未明の湖沼。
やや肌寒い。
得物を持って、草むらから獲物へと接近してゆく。
四級管理神のシカリの合図を受け、三方に別れた。
我らが頭領で中年ドワーフの外殻を持つ彼は、エルマ・ヴェルケ社製M1カービン複製品の.22LR(ロングライフル)仕様を構える。
私はいつものスタームルガー社の10/22、ユキノちゃんはSIG522ターゲットを構えた。
独米瑞の三国同盟という感じだな。
こちらも口径はシカリの銃に同じ。
三挺とも望遠式光学照準器付きだ。
水面に浮かぶ、鴨の群れがよく見える。
距離はおよそ五〇メートル程先にいる。
小銃に込められた小さな弾の必殺圏内。
私は右手から、ユキノちゃんは左手から鴨を撃ってゆくのだ。
扇状陣形というか、鶴翼の陣というか。
パチン。
小さな射撃音が聞こえてきた。
シカリの放った小さな小さな弾が群れへと飛んでゆく。
おそらく、あの立派な青首のオスに当てるためだろう。
一拍遅れて、我々も射撃を開始した。
射つべし撃つべし撃つべし撃つべし。
糧を得るため撃つべし。
おいしく胃袋へ入れて進ぜましょう。
パチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチン。
すぐには異変に気づかなかった鴨たちも、流石に変だと気づいたのか飛翔の準備を始める。
当たれば仕留められるが、当たらねば逃げられるだけ。
飛ばれたならば、先ず当たらない。
散弾は今誰も用意してなどいない。
散弾も言うほど弾が拡がる訳ではないらしい。
一発勝負! なのかな?
光学照準器にて複数の動く相手を次々撃つのは難しい。
倍率は低めにしてあるが、観測手のいない状況では次の獲物を射つのがけっこう困難だ。
だが、殺らねばならぬ。
君たちは我々のご飯になるのだから。
パチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチン。
結局。
シカリが八羽、ユキノちゃんが五羽、わたしが四羽という成績で終了した。
さあ、熟成させよう!
ちなみに、使用済みの薬莢や潰れた弾頭などはすべてノームお助け隊が回収してくれた。
二日前に設けた野営地で、トルコ式珈琲と肉と野菜のごった煮に讃岐うどんの乾麺をぶち込んだ朝食。
わしわしと食べていたら、どことなくなんとなくシカリに似た雰囲気の人々がぞろぞろとやって来た。
シカリと同じドワーフや金髪碧眼のエルフもいるが、多くは人間の姿だ。
白い肌、黄色い肌、褐色の肌と多国籍的な感じである。
山羊の乳を飲んで満腹状態の角竜の赤ちゃんが、バウバウと吠えていた。
あ、そういえば、まだこの子の名前を付けていなかったな。
確認したらメスだったから、女の子らしい名前にしようか。
どうやら、歓迎しているつもりのようだ。
神々しいとまではいかないが、彼らは近隣の村人たちとはまるで違う気配を漂わせている。
もしかして……冒険者?
昨日や一昨日訪れた村人たちは、目の色を変えて交渉してきた。
初対面でえげつないことを言う人間は相手にしないように努めたが(もしかしたら、彼は二度と会わないだろうからと考えたのかも知れない)、それは極一部の例外に過ぎず、大抵は人のよい感じだった。
相互扶助が生きている土地柄なのだろう。
銀製品やターコイズらしき石を持ち込む村人もいたな。
ユキノちゃんに似合いそうな首飾りがあったので、どんぐりクッキーなどの焼菓子詰め合わせと交換した。
その後、その場で沢山焼菓子を作る破目になってしまったのはご愛嬌だ。
えげつないことを言った男は奥さんらしき人にえらくどやされ、後程我々は普通の商いを行った。
「なんじゃ、来たんか。」
熟成庫から出てきたシカリが、オリーブドラブの帆布製前掛けを脱ぎながらそう言った。
知り合いなのか?
……同僚?
すると彼らは四級管理神なのか?
彼らは中央大陸や東方大陸で上司たちの後始末をしている同僚なのだと、シカリから紹介された。
なるほどなー。
昼食は四級管理神たちと共に摂る。
腸詰めやパンケーキや野菜スープ。
とどめはどんぐりクッキーナリヨ。
チャイを飲みつつ、廃鉱や鉱山などの復活や掘削(くっさく)などの話が出る。
文明をどこまで進めるのか。
彼らは真剣に討議してゆく。
産業革命は全員一致で否決。
公害対策がまともに取れないだろうとの理由から。
また、それによる世界戦争の可能性も危惧された。
鉄道も否決。
そんなに大量の鉄の精錬は不可能だ。
かつて異世界転移者で趣味全開の鉄路を策謀した者もいたようだが、技術基準が追いつかずに断念した模様。
人口減問題については、三級管理神と二級管理神への悪口が噴出。
いいのかな?
これにも異世界転移者たちが絡んでいて、世界各地をしっちゃかめっちゃかに引っ掻き回したそうな。
自称勇者たちの子孫がこれまた滅茶苦茶をした事例さえ複数あり、緩やかにその悪行の痕を直してゆくしか無いのが歯痒いという。
まあ、そうだわなあ。
『マタギの夢』『鳥海恵(ちょうかいめぐみ)』『さわのどぶろく』『遠野どぶろく』『河童の舞』という濁酒(どぶろく)がシカリから提供され、神々はそれを供物的な感じで次々に呑んでゆく。
炒った豆や炙った干し魚や干し肉などを肴として、宴が開催された。
三日後。
荒れ地をも踏破し得る高性能キャンピングカーのウスケシが異世界を走る。
夜から明け方にかけて走る我々。
北へ北へと向かって走ってゆく。
ウニモグのキャンピングカー仕様を魔改造した車輌は、どんどんカナリア王国の都市へ近づいてゆく。
都市近隣の村々で、土塁やら柵やら井戸堀りやら田畑の耕作やらをせねばなるまいて。
害獣退治も同時進行だ。
鹿や熊退治もやらねば。
シカリから渡された、ブローニング製の半自動式小銃や豊和製の高性能ボルト式小銃の出番が近々来そうだ。
馴らし撃ちを順次進めてはいるが、まだ二〇〇メートル先の的の真ん中へ集中的に当てることさえ覚束ない。
精進あるのみだ。
空気がどんどん冷たくなってゆく。
林檎も食べたいな。
星が瞬いて見えた。
暁の星のいと美しきかな。