なるべく原作の雰囲気を壊さぬ様、自分なりの表現を加えてみました。
自分が書く新しい作品をお楽しみ下さい。
第一話 新たな忍が生まれた日
火の国 木ノ葉隠れの里 豊かな自然と穏やかな気候に恵まれ、争い事とは無縁のこの里は今、未曾有の危機に襲われていた。
伝説の妖狐 九尾の襲来。尾の一振りで山を吹き飛ばし、その大きな口から放たれる咆哮で家々が崩れ、存在全てを潰さんとする行進は大地を揺らす。この雄々しき姿に人々は恐怖し、絶望に飲まれる最中。自里を守るべく、集いし里の忍達が勇猛果敢に九尾へ立ち向かっていった。
しかし、力の差は歴然で一人、また一人と忍は傷付き倒れていく。最早此処までと誰もが諦めた時、一人の若者が九尾の前に立ちはだかった。その名は四代目火影。
彼の者の生死をかけた戦いの末、九尾の封印に成功するものの。その代償として彼もまた命を落としてしまう。
かくして木ノ葉の里を襲った最大の危機は、勇敢な多くの忍と四代目火影の犠牲の元、幕を閉じた。
それから13年の歳月が過ぎ 九尾によって破壊された里も今は復興し、人々は明るい生活を取り戻していた。楽しげな子供の笑い声、商売に精を出し活気に溢れて賑わう里の様子を一人の老人が優しい目で眺めていた。そんな老人の背後に紅い髪の女性が音も無く現れる。女性は佇む老人の傍に寄ると声をかけた。
「全く、探しましたよ火影様。部屋にいないと思ったら此処にいたんですね」
「サチか。今日は良い天気だったものでな。少しばかり外の空気を吸いたくなったんじゃよ」
「気持ちは解りますけど、私が来る事は連絡していた筈ですよ」
「すまんな。それでワシに何の用じゃ?」
火影と呼ばれた老人 猿飛ヒルゼンにサチはジト目を向け苦言を洩らすが、本人は何処吹く風といった様子ではぐらかされてしまう。結局、こうなるのかとサチは深い溜息を吐いた後、表情を引き締めると本来の用件を切り出した。
「今回の任務。多少、予定外の事がありましたけど…成功しました」
「そうか。此度の任務、ご苦労であった」
「ありがとうございます」
優しい声で労うヒルゼンにサチも微笑みを浮かべて言葉を返す。分け隔てなく接し、部下を労わる事を忘れないヒルゼンをサチは誰よりも信頼し、誰よりも尊敬していた。任務の報告を終えた後、サチはもう一つの用件を話し出す。
「それと火影様。明日の事ですが‥」
「みなまで言わなくても分かっておる。明日は休暇が欲しいのじゃろ」
「はい。我儘言って申し訳ありません」
「何、気にするでない。確か、明日はお前の弟がアカデミー卒業試験を受ける日だったな」
「今回で三度目です。次こそ、合格してくれるといいのですが」
「うむ。本人を前に言うのも何だが、今回も駄目かもしれんぞ。試験は明日にも関わらず、肝心のあやつは相変わらずの様だしな」
「見た時にもしやと思いましたが、あれはあの子の仕業でしたか」
サチは崖に掘られた歴代火影の顔岩に目をやった。威風堂々と里を見守る顔岩の到る所に落書きがされており、見るも無残な光景となっている。引き攣った顔で呟くサチにヒルゼンも頷き、相槌を打つ。
「そうじゃ。やったのはお前の弟。うずまきナルトじゃよ」
「も、申し訳ありません。あの子にはきついお灸を据えておきます」
「いや、その必要は無い。それは既にイルカがやっておるからな。その代わりと言っては何だが、お前に今から任務を頼みたい」
「今からですか。謹んでお受けします。それで任務の内容は?」
「内容は至って簡単でな。隣街まで行商人を護衛して貰うだけじゃ」
「それなら今日の夜までに終わりそうですね。早速、出発します」
「うむ 頼んだぞ。遅くなる事をナルトへはワシが伝えておく。お前も気を付けるのだぞ」
心配するヒルゼンに一礼して、サチはスッと姿を消した。そして入れ替わる様に、今度は担任の海野イルカと騒動の張本人、うずまきナルトが姿を現した。相当、絞られたのか不貞腐れていた。反省の色が無いナルトにイルカが注意するが、本人は増々不貞腐れる始末である。このままでは埒が明かない。咳払いをしてヒルゼンは、ナルトへの処罰を口にする。
「ナルトよ。此処に呼ばれた理由は既に分かっておるな?」
「悪戯の後始末だろ。イルカ先生にも散々言われたってばよ」
「ナルト!! 火影様にその態度は何だ。第一、悪戯をしたお前が悪いんだろうが…」
「へいへい。反省してるし、ちゃんとやりますーだ」
「こ、こいつ……。申し訳ありません。しっかりと始末が終わるまで見張って起きますので」
「そうか。ならば後はイルカに任せよう。それとナルト。今日、サチは任務で帰りが遅くなる。終わったら真っ直ぐ帰れよ」
ナルトへ言伝を残すとヒルゼンは立ち去った。ナルトは顔岩から吊るされた足場に乗り、愚痴を溢しながら落書きを消していく。そんなナルトを黙って見下ろしていたイルカだったが、反省の色が無いナルトへ厳しい言葉を投げ掛ける。
「ぶつぶつ言わんと手を動かせ。綺麗にするまで家には帰さないからな」
「…ふん。別にいいよ。今日は姉ちゃんもいねえし、家に帰っても一人だもんよ」
そう言って、ナルトは掃除を再開した。何処となく、寂しげなその姿にイルカは何も言えなかった。その後、無言の中。漂う空気に耐えきれなくなったのか。イルカは重い口を開いてナルトの名を呼んだ。今度は何だとイルカを見上げ睨むナルトに、イルカは照れた様に頬を掻き言葉を続けた。
「その…なんだ。これを全部きれいにしたら、今日はラーメンでも奢ってやるよ」
「本当? よーし 俺さ、頑張るから約束だってばよ」
「分かったよ。だったら、手を動かせ」
イルカの言葉を聞き、途端にやる気を出したナルトは、手を休める事なく次々と落書きを消していく。そんなナルトをイルカは微笑ましく見つめていた。全ての顔岩が綺麗にする頃には既に陽も沈み、辺りは夜の帳に包まれていた。
約束通り、イルカはナルトと一緒にラーメン屋にいた。余程、お腹が空いているのか。無我夢中でラーメンを啜るナルトに向かってイルカは静かに問い掛ける。
「なぁナルト」
「ん?何だってばよ」
「どうしてあんな事をしたんだ?お前だって、火影がどういう人達くらいは知ってるだろ」
「当然じゃん。火影と呼ばれる人は里一番の忍者って事でしょ。特に四代目は九尾って化物から里を守った英雄だって有名だしさ」
「じゃあ何で?」
「俺はさ いずれ火影になりたいんだ。そんでどの火影も超えて、皆に俺の事を認めさせてやるんだってばよ」
「…どの火影も超えるか。だったら、授業もサボらないでしっかりと出ろ。まずはそこからだぞ」
「うっ そ、そうだ。イルカ先生。一つお願いがあるんだけどさ」
「お願い?ラーメンのお代わりか?」
イルカの話に旗色が悪いと感じたのか、ナルトは話を逸らすべく話題を変えた。それに気付かず、イルカはナルトに聞き返す。
「いや、そうじゃなくて。先生がしてる額あて、俺にもやらせてくれよ」
「あー これか。そいつは無理だな。これはアカデミーを卒業して一人前として認められた証だからな。欲しいなら明日の卒業試験を突破するんだな」
「ちぇ 先生のケチ」
「おいおい。ラーメン奢ってもらってケチは無いだろ」
「そうよ。人に文句を言うより前に、貴方はするべき事があるでしょ。ねぇナルト」
突然、聞こえてきた声にナルトは冷汗を掻いて固まった。隣にはいつの間にかサチが座っており、微笑みながらナルトを見下ろしていた。姉がこういう風に笑う時、それは心から怒っている。それを分かっているナルトが取る行動は一つ。
「悪戯をしてごめんなさい」
「他に言う事はある?」
「帰ったら、明日に備えて復習します」
「よろしい。私も手伝うから、明日はしっかり頑張りなさい」
「へへ 勿論だってばよ」
ふいに見せたナルトの思わぬ一面に、イルカは口を緩める。いつも騒動を起こしては手を焼かせる問題児も、姉の前では普通の少年に戻るようだ。仲睦まじい姉弟のやり取りを見ていると、自分の視線に気付いたのか。サチは恥ずかしそうに笑うとイルカに話しかける。
「今日は弟が迷惑を掛けたわね。それに夕飯の面倒まで。流石に悪いし、代金なら私が払うよ」
「気にするな。それにラーメン奢るのは約束だからな。遠慮するな」
「そう?なら今回はお言葉に甘えるわ。お礼は今度するから」
「おう。いいかナルト、帰ったら試験の復習をしっかりやれよ」
「分かってるって。今日はラーメン奢ってくれてありがとな。イルカ先生」
「それじゃあ、明日の事もあるし、もう行くわね」
「…サチ。気合入れるのはいいけど、あまり根詰めすぎるなよ」
「そうね。肝に銘じとく」
そう言って、二人は仲良く家路に向かっていく。次第に遠ざかっていく二人の後ろ姿をイルカは何処か、羨ましそうにぼんやりと見つめる。それは二人が見えなくなるまで続いた。
翌日 アカデミーの教室には多くの生徒達が集まり、落ち着かない様子で席に着いている。中には貧乏揺すりをする者がいる中、熱心に教科書で予習をする者もいる。ナルトもそんな一人であり、彼は机に突っ伏して不安な面持ちで試験の開始を待っていた。すると教室の戸が開き、担任のイルカが姿を見せると生徒達は一層、緊張した表情を浮かべる。
イルカは教卓に立ち、生徒達を見回すと静かに口を開いた。
「さて、これから卒業試験を始める。本日、行う試験の内容だが、皆には分身の術をやってもらう。名前を呼ばれた者は隣の教室に移動する様に。そこで俺ともう一人の先生が採点をして合否を言い渡す。それじゃあ、まずは‥」
ナルトはイルカの言葉に愕然とした。まさか自分が苦手な術がお題になるとは思ってもいなかった。昨夜、姉と試験に出そうな術の練習をしたが、何一つ成功した事は無い。一体、どうしようかと悩んでいる内に試験は進んでおり、遂に自分の番がやってきた。
此処まで来たら、やるしかない。自分を注目する試験官の視線に胸が高鳴る中、気合を入れて印を結んで術を繰り出すも、現れた分身は床に倒れ込み脱力していた。誰がどう見ても術は失敗で試験官の一人、イルカは呆れた様子で失格を通告した。
「イルカ先生。今回で三度目ですし、彼も合格にしてはどうです?一応、分身は出来てますし」
「駄目です。他の子は大体、三体の分身を出すのに、ナルトは一体だけ。しかも出た分身は足手まとい。これでは合格を出す訳にはいかない。ナルト お前の試験は以上で終わりだ」
目に見えて落ち込むナルトに別の試験官 ミズキが見かねて助け舟にナルトは期待の表情を浮かべるが、イルカはそれを跳ね除けた。皆、努力して結果を出している中、結果を出せないナルトを特別扱いは出来ない。厳しい言葉を告げるイルカをナルトは悔しそうに睨むが、俯き重い足取りで教室から出ていった。
全員の卒業試験が終り、アカデミーの校庭には合格を祝う親子達の姿で溢れていた。その中で一人。落第したナルトは片隅のブランコに跨り、父や母に褒められて喜ぶ子供達を悲痛な顔で眺める。
そんなナルトの姿に気付いた大人達は、ひそひそと話し出す。
「ねえ あの子」
「ああ 例の子よ。一人だけ落ちたみたいよ」
「フン いい気味よ。普段から碌な事しないし、あんなのが忍になったら大変だものね」
「全くだわ。あの子もよくあんなのと一緒にいれるわね。何だって、あの子は…」
「ちょっと。それ以上は禁句よ」
その会話はナルトの耳にも届いていたが、言い返す事もなくその場を立ち去った。ナルトの脳裏に浮かんだもの。それは姉のサチの事だった。昨夜、任務で疲れているのに嫌な顔を一つせず、術の練習に付き合ってくれた姉。何度も失敗する自分を見限らずにいてくれた姉。だからこそナルトは何が何でも試験に合格したかった。
そして卒業の証を持ち帰って姉を喜ばせたかった。当てもなく、街をぶらついていると背後から自分を呼ぶ声が聞こえた。正直、今は放っておいて欲しいと思う反面。誰でもいいから自分の気持ちを聞いて欲しい。そんな思いもあり、後ろを振り変える。ナルトへ声を掛けた者、それは試験官のミズキだった。
彼はナルトの目を見て、静かに口を開く。
「良かったら、少し話をしないかい?」
「話って、何の話だよ」
「…イルカ先生の事についてね。何故、あの人があれ程まで君に厳しいのか。その訳を・・・ね」
「どうせ‥・俺が落ちこぼれだからに決まってるってばよ」
「君は本当にそう思うのかい?決めるのは話を聞いてからでも遅くは無い筈だよ」
ぶっきらぼうに答えるナルトだが、返って来た返事に言葉が詰まる。ナルト自身、イルカがそんな理由で厳しくしているとは思っていない。考えてみると、自分はイルカの事を知っている様で知らない。そして目の前にいるミズキはその訳を知っている。彼に聞けばそれが分かるだろう。ナルトの決断は早かった。
「じゃあ、俺に厳しくする訳を教えてくれよ」
「分かった。その前に場所を変えよう」
ミズキに着いていくと街が一望出来る屋上に辿り着く。その一角に腰を下ろすとミズキはゆっくりと語り始めた。
「実はね。イルカ先生には親がいないんだ。だからこそ、小さい頃から一人で色んな事を真面目に頑張って来た」
「それが‥何で俺に厳しくするんだよ」
「似てるからだよ。自分の境遇とね」
「……俺は一人じゃねえ。俺には姉ちゃんがいる」
「そうだね。でも、親がいないのは同じだ。そして君も君のお姉さんも苦労してる。それ故、君に強くなって欲しい。周りに負けない様に。お姉さんを支える事が出来るくらいにね。それは君も分かるだろう?」
ミズキの言葉にナルトは頷いた。だからこそ、自分は忍者になろうと思った。姉と同じ忍者になって、隣に立ちたいとも。だけど、自分は今回も試験に失敗した。姉は優しいからまた頑張ればいいと励ましてくれるだろう。だが、アカデミーへ通うのもタダではない。その学費を工面するのは姉だ。自分の所為で、姉に余計な苦労を掛けたくない。それ故、ナルトは今日の試験を何が何でも突破したかった。その想いはナルトの口をついて自然と漏れだ出していた。
「分かるってばよ。だから卒業したかった」
ナルトの言葉にミズキは思わずほくそ笑む。撒いた餌に食い付いた。これであとは釣るだけ。ミズキは表情を戻すとある提案をナルトへ持ち掛けた。
「仕方ない。君にとっておきの秘密を教えよう」
「秘密?」
「ああ。実は…」
ミズキはナルトの耳元に口を寄せ、その事を語る。話の内容に疑いを持つナルトだったが、耳にしたある言葉がナルトを突き動かしていた。
夜 自宅にいたサチは未だ帰らないナルトを心配していた。時計を見れば、時刻は20時を過ぎている。恐らく試験に落ちてしまい、それで帰れずにいるのだろう。いくら里内が安全とはいえ、子供がうろつく時間帯ではない。待っていてもしょうがないとサチはナルトを迎えに行こうとした時、自宅の戸を叩く音が聞こえた。大分、強く叩いているのか。その音は部屋の奥まで届く程だった。
不躾な来訪者に顔を顰めながらサチは戸を開けると、外にいたのは汗だくになったミズキであった。彼はサチを見るや、「緊急招集です。急いで火影様の元に向かって下さい」と早口で捲し立てた。突然の事に困惑の色を隠せないサチはミズキへ説明を求めた。
「何が起きたの?まずは事情を話して」
「君の弟 ナルト君が里で保管してる封印の書を持ち出した」
「な、それは本当なの!?」
「ええ。封印の書らしき物を持って火影邸から去るナルト君が目撃されたと。今、他の忍も火影様の所へ向かってます。サチさんも来て下さい」
ミズキの焦り様からこの話は事実なのだろう。サチは急いで着替えるとミズキと共に火影邸へと向かった。火影邸が見えてくると報せを受け集まった忍達が騒いている。皆、一様に取り乱して火影に詰め寄る姿に起きている騒動の大きさが伺い知れた。ヒルゼンに詰め寄っていた忍の一人がサチに気付くと、彼はいきり立って今度はサチへ詰め寄った。すると他の忍達も次々とサチへ怒号を飛ばす。
「おい お前の弟がやらかしたこの始末。一体どうするつもりだ!? もう悪戯では済まされんぞ!!」
「依りによって、禁書を盗むとはな。何かあったら、全て貴様の責任だぞ」
「全くだ、普段から碌な事をしないガキだと思っていたが、此処まで馬鹿だとはな」
「大体、お前があのガキの管理をしっかりとやらないからこうなるんだ」
唇を噛み締め、罵詈雑言に耐えていたサチだったが、弟を物扱いする言動に怒りを覚えてその発言をした相手を睨みつける。一瞬、サチの眼光に怯んだが相手は一層、大きな声でサチを怒鳴りつけてきた。収拾が付かなくなってきた場を収めるべく、ヒルゼンは口を挟んだ。
「止さんか。今は内輪揉めをしている場合ではない。あやつが禁書を持ち出してからかなりの時間が過ぎている。取り急ぎ、ナルトを見つけ出して禁書を取り戻す事が先決じゃ」
『はっ』
ヒルゼンの言葉で集まった忍は一斉に散っていく。その中、未だに起きている事が信じられないのか。その場に残ったサチは静かな口調でヒルゼンに尋ねた。
「この騒動、本当にナルトの仕業なんですか?」
「残念ながら事実じゃ。禁書を持って里を駆けるあやつを見た者もおるからな」
「それにしたって、不自然です。厳重に保管されてる書物が子供に持ちだせる筈がない」
「ふむ。お前もそう思うか」
サチの言葉にヒルゼンは一言、そう呟く。保管庫には禁書以外に里の機密等も存在する。それ故、管理は厳重で子供が手を出せる程甘くは無い。だとすれば、誰かが手引きした可能性がある。
「そう思うって…火影様は今回の真犯人に心当たりが?」
「概ね、やりそうな者は健闘が付く。サチ、ワシは今からそれを確かめる。お前もナルトの捜索に取り掛かれ」
「了解」
ヒルゼンが言う真犯人の正体も気になるが、サチは気持ちを切り変えてナルトの捜索を開始した。先に里へ散った忍達はかなり興奮していたし、彼らがナルトを見つけたら手荒な行動に出るだろう。それに真犯人が里の人間なら騒動が発覚した事も知っている。そうすれば、証拠隠滅の為にナルトを殺すに違いない。そんな最悪の未来を想像し、一刻も早くナルトを見つけねばとサチは更に速度を上げて里を駆けていく。
一方のナルトは里でそんな事が起きているとは知らず、持ち出した禁書を手に術の練習に励んでいた。休憩する事なく続けていた為か、全身ぼろぼろの状態で地面に座り込む。乱れた呼吸を整えていると自分に被さる影が出来た。緩慢な動作で首を上げる。すると視界に入ったのは、息を切らせたイルカだった。ボタボタと流れ落ちる汗を拭ってナルトを問い詰める。
「この馬鹿者。散々、探したぞ。一体、お前はこんな場所で何をやっていた?」
「何って、術の練習だってばよ。街だと人気が多いし、一人で集中したかったから」
「術の練習?まさか、その為に禁書を持ちだしたのか」
「禁書って?この巻物の事?」
イルカの言葉にナルトは首を傾げて背負った巻物に目をやる。その様子にイルカの中に違和感が生まれた。里内では禁書が盗まれた騒ぎになっているが、ナルトはそれを知らない。違和感の正体を探る為、イルカはある事をナルトへ質問した。
「お前… それの事を誰から聞いた?」
「ああ。この事を教えてくれたのはミズキ先生だ。この巻物に書いてる術を覚えて自分に見せれば、卒業させてくれるって言うからさ」
「ミズキだと...。そうか、そういう事だったのか。っ...!?」
ナルトの口から出た名前にイルカは驚愕する。違和感の正体に気付いた時、ナルトの背後から殺気を感じて咄嗟に彼を付き飛ばした。それと同時に無数のクナイがイルカの体に突き刺さる。目の前には木の上から冷たい視線を向けるミズキの姿もあった。
いきなりの出来事にナルトは呆然としていた。ナルトは視線をイルカとミズキ。交互に見て、起きている事に混乱しながら叫んだ。
「あのさ あのさ。これってどうなってるってばよ。何でミズキ先生がイルカ先生を…?」
『ナルト 巻物を渡せ』
しかし、ミズキはナルトの問いに答えず。自分の要求を告げる。その言葉を掻き消す様に今度はイルカがナルトに向かって叫ぶ。
「ナルト!! その巻物は死んでも渡すな。それは禁じ手とされた忍術が書かれた危険なものだ。あいつはそれを手にする為にお前を利用したんだ。在ろうことか、お前に罪を被せて殺すつもりだ」
『分かってるなら話は早いな。ナルト。もう一度言うぞ。巻物を渡せ。それはお前みたいな化物が持っていても意味がないんだよ』
「俺が…化物?何言ってるってばよ。意味が解らねえぞ」
『…そうか。お前は知らなかったっけなぁ。いいさ 冥途の土産に教えてやるよ』
「バ、バカ 寄せ!」
大声でミズキを制止するが、彼は無視して話を続ける。
『13年前。里を襲った九尾の話は知ってるだろ。あの事件以降、ある掟が出来た。お前だけには秘密の掟がな』
「俺だけ? その掟って何ってばよ!?」
『それはな。お前が化け狐と口にしない掟さ。里を襲って、多くの人間を殺した事を里の重要な秘密として伏せられたのさ。因みにお前が殺した人間の中にはイルカの両親もいたんだよ』
「……嘘だ、そんな話」
『嘘じゃねえ。全て事実だ。あとは知っての通り、お前が憧れる火影に封印された挙句。里の奴らに騙されていたんだよ』
「それ以上、言うなぁ。もうやめろ」
悲痛な叫びを上げるイルカだが、愉悦に浸っているミズキに効果は無く。歪んだ笑みを浮かべて、更に言葉を続ける。
『おかしいと思わなかったのか?里の連中から冷たい目で見られてよ。本当はイルカもお前を憎んでいるし、お前の姉だって心の内ではお前の事が邪魔だと思ってるんだよ』
ミズキの話を聞いていたナルトは俯き、肩を振るわせて涙を流していた。その隙を突いてミズキは背負った手裏剣をナルトへ投げ付けた。ミズキの手を離れた手裏剣がナルトに当たる瞬間、間に入ってイルカが身を挺してナルトを庇う。傷付きながらも自分を庇うその行動が理解出来ないナルトは、掠れた声でイルカに問い掛けた。
「…何で?」
「俺もなぁ。両親がいないから。自分を褒めてくれたり、認めてくれる人もいなくて寂しかった。優秀な訳じゃないから人と比較されて悔しい思いをした事だってあった。時折、バカをやって皆の気を引いたりもした。どんな形でも自分を見て欲しいと思っての事だ。だけど、家に帰れは一人ぼっち。いつも苦しかった」
初めて知るイルカの過去。黙って聞いてたナルトの顔に一粒の滴が落ちた。気付けばイルカは涙を流し、自分を見下ろして震えた唇から言葉を紡ぎ出す。
「そうだよなぁ... 訳も知らず皆から冷たくされて、お前も苦しかったよなぁ。アカデミーでいつも姉ちゃんと比較されて、悔しいから努力しても皆に認められなくて辛かったよなぁ。姉ちゃんがいない時は家に一人ぼっちで、寂しかったよなぁ。ごめんなぁ... ナルト。俺が…俺達大人がしっかりしてれば、こんな事にならなかったのになぁ」
涙を流して謝るイルカの顔を見つめるナルトは、不意をついてその場を走り去った。痛みを堪えてナルトの名を呼ぶが、彼は振り向く事はない。
それを見てミズキは『所詮、奴は化け狐だ。大方、巻物を使って復讐でも企んでるだろうよ』と嘲笑うが、イルカはミズキを睨み否定する。そんなイルカをミズキは鼻で笑うと本来の目的を果たすべく、ナルトを追い掛けて行った。数瞬、遅れてイルカも二人を追い掛けた。
「ミズキの奴め。掟を破ってしゃべりおったな… ナルトも今まで以上に不安定なっておるし、このままでは」
火影邸の一室に籠り、事のあらましを水晶を使って見ていたヒルゼンは顔を顰める。もし、ナルトの封印が破れる事になれば、かつての大惨事が起きかねない。最悪の事態を想定し、ヒルゼンはある覚悟を決めると再び水晶へ目をやった。
全てを振り切るかの様に森を駆けるナルトに追い付いたイルカは、持っている巻物を自分に渡すよう説得する。だが、そんなイルカにナルトは体当たりを仕掛けて地面へ突き飛ばした。その行動が信じられず、イルカは驚いた様子でナルトを凝視していると彼の体は煙に包まれる。そこから現れたのはイルカに化けていたミズキであった。
『何故、俺がイルカじゃないと分かった?』
「へへへ。何故って... イルカは俺だ」
正体を現して笑うイルカにミズキは鋭い目で射抜く。彼はどうしてそこまでナルトを庇うのか。ミズキは疑問を抱いた。彼にとってあの子供は親の仇でもある。親を殺された怒り、ナルトに対する憎しみだって少なからず存在する筈。その答えが解らないミズキは、イルカに尋ねた。
『親の仇に化けてまで、どうしてあいつを庇う?』
「お前に巻物を渡さない為だ。バカ野郎」
『バカはお前だ。結局、あいつも俺と同じだよ。あの巻物があれば、何でも思い通りになる。大方、あの化け狐も里の連中に復讐する事を考えてる筈だ』
「ああ。化け狐ならそうだろうな。けど、ナルトは違う。あいつは… 一途な努力化でその癖、不器用だから失敗ばかりで誰からも認めてもらえない。だからこそ、人の心の苦しみと痛みを知っている。今はもう…化け狐なんかじゃない。あいつは…木ノ葉の里のうずまきナルトだ」
隠れていたナルトは、イルカのその言葉を聞いて涙が溢れて止まらなかった。姉以外で初めて自分を認め、自分を見てくれた人の存在が、何よりも嬉しかったから。だが、一方のミズキは苛立ちを隠せずにいた。イルカの口から出る言葉の全てが彼の神経を逆撫でする。
『この後に及んでめでたい奴だな。まずは…うっとしいてめえから殺してやるよ』
殺気を振りまき、迫り来るミズキにイルカは死を覚悟した。ミズキの凶刃が眼前に迫ったその時、影から飛び出してきたナルトがミズキを蹴り飛ばした。予想外の出来事にイルカは驚きの余り呆然とする。
「イルカ先生に手を出すな。殺すぞ」
『ガキがぁ。ほざくんじゃねえ。てめえこそ、殺されてぇのか!!』
「やってみろよ。千倍にして返してる」
『この‥‥化け狐がぁ。調子に乗るんじゃねえ』
売り言葉に買い言葉。印を構えて啖呵を切るナルトの姿に、ミズキは逆上する。格下の子供が完全に自分を舐めている。その事が何よりも彼の逆鱗に触れ、怒りの形相で向かって行く。その瞬間、目の前で起きた現実に彼は我を忘れた。辺り一帯、自分を取り囲む様に現れた大勢の分身体がそこにいた。ざっと数えて100人はいるだろう。そして分身体の一人が口を開く。
「どうした?早くかかって来いってばよ。来ないならこっちから行くぞ」
馬鹿にした態度で言うが返ってくる言葉はない。完全に戦意を喪失し、尻もちをついたミズキに痺れを切らしたのか。ミズキを覆い隠した全ての分身体は、容赦なく彼を殴り、蹴り飛ばす。四方から迫る攻撃に彼はなす術もなくやられるがままだった。既に蹂躙といえるその悪夢は、夜が明けるまで続く事となる。
「へへ。ちっとやりすぎっちゃった」
暫くして攻撃をやめたナルトは意識の無いミズキを見下ろして呟いた。幸いな事にミズキは生きており、教え子がその手を汚して無い事にイルカは安堵した。その時、木の上から一つの影が降り立った。その影はナルトを見るや、駆け寄って抱きしめた。
「ナルト。やっと見つけた。凄く心配したんだよ」
「え?ね、姉ちゃん。どうして此処に…てか、苦しいってばよ」
「そう言ってやるな。その様子じゃ、お前の事を本当に心配してたようだしな」
「全くよ。って、イルカさん。その怪我は!? それにどうしてミズキさんが倒れてるの?」
全身に怪我を負っているイルカの姿と倒れているミズキの姿に気付いたサチは目を丸くする。何があったと事情を求めるサチにイルカが説明をした。全てを知らされたサチは、憤りを隠せずにいた。
「成程。つまり、今回の騒動はこのミズキが仕組んだ事なんですね」
「ああ。ミズキはナルトの卒業したい。この気持ちを利用したんだ。おまけにナルトを殺し、巻物を奪った罪まで着せようとしやがった」
「最低な人ね。自分の野望に子供を利用するなんて」
「だが、結果はナルトに返り討ちにされて計画は失敗した。幸いな事にミズキも生きてるから、事件を起こした理由も知る事が出来る。色々あったが、万事解決だ」
「それも俺の大活躍あっての事だってばよ」
「図に乗らない。そもそも、あんたがミズキに乗せられて巻物を持ち出す事が無ければ、此処まで大事になってないんだよ。分かってるの!?」
「痛ってぇ ごめんだってばよ。姉ちゃん」
浮かれているナルトの頭にサチの拳骨が落とされ、ナルトは頭を抱えてしゃがみ込む。そんな二人のやり取りを微笑ましく見守っていたイルカだが、ナルトを見てある事を思い付くとイルカはナルトを呼び寄せる。
「ナルト。少し…いいか?お前に渡したい物があるんだ」
「渡したい物?何だってばよ」
「その前に目を瞑れ。俺が良いって言うまでな」
イルカの言葉にナルトは目を閉じた。すると自分の額に何かを付ける感触の後、イルカに目を開ける様に言われ目を開けると満面の笑みを浮かべたイルカがナルトにこう言った。
「ナルト。卒業おめでとう。これでお前も忍者の仲間入りだ」
「だってさ。私からもおめでとう。ナルト」
その言葉を聞き、ナルトは嬉し涙を流して二人に抱き付いた。こうしてナルトの忍者として日々が始まった。
今回のお話 いかがだったでしょうか?
原作にないキャラと設定。違和感なく書くのは大変ですが、その分やりがいは感じてます。
それとキャラの心情や慣れない戦闘の描写。これからも上手く書けていける様、力を入れていくつもりです。
それと誤字脱字がありましたら、ご報告お願いします。
また感想もお待ちしていますので、一言でも残してくれると嬉しいです。
それでは次回もお楽しみに。
少しだけ加筆と誤字の修正をしました。