NARUTO 六道へ繋がる物語   作:アリアンキング

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最新話、お待たせしました。

最近、同人ポイント集めやらリニューアルされた海域を攻略していた為に遅れた次第です


第二十一話 渦巻く狂気!

「どうやら、奴らは去ったようだな」

 

 

 辺りの気配を探っていた少年 日向ネジはそう呟いた後。座り込んでいるサスケを見下ろしていた。あの時、感じたチャクラの大きさ。その異常さに彼はサスケの中に宿るうちは一族の力に、ネジは畏怖を覚える。試験開始前と違って、何かしらの力を手に入れたのだろう。先程、見せたサスケの力と己の力。どちらが上か確かめたくなったが、隣で心配そうにリーを見つめるテンテンに気付いて、ネジはその気持ちを引っ込めた。今は仲間が先決だ、奴とは何れ戦うだろう。そう自分に言い聞かせ、昂った感情を鎮める。

 

 

 

 

 一方、未だに眠り続けるナルトをシカマルとチョウジが呆れた顔で見ていた。あれ程の騒動が起きたというのに、呑気に寝てるナルトに腹が立ったのか。近くに落ちていた木の棒を持ったチョウジが、ナルトの頭を軽く小突いた。その時までサクラと過ごす夢を堪能していたナルトだったが、急に大蛇丸に襲われる夢に変化し、ナルトは跳び起きた。

 

 

 

 そして未だに寝惚けているのか。辺りを見回し、地面に伏せたナルトは、「皆、気を付けろ!! あいつが襲ってくるぞぉぉぉっ!!」と叫んだ。しかし、その場に件の大蛇丸はおらず、いるのは呆れて白い目を向ける木ノ葉の面々だけである。その事に漸く、大蛇丸がいない事に気付いてナルトは首を傾げた。

 

 

「起きて早々、賑やかな奴だな」

「は? 何でシカマルが此処にいるんだ? それにチョウジやいのまで…」

「はぁ…やっとかよ。まあ、今から説明してや「サクラちゃーん 無事だったんだな!!」おい、こらぁ!!」

 

 

 

 状況が分からず、混乱するナルトにシカマルが説明しようと口を開いた時。遠くにサクラを見つけ、駆けていく。そんなナルトに怒りを覚え、声を荒げるシカマルだが…本人には届かない。もう知った事かと、すっかり屁を曲げた彼をチョウジが宥めていた。

 

 

 

「サクラちゃん その髪…一体、どうしたんだってばよ?」

「え? ああ、これは…イメチェンよ。ほら、髪も長くなったし、そろそろ切ろうと思ってたからさ」

「ふーん そっか」

「‥‥」

 

 髪の事を尋ねるナルトへ、そう答えたサクラだが、それが強がりなのは誰が見ても分かる。勿論、ナルトも理解していた。だからこそ、敢えてそっけない言葉を返した。内心では、慰めたい気持ちもあるが…どういった言葉をかければいいのか分からず、また下手な慰めは彼女を傷つけるだけと思ったからである。

 

 

 

 逆にサスケは何も言わなかった。いや、言えなかった。こうなってしまったのは、大蛇丸に襲われて気を失った自分達を守っての事だ。それ故、目が覚めた時。サクラをそうさせた自分と敵に激しい怒りを覚えた。先程の戦いはある意味では、八つ当たりでしかない。しかし、それで更にサクラを追い詰めてしまった事にサスケは自責の念に囚われていたのだ。

 

 

「そういや、サクラちゃん。何であいつらがいるんだ?」

「あんた… さっきも同じ事を聞いてなかったっけ? いの達が助けに来てくれたのよ。それに…あそこにいるリーさんもね」

 

 

 

 サクラはいのに介抱されているリーを見て、ナルトに訳を話した。それに釣られてナルトもリーに視線を向けると、確かに彼はボロボロになっている。サクラを守る為、相当な無茶をしたのだと一目で分かる程であった。

 

 

「リーが世話になったわね。あとは私が看るわ」

 

 

 そのリーに近づいて来たのは、同じ班のテンテンだった。彼女はいのからリーを預かると、何と彼の肩を揺さぶって容赦なく起こす。若干、強引ではあるが…それはリーをよく知る彼女だからこそ、取った行動である。

 

 

「あ、テンテン…どうして此処に?」

「リーを迎えに来たのよ。いつまで経っても戻って来ないからさ。そうしたら、この場に出くわしたって訳」

「そうでしたか。そうだっ!! 音忍達はどうしました?」

「ああ、あいつらなら…サスケという子が追っ払ったわよ。物凄い強くて驚いたわ」

「サスケ君が? そうですか…彼が」

 

 

 若干、ぼんやりした様子で尋ねるリーにテンテンは、簡潔に説明した。その最中、サスケの名を聞いて彼は表情を暗くする。自分では敵わなかった音忍を彼は一人で追い払った…この事実が少しだけ、リーは悔しかった。それに気付いたテンテンだったが、敢えて知らない振りをして彼に話しかける。

 

「それよりも、何で単独行動をしたのよ。何かを見ても、勝手な事はしないって決めたでしょ」

「う…、それは分かってたけど、サクラさんの危機に放っておけなくて…」

「あんたって、本当にバカね。それでボロボロになってたら、体が持たないわよ」

「ハハハハ、それには返す言葉も無いっす」

 

 

 本来ならば、三対一でもリーは負ける事はない。恐らく、サクラを庇ったが故に負けたのだろう。テンテンはそう思っていたが、リーは自分が油断して負けた事を責めているのだと思っていた。そんな中、リーに気付いたナルトが声をかける。

 

 

「あーーー お前、あの時のゲジマユじゃんか。そっか。お前もサクラちゃんを「リーさんに何て事を言うのよ。この馬鹿ぁぁぁ。失礼でしょうが」ぐえっ!」

「あいつ…。散々な目に遭ってるな。礼を言おうとして殴られるとは…」

「だね。不幸な星の下に生まれた感じだよ」

 

 

 

 

 

 ナルト本人は、サクラを助けたお礼を言おう。そう思ってリーに声をかけたのだが、ある単語を聞いたサクラに殴られてしまう結果に終わる。その一部始終を目撃したシカマルとチョウジが、不憫だと人知れず呟いていた。ナルトを殴ったサクラは、リーに向き直ると静かに口を開いた。

 

 

「今回、助けてくれてありがとう。私、リーさんのおかげで大事な事に気付けました。少しだけど、強くなれた気がします」

「サクラさん。いえ、自分は礼を言われるような事はしてません。実質、音忍を倒したのはサスケ君ですからね。僕はまだまだ精進が必要みたいです」

 

 

 

 サクラの傍でリーの話を聞いていたサスケは、彼が音忍にやられた事に驚いていた。何せ、サスケが敵わなかったリーが負けた。相手はそれ程の敵だったのだろうか?しかし、自分が戦った時はそう感じなかった。思えば、あの時の自分は正気では無かった。そういう意味では、己の力で挑んだリーの方がまだ上であろう。

 

 

「それとね。今回、結果として僕は負けてしまったけど…次は負けません。サクラさん 木ノ葉の蓮華は二度咲く。今度会った時にそれをお見せします」

「うん」

 

 

 力強くそう言ったリーにサクラは笑って応えた。その光景をテンテンは複雑そうに、そしてナルトは不貞腐れた様子で見つめている。

 

 

「サクラーー。ちょっと、こっちへ来なよ。髪…整えてあげるからさ」

「……。お願い」

 

 

 そして話が終わったタイミングで、いのがサクラを呼びかける。一体、何の用だとサクラが近寄っていくと…いのは不揃いの髪を指差してそう告げた。言われるまで、気付かなかったが確かに髪の長さはバラバラだ。この場で頼める相手は彼女しかいない。サクラは、いのの申し出に甘える事にした。

 

 

「全く、あんたって奴は…。戦う為とはいえ、此処までやる?」

「ふーんだ。そうしないと、皆が危なかったのよ。それに…あの時、誰かの為に戦う時が来る。私にそう言ったサチ先生の言葉も思い出したのよ」

「…そう。ねえ、そのサチって人。どんな人なの?」

「うん。サチ先生は私の目標かな。いつかあの人と肩を並べられる忍になるの。まあ、それには未だ遠いんだけどね」

「そっか。あんたが敬う程の人か。それを聞いて、私も興味が出てきたわね。中忍試験が終わったら、会いに行ってみようかな」

 

 

 

 楽しそうにサチの事を話すサクラに、いのも自然とその人物に興味を抱く。余り他者に影響される事のない彼女が、此処まで言うのだ。気になるのも無理は無い。

 

 

 

「はい 終わったわよ。あんたの髪、手入れが行き届いてるから楽だったわ」

「ありがとう。でも、短くなったら…項が変な感じね」

「まあ、時期に慣れるわよ。それにしても…サクラ」

「何よ?」

「あんた。さっき、さり気なくサスケ君に抱き付いてたわね。あんな小細工、何処で覚えたのよ?」

「ふふん。世間じゃ、先手必勝は恋の秘訣よ。いのも見習いなさいな」

「何ですって!? 余計なお世話よ。このデコデコ」

「ふーんだ。悔しかったら、いのブタも精進なさい」

 

 

 些か、暗い雰囲気になった時。それを拭い払おうといのは別の話題を振った。また、サクラも彼女の気遣いに感謝しながら、その話題に乗っかった。お互いに言葉の応酬を楽しんだ後、二人は顔を見合わせて笑った。サクラの顔を見て、いのは安堵した。どうやら、髪の事を吹っ切れた様だ。仲間を守る為の行動とは言っても、ショックを受けない訳ではない。機会があったら、久しぶりに髪飾りを贈ってあげよう。仲間の元に歩いていくサクラを見送りながら、いのはそんな事を考えていた。

 

 

 

 そういったやり取りがあった後、それぞれの班はナルト達の元から去って行った。次に会う時は戦う事になるだろう。その時は負けはしないと、その想いを強く抱きながら。

 

 

 

 

 

 

 

 音忍の襲来から遡る事、数時間前。

 陽が昇り始めた頃、漸く森を抜けた二人は数匹の猛獣に囲まれていた。なるべく、安全なルートを通っていたが…思いも寄らぬ事にサチ達は、猛獣の縄張りに足を踏み入れてしまう。

 

 

「くそ…。こんな時に限って、面倒な事が起こるのよね」

「そうね。けど、此処で足止めをされる訳にいかないわ。とっとと黙らせて急ぎましょ」

「一応…言っとくけど、殺しちゃ駄目よ」

「木ノ葉の希少動物だからでしょ? 分かってるわよ。まあ、殺しはしないが…ある程度は痛め付けないと立ち去りはしないよ。こいつらは」

「ええ。それは仕方ないわね」

 

 

 じりじりと距離を詰める猛獣たちは、一定の位置に来た途端。一斉に向かって来た。それに応戦しようと、サチ達が身構えた時、猛獣の動きがぴたりと止まる。一体何が起きたのか、突然の事に困惑する二人だったが、それが金縛りの術であると分かった。それをやった者達に二人は視線をやった。

 

 

 

「危ない所だったな、二人共」

「やっと、来たんですか。暗部の癖に来るのが遅いのよ」

「そう言うな。こっちだって、散々探し回っていたんだ」

「まあいいわ。とりあえず、火影様に…。ぐっ!!」

「おい!? 大丈夫か?」

 

 

 

 会話の最中、表情を歪めてアンコが膝を附く。それに暗部の一人が駆け寄って、声をかけた時。不意に見えた呪印に暗部の様子が変わった。

 

 

「…これは呪印じゃないか。お前、大蛇丸に会ったのか?」

「そうよ。あいつと一戦交えたわ。あたし一人で片を付けるつもりだったけど、サチがいなかったら最悪の事になってたわね」

「分かった。だが、今は火影様の所に来てもらうぞ。二人には、事情を話してもうおう」

「駄目よ!! あたしは塔に向かうわ。まだ試験の途中だし、試験官のあたしが不在じゃ示しが付かない」

「な、何を言ってるんだ!? 大蛇丸、奴が来た以上。試験をやってる場合では無い。それはお前も分かってるだろう」

 

 

 アンコの異常に気付いた暗部が、大蛇丸の名を出すと本人は首を縦に振った。嫌な予感は暗部の彼も感じていたのだろう。仮面越しにだが、優れない表情を浮かべているのが分かる。そして、暗部は二人をヒルゼンの元に連れていくと口にする。只の賊ならば、自分達で対処しようにも相手が大蛇丸となれば、話は別だ。それ故、暗部の者達は火影に報告して指示を仰ぐ事にした。しかし、その意見にアンコが異を唱える。彼女いわく、未だ試験は続行中で、試験官の自分が途中で抜ける訳にいかない。彼女は強い口調で言った。

 

 

 

 だが、暗部の者も引く事はない。今起きている事態を考えると、試験などやっている場合ではない。アンコが何を考えているのか、暗部たちは分からず困惑する。

 

 

 

「あたしが言ってる事に納得出来ないのは…分かるわ。でも、今は黙って塔まで来て頂戴。詳しい話はそこで説明うするから。それと火影様にも、塔へ来る様に伝えて」

「…いいだろう。此処で問答しても仕方無いからな。そのかわり、きっちりと話してもらうぞ」

 

 

 

 頑ななアンコに、暗部はため息を吐いて折れた。こうなってしまっては、彼女は絶対に譲らないだろう。それにもうすぐ猛獣の術も解ける頃だ。押し問答をして、平行線を辿るよりもさっさと塔へ向かった方が先決だ。彼は一人の暗部にヒルゼンへの伝達を任せ、残った者達で塔に向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 塔にやってきた一同は、人気の無い部屋にいた。そして開口一番に暗部の一人が、状況の説明をアンコ達に求める。

 

 

「さて、事情を話してもらうぞ。試験を続ける理由も踏まえてな」

「…今が大変なのは分かってる。だけど、試験を止める訳にいかないのは…「アンコさん 此処にいましたか。至急、報告したい事があります」一体、何よ!? 今取り込み中なのよ!!」

 

 

 説明をしようとした矢先、突然入ってきた中忍によって話が遮られた。それに怒りを覚えたアンコが、声を荒げて叱責するが…当の本人は、慌てた様子でアンコに確認してほしい事があると告げる。今度は何だ?と首を傾げる一同だったが、考えても仕方無い。一同は中忍に導かれてある場所へ移動した。

 

 

 一同が来た部屋は監視室であった。数あるモニターには、塔内部に仕掛けられた映像が映し出されている。もしや‥大蛇丸を発見したのか?そう思っていたが、中忍は一本のビデオテープをデッキに差し込んだ。そして映し出された映像に一同は目を向ける。

 

 

 

「…いいですか? よく見て下さい」

「何が映っているかと思えば、只の受験者じゃないか。これがどうしたんだ?」

「一見、何の変哲もない様に見えますが…これは普通じゃないんです。右上の時間に注目して下さい」

 

 

 その言葉に従い、そちらを見れば時間が表示されている。だが、これといった変化は無い。一体、彼は何を見せたいのか。それが分からず、些か苛立ちを覚えたアンコが尋ねる。

 

 

「さっきから何よ。もっと分かりやすく言いなさい」

「気付きませんか? この時、まだ一日目なんですよ」

 

 

 

 此処でやっと、アンコは映像の異常に気が付いた。表示されている時間通りなら、此処に映っている三人は1時間程で第二試験を突破した事になる。

 

 

 

「…嘘でしょ。それが本当なら、彼らは既に中忍クラスよ」

「そうね。しかもそれだけじゃないわ。あいつらの服を見てみな…」

「服? …!? これって、つくづくあり得ないわね」

 

 

 

 映像に隠れた事実を知って、サチは驚愕する。早く着いただけでも驚く事だが、一番の衝撃は三人の服が汚れていない事だ。今でこそ、出来る事ではあるが…同じ歳でこれをやるのは無理だ。その事から彼らの実力が伺い知れる。

 

 

 

「成程な。こんな奴らが出てきたら、試験を止める訳に行かない訳だな。しかし、嫌な目をしてる奴だな。このガキ…」

「彼は砂の忍で名前は…そう、砂漠の我愛羅と言ってたわね」

「ほう。同盟国の奴か。これは将来が楽しみだな。まあ、木ノ葉に牙を向かない事を祈ろうか」

 

 

 映像を見て、暗部がそう呟くが…その予想は遠からず当たる事になるのを彼らは知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 時間は戻り、第二試験の一日目。

 開始から50分、紅班のメンバー達は早くも巻物を揃え、塔を目指していた。

 

 

「ヒャッホゥーーー まさか、罠にかけた奴らが地の巻物を持ってたとはなぁ。もしかしたら、俺達が一番に着くかもしれねえぜ」

「キバ、調子に乗るのは良くない。それと叫ぶのも、止めるべきだ。何故なら敵に気付かれる可能性があるからだ」

「そんなの言われなくても、分かってるよ。ったく、相変わらず口煩い奴だよ。おまけに変な喋り方だしよ」

「で、でも…シノ君の言ってる事も一理あるよ。もし、強い敵に出くわしたら…大変だもん」

「分かったよ。シノも悪かったな」

「別に気にしていない。何故ならお前の言葉に、悪意は籠っていないからだ」

 

 

 

 シノに突っ掛かるキバを紅一点であるヒナタが諌めた。二人に言われてしまっては、流石に分が悪い。キバは素直に己の否を認め、シノに謝った。彼自身、別段チームの中を険悪にしようと思っていない。何だかんだでキバは、今の仲間達を信頼している。だからこそ、さっきの様な言い合いが出来るのだ。

 

 

 

「…!! 待て、二人共。どうやら、赤丸が何かを感じたようだぜ。ヒナタ…あの方向、一キロ先を見てくれないか?」

「うん。確かに先に誰かいるよ。えーっと、赤い髪の瓢箪を背負った男の子とあとは…良く見えない」

「…森にいる虫の話では‥いるのは六人の様だな。位置と数が分かったのは朗報だ。此処は避けて通るのが、良いだろう」

「いや、折角だ。奴らの様子を見に行こう。どちらが勝つにしても、情報は多い方がいい」

「何を言ってる? それには反対だ。天地の巻物が揃った以上、無闇に危険へ首を突っ込む必要はない」

「落ち着けよ。何も真っ向から挑む訳じゃねえ。第一、狙うのは両者が戦い終わった後を狙うのさ。戦いとなれば、無事に済む筈がねえ。何よりも他の巻物を俺達が独占すりゃ、他のライバル達を蹴落とす事が出来るんだぜ」

 

 

 相手の人数と正体を知り、避けて通ろうと宣言するシノに対してキバは偵察に行くと言い出した。これにはシノも堪らず眉間に皺を寄せて、苦言を申す。それも当然だ。試験突破に必要な物は揃っている。しかも運が良い事に全員も無傷のままでだ。それなのに当の本人は、危険に飛び込むという。続けて言ったキバの言葉も理解は出来るが、リスクも高い。戦いで疲弊した後を狙うといっても、相手も必死に抵抗するだろう。追い詰められた者が発揮する強さは計り知れない。

 

 

「あくまで様子を見るだけだ。相手次第では、シノの言う通り。避けて通るからよ。とりあえず、行こうぜ」

「キバくん。待って、行っちゃった…」

「やれやれ。面倒な奴だ。ヒナタ、こうなっては仕方ない。俺達も行こう。あいつがこれ以上、勝手な真似をしない様に見張らないといけない」

 

 

 

 敵がいる場所へ向かったキバを追って二人も駆けていく。キバと合流した二人は、敵に見つからない場所で様子を窺う。幸いな事に戦いは始まっていない様だが、一触即発の空気を醸し出している。耳を澄まして彼らの会話を盗み聞こうとするが、距離が遠くて聞こえない。その時、傍らにいた赤丸の変化にキバは気付いた。赤丸は体を丸めて震わせていた。まるで何かに怯える姿に、キバの胸に不安が生まれた。

 

 

「…此処で戦ってる奴ら。どうやら、相当の手練れみたいだな」

「何故、分かる? まだ戦いは始まっていないぞ」

「赤丸はよ。相手の匂いから力を度合を計れるのさ。そんで本能的に自分じゃ、勝てないと悟っちまった。この怯えようは今まで見た事がない」

「そ、それじゃ…私達が挑んでも勝てないって事?」

「ああ。恐らく、返り討ちに会うだろうぜ。すまねえ二人共…今回ばかりは、俺が馬鹿だったぜ」

「謝るな。俺達もしっかりとお前を止めなかった否がある。此処は息を潜めてやり過ごす事に専念しよう」

 

 

 

 

 自分が我を通した所為で、仲間を危険に巻き込んだ事をキバは謝った。あの時、シノの言う通りにしていればこうはならなかった。だが、シノから返ってきた言葉は意外にも、彼を励ます言葉であった。それにキバの心は軽くなる。そして二人はシノの指示に従い、息を殺して視線を対立する者達へ向けた。

 

 

 

「おい いきなり絡んで来るとは‥どういうつもりだ? 第一、砂の忍風情が雨隠れの俺達に勝てると思ってんのかよ?」

「御託はいい。やるなら早くかかってこい。それとも…脅すだけしか能が無いのか?」

「なぁ。我愛羅、喧嘩仕掛けんのはいいけどよ。相手の持ってる巻物が同じだったら、戦うだけ無駄じゃん」

「関係ないな。違ったら、別の奴を狙えばいい。どの道…目があった奴は全員皆殺しだ!!」

 

 

 

 殺気を出して言った言葉に、雨隠れの忍達に緊張感が走る。どうやら見た目に反して、腕が立つと踏んだ雨隠れの男は先手必勝と、自らの術を発動した。

 

 

 

「食らえ!! 忍法 如雨露千本」

 

 

 

 男が印を結ぶと背中の傘が浮びあがり、そこから我愛羅に向けて無数の千本が飛んでいく。その数はどうやっても躱す事は出来ないだろう。また躱せたとしても、チャクラによって操られた千本は標的を逃がさない。

 

 

 この後、起こるであろう惨劇にキバ達は目を背けた。だが、いつまで経っても相手の叫び声が聞こえてくる事はない。それを不思議に思った三人が驚きの光景を目にした。何と我愛羅は全身を砂で囲い、迫る千本から身を守っていたのだ。

 

 

 

「それだけか? お前の術とやらは…」

「な、馬鹿な…。あれだけの数を全て防いだのか」

 

 

 自信のある攻撃が全く通用していない事に、男は焦った。咄嗟に残った千本で再び攻撃を繰り出すが、それも砂に阻まれて届かない。この時点で、雨隠れの忍達の敗北は確定した。他の二人が攻撃をしても、同じ結果に終わるのは明白だった。何せ、三人の中で一番強いのは今戦っている男なのだから。

 

 

 その戦いとは言えないやり取りを、カンクロウは詰まらなそうに見ていた。我愛羅の防御は鉄壁だ。並の術や攻撃等、彼には一切通用しない。そして…自分に牙を向いた彼らを我愛羅は逃しはしない。彼らの命運は自分達、いや我愛羅と会った時から尽きていたのだ。

 

 

 

「お前が降らすのは、千の雨か。ならば、俺は血の雨を降らしてやるよ」

「こ、このガキぃ…。舐めんじゃねえぞ」

 

 

 

 我愛羅の言葉と表情。これで男の精神は崩れた。彼は叫び声を上げながら、我愛羅に向かっていくが…男は彼が操る砂に捕まって、拘束されてしまう。その砂は石の様に固く、男が抜け出そうと何度も力を入れるものの、それはびくともしない。

 

 

「お前の顔も覆ってしまってもいいが、それだと見れないからな。お前の死ぬ瞬間の顔が‥」

「な、待て。待ってくれ。俺の負けだっ!! だから見逃して「うるさい」た、頼む」

「もう遅い。砂漠送葬」

 

 

 我愛羅が男に向けた手を握り締めると、それに連動して砂が男を圧迫し、彼の肉体を無惨に押し潰した。砂からは溢れ出した男の血が、地面へぼたぼたと流れ落ちていく。陰で一部始終を見ていたキバ達は、絶句していた。強気だったキバは青ざめ、シノも冷汗を掻いている。ヒナタに至っては、涙を流して歯を震わせていた。咄嗟にシノが彼女の口を抑えた為、音が漏れる事は無かった。

 

 

 

「こ、降参だ。俺達の巻物は渡すよ。だから…ヒィィィ」

「どうして…負けを認めると言ってるのに。うわぁぁぁぁ」

「どうしても何も無いだろ? 忍の戦いはどちらかが死に絶え、どちらかが生き残る。お前達が負けを認めたという事は、死ぬ事を認めたという事さ」

「そ、そんなぁ。いやだぁぁぁぁぁ!! お前達も何とか言ってくれよぉぉぉ。あいつを止めてくれぇっ!」

「無理だな。諦めるしかないじゃん」

「バイバイ」

 

 

 

 自分のリーダー格が殺されて、完全に戦意を喪失した雨隠れの忍達は、巻物を差し出して巻けを認める。しかし、我愛羅はその二人を砂で拘束した。この後、自分達を待ち受ける運命を想像して二人は、泣き喚いて後ろの二人に助けを求めるが、カンクロウとテマリは彼らの懇願を払い退けた。

 

 

 その後、二人も最初の男と同じ運命を辿る。だが、彼の狂気は未だ収まる事はない。

 

 

「…いつまで覗き見をしている? いい加減、出て来たらどうなんだ?」

 

 

 そして底抜けの無いその狂気が、今キバ達に襲い掛かろうとしていた。

 




今回、中忍試験編の重要人物の我愛羅にスポットを当てました。
この時の我愛羅、白や再不斬よりも危ないと感じたのを覚えてます。


次回はキバ達の修羅場脱出から第二試験終了までを予定してます。
また次回からは、投稿ペースを少し落とそうと思ってます。理由は今後の展開を考えたり、リアルでやりたい事を優先する為です。

どうぞご了承下さいませ。


それと一言でも良いので感想の方もお待ちしています。

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