダールは表情こそ神妙ではあったが微かに垣間見えた瞳からは自身の行いを反省しているようなものは感じられなかった。
途中想定外の反応でペースを乱されてしまったが、当初の予定から其処まで逸脱しない範囲で話を纏められたから問題は無い。
最後の俸給カットはただの嫌がらせだったが。
問題は自ら話をしたいと申し出てきた、騒動の発端である故ガリア王弟オルレアン公シャルルの忘れ形見、シャルロット・エレーヌ・オルレアンだった。
「何度かお会いしたことが有りましたわね。手紙の時……それとタルブでの戦の後で」
「はい」
自分でも自覚できる程度には突き放した様な冷たさのある声色だったが、目の前の青髪の少女は特に気にしていないのか気持ちの読めない表情で静かに返答した。
あの頃は自分の事で一杯一杯だった為さして気にも留めはしなかったが今にして見れば、と言うのが正直な気持ちである。
ガリア王家の特徴とも言うべき青く輝く髪に何も感じなかった自分に情けなさを感じてしまう。
トリステインの切り札、"虚無"の魔法使いであるルイズの誘拐幇助。
それに端を発した一連の騒動。
彼女が助けを求めたという訳でも無いが今回の危機を引き起こした原因人物。
対応が自然と固くなってしまうのは自然なことだろう。
それに。
『口約束ではありますが、私はタバサ嬢の騎士になりました』
『先の事は始祖ブリミルのみぞ知るのでしょうが、どうなろうと私は彼女に付いていきます。ですので女王陛下に忠誠を誓うことが出来ません』
思い出された言葉と情景に自然に拳に力が込められてしまう。
レコン・キスタからの投降兵であるウルダール。
骨の髄まで利用尽くしてやろうと画策していた忌々しい簒奪者の尖兵の内の1人だった男は、今では自分の復讐を手助けしてくれた恩人でもあった。
そんな男が語った言葉。
騎士になる、ということは主に忠誠を誓うという事であり故に自分には忠誠を誓えない。
本来ならそういう意味合いで有るべきだが、あの男はそういう意味で言ったのでは無い。
何てことは無い、今目の前に居る少女を好いているからこそあの男は騎士になったのだ。
女である私を誤魔化すことなど出来ない。
『同じ王族とは言え没落した家の娘との口約束の方が大事だと、あなたはそうおっしゃりたいのですか?』
『はい』
力強く答えたウルダール。
自己犠牲を厭わないという意味では似たような物かもしれないがあの男の目に浮かんでいたものは忠誠ではない、あれは恋慕とか愛情とかもっと生々しい物だ。
ならば命を懸けてというのも頷ける。
それが、気に食わない。
どうして、同じ王族とは言え間者にまで落ちぶれたこの少女には救い出してくれた"
どうして、あの男はレコン・キスタだったのに暢気に恋なんてしてるのだろうか。
どうして、わたしの"
何故だろうか、自分とウェールズ、シャルロットとウルダールでは姿かたちも立場さえ違うというのに、多くは無いウェールズとの逢瀬が思い出される。
懐かしくて、だからこそ妬ましい。
傍目から見れば随分と理不尽なものだろう。
しかし、拳に込められた力は思う様に抜けてはくれなかった。
復讐が有る程度果たされてから冷静になれたのか、自分にもウェールズが死んだ原因が少なからずあることには気付いていた。
もしも、裏切り者の子爵を信用していなければ。
もしも、そもそも最初から熱情に浮かされてあんな恋文なんて出していなければ。
全てが遅かった。
この少女は、自分の事を好いている男を戦わせることをどう思っているのだろうか。
ウルダールが勝手にやっているのかもしれないがそれでも戦いに駆り立てている自覚はあるだろう。
利用しているだけのか、それとも……。
ただ、自分たちと同じ様な末路をたどるのは鏡を見せられるようで何となく嫌な気がした事は確かだ。
だからほんの少しだけお節介をすることにした。
「まあ、"騎士"は大切にしなさい」
「……どういう、事でしょうか?」
「二度は言いませんわ、自分で良く考えることです。……それであなたは、一体わたくしにどのような用件があると言うのですか?」
努めて平静に、淡々と先を促した。
夜、話し合いが一段落し眠りにつこうとする前にとある部屋に向かう。
幼い頃に何度となく過ごしたヴァリエールの屋敷の構造は頭に入っている。
昔と変わらぬ位置にある部屋の主である目的の人物、ルイズは夜遅くの来客に驚いたものの部屋の中へ入れてくれた。
「ルイズ、良く帰ってきましたね」
「陛下、私は……」
「もう、良いわ。確かにあなたの行いは軽率だったけど幸か不幸か問題は起きていないもの。……でも、はらはらさせるのはこれっきりにして頂戴ね」
懐かしい、ウェールズが死ぬ前に学院のルイズの部屋を訊ねた時の様な気持ち。
あれから自分は随分と変わってしまった。
復讐に取り付かれ目の前の少女を戦争の道具に仕立て上げる程度には人間性という物を捨ててしまったと自覚している。
何故今になってルイズと話をしたくなったのか、許される事では無いとしても許しを乞いたいのかもしれない。
「あなたには随分酷い仕打ちをしてしまったわね、ルイズ」
「陛下……?」
「わたし、自分の不始末をあなたに押し付けたあげくアルビオンの撤退戦で復讐を果たすためにあなたを捨て駒にしようとして、そして今も王位継承権と言う形で無理を押しつけているわ」
アルビオンで、スレイプニィルの夜会で、そしてつい数時間前。
「……先の戦争はやはり……ウェールズ様の、復讐だったのですか?」
突然の告白に目を白黒させ、聞き辛いのか言葉を詰まらせながらのルイズの質問に返答する。
「そうよ、その通り。……命を奪うだけでは飽き足らず、あまつさえ人形として操り、王族としての誇りを、人としての尊厳さえも奪った愚か者共を誰が許せるものですか」
「……レコン・キスタはトリステインを狙っていました。陛下が立ち上がらなければ今頃トリステインは恥知らずな無礼者共の手に落ちていたのです。……陛下は確かに、このトリステインを守ったのです」
「そうね、そういう側面があるのは確かだわ。……でもね、ルイズ。あの戦争はわたしが自分の為に始めた怨念返しだったのも確かな事だわ」
真っ直ぐな瞳を大きく開いて見つめてくるルイズ。
今の自分には眩しくて、目を逸らしてしまいそうになる。
全てを正直に告白しよう。
態々話し合おうというのに隠し事は必要ない。
「裏切り者を粛清して、何の関係も無い民から物資を絞り上げ、国の全てを復讐の為の駒に仕立て上げたわ。……当然ルイズ、あなたの事もね」
正に暴虐の限りを尽くす暴君である。
私利私欲の為だけに国の全てを意のままに操り破滅の道を進ませた下劣極まりない畜生である自分を、それなのに何故かルイズは哀しそうな目で此方を見つめている。
「どうしてそんな目で見ているの、ルイズ?……わたしにはあなたに許してもらえる資格なんてないのに」
「陛下、決してその様なことは……」
「良いのよ、ルイズ。……自分の事は自分が一番知っているわ」
こんな自分の為に声を張り上げて否定しようとしてくれるルイズ。
わたしはあなたに酷い事をしたわ。
「人肌が恋しかったのね。わたし、あなたの使い魔に抱きしめられて、とても安心したのよ。……心地よさに抗うなんて、出来なかったわ」
「そ、それは……」
「酷い女でしょう?」
はしたない、まるで商売女のような節操の無さ。
まして相手はルイズの大事な人だ、弁解の余地も無い。
苦虫を潰したようにその表情を苦しげに歪めるルイズ。
その表情は胸をきりきりと締め上げる様に罪悪感を加速させるが、今の自分にはその痛みで立ち止まってることは許されない。
堪えるかのように形の良い唇を真一文字に閉じ眉間に皺を寄せた憎しみすら籠っているかのように錯覚させられる形相のルイズに努めて穏やかに話しかける。
「ルイズ、心配しないで。……わたしはあなたから大事な人を奪ったりなんて、しないわ」
「へぇ?……ひひひ姫様、べ、別に私はアイツの事なんかこれっぽっちも大事になんか……」
「隠したって分かるわ。……あなたは自分にも彼にも、もう少し素直になった方が良いわね」
図星を突かれて慌てたのか、自分の事を昔の様に『姫様』と呼んでくるルイズが何だかおかしくって自然と笑いが込み上げてくる。
からかわれているとでも思ったのか、顔を真っ赤にして小さく唸りながら睨み付けてくるルイズの姿は、昔喧嘩した時の様で懐かしく可愛らしい。
自分のしたことを棚に上げて何をと自嘲の言葉が頭を過ぎるが、堪えることは出来なかった。
「大事な人を奪われる悲しみや辛さを知ってるのに、本当に、本当にごめんなさい、ルイズ……」
誘拐事件以来、こんなにも素直な気持ちになったことがあっただろうか。
ごく自然に頭を下げていた。
見えはしないが、ルイズが慌てているのが分かる。
「そんな……陛下が頭をお下げになることなんて」
「いいえ、わたしはこうしないといけないのです」
戸惑うルイズ。
これで全てを償えるなんて思わないが、けじめとして我を通す。
暫くそのままでいたが、耐えられなくなったルイズに懇願され姿勢を戻すことになった。
……もう、夜も遅い。
何時までも邪魔していてはいけないと部屋を後にすることにしたが扉の前で一度立ち止まり、もう一度ルイズの方を向いてから言い放つ。
「ルイズ、わたくしは、トリステインを必ず今よりももっと、ずっと、繁栄させてみせます」
唐突な言葉に今一良く分からないというキョトンとした表情を浮かべるルイズに構わず自分の思いを吐露する。
「それだけが、あなたや、あなたの使い魔、そしてわたくしの都合で苦しめられ、或いは死んでいったトリステインの民に報いる唯一の方法なのですから」
それが、自分に出来る唯一の贖罪なのだ。
もっとも、贖った所で何一つ、誰一人許してはくれないだろうが。
そして、それは自分さえも同じ事だ。
永遠に消えない罪を清算し続けること、それこそが愛に狂った女に相応しい罰なのだろう。
はよ話進めろって?
明日には更新します、多分。
※注意!!
結構長い上微妙な話なので面倒な方は読み飛ばして下さい。
先ず初めに何故女王陛下がこんなに黒くなったかと言うと、オリ主を出来るだけ自然に学院の方へと合流させるために他なりません。
復讐に狂わせ、手段を選ばなくさせることで投降兵の学院への転入と言う無理な超展開に僅かばかりの説得力を持たせたのです。
つまり私の想像力の欠如が招いた惨状です。
途中から、多少精神的にはブレはするものの復讐という一貫した行動原理を崩さないという個人的にツボな要素に聊か悪乗りした感もありますが、最初の理由としては踏み台の様な物でした。
なので女王陛下はこのお話で一番割を食っている人物と言えます。
また性格を大幅に改悪した手前そのまま放っておくのは無責任な感じがするので、どの様に思考して行動を起こしてるのか定期的に視点を挿入しております。
まあ、展開的には原作となんら変わってないんですけどね。
以上の事からこのお話では原作主人公のサイトさんやメインヒロインであるルイズさんを差し置いて女王陛下に対して、タバサさんに次いでスポットライトを当てております。
オリ主が知りえない様な状況を説明させるのにとっても便利な立場でもありますし、多分これからもちょいちょい視点を挟んでいくことになります。
以上、言い訳にお付き合いしてくださってありがとうございました。