とある竜騎士のお話   作:魚の目

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追記

予約投稿しようとしたら間違えて普通に投稿してしまったでござる。


8話 戦争の影と彼の気持ち

ヴァリエールの領地の直ぐ近く、丁度隣接する他の貴族の領地との境目辺りで上司2人とメイドを乗せた馬車を待ち続けて3日。

いい加減何かあったのではとヴァリエール領に入り探りを入れようとする俺になぜか届いたルイズ嬢からの1通の手紙。

要約すると「事情があって先に学院に戻ったけどあなたが待ってること完全に忘れちゃってたわ、テヘっ☆許してチョ♪」という内容に青筋を浮かべつつも冷静に学院に帰還。

事情が有ったなら仕方ないんだと自分に言い聞かせて耐えた。

学院に戻ったら漸くゼロ戦の修理が終わったらしいことを知る。

ゼロ戦を弄っていたのは学院教師のコルベール先生。

人の良さそうな見た目に反して、所々錆びついている印象は受けるが身のこなしが尋常じゃない。

怖ろしいことに独学で内燃機関と思しき物を作りだすという、一人だけ頭の中が産業革命後みたいな人物だが本当にゼロ戦は大丈夫なのだろうか。

飛行機械黎明期には飛んでる時に空中分解するなんて割とありふれていることだった。

ちょっとしたフレームの歪みが命取りになるはずだが…。

まあ実際に飛んだところを見たからには黙らざるを得ないけどね。

大空に舞う濃緑にペイントされた超々ジュラルミン合金製の装甲を持つゼロファイターの姿に元日の本の国の人間としては感動を覚えてしまう。

…しかし、サイトはどうしてゼロ戦なんて操縦出来るのだろうか。

見たところ俺のよく知る現代っぽい格好だし俺よりも年下だぞ。

深まる謎にまあいっかと考えることをやめる。

考えても答えの出なさそうなことは考えないに限る。

 

日差しも和らぎ過ごしやすくなってきたラドの月。

俺の周りは夏休み前よりも賑やかさを増していた。

ギーシュの野郎が相変わらず俺の事を女好きの様に話しかけてきやがる為そういう話に興味のある男どもが集まってきやがる。

まあそのおかげで避けられることも無くなってきたためちょっとだけ感謝している。

代わりというかなんというか最近の情勢からかちょっと暗めの噂話が囁かれるようになり始めた。

学生の戦時徴用。

そんな訳ないだろうという声や手柄を上げてみせるという勇ましい声も聞こえてくる。

十分に考えられることだと俺は考えている。

戦争をしばらく経験していない為士官数は少ないようだし一部練度の高い部隊もあるようだが全体でみると割とお粗末だ。

クソ忌々しいあの中隊も一人一人は大したことは無かった。

ボコボコにされてたじゃないかって?

いくらなんでも100人以上いる奴らとマトモな装備もなしに勝てるかよ。詠唱する暇なかったし。

何はともあれ戦争が起きるのは間違いなく、そうすれば必然的に前線に飛ばされるであろう俺が気にするようなことじゃあない。

俺以外に昨今の状況を意に介してない奴はいる。

キュルケとタバサである。

同盟がなされているためゲルマニアも参戦するだろうがキュルケ自身は参加しないらしい。

タバサはガリア人だからそもそも今回の件にはノータッチ。

 

「あなたはどうするつもりなの、ロナル?」

 

「まあ、行くんじゃないの?」

 

「何で疑問形なのよ…」

 

呆れたような声を出すキュルケにただボケッとしているタバサ。

ロナルとウルド、どっちで従軍するのかまだ知らない。

どっちにしろ今はまだ『制約』が解かれていない為素性を明かせないから何も言えない。

まあウルドに戻った時点ではどうせ此処には居ないだろう。

一抹の寂しさを感じる。

 

「行かざるを得ないとは思うよ。行けないならそれ相応の理由が必要だろうけど特に理由も無いからね」

 

ふうん、と興が削がれたかのように返事をしてくる。

別に俺自身に戦意が無いという訳じゃない。

親父達に合わせる顔がないためアルビオンにはあまり近づきたくないが、クロムウェルの野郎にはたっぷりお礼がしたい。

レコン・キスタ首魁の首を上げた褒賞というのも魅力的だが、何よりもやられたからやり返すというのが一番だ。

その上で『制約』が解いて貰えたら言うこと無しだ。

 

「やる気ない」

 

「やーるき無いって訳じゃあないんだけどね」

 

教室に備え付けられている机にグダーっと身を預けながらタバサに言い返す。

大体まだ始まってもいないことにやる気を出しても途中でガス欠になるのがオチだ。

それなら体の調整しながらリラックスしている方が俺は良いと思う。

 

「私にはその態度からはやる気は一欠片も見えてこないわね」

 

「同感」

 

「今からやる気だしてどうすんのさ」

 

気温が下がってきて大分過ごし易くなってきたためかあくびが出そうになる。

 

「先生来たら起こして。俺は寝る」

 

おやすみ~とそのまま机に突っ伏す。

呆れたようなため息が聞こえてくるが無視無視。

ああ、ええ気分やぁ。

 

暫くしてタバサの杖で叩き起こされた。

痛い。

態度がくだけてきたのは良いが、俺の扱いがぞんざい過ぎやしませかね、タバサさんや。

 

 

 

 

新学期が始まって少し経ち漸く久しぶりの授業に頭が慣れてきた。

歴史とかは相変わらず眠気を誘ってくるがなんとか食らいついている。

自分でも不思議だが意外と学生生活を楽しんでいるのかもしれない。

精神系の魔法への対抗法なども未だに調べてはいるが、今ではむしろ授業に追いつくために図書館へ書籍を求めて行く方が多い有様だ。

どういう風の吹き回しか図書館事情に詳しいタバサが本の在り処を教えてくれたりするが、とてもありがたい。

授業用のみならずまだ読んでいなかった精神系魔法に関する書物の方まで教えてくれる親切ぶり。

その小動物的な容姿と仕草から頭を撫でてしまいそうになる。

此処まで仲良くなったのに嫌われるのは遠慮したいからしないけどさ。

ここ最近は本を読むときはお互い席ひとつ空けて隣に座ってる。

なんとも言えない微妙な距離感であるがそれがまた心地良いのかもしれない。

日が傾き館内が夕焼けに染まる頃になるとどちらからともなく揃って図書館を出て駄弁りながら歩き途中で分かれて自室に帰るというのが習慣になってきた。

もしかして俺、青春してる?

(中の人の)年甲斐も無く泣きそうだ。

 

「…何故泣いてるの?」

 

「べ、別に泣いてなんかないよ。今日のミートパイが美味しくて感動しただけだよ」

 

「そうかしら?何時もと変わらないような気がするけど」

 

本当に泣いていたらしく苦しい言い訳でごまかすも、変なモノを見る目で見てくるタバサ。

キュルケは何処が違うのかと不思議そうな顔で一口食べてる。

口からの出まかせでごめんね。

美味しいというのは事実であるが。

まあ仮にも貴族の学校だし、ここはアルビオンじゃないしね。

本当に我が祖国は如何にかならんかね。

食事は栄養補給と割り切っていたがトリステインに来て文明の味に触れてから日々の食事が楽しい。

アルビオンは浮遊大陸だからどうしても他の国に比べて土地が痩せてるからね。

しかし。

 

「それ、ハシバミ草だよね?…よくそんなに食べれるな」

 

「苦さが癖になるし栄養豊富」

 

もしゃもしゃとクソ苦いハシバミ草を食べるタバサ。

こうしてたまに一緒に食べる様になってから気付いたが良くこんなに食べれるものだ。

いらないなら貰うとキュルケの皿の上に残っていたハシバミ草のサラダを強奪してまで食べる姿に戦慄を覚える。

俺だって出された分は食うが進んで食いたいとは思わない。

 

「その辺の雑草の方がまだ苦くないと思うんだが…」

 

「…ちょっと待って。あなた雑草を食べたがことあるの?」

 

無言の返答を肯定と取るか否定と取るかはキュルケの自由だ。

実を言うと食べたことはあるがね。

実家でクソ忌々しい師匠殿に課せられたサバイバル訓練で獣1匹どころか食べられる野草一つ見つけられなかった時に1度だけ。

今思えばあのころは未熟だった。

黄昏ていると2人から憐れみの視線で見られた。

雑草にだって食物繊維はあるだろうから別にいいじゃん。

 

 

そうこうしているうちにいつしかケンの月に入り遂に学院に学生の戦時徴用のお触れが下った。

殆どと言っていいほどの数の男子生徒が募兵官に志願の紙を提出していた。

残ることになるのは戦争に反対する貴族の息子かなんかだろう。

当然俺も召集を喰らった。ロナル・ド・ブーケルとして。

どうやら大きな武功を上げれば『制約』を解除して貰えるらしい。

戦争が終わるまでは一応学園の籍はそのまま残しておくそうなので生き残れば一度はここに戻って来れるみたいだ。

生き残って大きな武功を上げて『制約』を解除して貰う。

そしてただのウルダールとして皆に会う。

うむ、俄然やる気が湧いてくる。

込み上げてくる闘志に応じて体に力が入るが、まだ早いと落ち着かせる。

まだまだ期間があるのでゆっくりとしかし着実に燃え上がらせていくことにする。

武功ならクロムウェルの首で丁度良いだろう。

俺も既に届け出を出したことになっているらしい。

現在艤装中の竜母艦ヴュセンタール所属の第2竜騎士大隊第1中隊に配属される事となった。

第2なのか第1なのか紛らわしい名である。

それに伴い部隊に合流し調練に励めということだ。

明日の昼までに合流すれば良いらしく、鎖帷子、軽鎧、手甲などの戦装束を纏めてズタ袋に放り込み、一応そのつもりは無いが最後に成るかもしれないので部屋の掃除をしておいた。

掃除も一段落したところで、ふと机の上にあるとある物に目を向ける。

タバサ曰くとても希少で価値の有るらしい亡き母の形見。

今までは戦場だろうと肌身離さず持っていたブックホルダーに入ったその本をどうしようか悩む。

うぅむ、確かにコイツを持っていきたい気持ちもあるがそれでもし失われても勿体無い気がしてしまう。

人間実際の価値を知ると言葉ではどう取り繕うとも変な見方をしてしまうのは仕方のないことだと思う。

暫くうんうん悩んだが天啓の如く思いついたことを実行するため中身入りのブックホルダーを引っ掴みとある場所へ向かう。

この時間帯ならあそこに居るんじゃあないかなと行き当たりばったりな考えだったが想像と違わず彼女はそこに佇んでいた。

図書館のいつものテーブルのいつもの席。

いつも通り何かの本を読みふける少女に小声で話しかける。

 

「ちょっと良いかい?」

 

タバサが此方を見ながら本を閉じるのを俺は肯定と判断した。

 

 

 

廊下に出て少し歩く。

多くの学生たちが士官として徴用されたからかガランとして寂しい空気が漂っている。

 

「何かあった?」

 

短く聞いてくるタバサに答える。

 

「俺も戦争に行くことにしたからさ、それでちいっと頼みたいことがあるんだよ」

 

「何?」

 

戦争行くんだ~と気楽に言う俺に特に表情を変えずに続きを促してくるタバサ。

無反応に少し傷つく。

まあ、どうやらある程度戦えるということがバレているみたいなので心配無用だと思ってんのかもしれないがね。

 

「俺、前タバサに本を貸したことがあったじゃん。何か希少らしい『イーヴァルディの勇者』」

「あれって実を言うと親の形見でね。だから今までいつも持ち歩いていたんだけどさ」

「今回は持っていかないことにしたんだ。高価みたいだし、それに生きて帰れるとも限らないしさ」

 

「…それで?」

 

一息に言われどうやらタバサは困惑しているらしい。最近表情が分かる様になってきた。

そんな困惑しているタバサに気まぐれの様に思いついたことを頼む。

 

「それで、どうせ置いていくんだったらタバサに持っててもらいたいのさ。俺が此処に帰って来なかったとしても、この本の価値を知っているタバサなら大事にしてくれそうだし」

 

これが思い付き。

そんな思い付きを聞いて少し悩む様にタバサが考え込んでいる。

しばしの沈黙の後に口を開いた。

 

「…できない。大事なものだったら、貴方が持っているべき」

 

 

これは困った。

断られると思っていなかったから断られたときにどうするか考えてなかった。

むう、どうしよう。

悩んだあげく選んだのは心からの本心を伝えることだった。

 

「おまじないだよ」

 

「おまじない?」

 

「そう、また学院に戻って来れますように、っておまじない」

「変な時期に転入してきて散々怪しまれた俺だけどさ、でもみんなとの学院での生活が楽しかったんだ」

 

それに、と一旦句切る。

 

「それにさ、俺みんなとも、タバサともまだ沢山話したいことがあるんだ」

 

「…何を、話すの?」

 

「それは秘密。帰ってきてからのお楽しみだ」

 

まだ俺は本当の意味でタバサやキュルケ、ギーシュにモンモランシー等といった人たちと友達になった訳じゃあない。

ルイズ嬢やサイト達とも上司部下の関係じゃなく友達になりたい。

偽物の俺じゃなくウルダールとしてみんなと友達になりたい。

だからこそ『ロナル・ド・ブーケル』ではなくただのウルダールとしてこの学院に戻ってきたい。

 

言い終ってから続く沈黙。

駄目だったかな。

夕焼けに照らされるタバサの顔には何故だろうか、夕日以外の朱が混じっている気がする。

何か、不味いこと言ったかな。

もしや、体調でも悪いのかと声をかけようとしたその時に不意にタバサが戸惑いがちに口を開いた。

 

「………わかった…」

 

何時もの短いながらもはっきりした声とは違い、遠慮がちでか細い声。

ともすれば聞こえかったかもしれない程弱々しい声だったが確かに俺の耳には確かに届いた。

 

「本当?」

 

「本当」

 

「嘘じゃない?」

 

「しつこい。嘘じゃない。だから」

 

思わず2度も聞き返してしまった俺に対して、タバサは何故か息を整える様に一拍おいてそれから、何時もよりちょっと上ずったような声で言った。

 

「だから、ちゃんと帰ってきて」

 

いつもの無表情ではなく、ちょっとはにかんだ様な、つまりタバサの容姿と相まってとても愛らしい表情。

え、と呆気に取られ思考停止している間にいつも通りの、でもちょっと頬が赤い無表情に戻る。

一瞬で消えてしまった初めてみたタバサの笑顔。

俺はそれを名残惜しいと感じてしまう。

つまり、なんだ、その。

 

「…わかりました」

 

凄い、可愛いかった。

 

 

その後ぎこちない動きで部屋に戻ろうとする俺にキュルケが「青春ねえ」と声をかけてきたが心此処に在らずといった俺は「そうだね」と適当に言ってそのまま部屋まで帰った。

ボケッとしながらもズタ袋を背負い腰に愛用の剣を引っ提げハルバードを持ち部屋を後にする。

どんな道で行ったか覚えていないがレッドの掘立小屋まで行きそのまま一路トリスタニアに向かった。

その途中飛ぶのをレッドに任せ休憩がてら目を瞑り少し落ち着いたところで漸く俺は気が付いた。

 

 

俺、もしかして、タバサに告白してね?

 

 




オリ主、無自覚にタバサを口説く。
フラグが……?

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