とある竜騎士のお話   作:魚の目

4 / 34
4話 友達できるかな by 筋肉

お嬢さんの忠告を素直に聞き入れ友達100人できましたっ!

とうまくいく筈も無く。

授業後に分からない部分を聞く振りして声をかけても

 

「せ、先生に聞けばいいんじゃないかな、ごめん!」

 

と、勢いよく謝られ逃げ出される始末。

正論だがそんなに俺が怖いのかとブルーな気持ちになる。

顔か、それとも筋肉が怖いのか?

両方か、ははっ。そりゃ参ったな。

俺が席に座れば周りに人は来なくてポッカリ穴が開き、俺が立ち上がればビクッとする。

特に反応をしないのはルイズ嬢とサイトを除けば、ちっこいタバサとエロボディのキュルケくらいである。

一定の距離感を保ちながらこちらを窺っているというか。

例えて言うならつかず離れず何かあっても対応できる距離で、かつ一撃で俺を葬り去れる位置取り?

多分これが正解。

ちなみにルイズ嬢とサイトは俺に友達ができるのをただ只管に見守っている気がする。

己らは入学式で我が子に友達ができるか見守る保護者か。

 

優秀な面を見せつければ誰か頼ってくれるんじゃないかと気合入れて実技に臨めば例の2人の警戒レベルが上がるだけ。

俺は何もしちゃいない。何もしていなかったのが悪いのか、すいません。

本(母の形見のイーヴァルディの勇者)を読んで話題を共有できる奴がいないか探してみても殆ど意味は無く。

そういやこれ、平民が活躍するからか平民受けは良いけど貴族受けは良くないんだっけ。

例の青くてちっこいのがチラチラこっち見てたのは来たか!と思ったが見返すといつもの警戒する視線に戻った。

泣きそう。

 

 

そんなこんなで傷ついた心を癒す傍ら、クロムウェルの変な指輪に当りを付ける為訪れた図書館。

それと並行して精神系魔法に抵抗する方法も探しに来たが、レッド曰く水精霊の先住の力とやらで俺らの使う魔法とは別物であるため恐らくは無理だろう。

クロムウェルの野郎を血祭りに上げるのは決めたが例の指輪を如何にかしないといけないからね。

見つからなきゃ最悪捨て身でやられる前に殺るしかないかもしれん。

貴族の親父の家で字は仕込まれたがあまり本を読んではこなかったので時間がかかる。

リードランゲージでも使うかとも思ったがアレはこうこうこんな感じっていう凄まじく曖昧な情報しか流れてこないから止める。

静かな館内には学生は数えるほどしかいない。

学生なんて大抵試験が迫るかレポートの提出日が近づいてる時くらいしか図書館なんて来やしないだろう。

前世だってそうだった。

館内の学生は殆どが3年生だったがその中に1人見知った顔がいた。

青髪のチビっ子、タバサ。

街ですれ違ったらハッと後ろを見返してしまいそうな程綺麗な顔立ちだが無表情なので可愛くない。

勿体ないよね。

そんなタバサではあるが教室と同じような距離感の席に腰を下ろしており時折窺うような視線を向けてくる。

ええい、こちとらお前を気にしている暇は無いし、先ほど期待をお前には裏切られたばっかりなんだよと理不尽な逆ギレをかましながら無視する。

そんな風に一日を過ごしている。

勿論友達は出来ない。

 

 

 

なんの成果も上げらえぬまま1週間ほど経ち、遂にルイズ嬢から「アンタ早く友達作りなさいよ!」と叱責を受ける。

俺氏、「簡単に友達出来たら苦労しませんよ、チクショウ!図書館行ってきます!」と返しアホを見る目で見てくるルイズ嬢から逃げる。

緊急時に備え何処にいるかをハッキリ伝えるおれマジ仕事人。

だったら護衛しろよという突っ込みは置いておく。

学院内ではそこまで求められていない。

まあ学院外への外出時はちゃんと着いていくけどね。

俺なんてちょっと腕の立つタクシードライバーみたいなもんだよ。

ハリウッドみたいなカーチェイス(この世界ならドラゴンチェイスか?)はちょっと遠慮したい所だが。

廊下を走るなっ!と注意してきた先生が俺の顔見たとたんに委縮してなんか謝ってきそうになって、泣きたくなったが図書館到着。

先生にも怖がられる俺ってなんなの。今度から廊下を走るのはやめます。

図書館の住民はよくよく観察してみるとここ一週間で殆ど変わらず同じ顔ばかり。

ここまでメンツが変らないと「ははーん、お前らさてはボッチだな!」と言いたくなったが、盛大なブーメランになることに気付く。

意気消沈しつつも目当てのジャンルの本を探して席に着く。

いつも同じところに座っている為殆ど指定席の様になっている。

この一週間でクロムウェルの野郎の指輪が何なのか絞り込めた。

アンドバリの指輪という水精霊の秘宝がある、らしい。

らしい、とはいうものの確認されたのはかなり昔のでそれっきり何処かの湖に沈んでいると本には書かれていた。

水の力で死者を操り、生者の心を惑わせるとかなんとか。

ボロッちく汚らしい、所謂禁書欄にあった本で信憑性に関してはかなり怪しいものがあるが、ぶっちゃけこれ以外に精霊が絡むお宝は見つからなかった。

夜に忍び込んで漸く見つけたはいいがこれであるのかは微妙な所である。

王立図書館にでも行ければ見つかるかもしれないが俺には入る権限がない。

とりあえずそれと思しき物は見つかったので今は主に対抗手段について調べている。

秘薬やら迷信やら根性論やらどれも怪しげなものが多くどれが当てになるのやら。

目が疲れを訴え暫し顔を上げる事にするとやっぱりいつものところにいつもの奴が居る。

奴ことタバサは物静かで無表情という典型的なボッチのように見えるが実は違う。

どうやらタバサはあのエロボディと仲が良いらしい。

凸凹コンビ(主に胸が)という言葉が瞬時に浮かんでしまったが俺は悪くない。

もしかしたら俺だけかもしれないという不安は無視してこのボッチの園にボッチじゃない奴が来るなよ!という理不尽極まりないことを考える。

ルイズ嬢とサイトは友達ではないと思う。彼らは上司枠。

ボッチの敵め、と恨めしげな視線を送る。

へへん、こいつは俺と視線が合うと直ぐに逸らしてくるからな。俺の勝ちで決まりだぜ。

しかし今日に限っては様子が違った。

 

(コイツ、目を逸らしやがらねえ…!)

 

ジッ、と見つめてくる2つの目。

宝石の様に美しいその澄んだ水色に一瞬心を奪われるも負けじと見返す。

正直ちょっとキュンときた。いかんいかん。

内心ビクビクしているとタバサがやおら立ち上がる。

ふうっと一息つき視線を本に戻す。

いやービビったビビった。

普段と違う行動をとられるだけで慌ててしまうなんて俺もまだまだ未熟だ。

落ち着いて本を読み進めようとした時影がかかる。

何だよ、暗くて読みずらいよと文句を言おうと顔を上げる。

 

「…」

「」

 

近い。青い。

目の前に立つタバサ。

小柄な体躯とその表情の無い顔から人形の様にも見えてしまう。

 

「な、なんですか?」

 

それしか返せなかった。

それに対してタバサは無言。

いや、言葉を選んでいるのか。

 

「何か御用でしたら取り敢えず外に出ませんか。」

 

こくりと頷く青い少女。

調子崩されっぱなしの俺はなんとかこちらのペースに持っていこうと提案をした。

 

 

 

「……」

 

「……」

 

時刻は夕暮れ。

人影のない中庭のオープンテラスの隅の席。

始まらない会話。

向かい合って座りひたすら無言。

人見知りのお見合いかよ。。

しかたないと声を出す。

 

「あの、どんなご用件で?」

 

帰って来ない言葉。

一人相撲みたいで虚しくなってくる。

大人しく待っているかと、しばらく待つ。

 

「本」

 

「本、ですか?」

 

頷いた後に言葉を続ける

 

「ここ最近ずっと同じ分野の本ばかり見ていた」

 

「確かにそうですが」

 

「精神に作用する魔法とマジックアイテムと秘宝。何故?」

 

見られていた?

理由は分からないが、いや。

俺が見ていた本、正確にはその分野に興味があるのか。

 

 

「少し興味がありまして。」

 

「貴方は火の系統が得意なはず。畑違い」

 

やはり気付かれていた。

今考えてみれば確かに不自然か。

図書館で他の奴が読んでる本など気にも留めないだろうと高をくくったからか。

任務には関係ないが素性には絡んでくるから話せない、な。、

手が首に伸びそうだ。

 

「…申し訳ありませんがお答えできません」

 

正直に話すしか無かろう。言えないと。

これで怪しさが更にましたか。

現にちょっと目つきが厳しくなっている。

でも、なんだろう。違和感がある。

 

「わかった」

 

警戒を解いている訳ではないがかといって避けるような様子も無い。

このタバサという少女。

分かりづらいが実に足腰が鍛え上げられている。

羊の皮を被った狼。

俺ほどではないがどこか怪しげで、不穏なモノを抱え込んでいるようにも見える。

もし彼女が俺の予測通り何かあるのなら。

もしかしたら俺は彼女の同類とみなされたのかもしれない。

 

「一つだけ、答えられるなら聞かせてほしい」

 

探る様な視線。

 

「貴方は、何を探していたの?」

 

ド直球の質問。

答えられるか答えられないか。

少しぼかしたら大丈夫かな。

グレーゾーンだったが体の様子を見るにどうやらいけるようだ。

 

「人の精神に関する秘宝とそれに対抗する方法…です」

 

そのものずばりという訳ではないが答えなくても良い筈なのに答えてしまった。

やっぱり美人は罪深いね。

そんなに物欲しそうな顔されると答えてしまうよ。

タバサは変らぬ無表情、のはずが何か違う。

何かが変わった。

それが何なのかは分からない。

 

そう、とだけ呟いてそれきりタバサは押し黙る。

ではこれでと立ち去ろうとするも待って、と声をかけられもう一度座り直す。

 

「最後にもう一つだけ」

 

「なんでしょう?」

 

「良ければ、本を貸して欲しい」

 

本って図書館の本は自分で借りればいいのに。

 

「ご自分で借りればよろしいのでは」

 

「違う。貴方が教室で読んでいた本」

 

教室?

俺教室で本なんて読んでたっけ。

教科書、な訳ないよな。

うんうん唸りながら頭をひねりながら考える。

ふと思い出される1週間前。

あの時たしかアレを読んで。

でタバサがこっち見てて。

 

「イーヴァルディの勇者、ですか?」

 

「そう」

 

何処にでも転がってるような本だぞ。

 

「読んだことは無いんですか?」

 

「ある。でもあなたの持っていた物は特別な装丁がなされている絶版本。有名な著者であるド・ベイレンの作で10冊しか発行されていない物。私は読んだことがない。彼の著書は…」

 

至って真剣な顔でつらつらとド・なんたらの作品の蘊蓄やら素晴らしい所を語っていくタバサ。

殆ど聞き流してしまっているがあんなに無表情な子が熱く語るほど素晴らしいものだということだけは良くわかった。

というかそんな貴重且つ高価な物だったのか、あれ。

形見ということで常に肌身離さず血なまぐさい戦場にすら持って行っていたのだが…持ち歩くのやめようかな。

適当に相槌を打ちはじめてどれ位経っただろうか。

一息つこうと休んだところで気が付いたのか、元の無表情に戻る。

無表情ではあるが、頬が微かに赤くなっている。

どうやら恥ずかしがっているようだ。癒される。

 

「…ダメ?」

 

少し遠慮しがちに聞いてくるタバサ。

まあ、減るもんじゃないし。

 

「良いですよ」

 

「本当?」

 

「本当です」

 

喜んでるのかイマイチ分からないが取り敢えず表情が柔らかくなった、気がする。

ブックホルダーごと外して渡してやる。

ほっそりした小さな手でしっかりと握りしめるタバサ。

では今度こそこれで、と席を立つ俺に向けて声が届く。

 

「…ありがとう」

 

友達と言えるような関係ではないが、漸くただのクラスメイトにはなれたのかな。

ほんの小さな一歩ではあるが大収穫じゃあないかな。

ちょっとだけ上を向いた気持ちの中、俺は部屋に戻ることにした。

こわーいお友達も居るみたいだし。

 

 

 




俺氏、心の中の終身名誉畜生たる蜘蛛野郎をチラシで百叩きの刑に処す。
なお、このお話には関係ない模様。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。