とある竜騎士のお話   作:魚の目

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6話 集う暇人

酒は2度と飲まないと誓った今日この頃。

とっくのとうに訳あり貴族だとばれていたならようで、それならしょうがないと開き直って遠慮なく日常生活で魔法を使うことにした。

昼は荷物運び、夜は妖精亭の雑用兼皿洗い兼用心棒したりと意外と充実した日々を送っている。

金欠だが。

これではルイズ嬢の事を笑えない。

日々の仕事でコツコツ貯めてはいるが雀の涙程しかたまらない。

金がないため仕方なく酒場での情報収集はお休み。

 

いきなり仕事が休みになり何とか単発の仕事を探したものの今日の晩飯はそこら辺の雑草かと腹をくくりながら妖精亭に戻るとなんだか人だかりが出来ている。

野次馬根性を発揮して輪に入り込めば3人の軍人と一人の見知った少女。

ベラベラ大仰に語る軍人に対して小柄な少女はダンマリを決め込んでいる。

そんなにリラックスして喋ってる余裕がある様な実力には見えず恥かくだろうなと名前も知らぬ軍人に黙とうを捧げる。

1人の軍人が件の少女に先手を譲ると宣言した直後に勝負は終わっていた。

少女を侮る表情のまま何かにぶつかったかのように無様に吹き飛んでいく軍人たち。

なんてことはないただの『エア・ハンマー』が使い手によっては人を3人纏めて通りの向こう側まで吹き飛ばす威力になるのだ。

誰がどう見ても少女の、クラスメイトであるタバサの勝利である。

自信満々の軍人だから良い勝負でも見られるかなと期待して損をした。

何故こんな所に居るのかは知らんが部屋に戻ってさっさと寝て空腹を紛らわそうと小路に入り裏口を目指す。

小路を半ばまで進んだその時袖を引っ張られる。

誰が引っ張ったのか、思い浮かんだ人物でないといいなと思いつつも振り返ればそこには予想通りの人物が居る。

 

「なんの、御用で?」

 

「ロナル」

 

すっとぼけてやり過ごそうと思うも即堕ち2コマシリーズ並みの速度でばれる。

袖を引っ張られ続けているまま大人しく連行されることにした。

 

 

「あら、タバサお帰り。ってなんでロナルも一緒なの?」

 

「そこですれ違ってね」

 

店内に居たのはキュルケと、あまり絡みの無いギーシュというキザな奴とモンモランシーという思わず拝みたくなるほど見事な巻き髪が特徴の女生徒。

どちらもクラスメイトなので名前と顔は覚えていた。

俺が来ると同時にギーシュは少し腰が引け、モンモランシーは表情を硬くした。

だいぶ馴染んだと思ったのがどうやらまだこの2人には避けられているようだ。

 

「というかその格好ったらまるで平民みたいじゃないの。どうしたのよ?」

 

「うーん、社会体験、かな?」

 

これまたおざなりなホラを吹くとまあ、いいわと身を引いてくれた。

珍しく大人しい反応に拍子抜けする。なんか、今日は優しいな。

 

「その服、似合ってるわよ」

 

「余計なお世話だよ」

 

やっぱりキュルケはキュルケか。

少し顔を傾げてウインクしながら言ってくるのが小憎い。

 

「所で、本当にご一緒して宜しいのですか、お2人さん?」

 

ビビりがちなギーシュとピリピリしているモンモランシーに確認を取る。

俺だって良く知らない人間と食事はしたくない。

正直料理の匂いに腹がうずいてしょうがない。早く寝たい。

 

「ええ遠慮せずにかけたまえ、えっと、ロナル」

 

「……良いわよ」

 

「それじゃ遠慮なく」

 

端っこに避けられた椅子を引っ掴みどかりと座る。

本当は遠慮したいが交流を深めるのも大事だろう。

 

「あら、ロナルさん。また夕食をここに決めてくれたんですか?」

 

座ったと同時にかけてくるのは金髪で笑った時のえくぼが可愛い俺の金を搾り取った張本人であるマレーネちゃんその人だった。

 

「え?ああ、ちょっと友達にバッタリ会っちゃって」

 

「本当ですか?私嬉しいです!また前みたいにいっぱいお酒お注ぎしましょうか?」

 

「き、今日は友達と一緒だから良いよ。また今度お願いね」

 

残念です…。また今度、約束ですからね!と手を振りながら他のテーブルにかけていくマレーネちゃん。

やめてくれ、君のおかげで今月はカツカツなんだ。そんな笑顔で約束とかされるとまた失敗してもいいかなと思ってしまうじゃあないか。

キャバクラ通いになるおっさんの気持ちが分かりそうで怖い。

振り返ればゴミを見るような目で見てくるタバサとおもちゃを見つけた子供みたいな目をしているキュルケ。

あっけにとられたギーシュに侮蔑の表情で見てくるモンモランシーの姿だった。

 

「あなたって、そういう趣味があったのね。私びっくりしちゃった」

 

「意外」

 

キュルケがからかう様に絡んできて、タバサは言いつつもさっきより気持ち俺から距離を取った。

やめてくれ。タバサみたいな反応されるのが一番傷つく。

弁解するために声を張り上げる。

 

「待ってくれ、俺がここで食事をしたのは1回こっきりだし、別におさわりみたいな疾しいことなんてしちゃいない!」

「確かにお酌して貰ったり楽しくお喋りしてお金を使い過ぎてしまったが…そう!なんというかアレは若さゆえの過ちというヤツだ!!」

 

言い終ってから勢い余ったのか自分が立ち上がってしまっていることに気付く。

俺の必死の弁解を聞いたからなのかキュルケとギーシュは大笑いしているしタバサは憐れむような視線に変わっているしモンモランシーは口から「不潔…」と言葉が漏れている。

周りを見れば「新しい常連の誕生だ、ハッピーバースデイ!」とか「へ!底なし沼に嵌ったようだな」とか勝手なことをほざいている常連共。

気恥ずかしさのあまり唇を噛みながらすごすごと席に着く。

ひとしきり笑って満足したのかギーシュが声をかけてくる。

 

「笑ってしまってすまない、ロナル君。僕は正直君の事を勘違いしていたようだ。」

 

何を勘違いしていたのか知らないがギーシュは続ける。

 

「君の事を何も知らないでただ風貌から君の事を怖がっていたんだ」

「でも漸くわかったよ。君は僕と同じように可愛い女の子に魅了されてしまう"男"なんだってね」

 

魅了されてしまったのは正論だから言い返したくても言い返せない。

 

「改めて。僕はギーシュ・ド・グラモン。よろしく頼むよ」

 

「…ロナル・ド・ブーケル。よろしくお願いします」

 

なんでいきなり自己紹介になってるのか分からないが差し出された手を握り返す。

すると、沈黙を保っていたモンモランシーが口を開く。

 

「…モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシよ」

 

よろしくと短く続けられる言葉にこちらもよろしくお願いしますと返す。

何故か始まった挨拶合戦に戸惑っているとキュルケが漸く笑いから復帰した。

 

「さっきのあなた、本当に傑作だったわ。だって拳を握りあげながらいきなり立ち上がるんですもの」

 

「頼むから止めてくれ。引っ張るなよ」

 

一言一句違えずに声真似しながら俺の言葉を再生するキュルケに勘弁してくれと懇願する。

キュルケが言い終って、ギーシュも含めて思い出し笑いをするのをなるべく視界に入れないようにして強引に話題を変更する。

 

「それで、さっきのは何の騒ぎだったのさタバサ」

 

キュルケの説明によるとキュルケがさっきの3人に酌をしてくれと絡まれ断るとゲルマニア人だということで負け惜しみを言われすったもんだの挑発合戦の末に決闘沙汰に。

んでキュルケの代わりにタバサが決闘を受けたと。

タバサに聞いたはずなのにキュルケが答えてくれた。分かったから良いけど。

しかし口車に乗ったからとは言え3対1とはなんとも情けない奴らだな。

自分の先ほどの醜態を棚に上げて軍人を罵る俺はふと思いついた疑問をキュルケ曰くルイズの奢りである料理を食べながら投げかける。

 

「なんでタバサが代わりに受けたのさ?」

 

仲が良いのは知っているがだからといって決闘を肩代わりするか?

キュルケならあの程度の有象無象どうにでもできる気がする。

油断している格下が束になったところで何の脅威でもないはずだ。

 

「貸し」

 

貸し、ねえ。

分かる様な分からない様なタバサの簡潔に過ぎる答え。

確かに仲が良くて貸しがあるならやるかな。

 

「なあキュルケ、一つ聞いてもいいかい?」

「君たちがそんなに仲が良いのはどうしてだい?性格だって正反対の様に僕は思うのだが。」

 

心底不思議そうにポツリと呟くギーシュに気が合うのよと素っ気無く返すキュルケ。

尚も食い下がるギーシュと興味を惹かれてかモンモランシーも便乗する。

気になりはするが詮索する程でもないと思う俺は、正直満腹になって眠くなってきた為少し気だるげに話題の2人を眺めていた。

見つめ合い2人にしか分からない何かで通じ合ったのかキュルケがタバサの許可を得たとグラスを傾げながらぽつり、ぽつりと話し始めた。

 

 

 

1年生の頃のタバサとキュルケを取り巻いていた環境。

魔法の実力と男子生徒からの人気。

理由はそれぞれ違うがどちらも一部生徒の嫉妬の対象になっていたこと。

夜会にて「風の魔法」で切り裂かれるキュルケのドレス。その後「火の魔法」で黒焦げにされたタバサの本棚。

「目撃者」の証言に踊らされ、お互いがお互いの事を犯人だと思い込んだまま行われた決闘。

決闘にて行使される魔法から互いの実力を見抜き自分たちの受けた被害と比べて感じられる違和感から犯人は別人であると確信する2人。

結局は自分たちに嫉妬する「目撃者」が仕組んだことだったということ。

2人協力してのお仕置き。

 

話し始めた頃には夕暮れの日が眩しい程だったが今ではとっくに夜空にお月様が昇っている。

客の数も少なくなり上がっていいと言われたのかいつの間にかルイズ嬢とサイトまで輪に加わっていた。

かく言う俺も情景がありありと浮かぶようなキュルケの語り口に眠気を忘れて聞き入っていた。

しっかし予想外にも青春なことして仲良くなるなんてちょっと憧れてしまう。

聞いてる最中いつぞやと同じような既視感を感じたがどうせ思い出せないしどうにかなる訳でも無いので無視していた。

やっぱり2人もなんとかのなんとかに出てたのかね。

 

「いやー、なんだか良い話だったね!ついつい聞き入ってしまったよ。なあ、サイト、ロナル!」

 

「本当になー。なんか2人共格好いいなあ」

 

「そうだね。本にでも出てきそうな話だったなあ」

 

バンバンと背中を叩きながらサイトと俺に同意を求めてくるギーシュ。

こいつ随分慣れるの早いな。悪い気はしないが。

 

「アンタたちそんなことやってたのね。全然知らなかったわ」

 

「まあねー」

 

酒がイイ感じに回ったのかとろんとした目でキュルケがルイズ嬢に気の抜けた返答をする。

色っぽいなーと思いつつボーっとしていると、此処に泊まると言い出しキュルケとタバサが2階へと上がっていった。

ルイズ嬢に代金をツケて。

お嬢、俺もゴチになります!

他人のツケでメシが美味いとは正にこのこと。

俺も上機嫌で部屋に戻ろうとする所で何者かがぞろぞろと団体様で店の中に入ってくる。

目を向けてみればいきなり店内になだれ込んできたのはさっき情けない様を晒していた軍人とそのお友達。

この野郎ども、夜に団体様で殴り込みのお礼参りかよ。

一個中隊は居るぞ。

どんだけ大人気ねえんだよ。ギャグか何かかよ。

 

 

 

反撃を試みるも数の暴力でボコボコにされて地に伏す5人。

ナヴァール連隊だったか、戦場であったら頭の上からの流れ弾に気を付けろよ、チクショウが。

 

 

 

 




オリ主が酒の失敗を女の子に蔑まれる話。
そこ、ご褒美だといった奴、手を挙げなさい。

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