NARUTO 六道へ繋がる物語   作:アリアンキング

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第十話 狂人の最期 

 カカシ一行が大橋で再不斬達と再会していた頃、タズナ邸に一人残っていたナルトが目を覚ました。寝ぼけ眼で部屋を見渡すが、既に誰もいない。そこで初めてナルトは、自分が置いていかれたと悟った。

 

 

「あー やっべえぇっ!! 寝坊したってばよ。何で誰も起こしてくれなかったんだぁ!?」

 

 

 ナルトは慌ただしく身支度を済ませると、急いで階段を駆け下りていく。そして居間で編み物をしていたツナミを見つけると、ナルトは彼女に皆の居場所を尋ねた。

 

 

「なぁ。ツナミのおばちゃん。姉ちゃん達は何処行ったんだ?」

「ああ。起きたんだね。皆なら、いつもの場所さ。今日も父さんの護衛に付いてるよ」

「そっか。教えてくれてサンキューな。俺も行くってばよ」

「ちょい待ちよ。これを持っていきな。朝御飯を食べてないし、お腹空いてるだろうと思って。おにぎりを握っておいたから」

「おお~ そういや、朝は何も食べて無いな。本当にありがとうだってばよ」

「いいんだよ。それを食べて、今日も元気に父さんの護衛を頼むよ」

 

 笑顔でお礼の言葉を言うナルトに、ツナミも笑って答えた。それにナルトも力強く頷き、おにぎりを頬張りながら家を出て行った。そんな彼の後ろ姿をイナリは静かに見つめる。その顔には、普段の様な暗い陰は無い。ツナミもイナリの微かな変化に気付いて、柔らかく微笑んでいた。

 

 

 

 タズナ邸を出たナルトは、近道を兼ねて森を走っていた。数日前、姉から立ち入るなと言われていたが…この際、早く合流する為と自分に言い聞かせて進んでいく。すると森である物を見つけたナルトは、足を止めてそれに近づいていった。

 

 

 

 

 

 場所は変わって、タズナ邸。ナルトが家を出て暫くした後、二人の男が姿を現した。彼らは家の壁を乱暴に蹴破ると中に踏み込んでくる。そして、彼らは部屋中を見回すと驚きの表情で自分達を見る二人の姿を確認すると、嫌な笑みを浮かべて口を開いた。

 

「…邪魔するぜぇ。タズナの娘とガキってのは…あんたらだな。悪いが、ちっと俺達と来て貰おうか」

「あんた達は…何だい?それにいきなりやって来て、勝手な事を言うんじゃないよ」

「ほー タズナのジジイに似て、娘も頑固だな。言っとくが、俺達も餓鬼の使いじゃねえんだ。抵抗するなら痛い目を見てもらってもいいんだぜ?ガトー様から連れて来いと命令されてはいるけどよ。怪我をさせるなと言われてねえからなぁ」

 

 

 不躾な態度を取る男達に向かって、気丈に振る舞うツナミだったが。その言葉に、恐怖で顔を歪める。そこらの男なら脅されても引く事はしない。しかし、今回の相手はそんな生易しくは無かった。手にした刀を抜いて迫りくる男にツナミは、腰を抜かして座り込む。

 

 

「母ちゃん。くそ、何なんだよお前らは‥。人の家で好き勝手するな」

「ああ?生意気なガキだな。こりゃ、口の利き方をしっかりと教えてやらねえとな」

「その子に手を出さないでぇっ!! 貴方達は…人質が欲しいのでしょう? だったら、私がなるわ」

「どうするよ?相棒…」

「…まあ、いいだろう。放っておいても、この不抜けたガキにゃ何も出来ないだろうしな」

 

 

 その言葉が癪に触れたのか。不機嫌さを隠す事なく、男の一人がイナリに詰め寄るのを見たツナミが必死に叫ぶ。息子を庇おうとする母の剣幕は、物凄く。荒事に慣れた男達もそれには気圧された。そして、男の一人がもう一人に相談すると…その男は考えた後。ツナミだけを人質に取る事を決めた。その後、男達は隅で震えるイナリを一瞥してからツナミを引き連れて去って行った。

 

 

 只、一人。その場に残されたイナリは、自分の無力さに打ち拉がれていた。母親のツナミは自分の身を差し出してまで、自分を守ってくれた。それなのに僕は何も出来ず、泣いていただけ。昨日、サチという女の人は自分も強くなれると言ってくれたけど、やっぱり無理なのだと思い知らされた。だが、そう思った時、同じく昨日言われたナルトの言葉が脳裏に浮かんで来た。

 

 

『そうやって、一人で泣いてろよ。この馬鹿野郎』

 

 

 そうだ。僕はそうやって、いつも逃げては泣いていた。もう…大切な人がいなくなるのは嫌だ。イナリは流れる涙をぐいっと拭うと、戸を開けて外に駆け出していく。幸いな事に、母を攫った男達はすぐに見つかった。最初は勇気を出して、外へ出たものの。男達の姿を見るや、またもや恐怖で体が震えてくる。しかし、彼は歯を食い縛って、恐怖を体から追い出すと腹の底から声を出して叫んだ。

 

 

「待てぇ!! 僕の母さんから離れろぉぉぉぉぉっ!!」

「あんだぁ? 誰かと思えば、さっきのガキじゃねえかよ」

「イナリ!? 何で来たんだい…。早く逃げて、私なら大丈夫だからぁ」

「あらら‥。こうなったら、始末するしかねえな。可哀想だが、仕方無い事だよなぁ」

 

 

 男はそう言って、刀を抜くとイナリに向かっていく。だが、喜悦に染まった顔からは男がこうなる事を望んでいた様にも思える。歪んだ笑みで駆けてくる男に、イナリは固まって動けずにいると一つの影が、角から飛び出すと刀が届く前に彼を掴むと同時に男から離れた。

 

 

「よっと。間一髪だったな。遅くなって悪かったってばよ」

「お前は…タズナのジジイが雇った忍者だな?」

「このガキが忍者ねえ。多少、腕は立つ様だが…所詮は雑魚だろうよ」

「だったら、試して見るか?俺はお前らみたいに、人質を取るクズには負けねえぞ」

 

 

 イナリを助けだしたナルトは、眼前の男達を睨むと挑発する様に言った。その言葉に男達は、逆上してナルトに斬り掛かった時。後ろから現れた二人のナルトが男達の後頭部を思いっきり蹴飛ばした。どうやら、予め作った分身を使った奇襲を初めから狙っていたのだ。

 

 男達が気を失ったのを確認してから、ナルトは近くにあった縄できつく縛り付けた後。安堵から泣いてるイナリの傍に駆け寄り、彼に優しく声をかけた。

 

 

「よくやったな、イナリ。お前も中々、度胸あるじゃんよ。それとさ…昨日は言い過ぎてごめんな」

「ううん。僕も言い過ぎたから…所でどうして、ここに兄ちゃんがいるの?皆の所に行った筈じゃ‥」

「ああ。それだけどよ。実は森を走っていたら、あちこちに斬られた後があってさ。それがお前の家に続いていたから、気になって戻って来たんだってばよ。そうしたら、あいつらに向かって行くお前がいたって訳」

「そうだったんだ。でも、僕は何も出来なかったんだ。最後だって、兄ちゃんが来なかったら…殺されてた」

 

 

 勇気を出しても、それを成せる力が無い事にイナリは落胆していた。だが、ナルトはそんな彼の頭に手を置くとニカっと笑うとイナリにこう言った。

 

 

「何言ってんだ。お前は十分、戦っただろ。何よりも弱い自分とよ。それだけでも凄い事だってばよ」

「うん。ありがとう…ナルト兄ちゃん」

「おう。そんじゃ、俺はもう行くぞ。お前は母ちゃんを連れて、どっかに隠れてろ」

「分かった。ナルト兄ちゃんも気を付けて」

 

 

 自分と母を助けてくれた後、ナルトはそう言って再び橋に向かっていった、その後ろ姿がイナリには、何よりも眩しく…そして、とても大きく見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、大橋では再不斬達とカカシ達が睨み合っていた。まるでその場の時が止まったかの様に、お互いは微動だにしない。だが、ずっと続くかに思えたこの均衡。それを最初に崩したのは、再不斬の横にいた白という少年だった。彼は足に僅かに力を入れると、一瞬でカカシ達との距離を詰めて攻勢に出た。しかし、サスケだけはその素早い動きに反応して、腰のホルダーから抜いたクナイで白の攻撃を受け止めた。

 

 

「…中々、素早いんですね。驚きましたよ」

「そうか。だったら、次はもっと驚かせてやるさ」

「残念ながら、次はありません。既に僕は二つの先手を打っている」

「先手だと・・・? 此処に来て、ハッタリかよ」

「いいえ。これは事実ですよ。まずは君の足元にある水たまり。二つめ、それは君の塞がった左手。これで今、君は僕の攻撃を防ぐ事も出来ない」

 

 そう言うや否や、彼は残った左手で印を組むと、術を発動させる。その行動にサスケも後ろにいたサチ達も驚きの様子を見せる。本来、忍術はどんな流派であっても、印は両手で結ぶのが普通だ。だが、少年はその常識を破って、片手で印を結んだのだ。そして、何かの術なのか。サスケの足元にあった水たまりが、意志を持った様に動くと針のような形状に変わり、サスケに襲い掛かった。

 

「サスケくん!!」

「無駄です。僕の秘術 千殺水翔は狙った獲物を逃がさない」

「はっ だとしたら、お前の秘術とやらも大した事は無いな」

「っ!? まさか、あの術から逃れたというのですか? 一体、どうやって…」

 

 

 余程の自信があったのか、白は自分の秘術が破られた事に驚愕していた。未だかつて、この術を防いだ者や躱した者はいない。無論、片手で発動出来る術という事に動揺した相手の隙を突いたのもある。しかし、一番の理由は発動してから攻撃に至る速度に誰も反応出来た者がいなかったからだ。それもあって、白はこの術に自信をもっていた。だが、それを今日、打ち破ったのが先日まで再不斬に震えていた少年なのだ。そして、件の彼は不敵な笑みを浮かべると白に言い放った。

 

 

「どうやってだと? そんなもの…修行して得た力でだよ」

 

 

 サスケは、白の秘術が炸裂する瞬間。足に集中したチャクラで、攻撃が当たるよりも早く移動していた。当然、以前の彼ではこんな事は出来なかった。しかし、それを可能としたのは…この数日間に置けるサチの修行による成果である。

 

 

 

 そして、サスケは更なる追撃を白に仕掛ける。その攻撃を後ろに飛んで避ける白だったが、背後に回り込んだサスケが、白の喉元目掛けてクナイを向けた。一瞬、反応が遅れたがすんでの所でクナイを受け止める。すると今度は、器用に手首を曲げて、彼の顔にクナイを投げ付けた。この攻撃も辛うじて、回避した白であったが…同時に繰り出された蹴りは避けきれず、食らってしまった。

 

 

「この分じゃ、速さでは俺に分がある様だな。これからお前は俺の攻撃をただ、受けるだけだ」

 

 完全に優位に立ったと悟ったサスケは、相手を見下ろして呟いた。その言葉を聞きながら、ゆっくり立ち上がる白へ遠くから二人の戦いを眺めていた再不斬が口を開いた。

 

 

「おい 白。いつまで遊んでやがる? そんなガキ、さっさとアレを使って仕留めちまえ。それとも、俺が変わるかぁ?」

「いえ。それには及びません。確かに…もう遊びは十分ですね。再不斬さんの言う通り、そろそろ決めます」

 

 先程と違って、殺気を含んだ言葉にサスケも冷汗を流す。一体、何をするのか?と身構えていると‥彼の周りに散らばった水が氷に変化して、サスケを取り囲む。そして白はその氷へ近づくと、あろう事か自分の身体を氷に取り込ませた。すると、サスケを囲む全ての氷に白の姿を映し出された。

 

 

 得体の知れない術にサチとカカシが、サスケを助太刀しようと飛び出すが…その前に再不斬と朔麻が立ちはだかる。仲間の危機に焦る二人の様子を再不斬達は、ニヤニヤしながら見つめていた。それに腹を立てたのか、サチが鋭い視線をやり、低い声で言葉を吐く。

 

 

「何を笑ってるの? さっさとそこをどきなさい」

「通りたいの? でも、だめぇ。それにあなたには借りがあるからねぇ」

「…お前も同じか? 再不斬…」

「勿論だ。それにあいつが、あの術を出したら終わりだ。あのガキは諦めろ」

 

 

 どうやら、サスケを助けるには再不斬達を倒すしかない。逸る気持ちを抑え、二人はそれぞれの敵と向かい合った。体が軋み、場を切り裂く様な殺気を両者が出す中。その空気を破る呑気な声が大橋に響いた。

 

 

「よっしゃー やっと、橋に着いたってばよ。ん?ああぁぁーー お前は再不斬に気味の悪い女じゃねえか。何で此処にいるんだぁ?」

「そんなの見れば、分かるでしょ。あいつら、タズナさんを殺そうとまた襲って来たのよ。てか、そんな事よりも今はサスケくんがピンチなの。ナルト、お願いだから助けに行って。私はタズナさんを守らないといけないから、行きたくても此処を動けない」

「おっし。状況は分かったってばよ。俺が来たからには大丈夫。サスケの事は任せとけ!!」

「ナルト。うん、任せた」

 

 

 予断を許さない状況でも、いつもと変わらないナルトの姿にサクラは、何処かホッとして息を吐いた。根拠の無い言葉でも、ナルトが言うと…本当に何とかしてくれる。そんな気持ちにしてくれるのだ。その会話は、傍にいた四人にも届いており。再不斬は歪んだ笑みを浮かべ、朔麻は機嫌を損ねる。またカカシとサチもサクラと同じく、安堵の気持ちを抱いた。ナルトもサスケ同様に成長している。ならば、彼はナルトに任せよう。それが二人の出した答えだった。

 

 

 

 だが、次にナルトが取った行動は、皆の予想を超えていた。彼は一目散にサスケの元へ向かうと、何と彼を囲う氷の檻へ入っていったのだ。外と中の両方から攻めよう。サスケがそう言おうとした矢先の出来事だった。そんな事は知らず、当の本人は何処吹く風だ。それが癪に触って、思わずサスケも怒鳴り散らす。

 

 

「何やってんだ。この‥ウスラトンカチがぁ!! これじゃあ、敵の思う壺だろうが」

「あんだよ。折角、助けに来たってのに…。そんで、あいつはどんな奴なんだ?」

 

 

 青筋立てて、叫ぶサスケにナルトは口を曲げてぼやいた後…氷の板に映る敵を睨んで静かに尋ねた。それで彼も冷静さを取り戻したのだろう。ナルトの質問に答える。

 

「分からない。片手で術を発動させたりと、奴の力は未知数だ。だが、一対二なら俺達に分がある筈だ」

「おう。此処は共闘と行くってばよ。サスケェ 足を引張るんじゃねえぞ」

「フン、抜かせ。お前こそ、俺の足を引張るなよ」

「生憎ですが、もう君達に万の一つも勝ち目はありませんよ」

 

 

 

 二人に向かって、冷徹な一言を告げると白は攻撃に打って出る。それに備えて、身構える二人だったが…突如、体に無数の切り傷が出来て倒れ込んだ。目では見えない速すぎる攻撃に、ナルト達は声を失くして氷に映る白を見つめる。たった一度。その一度の攻撃で白は、二人から余裕を一瞬で奪い去る。そんな二人の脳裏に浮かんだ言葉、それは自分達ではこの少年に敵わない。只、それだけだった。

 

 

 

 

 

 

 白の秘術と素早い攻撃に翻弄される二人を眺めて、朔麻が楽しそうに呟いた。

 

 

「あらぁ。意気揚々と挑んだ割にもう戦意喪失してるわねぇ。この分だと、持って数分かしら?」

「だとしたら、そう悠長にしてられないわ。私達も早く決着をつけましょう」

「ウフフ‥‥。何を焦っているのよ。まるであの時の再現を見てるみたいだわ」

「…再現だとしたら、結末も同じね。今度は確実に仕留める」

「言うじゃないの…。だったら、やってみなぁぁぁっっ!!」

 

 

 相変わらず、沸点が低いのか。ちょっとした挑発で怒りを露わにした朔麻が向かって来た。一直線に距離を詰めると、彼女は手にした悪夢の螺旋をサチの心臓目掛け付き出す。だが、彼女はそれを余裕を持って躱すが、次の瞬間。不意に背後から現れた朔麻によって、背中を切り裂かれてしまう。予期せぬ攻撃にサチは、痛みに顔を顰めながら朔麻を見た。そして、自分に向けるサチの表情に朔麻は快感を覚えながら、武器に付いた血を舐める。

 

 

「フフ‥ハハァ。貴女の血、思ったより甘いわね。今度は、何処を裂こうかなぁ?」

「何故、私は確かに躱した筈よ」

「ああ。それは‥あたしの秘技に寄る物よ。冥土の土産に教えて上げるわ。あたしの一族はね…特殊な秘薬を使って、体を液化出来るんだよ」

「そうか…。それで背後に移動して、攻撃したって訳ね」

「大正解!! 今、此処は霧で水分が沢山あるからね。あたしの秘技を生かす事が出来るんだぁ。尤も、この秘薬を投与された奴は大抵、副作用で死ぬけどね。運が良い事にあたしと妹は順応して生き残ったのよ」

 

 

 喜々として、己の能力を語る朔麻だが、妹の事を口にした時だけ…少しばかり悲痛な表情を浮かべた事にサチは不思議に思った。狂人と呼ばれた女に垣間見た人間らしい部分。そこに思う所はあるが、朔麻は敵である。それに一刻も早くナルト達を助けなければいけない。サチは気持ちを切り変えて、自分も切り札を出す事にした。

 

 

「成程。薬で得た技とは、霧隠れの忍らしいわね。それでも、私も引く訳にいかない。悪いけど、此処からは冗談抜きで本気でいかせてもらう。覚悟はいいかしら?狂人 朔麻」

「ええ。いつでもどうぞ。あなたの本気とやらを見せてもらいましょうか」

 

 

 

 焦りを捨て、凛として立つサチに朔麻も表情を引き締める。そして、二人は同時に駆け出すと攻撃に映った。サチは印を結ぶと大きく息を吸い、その口から拳大の火の球を朔麻に向かって勢いよく吐き出す。最初は、鼻で笑った彼女だが、火の球の周りにある霧が蒸発するのを見て、慌てて避けた。するとそれは橋の欄干に当たった。朔麻は振り返って見えた光景にゾッとする。その火球が当たった欄干の一部は熱によって、ドロリと溶け出していた。

 

 

 頑丈な鉄ですら、容易に溶かす火の球。あれを生身で受けてしまえば、ひとたまりも無い、どうやら先程、サチが言った様に自分も覚悟を決めねばならないようだ。一呼吸して、朔麻は相手を見据えながら、今の術の探りに入った。

 

 

「さっきの術、火遁よね。それにしちゃ、威力が桁違いの様だけど…まさか、あんたも秘術持ちかしら?」

「いいえ。そんな大層な物を私は持って無いわ。貴女の言う通り、今の術は火遁よ。紅死玉と言って、チャクラを練る事で火の球の温度を可能な限り、上げた術よ」

「へぇ…。それを敵に言って良いの?初めは驚いたけど、もう当たるこ「関係ない」え?」

「貴女がどうしようと…私は貴女を確実に殺すから。言ったでしょ?覚悟してもらうって」

 

 予想とは裏腹にサチは、正直に術の正体を明かした。それを馬鹿にする様に言う朔麻の言葉をサチは遮った。そして、変わらず凛とした面持ちで朔麻に告げる。そんなサチに朔麻は、心の底から恐れを抱いた。こいつは...おかしい。狂人と言われた自分なんかより、こいつの方が…余程、狂人だ。

 

 

 

「さて、戦闘再開といくわ。生憎、こっちはゆっくりとしてられないからね」

「くそっ、舐めるんじゃないよ。その前にお前を殺してやる!!」

 

 

 再び火遁、紅死玉をサチが繰り出そうとする前に朔麻は、自分の身体を液体化してその場から消えた。恐らく、濃霧を利用してまた奇襲するつもりだろう。だが、サチも同じ手を食らう訳にいかない。彼女は目を閉じて、感覚を研ぎ澄ませた。そして、背後からスッと現れた朔麻が攻撃に出た時、サチは自分の周りに手裏剣を投げ付ける。

 

 

 サチが取ったその行動に、朔麻は対応出来ず。彼女は手裏剣の中に突っ込む形となり、体に無数の手裏剣が容赦なく突き刺さる。その痛みから堪らず、朔麻は倒れ込んでしまった。

 

 

 

 自分の反撃が上手く行ったと、サチは地面に伏せる朔麻に近づくと見下ろして言葉を紡ぐ。

 

 

「案の定、掛かったわね。液化しても攻撃時には実体に戻る必要がある。当然、貴女の事だからまた死角から仕掛けると思っていたわ」

「…まれ。黙れよぉっ!! どいつこいつもあたしを馬鹿にしてぇぇぇ。あんたに何が分かるってんだ。お前もそうやって、他人を馬鹿にしていたんだろう。あいつみたいにねえ」

「何を言ってるの? 全く、意味が分からないわね」

「あたしの妹さ。たった一人のね。けど、あたしが殺してやった」

「殺した!? 自分の妹を何故?」

「あたしを裏切ったからだ。そんなに知りたきゃ教えてやる」

 

 

 そう言って、彼女はぽつりと己の過去を話し出す。それは朔麻が霧隠れの里にいた頃、彼女は忍となるべく自里の養成学校に妹と一緒に入学した。生まれてからいつも傍にいた妹 時雨は朔麻にとってかけがえの無い存在だった。辛い秘薬の投薬にもお互い、慰め合って耐え抜いた。それが彼女達の絆を一層強くしたと思っていた。

 

 

 姉妹が養成学校に通い始めてから数年。順風満帆に二人は課題と試験を乗り越え、遂に忍となる為の最終試験へ挑む事になった。どんな試験でも突破してやる。そう意気込みを見せる朔麻だったが、教官の口から出た言葉に朔麻は愕然とする。その課題は指定の場所で生徒同士の殺し合いを行う事。それが忍に必要な試験だと、教官は言った。周りが騒然とする中、朔麻は心の中で決心する。例え、誰が相手でもあたしは殺す。そして忍になって、妹を守るんだ。彼女は思い浮かべる未来に期待して、その試験に挑む。

 

 しかし、現実は非情だった。意を決して、指定の場所に来た朔麻の前に現れたのは、何と自分が愛する妹の時雨だった。思いもしない対戦相手に、朔麻は言葉を失った。無理だ。自分に妹は殺せない。暫し、放心していたが我に返った朔麻はこの試験を辞退しようとした時、目の前の妹が殺気を纏って襲い掛かってきた。

 

 

 

「何をするのよ。何故、あたしに攻撃するの?」

「何故?そんなの決まってるよ。これは試験でしょ?なら、やるしかないじゃない」

「だからって、あたしと時雨は姉妹でしょ? 血を分けた家族で殺し合いなんてどうかしてる」

「姉妹…ねえ。悪いけど、そう思ってるのはあんただけだよ。私にとって、あんたの存在は邪魔なんだ。だって、そうでしょ?私がどんなに努力してもさ。いつも優秀な成績を収めるあんただけが褒められる。それなのにあんたは私に笑っていうよね。もっと頑張ろうってさ。冗談じゃないよっ!! 何が頑張ろうだ、もう嫌って程、私は頑張って来たんだよ。だから、この試験でお前とぶつかったのは幸運だったよ。いつも殺したいと思ってたからねぇぇ」

 

 

 彼女は憎悪の感情を露わにして、朔麻を殺そうと向かって来た。そして、気付けば朔麻は時雨に馬乗りになって、妹の体をずたずたに切り裂いていた。死にたくない。生にしがみつくその本能が彼女をこの凶行に借り立てたのだ。無表情でひたすら刃物を妹の体に突き立てていると、不意に正気に戻った朔麻は絶叫を上げて、彼女の体から飛び退いた。

 

 

 ふと視線を落とし、血で真っ赤に染まる自分の手を見て…朔麻は慟哭を上げた。愛していた妹に裏切られた現実、例え他者の命を奪ってでも守りたかった存在を自分は殺してしまった。そんな彼女の心に深い絶望と悲しみが渦巻いていた。

 

 

 

「それからさ。里の連中があたしを狂人と呼ぶ様になったのは…。好き好んでやった訳じゃないのに、皆‥あたしを狂った女と見る事に嫌気が差して、任務の最中に里を抜けたんだ」

「…たったそれだけ? 何があると思いきや、随分と小さい事だったわね」

「っっっ!! ち、小さい事だと、ふざけるなぁ。お前にあたしが味わった絶望の何が...分かるってんだぁぁぁぁああ!!」

 

 

 サチの一言で、完全にタガが外れた朔麻が悪夢の螺旋を大きく振り被る。だが、その大きい隙をサチが見逃す筈もなく、すかさず火遁で反撃に打って出た。彼女の口から真っ直ぐ出た火の球は、朔麻の腹部に吸い込まれていく。腹部だけでなく、体の中を突き抜けていく熱と激痛に彼女は声なき叫びを上げて背から倒れ込んだ。

 

 

 

 

 「は‥あ。こんか・・いも、あたしの負けか・・かぁ。けど、やっと…楽になれるなぁ。ねえ…最後に、一つ頼んでいい?」

「…分かった。言ってみて頂戴」

 

 

 

 敵である朔麻から、言われた言葉に戸惑うサチだったが…倒れ伏す彼女の表情を見て、最期の頼みを聞く事にした。そして、傷によって掠れた声しか出せない朔麻の口元に耳を寄せて、サチはその口から出る言葉を心に刻んでいった。

 

 

「…それが、貴女の願いね。必ず守ると約束する」

 

 

 それを聞いて安心したのか、やがて呼吸が浅くなると彼女は静かに覚める事のない眠りへ着いた。その姿を一度だけ、振り返って見た後。サチは仲間を助けるべく、その場を駆けていった。




今回のお話 いかがでしたか?


オリキャラの敵。朔麻さんの過去が明らかになり、彼女との戦いに完全決着が付きました。
最後は割とあっさり終わったかな?と思ってましたが、まあ‥だらだらと続けても仕方無いと思ってこの結末に持ってきました。


もし宜しければ、一言でもいいので感想をお待ちしております。
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