NARUTO 六道へ繋がる物語   作:アリアンキング

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今回から中忍試験編が始まります。

波乱の幕開けとなる話を堪能下さい。


中忍試験編
第十三話 新たな波乱の幕開け


「なぁ、姉ちゃん。カカシ先生ってば、何でいつも遅刻するんだってばよ」

「本当よね。人には時間厳守だって、言っておきながらこれだもん」

「う、うーん。カカシにも、色々と準備があるんじゃない? あれで一応、隊長だからね」

「だったら、余計に駄目だろう。あんたからも厳しく言うべきじゃないのか?」

 

 

 任務の為、指定の場所へ時間通り来ているというのに。それを告げた本人が遅刻している事にサチは、ナルトとサクラから責められていた。当のサチも、これには言葉が詰まり。しどろもどろになって、言い訳をするが…その内容にサスケが突っ込まれ、彼女は無言になる。確かに隊長であるカカシが、遅刻するのは本来あり得ない事だ。

 

 

 先程より、不機嫌な様子で睨む三人へ何と言おうかサチが、考えを巡らせている最中。件の人物がニコニコと笑ってやって来た。それを見て、文句を言おうとする三人より先に、サチは前に出るとカカシを睨みつける。

 

 

「…おはようさん。ど、どうした? そんな恐い顔して、何だか機嫌悪い様だけど」

「そう? 別に普通だけど、貴方にはそう見えるとしたら、何が原因かしらね?」

「……。遅れて大変、申し訳ありませんでした」

 

 

 彼女が怒ってる理由。それは自分が遅刻した事以外は無いだろう。大方、後ろの三人に散々責められたのもあるのかもしれない。無論、こっちにも言い分はある。だが、それを話す事が出来なかった。何故なら遅刻の理由が徹夜で読書していた等、口が裂けても言える訳が無い。

 

 

「はあ…。もういいわ。それより、急いで出立しましょう。予定の時間は先とはいえ、現地到着が遅れたら本当に笑えないもの」

「そうだな。じゃ、皆行くぞ」

 

 

 まだ言いたい事はあるが、此処で時間を無駄にする訳にもいかず。サチは気持ちを切り変えて、カカシに任務先に急ぐ旨を伝えた。それに頷き、カカシが出発の号令を掛けるも。返事は無く、ジト目で見ながら彼らは付いて来るだけだった。

 

 

 どうやら度重なる遅刻によって、自分の威厳は失いつつある様だ。流石にこれは不味いと思ったカカシは、己の遅刻癖を直そうと決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、任務先に辿り着いたカカシ一行は…依頼人と落ち合い、今回の依頼を彼から聞く。その内容は自分の農場から逃げだした馬の捕獲である。だが、それは只の馬ではなく…祭事に使う暴れ馬との事だった。更に詳しい話だと、その馬は数いる暴れ馬の中でも特別で。村の住人が所有する中では、飛び抜けて気性が荒いと言っていた。

 

 

 恐らく、最初は自分達で捕獲しようとしたのだろう。しかし、結局は手に追えなくなって里に依頼を出したようである。

 

 

「よし。これより、暴れ馬の捕獲に入る。今からその作戦を説明するぞ」

 

 

 カカシが立案した作戦。それは自分が背後から馬を追い立て、ナルトは影分身で馬の進行方向を塞ぐ。続いて左右からサチとサクラで逃げ道を奪った後で、サスケが馬に跨り写輪眼の幻術を使って馬を鎮める。これが説明された作戦であった。

 

 

 

 そして作戦の為、ナルト達は所定の配置についた所で、カカシが馬を追い立てるのを待っている。それが作戦開始の合図だと、移動する前に彼は言っていた。待機して十分が経過した頃。前方の林から、地面を大きく揺らして暴れ馬が姿を見せた。

 

 

 

 

「よっしゃっ!! 来た来たぁ。そんじゃ、俺も行くってばよ」

「相手は普通の馬じゃないのよ。気を付けてね」

 

 

 意気揚々と駆け出すナルトに、サチは注意を促した。動物は追いつめられると、予想も付かない力を出す事がある。ましてや、今回の相手は村一番の暴れ馬だ。そう簡単に作戦通りには、行かないとサチは思っていた。案の定、それは当たってしまう。

 

 

 今では十八番となった影分身で、馬の行く手を遮るが…此処でナルトは余計な行動に打って出る。本来の作戦と違って、あろう事か。本体と分身共に馬に立ち向かっていった。分身を合わせれば、数は40人以上はいるが、馬は怯む事はなく。それ処か、逆に闘争心を向き出しにして、ナルトを分身含めて付き飛ばしてしまった。思わぬ馬の反撃に、一同は驚きを隠せない。

 

 

 まさか此処まで気性が荒いとは…確かにこれでは、村人の手に負えない。最後はサチとカカシの二人で捕獲して終わった。今回ばかりは、流石にナルト達では厳しいと判断した結果である。幸いにもナルトに大きな怪我は無かったが、馬に突き飛ばされた衝撃で軽い眩暈を起こしていた。

 

 

 大人しくなった馬を依頼主に渡した後、一行は里への帰路に着く。未だに眩暈が収まらないのか、ふらつくナルトをサクラとサスケが交互に肩を貸しながら、来た道をゆっくりと進んでいく。

 

 

「あ~ 酷い目に遭ったってばよ」

「全く、あんたが余計な事をするからでしょ。飛び出す前だって、サチ先生も忠告したのに」

「フン 世話の焼ける奴だな。こんな有り様で、火影になれんのか?」

「うるせぇ… 第一、お前は何もしてねえだろ」

 

 

 呻くナルトに、肩を貸していたサクラが苦言を洩らした。彼女の言う通り、サチが忠告した事を守っていれば避けれた事態であるからだ。隣で二人のやり取りを見ていたサスケも、口を出す。それにナルトも反応して、いつもの喧嘩が始まった。

 

 

 サスケ自身、ナルトを心配しての言葉だったが…人付き合いにおいて不器用な彼は、きつい言い方になってしまう。また、ナルトが取ったあの行動もサスケを心配しての事だった。馬に乗って幻術をかける役目で、サスケが怪我をするかもしれない。ならば、影分身を使える自分の方が、より安全に事を運べるだろう。彼はそう考えて行動を起こした。しかし、馬の力を侮っていた為、ナルトの行動は無駄に終わった。

 

 

 その気持ちをお互い、口にすればいいのだが。相手への対抗心や照れによって、二人は毎度の事。すれ違いを起こしていたのだ。

 

 

「やれやれ。街中で喧嘩するんじゃないよ。最近のお前らは口を開けば喧嘩ばかりで、チームワークが乱れてるぞ」

「フン。それは俺じゃなくて、あのウスラトンカチに言え。あいつが突っかかって来なければ、何も無いんだ」

「何だとぉっ!! お前だって、俺に好き勝手言うじゃねえか。それがチームワークを乱してるんだろ」

「俺に好き勝手言われるのが、そんなに嫌なら…もっと、強くなって俺にカリを作らない様にしろよ」

 

 

 

 堪らずカカシが仲裁に入るも、二人は止まらない。サスケが口を開けば、ナルトが言い返す。その繰り返しに、サスケは苛ついたのか。彼を横目で睨むと、突き放す様に言葉をぶつけた。それにはナルトもぐうの音が出ない。また自分の弱さを人の所為にしてしまった。その事を彼は内心、落ち込んだ。違う、自分は言いたいのは…そうではない。それにサスケを怒らせるつもりも無かった。

 

 

 無論、サスケの方も同じ事を考えていた。何事も向こう見ずで突っ走るナルトを見て、彼はいつもハラハラとしていた。波の国で戦った時、そして今日の事。何故かは分からないが、自分はそんなナルトが放って置けなかった。つい余計な事を言ってしまうのは、そういった気持ちの表れだ。しかし、その想いを上手く伝えられず、気付けば喧嘩をしてばかり。それが悩みの一つでもあった。

 

 

 

 そんな時、上空を飛ぶ一羽の鳥に気付いたカカシは、未だに睨み合う二人と戸惑うサクラに声をかける。

 

 

「三人共。俺は一旦、任務終了の報告へ行ってくる。という訳で、此処で解散としよう」

「そう。私も一緒に行こうか? この後、特に予定も無いからね」

「いや、それは俺一人で大丈夫だ。お前は残って、三人の様子を見てくれ。また喧嘩になったら、仲裁する人がいないと収拾が付かないからな」

 

 

 カカシの言葉にサチは頷いた。確かにあの二人を止める者が、一人は残る必要がある。その事にサクラは、ホッと安堵の息を吐く。どうやら、彼女も二人の事を気にしていたようだ。

 

 

「別にその必要はない。解散するなら、俺はもう帰るからな」

 

 

 だが、その心配は杞憂で終わる。カカシから解散と言われて、サスケは家に帰るとそう言った。すると、今まで黙っていたサクラが、サスケに寄り添うと頬を染めて話しかける。

 

 

「ねえ…サスケくんが良かったらだけど、一緒に街を散歩しない?」

「お前も…大概だな。今回もそうだが、今まで何も出来ない自分を恥だと、感じた事は無いのか? 正直に言うが、今のお前はナルトより、役立たずである事を自覚しろ。俺に構う暇があるなら、少しは己を磨く努力をしたらどうだ?」

 

 

 サスケの厳しい言葉に、サクラは一転して表情を暗くする。彼が言っている事は、全て事実でサクラは何も返す事が出来ずにいた。自分が役に立って無いのは、言われるまでも無く自分が一番理解している。だからこそ、他人から…しかもサスケから言われた事が一番のショックであった。サスケはそれだけ言うと、スタスタと去って行く。

 

 

 サスケの言葉ですっかり落ち込んだサクラへ、今度はナルトが声をかける。本人としては、彼女を慰めると同時に仲を進展させるチャンスと、ナルトは見ていた。しかし、今のサクラに彼の慰めは逆効果だった。ナルトより役に立たない。その言葉が、サクラの脳裏に何度も響く。当の本人は、その事を知らず能天気な表情を浮かべているのが…余計に腹立たしい気持ちにさせられた。

 

 

 その光景を見ていたサチとカカシは、スッとその場から立ち去った。触らぬ神に祟りなし。起きる波乱を予想して、二人は関わらない事にしたようだ。

 

 

 

 

 

 

 カカシと別れた後、サチは一人で街をうろついていた。そして何気なく、街角に視線をやると彼女は硬直する。視線の先にいたのは、死人を連想させる白い顔に蛇の様な目つきをした男で。彼はこちらを見てニヤリと笑う。その不気味な姿にサチは、堪らず目を逸らしてしまう。

 

 

 深呼吸して、気持ちを落ち着かせた後…再び同じ場所へ視線をやるが、不気味な男は姿を消していた。もしかしたら、自分の見間違いなのだろうか? 一応、この事をヒルゼンに報告しようと火影邸に足を向けた時。偶然、近くに立つ男達の話が耳に入って来た。

 

「なぁ‥。さっき、近くの路地で妙な奴が子供に絡んでたぜ」

「おいおい、だったら・・何で助けないんだ。そいつは何処で見たんだよ」

「すぐそこの路地だよ。やめとけって、ありゃ何処かの忍のようだった。俺達じゃ、何も出来ないよ。急いで木ノ葉の忍を呼んでこないと「その必要は無いわ」え?」

 

 

 話の内容を聞いて、サチは彼らに声をかける。いきなりの事で男達は驚くが、サチの正体が木ノ葉の忍と分かると縋る様に助けを求めてきた。無論、サチもそのつもりで声をかけたのだ。慌てている男達を宥めて、詳しい場所を聞いた後、サチは一目散に現場へと向かって行った。

 

 

 

 

「この‥黒豚野郎。木ノ葉丸を放せってばよ」

「そうよ。ぶつかったくらいで、そこまでする事ないでしょ」

「うるせえじゃん。第一、俺はガキが嫌いなんだよ。ムカつくし、うざったいしな」

 

 

 

 サチ達が去ってから、入れ替わりでやってきた木ノ葉丸とナルト達は…なし崩しに遊ぶ事となり。その最中、件の少年に木ノ葉丸がぶつかってしまい、この騒動が起きてしまった。彼のいで立ちは、頭から足に至るまで黒装束を纏った体格のいい少年である。それ故、ナルトは彼を黒豚と呼んだのだった。

 

 

 その少年は、ぶつかった木ノ葉丸の胸倉を容赦なく掴み締め上げた。それによって、苦しそうにする木ノ葉丸を助けようとナルトが、駆け寄るが…少年は軽く腕を動かすと。何かに躓いた様に、ナルトは地面に転んでしまう。それを見て、少年は嘲る様に笑った。

 

 

 

「何だよ。木ノ葉の下忍って、めっちゃ弱いじゃん。こんなんで忍が勤まるのかぁ?」

「はあ…。カンクロウ…その辺にしとけって、流石に他里で騒ぎを起こすのは不味いよ」

「テマリ、そう言ってもなぁ。俺はこいつみたいなチビが嫌いなんだよ。ぶつかっておいて、謝らない所が殺したい程‥ムカつくんだよ」

「あーあ。私は知らねえよ」

「問題無いじゃん。まあ、時間掛けてたら面倒な事になりそうだし、一発殴って終わりにするじゃん」

 

 

 

 

 変わらず横暴な態度を取るカンクロウを見兼ねて、連れのくノ一のテマリが止めに入るが彼は聞く耳を持たない。付き合いの長い彼女は、こうなったら無駄である事を知ってるのか。すぐに匙を投げてしまった。そうして、カンクロウは左の拳で木ノ葉丸を殴ろうとした時。

 

 

「悪ふざけはそこまでよ。これ以上は…見逃せないわね。それにサスケ、貴方もよ」

 

 

 その言葉と共に彼の拳は突如、現れたサチに止められた。そして右手には…彼が投げたと思われる石を掴んでいた。ナルト達もカンクロウ達も、突然の事に驚いていた。唯一、平静を保っているのはサチと同じくして、やってきたサスケのみである。

 

 

「なんだぁ? 木ノ葉の上忍ってのは、子供同士の喧嘩に出しゃばるのかよ」

「ええ。時と場合によってはね。今、貴方がやってるのは流石に黙ってられないわ」

 

 

 

 初めは吃驚していたが、落ち着きを取り戻したカンクロウは…今度はサチに食ってかかる。それに対して、サチも冷静に言葉を返すも、彼はそれが気に入らないのか。再び口を開こうとした時…

 

 

「カンクロウ やめろ!!」

 

 

 更に別の人物が、彼の行動に待ったをかける。一同が声の方に目を向けると、そこに木の枝から逆さに立って、こちらを見る少年の姿があった。紅い髪と額に彫られた愛の文字が、異彩を放っている。彼の登場によって、場は沈黙に包まれる。これには内心、サチも驚いていた。彼らのいざこざを止めに入る際、サチは周囲に気を配っていた。だが、その時はこの少年の気配は微塵も無かったのだ。しかも彼は、それを自分に悟らせず、まるで予めそこにいた様に現れた。

 

 

 

「すまなかった。君達も… そこの貴女にも迷惑をかけたようだ」

「な、なに言ってんだ。元はと言えば、こいつらが先に「黙れ! 殺すぞ」が、我愛羅…」

 

 

 

 自分達に謝る我愛羅にカンクロウは意義を唱えた。すると彼は低い声で、カンクロウを威圧する。その一言でカンクロウは体を震わせ、押し黙った。それは一緒にいたテマリもそうである。思えば彼が来てから、この二人は怯えていた。額あてを見る限り、同じ里の仲間なのだろう。それにしても、妙な関係だとサチは思っていた。

 

 

 

 また我愛羅も静かにサチ達を見ていた。その中で一番注目していたのは、サチとサスケだ。瞬間移動する様に現れ、カンクロウを止めた女に…また気付かれぬ様、石を投げた自分と同じくらいの少年。我愛羅は木から地面に降り立つと二人の名を尋ねた。

 

 

 

「お前達の名前は?」

「名を尋ねるなら、まずはそっちが名乗るのが礼儀だろう」

「そうだな…。俺は砂漠の我愛羅。見て分かる様に、俺達三人は砂の忍だ。改めて聞く。紅い髪の女と黒髪のお前、二人の名は何だ?」

「私はうずまきサチ。この子達の担当上忍よ」

「俺はうちはサスケだ」

「うずまきサチにうちはサスケだな。覚えておこう」

「ちょっっと待ったぁぁぁ。まだ俺の名を言ってねえぞ!! 俺の名は「興味ない」何ぃぃぃ」

 

 

 名を尋ねるなら先に名乗れと、サスケに言われて彼は素直に自分の名を教えた。その後、二人も名を教えると彼は一言告げて、立ち去ろうとする彼をナルトが引き止めて、自身の名を言おうとするが。我愛羅はナルトの言葉をバッサリ切り捨て、今度こそ立ち去っていった。

 

 

 それにへこむ彼を木ノ葉丸が慰めていた。それを眺めているサチの肩に鳥が止まり、彼女は足に括られている紙を外して読み始めた。内容は里の上忍と中忍を対象とした、招集命令であった。

 

 

 

 

 

「皆、私は招集が掛かったから…行くわ。貴方達はもう家に帰りなさい。また面倒が起きないとも限らないから」

 

 

 

 四人はサチの言葉に頷いて、それぞれの方向へ立ち去った。それを見届けた後で、サチは火影邸へ駆け足で向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後、火影邸に辿り着いたサチが集合場所へ行くと、そこには既に里中の忍が集まっていた。どうやら、自分が最後だったらしく。所々から遅いと文句が聞こえてくる。態と聞こえる様に呟く彼らに、眉を顰めるが…招集に遅れた事は事実である為、サチはグッと堪えると頭を下げて、遅れた旨を謝罪する。

 

 

 

 

「遅れて申し訳ありません。ただいま、召喚に応じました」

「謝るくらいなら、何故すぐに来ない。一体、何処で油を売ってたんだよ」

「いえ、そうではなく。里内で他里と自里の忍同士がいざこざを起こしまして、その仲裁に入ってたんですよ」

「ふん。上手い良い訳を考えるなぁ。口ではどうでも言えるもんなぁ」

「口を挟んで悪いが…これ以上、ウチの副隊長を苛めるのをやめてもらおうか。文句があるなら、隊長の俺が聞いてやるよ。あんたの気が済むまでな」

 

 

 

 事情を話しても、あれやこれやと荒を探しては嫌味を言う上忍にサチが言い返そうとした時。黙っていたカカシが傍により、助太刀に入った。真っ直ぐ自分を見つめる目に、恐れたのか。先程と違って、その上忍は口を閉ざしてしまう。

 

 

 

「カカシよ、その辺にしておけ。全員、揃った事だし‥本題に入るとしよう。と言っても、この顔ぶれを見れば言わずもとも、分かるじゃろうが」

「もうそんな時期ですか。まあ、この分だとサチが言ってた事も本当だろうな」

「ああ。今年も血気盛んな者が多い様で…大変な事になりそうだ。そんで、アレの開催はいつです?」

 

 

 これ以上、騒ぎが大きくなる前にヒルゼンが間に入って、場を収めた。そして…皆を集めた理由を話し出すが、集まった者は既に知っている。それに続いてカカシが、詳しい事を尋ねるとヒルゼンは口を開く。

 

 

「そうじゃな。これより一週間後、七月の一日に今年の中忍選抜試験を開催する。それに当たって、自分が受け持つ下忍達を推薦する者は前に出よ。まずは、新人の下忍からにするかの」

 

 

 

 ヒルゼンの言葉に、前に出たのはサチとカカシ、紅とアスマの四人であった。だが、新人の下忍が中忍試験に参加する事は、滅多にない。どうせ、今年も不参加だろうと思っていた一同は四人の口から出た言葉に驚く事となる。

 

 

「カカシ及びサチ率いる、第7班…。うずまきナルト、春野サクラ、うちはサスケ。以上三名をはたけカカシの名を持って、中忍選抜試験に推薦します」

「私、うずまきサチもカカシ同様に三人を推薦いたします」

 

 

 二人に続いて、紅班とアスマ班も自分達の下忍を中忍選抜試験に推薦した事で、その場は驚きと騒めきに包まれる。それも無理も無い。まさか、新人が全員参加する等…誰も予想はしていなかったのだ。そんな中、一人の忍が前に踊り出ると、異議を申し出た。その忍は以前、ナルト達の教鞭を取っていたイルカである。

 

 

 

「ちょっと待ってください。差し出がましい事ですが、その8名は確かに才能ある忍なのは…私も理解しています。だけど、まだ彼らにこの試験は早すぎます。もう少し、経験を積ませてからの方がいいのでは無いですか?」

「そうは言うけど、俺が中忍になった時は今の彼らよりも6つも歳が下でしたよ。それにサチだって、新人でありながら中忍試験に合格しましたからね」

「貴方達とナルトは違うでしょう。大体、中忍試験が何と呼ばれてるのか。二人も知ってる筈です」

 

 

 かつて、自分も参加した経験があるイルカは、この試験が如何に危険であるか。イルカは知っている。下手をすれば、大怪我では済まない。だからこそ、新人が参加する事には…イルカは反対だった。

 

 

 

「成程。確かに貴方が仰りたい事も分かります。ですが、今の彼らは貴方の教え子じゃない。俺達の部下です。故に口出し無用!!」

 

 

 カカシの言葉にイルカは…何も言えず、引き下がる。彼の言う通り、確かに今の彼らは自分の教え子ではない。これ以上は、越権行為になるだろう。そうなれば、只の言い争いでは済まなくなる。

 

 

 火影邸でちょっとした騒ぎが起きたものの。それ以降は、各班の推薦も問題無く進行して此度の議題は終了となった。

 

 

 

 用事が済み、次々と忍達が退出する中。一人残ったサチは…街で見た男の事を報告する為。彼女はヒルゼンに声をかける。

 

 

 

「三代目様、実はお話したい事があります」

「話したい事じゃと? 一体、それは何だ? 話してみよ」

「ええ。実は…」

 

 

 

 サチの口から伝えられた事にヒルゼンは、顔を顰めた。普段は見せないその表情に、サチも知らずと顔が強張る。だが、彼は深い息を吐くと、サチに向かってこう告げた。

 

 

「お前の見た男の事。他の者には、言うでないぞ。良いな?」

「何故です? その様子では、厄介な事だと分かります。此処は、皆にも伝えて警戒した方が…」

「ならぬ!! いいから今はワシの言う通りにしてくれ。頼む…」

「…分かりました。 三代目の命令に従います」

「大声を出して済まぬな。だが、これはそれ程の事態でもある。中忍試験で各国から大名や里長が集まる中、余計な緊張感を与える訳にいかぬのだ。お前から聞いた事は、時期を見てワシから伝えるとしよう」

 

 

 

 報告を聞いたヒルゼンは、サチに戒厳令を言い渡した。まさか、自分が見た男とは…それ程までに厄介な相手なのだろうか? そう思って、皆にも伝える様…彼女は進言する。しかし、そんなサチをヒルゼンは大声で一喝して、黙らせた。だが、すぐに我に返ると彼はか細い声でサチに黙っておく様と釘を刺す。

 

 

 そうまでして口止めするからには、何か込み入った事情もあるのだろう。サチは彼の指示に頷くとその場を後にした。部屋に残されたヒルゼンは、静かに窓の外を見る。この時、彼が何を考えているのか。それは本人しか分からない。

 

 

 こうして不穏な気配が潜む中、波乱に満ちた中忍選抜試験が開催される事となった。




今回のお話、楽しんで貰えたでしょうか?


後に木ノ葉を揺るがす波乱の一歩。中忍試験編は何気に怖い所が多いですよね。


宜しければ、一言でもいいので感想を残してくれると嬉しいです。

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