シアトリアの騎士隊隊長たるハンスさんの家でいただいた夕食は、家庭料理のやさしさ満開で慈味に溢れて大変おいしかった。
野菜や肉団子を煮込んだシチューに、みっしりどっしりしたもちもちパン。
キャベツの酢漬けに焼いた腸詰めに蒸した馬鈴薯。
とどめは四種類のチーズを使ったケーキ。
麦酒は雑味が殆ど感じられず、それはとても現代的な風味みたいだ。
まるで、ビール純粋令発布後の酒精のようである。
昔の話だが、麦酒にこだわる異世界人たちが地元勢の心を動かし、やがてその情熱は旨い酒として結実したという。
ええ話や。
窓には硝子が嵌められているし、火縄銃もあることからかなり文明的に進んでいるのだろう。
銃火器は今も前装式で技術的にどうのこうのとシカリから聞かされたが、なにがなんだかさっぱり分からない。
個人で大量に人を殺せる兵器が作られていない社会だというのは、なんとかわかった気がする。
ハンスさんによると、春先より街の北部の山に熊が出るそうだ。
なかなか狡猾な獣らしく、既に猟師二名と近隣の村の住人八名が犠牲になっていた。
騎士隊が何度か出動したそうだが、すべて空振りだったという。
「殺らにゃあおえんのう。」
「殺らんといかんのです。」
現在山は人の出入りを禁止しているが、このままではこっそり出向く者が出てくるだろう。
人の味を覚えた熊は、早々に撃ち倒さねばならない。
そう教えられた。
山のことを知らない者では、なかなか熊を倒せない。
いや、返り討ちに逢う可能性すらある。
街中に出てくるまでに被害が拡大するおそれもある。
ならば、我々が倒すしかないのだろう。
夏の熊は春先よりも強くなるのだから。
その翌日。
夜の間に拠点を引き払い、ウニモグのキャンピングカーで移動する。
シアトリアの北へ向かい、街から歩いて一日程の距離にある林でシカリは高性能車を停車させた。
ぽっかりと開いた、けっこう広い空間。
闇夜を見通す目だとそれがよくわかる。
「ここを宿泊地とする。以前にもここで宿泊したけえ、使い勝手はわかっとる。」
シカリが宣言した。
街道にキャンピングカーの前面が相対するように停車し、車から降りると既にノームお助け隊の妖精たちがぴょんぴょん飛び回って石を片付けたり枯れ木を集めたりしている。
仕事が早い。
キャンピングカーに隣接して、方形の土塁が勃起する。
縦横それぞれ二〇メートルくらいか。
高さ五〇センチ、幅二〇センチってとこかな。触ってみると固い。カチカチだ。
陣地みたいだなあ。
「ゲルを作るぞ。」
「ゲル?」
「モンゴル式の移動住居じゃな。」
簡易住居の製作に取り掛かる。
円形の絨毯を先ず敷いて、その縁を折り畳み式の木の柵みたいなもので取り囲んでゆく。
大黒柱みたいな明かり取りを真ん中に起き、石炭ストーブを設置。
柵と大黒柱を何本もの棒で繋ぎ合わせ、玄関の扉を付ける。
しかる後に羊毛製の不織布(ふしょくふ)を全体に被せ、更にその上に防水加工された帆布を被せる。
この帆布は倉敷帆布の特注品とか。
家具やら寝具やらなんやらを運び込んだら、そこで完成。
手慣れると一時間ほどでも出来るらしい。
出入口は木の枝を三本合わせて作った柱が二つ並ぶ上に、横棒を通す形。
その横棒には、『シカリ隊宿泊地』と日本語で書かれた板が付いていた。
ウニモグの傍に旗が立てられる。
風向きを知るためのものだとか。
風下に、焚き火台が設置される。
ノームお助け隊の作ったおよそ一メートル四方の方形土塁の両端へY字になった枝を二本地面に刺し、そこへ横棒を通すと出来上がり。
石窯もいつの間にか出来ている。
ゲルの隣に商売用のテントを張り、タープと呼ばれる帆布の天井を作る。
こちらは尾道帆布の特注品だとか。
妖精たちが瞬く間に、土の机や椅子までこさえてゆく。
なんとまあ、おったまげることよ。
てきぱきと作業が進み、空が明るくなった頃には作業が完了する。
シカリが早速、ドングリクッキーを焼き始めた。
熊退治が決定したので、三〇口径級の小銃に慣れるようにとシカリから通達された。
いつもの夕暮れの荒野の射撃場。
シカリの所有する特別製の空間。
「兎に角、今日一日撃ちまくれ。撃っている内に慣れてくるけえ。」
どさどさと、何挺もの猟銃と軍用小銃が射撃場に設置された平台へ置かれる。
どかどかと、何種類もの弾薬と銃器の使用説明書やお菓子も置かれていった。
「この二挺のM1ガランドは第二次世界大戦末期製造品で、行きつけのホームセンターでボロいのをもろうてきた分じゃ。銃身の螺旋溝は二本じゃがまあそれなりに当たる。使用する弾は.30-06で、これはホームセンターの店長が自分で手詰めしたもんじゃ。なにしろ安かったんじゃが、動作性は心配せんでええ。ワシ自身が何度もつこうとる。反動が強いんで気をつけるように。」
「わかりました。」
「こっちの小銃は、ロシア製のM91モシン・ナガシン。かなりくたびれとるが、まあ使えんことも無い。体制崩壊に合わせてこういうのをごろごろ手に入れたもんじゃ。後で、第二次世界大戦時に女性兵士が着とったのと同じ仕様の軍服を出すけえ、服はそれを着ればええじゃろ。どれも新品じゃから、安心せえ。で、こいつの弾は7.62ミリ×54Rロシアン。日露戦争時のロシア軍の主役を張った弾じゃな。メリケンでも、この小銃は生産されたことがあるんじゃ。この弾薬の威力は.30-06級じゃけえ、軍用としてはかなり強い部類に入る。」
「ほほう。」
「こちらはオーストリア製のFALとドイツ製G3。戦後第一世代の軍用小銃じゃな。どちらも軍で破棄予定じゃった分を回してもろうた。銃身は交換済みじゃ。これの弾は.308NATO。今も軍用として狙撃銃や機関銃で使われたりしとる。狩猟用としては汎用性が高く、中型の獣までを打ち倒せる威力がある。で、こっちが本命のブローニング・オート・ライフル。この二挺も三〇年ものでかなりくたびれとるが、どちらも部品取り用じゃから気にせず撃て。口径は.300ウィンチェスター・マグナム。並べた弾薬の中では一番強い威力を持つけえ、気を引き締めて撃つんじゃぞ。グリズリーくらいの相手をも倒せる弾じゃということを忘れんようにの。さ、撃て撃て撃ちまくれ。」
合計七挺。
用意された四種類の銃弾を次々に銃本体やら箱形弾倉やらに装填し、ばんばん撃ち始める。
射撃用眼鏡を掛けて、耳当て附けて。
闇エルフ仕様の耳が少し尖っているので、耳当ての中に押し込む感じにした。
左隣ではユキノちゃんが、イタリア製の散弾銃を練習し始める。
どっしり安定した感じで撃てているみたいだ。
四分の一ゾンビという肉体が効果的なのかな?
ちっこいノームお助け隊がどこからともなく現れ、射撃の手伝いをしてくれる。
ありがたいことだ。
銃によって反動やら撃ち具合やらが異なるので、感覚がなかなか掴み辛い。
午前中は兎に角、全種の銃を撃ちまくる。
ボルト式小銃より、反動利用式小銃の方が撃ちやすい気がしないでもない。
当たり具合は、似たり寄ったりてとこか。
平台に用意されたシリアルバーやエナジーバーなどをぼりぼり食べながら、各銃の使用説明書を読みつつ射撃してゆく。
ユキノちゃんと食べ物を取りかえっこしたり、妖精たちに分け与えたりした。
携帯糧食とも呼ばれる簡易食品はメリケン製で多種多様な製品があるのだけれども、微妙な味付けのものも少なくない。
冷凍冷蔵庫に入っていた低温殺菌された畜大牛乳で胃の腑へ流し込みながら、鉄砲を撃ってゆく。
冷凍庫には畜大牛乳アイスクリームもあったので、妖精たちと一緒においしくいただいた。
午後になって、拳銃を追加で渡される。
新宿の種馬とか宇宙海賊とか怪盗の仲間とかが撃ちそうな口径の円筒型弾倉式拳銃。
「いざという時のサイドアームズじゃ。ほれ、ゆうじゃろ。拳銃は最後の武器じゃって。」
「はあ。」
やだなあ、いざという時って。
「ちとボロくなっとるが、いずれもまだ撃てる。兎に角、練習あるのみじゃ。」
「付け焼き刃でなんとかなるんですか?」
「やらんよりはずっとマシじゃ。」
「うわあ。」
「左から、スターム・ルガーのセキュリティ・シックス、S&W・M586、コルト・トルーパーMkⅢ。本番用のスターム・ルガーのスーパー・レッドホーク。ほれ、撃て撃て撃て撃ちまくれ。」
新たに四挺の拳銃が仲間に加わった。
君たちは火を吐くフレンズなんだね。
「いずれも対人目的では強力な.357マグナムを使用するが、狩猟目線で考えるとそれはそんなに強力でもない。」
「はあ。」
「.357マグナムが使える円筒型弾倉式拳銃は.38スペシャルとの共用性があるけえ、先ずは.38スペシャルの強装弾である+Pを撃ってゆけ。それに慣れたら、今度はマグナムを撃ちゃあええ。ほれ、これがこれらの使用説明書じゃ。ワシはちと周辺の害獣駆除に出掛けてくる。」
大量の弾丸とドングリクッキーとを渡される。
シカリはノームお助け隊がこしらえた土驢馬に乗って、パカパカと出掛けた。
我々がいない間の宿泊地は認識阻害がかけられているので、大丈夫だそうな。
熊退治に向かう日がやって来た。
朝から雨が断続的に降っている。
地面がぬかるんでいるので、足元に気をつけなくちゃな。
ウニモグ内の台所にある調理用加熱器で熱せられたお湯を使って、アマノフーズの豚汁を作って飲む。
シカリは茄子の味噌汁、ユキノちゃんはほうれん草の味噌汁。
昨日焼かれた平たいパンにチーズを載せ、はぐはぐと食べた。
低温殺菌された八雲町の牛乳を飲んで、食器を片付け始める。
第二次世界大戦当時の、ソヴィエト軍女性兵士仕様の軍服に着替える。
古い服かと思ったのだけど、シカリが言ったようにまるで新品みたい。
不思議だなあ。
隣でユキノちゃんも同じ服に着替えている。
下着姿(それは彼女とお揃いだ)になって、カーキ色のシャツとズボンを身に付けた。
ベルトに銃嚢(じゅうのう)とも呼ばれるホルスターと弾入れと小物入れを付け、腰に巻いてゆく。
防水加工された外套を羽織り、出撃準備を調(ととの)える。
ブローニング・オートマチック・ライフルの固定弾倉を開き、小銃弾を丁寧に装填する。
送弾不良は困るからな。
弾倉を元の状態にし、暴発を防ぐために薬室への送弾は行わない。
小銃の予備の弾をバラで弾入れへ落とし込み、ゴツい円筒型弾倉式拳銃を腰の銃嚢に入れる。
拳銃用の予備弾は、再装填を早めるためのスピード・ローダーと呼ばれる器具に詰め込んだ。
これを使うと、五秒間で排莢と弾込めが可能になるらしい。
これは二つ用意した。
アイヌが使っていたという小刀のタシロも腰に差し、小銃を防水加工された帆布の収納具に入れて肩に掛ける。
ええと、後持ってゆくものは、と。
そうだ、ドイツ製の双眼鏡もいる。
携帯型光学式距離計も持たないと。
水筒にお茶を入れ、小物入れに一口羊羹やエナジーバーや飴ちゃんなどを入れてゆく。
これでいいのかな?
シカリは、なんともでかい円筒型弾倉式拳銃を磨いていた。
スターム・ルガーのスーパー・レッドホークの.454カスール仕様だとか。
銃身は9.5インチだから、二四センチ少々か。
シカリ曰くアメリカ人の浪漫嗜好が生み出したアホの使う弾らしく、威力はとんでもないという。
「反動は滅茶苦茶強い、発射時に発生した有毒ガスが銃の隙間から射手へ直撃する、.44マグナムを使ってもアホ扱いされるのにそれを遥かに上回る威力。まさに、アメリカ人のアメリカ人によるアメリカ人のための弾じゃ。」
「はあ。」
そして我々はノームお助け隊が用意してくれた土驢馬に乗って、熊退治に出撃した。
土砂降りではなく、ぱらぱら降る感じの雨。
我らは森の中へ入ってゆく。
妖精たちは索敵に出掛けて時折戻ってくるものの、結果は出ていないようだ。
「足跡がこの雨で消えとるかもしれんし、狡猾な奴じゃったら足跡そのものが欺瞞(ぎまん)じゃからなあ。しかし、フンすら見当たらんゆうのは腑に落ちんなあ。」
「フンですか。」
「生きとったらするじゃろ。」
「そう言えば、そうですね。」
「森の中が静か過ぎるのも気に食わん。」
ナニかがいる。
「シカリ。」
四級管理神が呻(うめ)いている。
のそのそと近づいてくる熊。
「まさかの遭遇戦か。二人とも、射撃の用意をせい。しかし、生きもんの気配が全然無かったじゃと? なんでじゃ?」
「シカリ。」
「なんじゃ、シュマリ。」
「あの熊、吠えませんね。」
「吠えん? ん?」
「あの熊、走りませんね。」
「走らん? ん?」
「あの熊、なんだか動きがぎくしゃくしていませんか?」
「ぎくしゃくしとる? ん?」
携帯型光学式距離計で距離を測る。
「距離、三八七メートル。」
「吠えもせん、走りもせん、ぎくしゃくしながらこっちへ来とる……まさか、まさか……そんな筈は……。」
「シカリ、どうしますか?」
「試しに一発撃ってみる。」
「熊が逃げませんか?」
「ワシの推測が当たっとったら、アレは逃げん。いや、そうなるとかなり不味いのう。」
「えっ?」
「薬室に弾を送り込んどけ! よし!」
シカリが電光石火の動きでボルトを動かし、三八式小銃機関部利用の猟銃を素早く構え、狙い定めて撃った。
それは、流れるように美しい所作だった。
パァン!
7ミリウェザビーの高速弾が熊に当たる。
流石の腕前だ。
ツァイスの双眼鏡で、しっかりと見えた。
「左目に着弾。動き変わらず。」
「変わらんじゃと?」
「ガスっぽい気体が口元から漏れているようにも見えますけど……あれは、この世界の熊ではよく見られるものなんでしょうか?」
「わかった! あれの中身は熊と違う!」
「はい?」
「あれの中身は……『継承戦争』で多く用いられた忌まわしい魔獣の生き残りじゃ。ガス・クラウドが、熊の体を乗っ取って動かしとるんじゃ!」
「えっ?」
「ちまちま何年も何年も倒して回っとったのに、逃げおおせた個体がおったんか!」
「シカリ?」
「二〇〇年近く生きとった魔獣じゃ。熊とは比べもんにならん程狡猾かもしれん。」
「ならば、我々の方へ向かってくるのはおかしくないですか?」
「ワシらを排除するために、奴は来とるんかもしれん。これが本能的なもんならやりやすいんじゃけどな。……奴はあまり賢くはねえんか? それにしては、長生きし過ぎとる。慢心禁止の油断大敵じゃな。」
「もしかして……かなり不味いですか?」
「わからん。そげな相手なぞと戦ったことなんて無いけえの。よし、三〇〇まで近づいたらワシがどんどん撃ってく。シュマリは二〇〇になったらどんどん撃ってけ。ユキノは五〇まで近づいたら、大型弾のスラッグ弾をどんどん撃て。」
「わかりました。」
ユキノちゃんもぶんぶん首を縦に振る。
彼女は大量の弾を装備していた。
気合いが入り過ぎかとも思ったが、これが今回よい方向付けになるかもしれない。
射撃が始まった。
「くう、.338ラプア・マグナムのウィンチェスターM70を持ってくるべきじゃったか!」
シカリが的確に、熊の目やら体やらに弾を当ててゆく。
中型小銃弾としては強力な弾を撃っているそうだが、相手が悪すぎたのだろう。
当たっても当たってもガス生命体の動きは止まらない。
頭蓋骨は頑丈なので、其処は当てない方がいいらしい。
「シカリ。」
「なんじゃ?」
「ガス・クラウドが用いる、主な攻撃方法はなんでしょうか?」
「確か、魔術師系呪文とガス状の体を活かした麻痺攻撃じゃ。」
「その有効射程範囲は如何程で?」
「さて、下位の攻撃呪文ならばまだ距離的に大丈夫じゃろうが、今の奴がどれ程の火力を持っておるんか見当も付かん。」
「つまり、双方で火力の撃ち合いになったら……。」
「近距離じゃと、下手をしたら負けるかもしれん。」
のそのそと尚も近づいてくる熊。
いや、ガス・クラウド。
熊の体に弾を当てても、それが致命傷に出来るかどうかが分からない。
相対距離が二〇〇メートルを切ったので私も撃ってみるが、弾が当たっても効いたように見えない。
ガス状の魔獣は、一体どうやって熊の死骸を動かしているのだろうか?
「のそのそ近づいてくるんで、猟師も村人も油断したとこを殺られたんじゃろうなあ。遺体を検分すべきじゃったか。或いはこっそり近づいて生気でも吸っとったんか。くっ、不覚。」
およそ六〇メートルの距離。
熊が突然、その姿を消した。
いや、熊は穴に落ちたのだ。
妖精たちが穴の回りで、ぴょんぴょん跳び跳ねている。
よく引っ掛けられたものだ。
「落とし穴? 流石はシカリです。」
「あれはノームお助け隊の判断じゃ。よくやったぞ、お前たち! よし、二人とも走れ! 穴の底へ向けて撃つぞ!」
ぴょんぴょん走って近づいてきた妖精たちの頭を撫でつつ、穴へ到達した。
かなり深い。
八、九メートルくらいありそうだ。
雨を避けながら、弾を再装填する。
「妖精たちよ、あやつを生き埋めにせい!」
声を出さない魔獣へ弾を放ってゆく。
土砂がどんどんと、被せられてゆく。
熊の足元は固められているみたいだ。
と。
たまらないと見たのか、分離したとおぼしきガスがゆらりゆらりと立ち昇ってきた。
「あのガスを撃て!」
ばんばん撃つ。
もがくガス体。
なにやら詠唱ぽい響きが聞こえる。
なんか不味い!
「逃げろ!」
散開する。
その瞬間。
ドカーン!
土砂を吹き上げながらの爆発が発生した。
「攻撃するために一番強力な呪文を唱えたんじゃろうが、あげな空間でガス体が火炎魔法を使ったらどうなるかまではわからんかったんじゃろうなあ。或いは熊自体が腐敗ガスを出して、余計に炎上したのかもしれん。」
「シカリ!」
私はシカリを突き飛ばし、腰の銃嚢に入れていたマグナム・リボルバーを抜くと穴の外へ出ていた魔獣へ六連射する。
ガス・クラウドは意外と近くにいたのだ。
危うくシカリが麻痺させられるところだった。
光の炸裂。
全弾命中。
咆哮するガス生命体。
それは、悲鳴なのか?
一瞬遅れて、シカリの.454カスールとユキノちゃんの放つスラッグ弾が魔獣を引き裂いた。
スラッグ弾は散弾銃用の銅塊だ。
鉛が標準らしいが、環境に配慮した結果、銅素材を使っているという。
ガス体にも有効打を与えていた。
拳銃左側面にあるボタンを押し、円筒型弾倉を銃本体の左側へと抜き出す。
使用済みの薬莢を拳銃から排莢し、スピード・ローダーで再装填してゆく。
弾倉を嵌め込み直し、もがき苦しむ魔獣へ新たな銃弾を放った。
シカリも再装填し始める。
ユキノちゃんが油断することなく、的確に散弾銃をばんばん撃った。
彼女の放つ何発もの塊が、魔獣の命の灯をどんどん小さくしてゆく。
やがて、使い捨ての尖兵としてはおそろしく長生きしたであろう魔獣がその生涯を閉じた。
「もしかしたら、この魔獣は死に場所を求めていたんじゃないでしょうか?」
「案外センチメンタルじゃのう、シュマリは。」
ユキノちゃんがぽんぽん肩を叩いてくる。
爽やかな一陣の風がさあっと吹いてきた。
雨が上がり、空には晴れ間が覗いている。
明日はたぶん、晴れるだろう。
ひっそりと逝け、戯れる雲よ。