またもう一人の主人公。うずまきサチの人間関係を少しだけ、明らかにしました。
禁書の持ち出し事件から数日後。
この日、休暇中のサチは朝の散歩を楽しんでいた。雲一つない晴天から注がれる陽射しと里を吹き抜ける優しい風が、人々を普段より活気付ける。そんな日常の風景を眺めつつ歩いていると、前から歩いてくる二人組に気付き、サチは手を振って話しかけた。
「おはよう。朝から二人に会うなんて珍しいわね」
「おう サチか。久しぶりだなぁ」
「おはようさん。まあ、いつも会うのは昼くらいだしな。お前は今日も任務か?」
「いいえ。今は休暇中よ。もしかして二人はこれから任務?」
「いや。俺達も今日は休みだよ。寝てようと思ったけど、こいつに連れ出されてね」
「偶にはいいだろうよ。朝日を浴びないと体にカビが生えるぞ」
「余計なお世話だよ。全く…」
そんな二人のやり取りが面白く、サチは思わず笑いを溢す。一人の名はマイト・ガイ。おかっぱ頭に太い眉の如何にも熱血漢といった風体の男。もう一人の名は、はたけカカシ。銀髪に額あてで左目を、口元はマスクで覆い隠した男だった。この二人はサチの先輩に当たる忍者でもあり、大事な仲間とも言える存在であった。
「ふふ ガイもカカシも相変わらずね」
「俺としては勘弁して欲しいけどね」
「釣れない事を言うな。所でサチ。良かったら、一緒に朝飯を食わないか?此処で会ったのも何かの縁だしな」
「ごめんね。誘ってくれるのは嬉しいけど、もう済ませてあるのよ」
「振られたな ガイ!」
「うるさいぞ カカシ!! まあ、それなら仕方無いな。また今度にしよう」
「ええ その時はお願いするわ。じゃあ、またね」
「おう 任せておけ。俺が腹いっぱいご馳走してやろう」
「またな。そん時は俺もご一緒させてもらうよ」
会話を終えて、笑顔で立ち去るサチに二人はホッと胸を撫で下ろす。先日、起きた事件。それに彼女の弟が関わっていた事で、サチに対する風当たりはまた一段と厳しくなっていた。無論、真犯人のミズキが捕縛された事により、サチの弟は騙されていただけと真実が明らかになっても、例の秘密が姉弟を絞め付ける。
「…落ち込んでいる様子は無さそうだな」
「ああ。だが、嫌な思いをしたのは間違いない。あの一件でサチを責める奴が増えたからな」
「全く、里の仲間に何をやってるんだろうな。そいつらは…」
その事に心を痛め、二人は深いため息を吐く。あの姉弟を取り巻く環境が少しでも変わればいいと二人は切に願っていた。
朝の散歩を終えてサチが家に戻ると、ナルトは眠そうに自分が用意した朝食を黙々と食べている。ナルトも帰宅したサチに気付くと挨拶をしてきた。
「姉ちゃん、おはようだってばよ。朝起きたらいなかったけど、何処いってたんだ?」
「おはよう。私は朝の散歩よ。外がいい天気だったからね。そういえば、ナルト。忍者登録書はもう出した?説明会は明日だから済ませてはいるでしょうけど…」
「忍者登録書・・・? それって何だってばよ?」
「何って、貴方。まだ出してないの? それをしないと説明会に参加出来ないわよ!? おまけに忍者を辞退したと見なされて合格も取り消しにされるのよ」
「な、何だってぇぇぇ!! どうしてそれを先に言ってくれないだってばよ」
「一週間前に教えたじゃない。つまり、ナルト。貴方は私の話を全然、聞いて無かったって事ね」
そう言われて、ナルトは一週間前の事を思い出した。確かそれっぽい事を、サチは説明をしていた気がする。だが忍者になれると浮かれていたナルトは、大事なその話をすっかり忘れていた。そして目の前にはサチが微笑み自分の事を見下ろしていた。不味い、これは怒っている。
姉の雷が落ちる事を恐れたナルトは、頭を掻きながら「俺、登録書を出しに行ってくるってばよ」と言い残して逃げる事にした。バタバタと慌てた様子で立ち去るナルトを見て、サチは先が思いやられると苦笑いを浮かべていた。
逃げる様に家を出てきたナルトは、此処に来て肝心な事に気付く。そういえば、登録書の出し方を自分は知らない。当然、サチはその事も説明していただろう。戻って聞く手もあるが、そんな事をすれば余計にサチを怒らせるだけだ。
頭を抱えて、ナルトが唸っていると偶然通りかかったイルカが声を掛けて来た。
「ナルトじゃないか。何やってるんだ?こんな所で…」
「あ、イルカ先生。丁度よかった。聞きたい事があるんだ」
「聞きたい事? 一体、何だ?」
何やら困っている様子だった為、相談に乗る事にした。しかし、ナルトの話を聞いていく内に彼の表情は引き攣っていった
「お前…まだ、登録書を出して無かったのか!? 合格者の説明会は明日だぞ」
「そんな事を言ったってよぉ。忘れてたんだから仕方無いじゃん。でさ!でさ!登録書の出し方を教えてくれってばよ」
「出し方って、それはサチから聞いてないのか? 昨日会った時はお前に伝えたと言っていたが… まさか、お前…話を聞いて無かったとかじゃないだろうな」
図星を突かれたナルトは頬を掻いて誤魔化した。そんなナルトにイルカは、呆れた様子で話を続けた。
「まあいい。登録書に必要な書類はアカデミーで貰えるよ。窓口で聞けば、やり方も説明してくれる。全ての準備が終わったら、火影邸に行け。そこで受理してもらえば、忍者の登録は大凡終わりだ。いいか…。くれぐれも今日中に済ませるんだぞ」
「分かってるよ。そうしなきゃ、忍者になれないって姉ちゃんにも言われたしな。早速行ってくるってばよ」
「ああ。それと明日の説明会は遅刻するなよ」
お礼を言って駆け出すナルトにイルカは大声で言うと、向こうも「分かってるよ」と大声で返事を返して去っていった。あの事件で自分の秘密を知らされて、落ち込んでいるのでは無いか。この数日、イルカはその事を心配していた。しかし、いつもと変わらず元気なナルトの姿を見て、それは杞憂だったと安堵した。
「頑張れよ。ナルト」
イルカはぽつりと呟き、ナルトの後ろ姿を優しく見送っていた。やがて見えなくなるとイルカもその場をゆっくりと去って行った。
アカデミーにやって来たナルトは、真っ直ぐ窓口に向かった。するとそこにいたのは一人の老人でナルトに気付くと窓を開いて顔を出すと用件を聞いてきた。ナルトは言われた通り、登録書の書類について尋ねる。
「あのさ。此処で登録書の紙が貰えるって、聞いて来たんだ。俺にもそれをくれってばよ」
「登録書? ああ。君も卒業生だね。はいどうぞ」
「それでさ。これをどうしたらいいの?」
「書き方かい? 自分の名前と黒い枠の中に自分の事を書くんだよ。好きな物とか趣味とかね。そして下の所には自分の特技を三つ書きなさい。あとは…名前の横の枠に写真を貼ればいいんだよ。写真は向かいの建物で撮ってもらえるからそこに行きなさい」
「分かった。教えてくれてありがとう じいちゃん」
老人は優しい口調で丁寧に書き方を教えてくれた。その親切な老人にナルトも、笑顔でお礼の言葉を言った。すると、先程とは打って変わって老人は真面目な表情を見せる。突然の事に驚くナルトだが、彼は目を逸らさず老人の言葉を待った。
「君も…明日から忍として過ごすのでしょう? その道は険しく辛い事や悲しい事もあると聞くよ。その現実に押し潰されて、忍を辞める者だっている。少年。君はどんな忍になりたいんだい?」
老人の重い言葉は、ナルトの心にとても響いていた。この老人は…幾度なく、潰されていった忍達を見てきたのだとナルトは確信する。強い老人の眼に負けじと、ナルトは自分が目指している夢を答えた。
「俺は…火影になりたい。そしてどの先代も越えて皆に認めてもらうんだ。それを叶えるまで俺は…何があっても諦めねえ。それが俺の忍道だ」
「そうか。その目標、叶うといいですな。おっと、用があるのに引き留めて悪かったね」
「いいってばよ。じゃあ、じいちゃんも元気でな」
火影になる。高い志を持った少年の去りゆく後ろ姿は、今まで見てきたどの子供よりも輝きに満ちている。きっと、将来は大物になって木ノ葉を大きく変えるだろう。そんな予感をその老人 コスケは強く感じていた。
書類を手にアカデミーから出てきた足で、ナルトは写真屋の戸を叩く。すると開いた戸から頑固そうな男が姿を見せた。男はナルトが手にする物を見て、自分を尋ねて来た理由を把握する。
「用件は登録書の写真だろ。少し準備に時間掛かるが、大丈夫か?」
「え? 何で分かるんだ? まだ何も言ってねえのに…」
「そりゃ分かるさ。この時期、よく舞い込む仕事だし、何よりお前さんが持ってるもんを見ればな」
写真屋は手に持つ書類に視線を落とし、そう言った。写真屋の説明にナルトも理解した所で、彼は話を戻した。
「それで写真撮影の事だが… 場所は顔岩の上の丘で行う。機材の準備と移動を兼ねて…1時間といった所だな。1時間経ったら、さっき言った場所へ来てくれ」
「ええ!? そんなに待つのぉ。長すぎるってばよ」
「仕方ないだろ。そっちも書類を書くなり、撮影用に着替えとかして来な。じゃ、俺は準備に入るからあとでな」
強引に話を終わらせて、写真屋は戸を閉めてしまった。恐らくもう呼んでも出ては来ないだろう。この際、面倒な書類の記入を先に終わらせよう。そう決めたナルトは一旦、家に帰る事にした。
家に帰って来たナルトは、その足で部屋に向かうが、ドアには鍵が掛かっていて入れない。どうやら姉も出かけた様で最悪な事に自分は今、部屋の鍵を持ってはいない。姉を探そうにも居場所は分からず、待つにしてもいつ戻るのかも分からない。八方塞がりな状況にナルトは肩を落とす。此処にいても仕方ない。誰か、知り合いに会える事を期待して元来た道を歩き出す。すると角を曲がった所で、見知った顔が目に入る。相手もナルトを見て、声を掛けてきた。
「お?ナルトじゃねえか。どうしたんだ?しょぼくれた面して」
「元気ないね。何か、あったの? 僕達で良ければ力になるよ」
「シカマル、チョウジ。ああ。実は…」
偶然会った二人にナルトは、訳を話した。すると事情を知ったシカマルはポケットから一本のペンを取り出して、「ほらよ」とナルトに投げ渡した。咄嗟に受け取ったナルトは、戸惑った表情でシカマルを見る。当の本人はお構いなしに言葉を続けた。
「それ貸してやるからよ。此処でとっと書いちまいな。書き方はもう聞いてんだろ?」
「ああ。じゃあ、ちょっと待っててくれ」
シカマルから借りたペンでナルトは、書類に次々と記入していく。全て書き終わり、ナルトはペンを返して協力をしてくれた二人にお礼の言葉を言う。
「ありがとうな シカマル。それにチョウジも…」
「別に礼を言われる事じゃねえよ。困った時はお互い様だろ…。なあ、チョウジ」
「シカマルの言う通りだよ。それに僕は何もしていないしね」
「それはそうと。まだ、やる事はあるんだろ? そっちも早く済ませろよ」
「そうする。じゃあ、また明日な」
ナルトは二人と別れた後、顔岩の丘へ向かっていた。残っている用事は写真撮影のみ。面倒な手続きもこれで終わると思うと、自然と足取りも軽く感じた。程なくして、約束の場所へ辿り着くと既に写真屋が準備を終えて待機していた。
「おう。来たか。じゃあ、早速撮影と行くか」
「あ、ちょっと待って。先にトイレ行ってくる。こんなの初めてだし、緊張しちゃってさ」
「はあ。さっさと言って来いや。こちとら、あと片づけもあるんだ。あまり時間を掛けたくねえんだよ」
「わりぃおっちゃん。すぐ済むから」
初の写真撮影にナルトは、緊張の余りか。トイレに駆け込んでいく。用を足しながら、ある事を思い付く。ニヤリと笑う表情から考えている事ではないのは明らかだった。思い付いたら即実行、トイレの窓から写真屋に気付かれない様に抜け出すと何処かへ姿を消した。
それから2時間後。トイレに行ったきり、一向に戻らないナルトに写真屋は苛立ちを露わにしていた。本来なら帰る所だが、恒例行事等の写真撮影は義務として里から命じられている為、終わるまで帰る事が出来ない。
「あの坊主。小便にどんだけ掛かってんだよ。こちとら早く終わらせてゆっくりしたいってのによ」
「おーい 待たせてごめんってばよ」
「遅せぇじゃねえか。一体、何処で油売ってやがったん…だ… って、おめえ何だその面は…?」
一人、ぼやいていると遠くからナルトの声が聞こえてきた。散々待たされた事に文句を言おうとした写真屋だったが、ナルトを見て絶句する。ナルトの顔全体に塗られた白粉と赤の隅で描いた模様。歌舞伎を模した化粧にあった。顔を顰めて写真屋はナルトへ確認を取る。長年やってきた中で初めての事に若干、困惑もしていたからだ。
「おい。本当にその顔で撮るのか?」
「勿論。いいから早く撮ってくれってばよ」
「後悔しても知らねえぞ。ハイ チーズ」
譲る気の無いナルトに諦めて、写真屋はシャッターを押す。現像した写真を見て、写真屋は更に顔を顰める。だが、当の本人は満足な様子でもうこれ以上、言うまいと写真屋は後片付けを始めた。
出来上がった写真を書類に貼り、完成した登録書を手にナルトは火影邸へ向かう。これで明日の説明会にも参加する事が出来る。しかし、現実は厳しい。提出された書類に目を通したヒルゼンは、書類を投げ返しやり直しと言い放った。その言葉にナルトはショックを受ける。本人はこれで決まってると自信があったようだが、ヒルゼンとしても認める訳にいかない。
「お前。これは里にとって大事な書類でもあるんだぞ。こんな物を認める訳ないじゃろうが」
「何でだよ。バッチリ決まってるのに」
「そういう問題ではない。それと額あてはどうした? 散々欲しがっていたのに付けとらんのか?」
「あれは明日の説明会まで付けないの。傷付いたら嫌だし...何せ、俺がイルカ先生に認められた大事な証だもんよ」
真っ直ぐな目で言うナルトに、ヒルゼンは自然と口角を上げて笑う。会うたび、少しずつ見えるナルトの成長にヒルゼンは密かな喜びを感じていた。だからこそ、ヒルゼンも必然と厳しい態度を取ってしまうのかもしれない。
そんな時、勢いよく戸を開けて一人の少年が駆け込んできた。手にした手裏剣を向けて、彼はヒルゼンへ勝負を申し込む。更に黒の眼鏡に黒の忍装束を着た男 エビスも駆け込んで来て、場は騒然となった。
見知らぬ少年をまじまじと見ているナルトに気付くと、今度はナルトに食って掛かる。
「何見てんだ コレ!? 俺は見世物じゃないぞ」
「うっせぇ。いきなり何だってばよ。第一、お前は誰だってんだよ」
「こら ナルト。その方、木ノ葉丸様は三代目火影様のお孫さんだぞ。無礼な口を聞くな」
エビスの口から少年 木ノ葉丸の素性を知り、ナルトは驚いて彼を見る。その木ノ葉丸は、ナルトを冷めた目で見つめていた。最初こそ、啖呵を切ってたこいつも…自分を火影の孫としか見なくなる。どうせヘコヘコした態度を擦り寄ってくるに決まってる。だが、そう思っていた木ノ葉丸の予想は大きく外れた。目を怒らせナルトは木ノ葉丸の頭へ勢いよく拳骨を落とした。初めて味わう痛み、言葉に出来ない不思議な感情が木の葉丸の胸の中で渦巻いていた。この気持ちが何なのか。気になった木ノ葉丸は確かめる為、ナルトのあとを追い掛けて行った。
木ノ葉丸の乱入によって、登録会が一旦中止となり、暇になったナルトは当ても無く歩いていた。その後ろでは物陰や電柱に隠れながら付いて来る木ノ葉丸の姿があった。本人は潜んでいるつもりの様だが、足音や気配で火影邸を出た時から気付いている。
「おい さっきから何だってばよ。付いて来てるのはバレバレだぞ」
「フフフ よくぞ見抜いたな コレ。流石、噂通りの男」
「その…噂の男って、何の話だ?」
陰から向けられる視線が嫌気がさし。ナルトは後ろを振り向くと、道の角に隠れる木ノ葉丸に大声で叫んだ。だが、本人は何処吹く風で臆した様子もなく、何故か自信満々の顔で言葉を返した。ナルトは木ノ葉丸のある言葉が気になった。一体、何の事なのか…考えてみるが、見当がつかない。だが、木ノ葉丸は誤魔化していると感じたのか。彼は詰め寄ってナルトを追及する。
「惚けようたってそうはいかないぞ コレ!! あんたがある術を使って、火影のじじいを倒した事も調べはついてる」
「俺がある術で火影のじいちゃんを…?」
「そうだ。その代わり、俺はあんたの子分になってもいい。だから、教えてくれ!! じじいを倒したおいろけの術を…。頼むよ 親分」
「分かったよ。此処でやるのも何だし、何処か人気の無い場所へ行くぞ」
半ば強引に子分となった木ノ葉丸に押し切られる形で、ナルトは術の特訓を付ける事になった。ナルトは木ノ葉丸を連れて里の森へ移動する。この場所なら邪魔も入らず、術の練習に専念出来るだろう。
「変化 おいろけの術!!」
まずは手本として、ナルトはおいろけの術を発動した。そして煙の中からは、ほぼ全裸の少女が姿を現した。上手い具合に大事な部分を隠している煙が、官能的な魅力を見る者に与える。真っ赤な顔で穴が開くように見つめる木ノ葉丸もその一人だろう。すると、木ノ葉丸の視線に気付いたナルトは術を解く。
「変な目で見てねえで次はお前の番だ。いいか? この術に必要なのはイメージだ。さっき見せたようにスレンダーなボディ。そして出るとこは出す。大切なのはボン!! キュッ!!、ボン!! だ。さあ、やってみろ」
「おーし 見てろぉ 変化 おいろけの術!!」
木ノ葉丸は印を組み、術を発動させる。しかし、煙の中から出てきたのは太った女の姿。確かに出るとこは出ているが、これでは相手を悩殺する事は不可能である。当然、それを見たナルトは容赦なく、ダメ出しをした。その後、何度となく変化を繰り返す木ノ葉丸にナルトはダメ出しをする。
次第に熱が入ってきたのか。二人は諦める事なく、この奇妙な特訓を続けた。
一方、姿を消した木ノ葉丸を探すべく、高所から里を見渡すエビスの姿があった。見慣れた風景を見渡し、彼は今まで教え導いてきた子供達の事を思い返していた。自分が手を掛けた多くの子供達は、みな真面目に己を磨き、知識を蓄え素晴らしい忍となっていった。
現在の教え子。木ノ葉丸もその一人で彼が火影を目指していると、知った時は喜びに打ち震えた。それから彼は教育は熱が入っていった。変な物に感化されない様、悪影響を与える者から遠ざけて来た。そして今、その木ノ葉丸がナルトと行動しているとヒルゼンから聞いた時、エビスは静かに怒りを覚えた。
「見つけた。九尾の小僧め。お孫様に余計な事を吹き込んでなければいいが…」
遠くの森に二人の姿を確認したエビスは、全速力で駆けて行った。
一向に進まない特訓に疲れた二人は、切り株に腰掛けて休憩をしていた。すると気になっていた事をナルトは思いきって、木ノ葉丸に尋ねた。
「ところでさ… 何でお前は火影のじいちゃんを倒したいんだ? 別に何か、嫌な事をされた訳でも無いんだろ?」
「俺の木ノ葉丸という名前…。これを付けてくれたのは、じいちゃんなんだ。里にあやかり、また俺が里を好きになる様にってさ」
「良い事じゃねえか。そこまでして貰って何でなんだよ?」
話を聞いて、増々理由が解らなくなった。ナルトは急かす様に話を促す。すると、木ノ葉丸は唇を噛み締め、言葉を絞り出す。
「誰も呼ばないからだ。覚えにくい訳でもねえのに…。皆、俺を見ればお孫様。お孫様としか呼ばない。それって、誰も俺の存在を認めてないの同じじゃないか。だから俺はじじいを倒して、火影の名前が今すぐ欲しいんだ!!」
次第に昂って、感情のまま気持ちを吐き出す木ノ葉丸へ。ナルトは静かに言葉を投げ掛けた。
「バーカ 火影になるって、そんな簡単な事じゃねえよ。少なくとも今のお前じゃ、絶対無理だ」
「何だと…!? じゃあ、そういうお前はどうなんだ コレ。 知った様な口を聞きやがって、お前も火影になりたいって聞いたぞ。お前と俺の何が違うんだ。言ってみろ!!」
そう言って、木ノ葉丸はナルトを睨み付けた。その視線を受け止め、木ノ葉丸の問いに答えようとした時。木ノ葉丸を追って来たエビスが木の上に姿を見せる。
「見つけましたよ。さあ、帰りましょうお孫様。この後、忍術の練習が控えてますからね。それと…そこの君。金輪際、お孫様に関わらないで貰いたい。もし…近付いたらタダじゃおかない」
木ノ葉丸と違い、エビスがナルトに向ける目はとても冷たい。見覚えのあるその目にナルトの脳裏に嫌な記憶が過る。里の皆が…その目で俺を見る。まるで自分の存在を否定する様に。この男もまたその一人だった。
「俺は戻らないぞ。それに術ならさっき覚えたばかりだ。見てろ、変化!!」
木ノ葉丸が見せた術を見た途端、エビスは口を大きく開けて驚いた。何をするのかと期待して見守っていたが、変化した姿が何も羽織ってない女性だった。その品性も何も無い術にエビスはショックを受けた。やはり、こいつといると悪影響しか与えない。エビスは木ノ葉丸の腕を掴んで、この場から立ち去ろうとした。しかし、踏ん張って抵抗する木ノ葉丸の力も強く、手古摺っていた。
その様子を見ていたナルトは、そっと印を組んで影分身の術を発動した。現れた分身と本体の視線は、全てエビスに向けられている。その行為を自分に対する挑戦と受け取ったエビスはナルトを鋭く睨み返し、獰猛な笑みを浮かべて「私とやるつもりか? 身の程知らずが… ミズキを倒して調子に乗ってるお前に格の差を教えて上げますよ」と言い放った。無論、嫌っていても相手は子供だ。自分も本気でやるつもりはない。只、ほんの少し痛い目に合わせて木ノ葉丸と会わない約束をさせようと考えていた。
互いに睨み合い、微動だにしない二人の姿に。木ノ葉丸は緊張から唾を飲みんだ。沈黙の中、聞こえたその音を合図にナルトの分身が一斉にエビスへ駆けて行く。左右に別れて、エビスを取り囲んだ分身は皆、印を組むと更なる術を繰り出そうとしていた。その事にエビスは驚いた表情を見せる。チャクラの消耗が多く、扱いの難しい影分身を利用して術を出す等、大人でも出来る者は少ない。この子供は…本当に落ちこぼれなのだろうか? 彼はそんな疑問を抱いていた。
「必殺 おいろけハーレムの術!!」
その言葉どおり。裸の女性へ姿を変えた分身はエビスに抱きついた。腕に感じる弾力のある感触、それに耳元で囁かれる甘い声に彼は耐えきれず気絶してしまった。予想外の決着に木ノ葉丸は呆気に取られていた。また、こんな形でエビスが破れるとは思ってもいなかった。
「くっそぉ!! 何でお前に眼鏡が倒せて、俺は勝てないんだ コレ!! 早く火影になって、皆に認められる名前が欲しいのにぃ」
ナルトに出来て、自分に出来ない事が悔しいのか。目に涙を滲ませて叫ぶ。その姿が何処か過去の自分と重なって見えたナルトは、黙っていられず口を開くと諭す様に木ノ葉丸へ語りかける。
「火影を継ぐって事は…そんな簡単じゃねえよ。皆に認められた奴がなる事が出来る忍者だぞ。沢山の努力も必要だし、色々と嫌な思いをする事だってある。でもよ。そうして、俺を認めてくれる人がやっと二人出来たんだ。それだけでもスッゲー大変だったんだぞ」
あの日、自分に額あてをくれたイルカ先生の事。今日、アカデミーで会った老人の言葉。それらがナルトを一つの答えに導いた。その答えをナルトは木ノ葉丸にも伝えた。
「だから覚悟しなきゃ駄目なんだ。皆が認める火影に通じる道に…近道なんて、絶対無いって事をよ」
その言葉は…木ノ葉丸の心に深く沁みこんでいった。そしてグッと唇を噛み締めると何かを決意した木ノ葉丸はナルトに己の気持ちをぶつけていた。
「お前の子分は辞めだ。もうお前なんか…親分じゃねえ。今日からは…ナルト兄ちゃんは俺のライバルだ。どっちが先に火影になるか勝負だ コレ!!」
「望む所だ。俺もお前に負けねえよ。なぁ木ノ葉丸…」
自分の名を呼んで、去って行くナルトを木ノ葉丸は泣きながら見送った。その光景を水晶を通して見ていたヒルゼンは、また一段と成長したナルトと木ノ葉丸の姿に嬉しそうに笑う。木ノ葉の里を支える子供達の心に火の遺志が着実と受け継がれていた。
今回のお話。いかがだったでしょうか?
原作通りだと短めになってしまう為、登録書提出に至る過程を付け加えてみました。それとアニメオリジナルのキャラ。下忍人生50年のコスケさんにも少しですが、出番を与えてみました。きっと、下忍の任務にはこういった仕事もあるだろうな。そして、不意にナルトと出会ったらどうなるかな?と思っての事です。
それとサチさんの出番。次も少なくなりそうですが、それ以降は原作も加速するので出番も増えていきます。
また感想があれば、一言でもいいので残してくれると嬉しいです。