やみえるふらいふ   作:輪音
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我、大いに悩みありて

 

 

 

 

ある日、急に女の子の日になった。

あ、と思った時には始まっていた。

ぬるり、となにかが堕ちゆく感覚。

この美しい闇エルフの体になって、初めての経験だ。

女の子って、いつもいつもこうした現象と向き合っているんだな。

私は女性と男性双方の機能を有しているようだが、少しは馴染んできたのだろうか?

これが、馴染んできた証拠なのか?

不定期で不意にやってくるのかな?

ドバドバ、でなくてよかったのか?

体が重く、気分もあまりよくない。

食欲はまあまあ、元気は少な目だ。

これを何度も何度も繰り返すのか?

これを何年も何年も繰り返すのか?

改めて女性って偉大なんだと思う。

毎月のようにこんなことを経験しながら、恋を夢見られるのだから。

これが安定してきたら、もっと普通に受け入れられるのだろうかな?

ショーツが朱に染まったので手洗いし、以前渡されたナプキンとタンポンの双方を試そうと説明書を読んでいたら、ユキノちゃんにタンポンを取り上げられた。

彼女はナプキン推しらしい。

ギュッと抱きついてくるのはいいんだけれど、おっぱいをもみもみするのは正直止めて欲しい。

でも、少し落ち着いた。

 

 

角竜の幼体はアン・シャーリーと名付けることにした。

元気な彼女に相応しい名前だろう。

バウバウと走り回る姿が好ましい。

少しばかり体が大きくなってきた。

甘えん坊なところはそのままだが。

抱っこを時々せがむのは、拾った時によくやっていたからかな?

 

 

 

「食事が済んだら、自衛(セルフ・ディフェンス)用の円筒型弾倉式拳銃(リヴォルバー)を用意しちゃろう。」

 

雪の降る中、宿場町のサケサマ近くまで来た朝。

キャンピングカー内の調理器具で作った讃岐うどんを食べながら、ドワーフ型外装の四級管理神たるシカリがそう言った。

素うどん、旨い。

みんなでちゅるりちゅるりと食べる。

四杯目を食べ始める彼。

ユキノちゃんも二杯目を黙々と食べている。

私は中年ドワーフに問うた。

 

「円筒型弾倉式拳銃、ですか。」

「口径は.38Spl.(スペシャル)じゃな。隠匿性(コンシーラビリティ)を考えると.357マグナムを使う大型拳銃はこの口径の弾も使えるがあまり好ましいと言えんし、じゃからといって.22LR(ロングライフル)の半自動式拳銃(セミオートマチックピストル)はやや火力不足。その点、.38Spl.で158グレインのセミワッドカッター(作者註:殺傷力強化型弾頭。ちなみに+Pの強装弾)ならば家の壁くらいぶち抜ける。威力的に問題は無かろうて。」

 

よくわからないけど、シカリがそう言うならば丁度いいのだろう。

.38Spl.自体はスタームルガーの大型円筒型弾倉式拳銃の射撃練習で何発も撃っているし、確かに他者から見てわかりにくい方がいいだろうな。

重さも全然違うそうだし。

弾頭の多様性も高いので、軽量高速弾から重量級の弾までいろいろある。

 

「そういう訳で、スミス&ウェッソンのM64を自衛用に使いやすくしちゃろう。これの材質はステンレススチール。野外で使うことも考えると、錆びにくい方がええからのう。銃身長は二インチで約五センチのスナブ・ノーズ(作者註:獅子っ鼻のこと)。実用性を考えると、これが妥当じゃろう。重さは約八〇〇グラム。スタームルガーのスーパー・レッドホークがゴツくて約一.五キロじゃから、携帯性や持ち運び易さが断然違うのはわかるじゃろう? 半自動式の三二口径も悪うないが、こちらの方が暴発しにくいし火力も勝るし弾頭の多様性はずっと上じゃからこれにしとこう。」

 

ごとり。

机の上に銀色の武器が置かれる。

一八センチくらいの米国製拳銃。

当たりどころによっては、一発で相手をお陀仏にする火器だ。

人の命の灯火(ともしび)を一瞬にして消し得るのが銃器だ。

 

「撃つということは人を殺すことじゃ。それを忘れんようにな。」

「はい。」

 

ユキノちゃんがツンツンとシカリをつつく。

 

「なんじゃ、お主も欲しいんか?」

 

コクコクと頷くおかっぱ頭の彼女。

可愛い。

 

「良かろう。二丁改造しようか。」

 

 

いつもの特殊空間の荒野の射撃場近くにある工作室にて、シカリが手早く拳銃をカスタマイズしてゆく。

それはまさしく熟練工の手捌(てさば)きで、よどみなく作業が行われていた。

 

彼は撃鉄(ハンマー)のコッキング・レバーを、高速モーター・ツールで削り落とす。

咄嗟に腰のホルスターから抜く際、このコッキング・レバーで引っ掛けないようにするためだという。

デホーニングという作業だとか。

角(つの)削り、とでも訳したらいいのかな?

近距離用の短銃身なので、撃鉄を起こさないで撃つダブル・アクションのみにした方が実用性は高いのだとシカリは言った。

 

撃鉄のデコボコを高速グラインダーで滑らかに削り、更に引き金(トリガー)前面左右の角(かど)を削って丸める。

 

照星(フロント・サイト)にカラー・ランプを付けると言われたので、青系のアクリル樹脂をお願いする。

ユキノちゃんは緑色にした。

ステンレスのままの照星は見にくく、使いにくいのだとか。

成程。

改造は程なく終わり、私とユキノちゃんは新たな拳銃を入手した。

 

新しい銃器を得たら、それを慣らさなくてはならない。

そのまま荒野の射撃場へと移動する。

常に夕暮れの特殊空間で射撃練習だ。

射撃用の眼鏡と耳当てと手袋を装備。

用意された弾は複数種合計四〇〇発。

およそ二〇種類の弾がずらりと並ぶ。

鉛弾は無しだ。

北海道の狩猟同様、動物の鉛中毒症を防ぐために弾頭はそれ以外のモノを使うようにと決められている。

散弾でもそれは同じだ。

五メートル先の標的(ターゲット)に向け、腕を脇腹に付け直角に曲げた状態で射撃練習する。

これはヒップ・シューティングという名前の撃ち方だ。

照門(リア・サイト)と照星を見ないで、標的の中央辺りに集弾させるべく撃つべし撃つべし。

用意された弾をユキノちゃんと等分し、競うように撃ってゆく。

一人でなくてよかった、とこうした時にしみじみ思う。

一人きりの異世界だったらどこまでやれたかわからないし、シカリやユキノちゃんがいるからこそやれている面は沢山ある。

感謝してもしきれない。

 

遮蔽物を利用して、一五メートル先の標的をバンバン撃ってゆく。

このくらいの距離が実用範囲なのだろう。

三〇メートルや四〇メートル先の対象を撃つのは実用的じゃない。

練習で幾ら当たっても、実戦で必ずしも当たるとは限らないのだ。

だが、練習さえもしなければ実戦で力を十全に振るうなど不可能。

故に、撃つべし撃つべし。

 

拳銃の銃把(グリップ)はゴンガロ・アルベス材のオーバー・サイズ・ラウンド・バットで刻み有り(チェッカード)。

木目が美しく、本来の胡桃(ウォールナット)材よりも雰囲気があってなかなかよい。

 

撃った後は手入れだ。

汚れ落としの洗浄液。

純正のワイヤー・ブラシ。

ナイロン・ブラシ。

布。

古新聞を敷いた上で作業する。

排莢具(エキストラクター)の内側の汚れを、特に丹念に落とすようにしないといけない。

下手をすると弾がきちんと装填出来なくなったり、酷い時は弾倉部の円筒(シリンダー)が骨組み(フレーム)に入らなくなる可能性すらある。

 

手に銃が馴染み、普通に使えるようになるまで練習に練習を重ねた。

撃ったら殺すことになるけど、撃たずに済ませるように努力しよう。

 

 

ウスケシと名付けられた車輌が走る。

高度な走破性を持つ独逸のウニモグ改造型キャンピングカーが、寒風に負けじと北へ北へと走る。

やがて、宿場町のサケサマが見えてきた。

…………あれ?

なんだか日本のお城みたいな石垣と黒い瓦葺(ぶ)きの白い漆喰壁と堀と橋と大きめの門が見えてきた。

なんじゃこりゃ?

 

「このサケサマは、戦国時代愛好家が参加して作ったらしいのう。和風城塞都市を目指したとか。」

「な、成程。」

「実際、隣国のアレンシアとの戦争時には兵站基地として機能しとったし、実戦こそ無かったものの砦として使われることも想定しとったから、今現在も随所にそうした面影が残っとる。」

「ほほう。」

 

我らのキャンピングカーは堀の前にある馬車止めに置き、門番のお爺さんたちに挨拶しながら中へ入った。

彼らからすると、我々の乗ってきた車は少し変わった竜車に見えるらしい。

草を食べている恐竜たちは皆のんびりしていて、特に警戒もされなかった。

警備は割とざるっぽい。

褐色の肌でどうこう言われなかった。

そう言えば、私自身にも認識阻害だかなんだかが掛けられているんだよな。

そもそも今まで言われなかったけど。

わたしが闇エルフと判明したら、どういった扱いになるのだろうか?

シカリによると、闇エルフ自体見かけない存在なので大丈夫だとか。

褐色肌の人間はこの西大陸南方に数多く住んでいるので、あちらへ行けば更に目立たなくなるそうな。

 

ユキノちゃん共々フード付きローブとステンレス製の拳銃と短刀を装備し、宿場町をシカリやアン・シャーリーとの四名で歩く。

彼が一昨日古いモーゼルのボルト式小銃で撃ち倒した若いメスの鹿を、彼とわたしとで木に脚を縛った状態で運ぶ。

既に血と腸(はらわた)は抜かれている。

ユキノちゃんは鴨を四羽手に持っていた。

二羽がシカリの成果、残る一羽ずつが我らの成果。

 

彼の腰にある拳銃はメキシコ製の.22LRを使うもので、全自動射撃も可能だとか。

変わった拳銃だなあ。

辺りを見渡した。

どことなくなんとなく懐かしい感じのする町並みだ。

殆ど知り合いばかりの小さな田舎町、って感じかな。

雪国らしく、木製で頑丈な家屋が多く見受けられる。

宿場町は肩透かしを喰らう程に治安がよく平穏で、我々が肉屋に持ち込んだ鹿と鴨は大歓迎された。

某国では国家権力の度重なる苛烈な締め付けによってハンターが減少の一途を辿っていたが、この世界では需要が増えこそすれ減りそうな感じなど無い。

まあ、元の世界はゾンビみたいな存在によって滅びてしまった可能性もあるから、銃刀法がどうのという議論は成り立たないか。

にんともかんとも。

 

町長と話があるというシカリが、最も立派な青首の鴨を手に持って天守閣みたいな場所へと歩いていった。

弘前城や松前城みたいな雰囲気だが、あれが役場なのかな?

或いは領主館なのか?

我々おんな三名で市場の雑貨店や土産物屋を見て歩く。

素朴な木彫りの品や鹿角の加工品、食器や日用品を選んだり買ったりした。

 

林檎の露店を覗く。

大きな木箱に入った林檎は、赤いもの緑のもの大きめのもの小さめのものと八種類確認出来た。

店のおばちゃん曰く、昔林檎の産地が出身地とされる勇者様たちによって、ここいら一帯では林檎の栽培に情熱が燃やされたという。

村によって産する林檎が違い、おらが村が一番的な勢いだとか。

今も燃え続けている人々が多いとか。

生食用も多く加工用もいけるそうだ。

全種類買った。

 

メープルシロップを扱う店があり、覗いてみると薄い色合いのものから濃い褐色のものまで五種類あった。

店主のおばあちゃんによると、昔メープルシロップを特産地とする場所が出身地の勇者様によって、サトウカエデから樹液を採取するやり方が伝授されたという。

現在進行形で味を追求する人も多いそうで、勿論全種類購入した。

 

チーズを商っている店に立ち寄る。

山羊のチーズ、羊のチーズ、牛のチーズなど全部で一五種類あった。

店のお爺ちゃんによると、近隣の村々では盛んに作られているとか。

ハードタイプのものが殆どで、保存性を高めるためにかちんこちん。

宿場町から程近い村で作られた牛のチーズはやわらかく、旨かった。

無論、全部買いだ。

 

砂糖大根から砂糖が作られる技法も伝授されているそうで、市場のカフェで林檎のパイや羊の腸詰めを使ったホットドッグやスイートポテトや紅茶や珈琲を堪能した。

豊かな宿場町だ。

これなら、更に北上した場所にある街でもおいしいものを食べられるだろう。

 

 

 

宿場町から東南へ車で約一時間。

そこが目的地。

町長から依頼された、廃砦の調査に向かっている。

我らは第三次調査隊。

荒れ地を車輌が走る。

ウニモグなウスケシの本領発揮だ。

どこへでも行ける気さえしてくる。

窓から見えるのは荒涼たるセカイ。

農作地も家屋もなんにも見えない。

文明の光など照らされてはいない。

都市部や農村から離れたらこんなものだろう。

人が増えるにはまだまだ時間がかかりそうだ。

 

 

先月始め、町の衛兵隊六人が砦の調査に向かった。

これが第一次調査隊に該当する者たち。

田舎の普通のおっちゃんやあんちゃんだったとか。

七日経っても八日経っても誰も帰ってこなかった。

全員強者でなかったが戦時でもないのに未帰還者だらけはおかしいということで、第二次調査隊が組まれて再調査を行った。

その結果、片付けられていない野営地の跡と砦跡に不法滞在していた盗賊たちやコヨーテの群れに遭遇したという。

野犬群に苦戦したが、なんとか撃退したとのこと。

簡単に捕縛され訊問されかけた盗賊たちはあっさりぺらぺら問われるままに喋ったそうで、第一次の調査隊が来た時はこそこそ隠れていたとか。

では、その第一次調査隊の面々はどうなったのか?

彼らは殺っちゃいないと拷問器具に震えながら犯行を否認しており、ではコヨーテのような野生動物に殺られたのかも知れないという話も出たらしい。

そこへ我々の到着だ。

渡りに船だったのか?

廃棄された砦が徐々に見えてきた。

あそこが我々の調査目標物になる。

ジャージ姿から旧ソヴィエトの女兵士な姿へと、衣裳を着替えた。

長袖シャツにズボンにブーツにゲートル。

軍用外套を着て、寒さに備える。

私は散弾銃と大口径型拳銃と短刀を装備し、ユキノちゃんは長銃身と銃床(ストック)付きの拳銃たるピストルカービン並びに大口径型拳銃とひのきの棒と手斧を装備し、シカリは古いボルトアクションの軍用小銃を魔改造したものと拳銃と手斧を装備。

水筒と行動糧食も勿論持ってゆく。

ユキノちゃんが握ってくれたおにぎりは、必ず私の力となるだろう。

 

 

砦はかつての継承戦争時、激戦の場だったという。

天然の要塞は石弾が当たったのか陥没しているところや、錆びた鏃(やじり)や弾痕がそこかしこに存在していた。

感慨にふけっていたら、シカリから中に入ることを促される。

そうして我らは、冒険者のパーティの如くに内部へと入った。

 

砦は往時の輝きをとっくに無くしており、中は荒廃している。

不法滞在者たちの生活の跡らしき場所も見つけた。

脛に傷あるチンピラたちが、ここでこそこそ暮らしていたようだ。

いや、現在進行形なのかな?

生活感が感じられる。

光の当たらないところは薄暗いが、シカリもユキノちゃんも私もよく見えるので一切問題ない。

 

「おい、おめえら、無駄な抵抗は止めな! 痛い目に遭いたくなかったらな!」

 

薄暗い場所から、後ろめたいことをしているような盗賊らしき連中が現れた。

どいつもこいつも、薄汚れてぼろっちい身形(みなり)をしている。

一四人か。

危機感を少しも感じられない、シカリののんびりした声が放たれた。

 

「どうやら、夜盗(バーグラー)率いる略奪者(ルーター)といったところか。」

「食いっぱぐれたので、こんなところにいるんですかね?」

「おっさん一名に女子二名なんで、侮ったんじゃろうな。」

「たぶん前回、前々回と彼らは隠れていたんでしょうね。」

 

コクコクと頷くユキノちゃん。

可愛い。

 

「おめえら、危機感なくくっちゃべってんじゃねえぞ!」

「そう言えば、北海道にクッチャロ湖ってありますね。」

「あるのう。」

「ふざけとんのか!」

 

短気らしい盗賊たちが襲いかかってきた。

パン! パン! パン!

天井に向け、威嚇射撃する。

足をすくませるは盗賊たち。

いきなり発砲して撃ち殺すのは、流石に躊躇(ためら)われるしな。

目ざとい感じのおっさんが髭まみれのおっさんに話しかける。

 

「親分、こいつら騎士ですよ! 全員見たこともねえ鉄砲を持っていやがる! 首都の近衛かも知れねえ!」

「おい、おめえら!」

「「「へい!」」」

「降伏だ!」

「「「へい!」」」

 

それはもう見事なくらいに彼らは錆びたり欠けたり折れたりしている武器を即時に投げ捨て、栄養状態が良さそうに見えない両手を上げた。

……えええ。

どうすんの、このおっさんたち。

取り敢えず近場に牢屋らしき場所を見つけたので、そこへ全員収監する。

逮捕しちゃったぞ。

これでも食っとれ、とシカリが米軍の賞味期限間近な戦闘糧食を彼らに渡した。

そのまま食べられるやつだ。

もしかして、痩せ細っている彼らに同情したのだろうか?

 

「全員、人殺しはしとらんからのう。これからあいつらは、ここで一旗揚げるつもりだったようじゃな。」

「わかるんですか?」

「これでもワシは一応神に属しておるからなあ。迷える衆生(しゅじょう)を見捨てる訳にもいかんじゃろう。」

「拝みましょうか?」

「せんでええ。」

 

彼らはこんなもん喰ったこともねえと、温めなくてもそのまま食べられる軍用食を貪(むさぼ)るように食べている。

泣いている者さえいた。

結果、我々は『兄貴』とか『姐さん』とか言われるようになった。

嗚呼、わかった。

これは餌付けだ。

コロッと協力的に変化した彼らから情報提供してもらい、不明な点が段々と薄らいでいく。

第一次調査隊は野営地を設置して探索に来て、初心者盗賊たちは隠れてやり過ごしたとか。

そして、調査に訪れた衛兵たちはその内見えなくなった。

帰ったかと思って野営地を見るとそのままで、撤収していないのがわかる。

腐るのは勿体ないと、先住民的盗賊たちが食料を失敬したのはご愛敬。

彼らに気付かれないために、初心者盗賊たちはやり過ごしたのだとか。

交流は無く、あちらはこちらに気づきもしなかったそうな。

新人泥棒たちがいぶかしんでいる内に、新手の衛兵たちが砦へやって来た。

第二次調査隊は腕に覚えがあったようだ。

先に住み着いていた連中が衛兵たちへ突っ掛かり、呆気なく捕縛されたのを見て新人たちはこわくなってやり過ごしたそうな。

そして、我々第三次調査隊へと繋がる。

我らを侮った男たちは簡単に捕まった。

なんだかなあ。

結局、第一次調査隊はどうなったのか?

ううん、情報が圧倒的に足りない。

 

合間に、ユキノちゃんの作ったおにぎりを食べる。

ふっと前世が甦ってきた。

もやもやしてくるが、それは今思うことじゃない。

しんなりした海苔との均衡性もいい。

旨し。

 

探索を続ける。

衛兵隊の所持品らしきものや血痕が見当たらない。

交戦跡が見当たらない。

はて?

コヨーテはすべて駆逐されたのだろうか?

案外どこかで見張っていて、我々がいなくなるのを待っているのかも知れない。

 

盗賊……元盗賊になるのかな? 彼らから得た情報によると、砦には地底湖があるという。

そこへ向かうことになった。

 

 

幅広の石造りの階段を降り、地底湖へ到着する。

けっこう大きい。

これだけ豊かな水場があれば、長期戦にも有利だっただろう。

生活用水として、ここは有効活用されたのだろうな。

湖の傍で、少し感慨にふけった。

と。

いきなり足元をすくわれ、手にしていたブローニングの散弾銃を取り落として私は倒れた。

え?

 

「クローリングケルプじゃと!?」

 

シカリの声が聞こえてきた。

クローリングケルプ?

足に海藻が絡みついている。

は?

 

意外と素早い動きで海藻は私を引き摺り、地底湖へと連れていこうとする。

しまった。油断大敵だ。

こいつが犯人か。

スタームルガーの円筒型弾倉式拳銃を腰のホルスターから引き抜き、ベルトを外して

外套も急いで脱ぐ。

水を吸ったら重くなるから、その前に脱いじゃえ。

間一髪、間に合った。

ザパン!

水中へ引き摺り込まれる。

湖の中で揺らめくそいつへ逆に急接近し、中心部らしき場所へ至近距離から.357マグナム弾を六連射した。

どうだ!

途端、ぐったりして力を失う魔物。

足の拘束も解けた。

よし!

逃げるべ!

えっ?

別の海藻に絡み付かれ、片足を引っ張られる。

なに?

二体いたのか?

ヤバい!

予備弾は手元に無いし、てっきり一体かと思っていた。

短刀のマキリを引き抜いて、接近戦を試みるしかない。

ズボンに付けた鞘からシャッと抜いた刃物で、そいつに斬りかかる。

水中だからか動きが上手くいかない。

不味い。

そろそろ息が苦しくなってきた。

 

意識が薄れかかった時にひのきの棒と手斧の二刀流なユキノちゃんが海藻に突撃し、そいつがあっという間にバラバラにされて屠(ほふ)られたのをちらりと見た。

 

意識が戻った後、焚き火に当たりながらシカリから魔物の説明を受ける。

我々が戦ったのは、クローリングケルプと呼称される魔法生物だそうな。

遺体も六人分見つかったとか。

預かっていた伝書鳩を放ったので、明日か明後日くらいには馬車群がやって来るだろうと言われた。

あの海藻は地底湖に守護者として放たれたか、或いは罠として誰かが持ち込んだか。

憶測と類推は出来るものの、決定打は無いようだ。

地底湖に棲息していたのは二体だけだったようで、シカリがその後詳しく調べたのだとか。

 

結局、サケサマの衛兵たちが来たのは翌日のことだった。

かなり飛ばして来たようだ。

食事を与えられ続けて従順になった盗賊たちは監視付きでの労働者になるようで、縛り首は免れた。

情状酌量ってとこか。

最初に捕まった方は余罪が複数出てきたため、炭鉱送りになるとか。

労働力はどこでも欲しがるが、その労働者が逃げ出す環境というものはそこかしこに存在する。

彼らが更正して、真っ当になれるといいなと思った。

 

 

 

 

生理不順は気になるし、以前倒したガスクラウドや今回倒したクローリングケルプみたいな魔物が今後もまた出てこないとも限らない。

この体に慣れきったかと言われたら微妙な面が多々あるし、本来の力を引き出せるようになるにはどれだけの訓練と時間をかけたらよいのか皆目見当もつかない。

このセカイは不安もまた大きい。

でもまあ、なんとかなるさと思うしかない。

 

我、大いに悩みありて。

 

 






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