一気に詰め込んだ為、長いですが…どうぞお楽しみください
合格者の説明会 当日の朝。ナルトは普段よりも早めに目を覚ましていた。以前は毎日の様に寝坊や遅刻を繰り返していた彼も、今日から本当の忍者となる。この事実がナルトの心境に大きな変化を齎していた。
身支度を済ませ、リビングに行くと朝食の用意をしていたサチにナルトは朝の挨拶を交わす。
「姉ちゃん おはようってばよ」
「おはよう 今日は珍しく早起きね。あとで起こそうと思ってたけど、必要無かったか」
「当然だってばよ。何せ、今日から俺も忍者だしな。いつまでも子供扱いはするなって」
「よく言うわねぇ! まあ、少しは自覚が出来たのは良い事よ」
胸を張ってそう言うナルトにサチは苦笑いして言葉を返す。だが、ナルトが日に日に成長している事も事実である。近い将来、一人前になったナルトと肩を並べる日も来るだろう。サチはそんな未来を楽しみにしていた。そんな事を考えている間に食事を終えたナルトは、いそいそと玄関に向かった。
「もう行くの…? まだ、開始まで時間はあるわよ」
「ああ。それは知ってるよ。だけど、折角早起きしたんだ。どうせなら会場に一番乗りしようと思ってさ」
「そう。大丈夫だとは思うけど、説明の最中に居眠りしないでよ。門出の一歩がそれじゃ格好つかないからね」
「心配いらないってばよ! じゃ、いってくる」
サチの言葉に笑って返事を返すナルトに心配は尽きないが、本人が言うなら大丈夫なのだろう。元気よく会場へ走っていく姿をサチは窓から見つめていた。
説明会の会場である忍者アカデミーに到着すると、そこには既に他の合格者達の姿があった。どうやら、他の者達もこの日を待ち望んでいたのか。皆、期待と希望に満ちた表情を浮かべている。
入り口に貼られていた案内板に従い、待機場所となる教室へ移動するとナルトはある少年の姿に気付いた。特徴的な黒髪とうちわの模様がある服。うちはサスケであった。アカデミーに通っていた頃から何をやらせても優秀な成績を持つサスケを、ナルトはライバル視していた。何度も彼に挑んだが、一度も勝った試しはない。
ナルトにとっていけ好かない相手だが、自分を意識させようと敢えて彼の隣に腰を下ろした。しかし、サスケは自分を一瞥しただけですぐに視線を窓の外にやる。その態度が癪に触って、ジト目で睨むがサスケは完全に無視を決め込んでいた。するとそんなナルトの傍にある少女が近寄ってくると声をかけた。
「ちょっと、ナルト。そこの席からどいてくれる? 私、そこに座りたいの」
「え? サ、サクラちゃん。ああ、勿論だってばよ。はい どうぞ」
ナルトに話しかけてきた少女。それは春野サクラだった。名を現すような桃色の髪とそこから覗くおでこが彼女の魅力を惹き立てている。サスケと同じく同期である彼女にナルトは、淡い恋心を抱いていたが…当の本人はサスケに熱を上げている。そんなサクラが自分に声を掛け、隣に座ってくれる。
そう思ったナルトは座れるスペースを作るが、「違う!! 私はあんたの先にある席に座りたいのよ。さっさとどけナルト」と怖い顔で怒鳴ってきた。
自分の先の席にいたのは、サスケ一人。サクラの目的が彼だと知り、ナルトは再びサスケを睨んだ。流石のサスケもその視線が気に障ったのか、端整な顔を歪めて睨み返すと口を開く。
「さっきから一体、てめえは何なんだ? 用がねえのに見てくんじゃねえよ!! うざいったらありゃしねえ」
「んだと!? てめぇこそ、その口は何だよ」
「あんたもよ! ナルト。サスケ君に絡んでじゃないわよ!! それよりも早くどきなさいっての」
サスケの言葉にナルトが反応し、ナルトの態度にサクラが怒る。最早、同期達の間で恒例となっている三人のやり取りを教室内の生徒達が面白そうに眺めていた。結局、サクラによって席をどかされたナルトは不貞腐れていた。サクラはうっとりした表情でサスケを見つめ、さり気なく距離を詰めていく。
自分が好意を寄せてる少女を気にも留めないサスケに、ナルトの苛立ちは募るばかりであった。こんな奴の何がいいんだ…? ムスっとした顔でサスケが座る机にしゃがみ込んでナルトは、三度睨みを利かせた。
「どけよ。うぜえ奴だな」
「フン。お前こそ、うぜえよ」
何度もジロジロと見てくるナルトの行動にサスケも苛立ち、本音をぶちまけた。その言葉にナルトも負けじと言い返す。更に言い返そうとサスケが口を開いたその時だった。前の席に座っていた少年の腕が偶然にもナルトの背に当たり、前に倒れ込んだ拍子に自分の唇がサスケの唇と重なってしまう。
思わぬ出来事に固まる二人だが、我に返ると素早く離れて口を拭う。まさか、気に食わない奴とこんな事になるなんて最悪の日だと、嘆いていると不意に殺気を感じてナルトが振り変える。すると今までにない怒りの表情で自分を見るサクラがそこにいた。
「待って、これは…事故。事故だってばよ」
「黙れ よくも私の夢をひとつ壊してくれたわね!! 歯食いしばれや ナルトォォ」
そう叫ぶサクラの容赦無い鉄拳制裁がナルトを襲う。右へ左へと拳を打ち込まれるナルトの姿に、流石にサスケも同情する。一切抵抗する事無く、殴られるナルトの姿に文句を言う気も失せていた。
朝の珍騒動から数十分程して、教室の戸が開かれイルカが姿を見せた。すると騒いでいた者達も元いた席に着き、イルカを緊張した面持ちで見つめる。そんな全員を見渡した後、イルカは静かに話し出す。
「今日から皆は忍者となって、里を支えて行く。これから請け負う任務については…今後三人一組の班を結成し、担当する上忍の下でやってもらう」
その話を聞いて、教室内に騒めきが走る。誰と組もうか。あいつとは組みたくない。そんなやり取りをする声があちこちから聞こえてきた。それはナルト達も例外でなく、サスケは足手纏いが増えて面倒と。サクラはサスケと同じ班になりたい。ナルトはサクラと一緒で、サスケ以外なら誰でもいい。三者三様の考えを廻らせる。
「そこで班の組み分けだが、バランスが取れる様にこちらで決めた。それでは各班と組むメンバーを発表するぞ」
イルカの言葉に不満を洩らす者もいたが、それを無視してイルカは各班に入る者達の名を読み上げていく。
「次は…第7班!! 春野サクラ、うずまきナルト、それとうちはサスケ。この三人で組んでもらう」
「ちょっと待ったぁぁ!! イルカ先生、何で優秀な俺がサスケと一緒なんだよ」
「何でも何もない。サスケは卒業者の中で一番の成績を収めている上、お前の成績は卒業者の中で最下位だ。それにさっきも言っただろう? 班の構成はバランスが取れる様に決まってる」
組み合わせに異議の声を上げるナルトに、イルカは冷静に言葉を返す。言ってる事が事実の為、ナルトは二の句が告げず黙り込んでしまう。
「フン。精々、俺の足を引張ってくれるなよ。ドベのナルトくんよ」
「こ、この...てめえ、サスケェェ!! もう一度、言ってみろぉ」
「コラ、ナルト!! あんた、いい加減にしなさいよ」
サスケの挑発に腹を立て、掴みかかろうとするナルトをサクラが一喝する。そんな三人を見て、不安を抱くイルカだったが、これを決めたのは三代目火影だ。何か考えが合っての事だろうが、この班を担当する上忍は相当、苦労するだろうなとイルカは心の中で呟いた。その後、残っている班の発表を終わりイルカは話を締めくくる。
「班の発表は以上だ。午後に班を担当する上忍を紹介する。それまで一時解散して、1時間の休憩とする。その間、昼食を済ませて教室で待機する様に」
それだけ言い残し、イルカは教室を出て行った。それに続く様に他の者達も自由行動を始める。ある者は決まった班のメンバーと。ある者は一人でと様々であった。その後者であるナルトは、見晴らしの良い場所に腰を下ろして不貞腐れていた。サクラと同じ班になったのは最高だが、最悪な事にサスケとも同じ班になった事が気に食わない。
そんな時、通路を通るサスケを見つけたナルトは、ある事を思い付いた。思い立ったら、即行動。サスケに気付かれない様、注意を払いながらナルトは彼の跡をつけていく。そして部屋の窓辺に寄り掛かるサスケの背後に潜み。一瞬の隙をついて手にした縄をサスケに投げ付けた。
「てめえ、ナルトっ!! 一体、何のつもりだ!?」
「うるせぇ!! 静かにしやがれ…」
突然の事に驚きながらも抵抗するサスケを抑え付けようとナルトも応戦する。室内でドタバタと音を立てていたが、暫くすると静かになった室内から姿を見せた。そのサスケは窓枠に足を掛けるとそのまま外へ立ち去った。
彼が去った室内では、何故かもう一人のサスケが縛られて転がっていた。
一方、サクラは広場のベンチで持参した弁当を突きながら、サスケの事を考えていた。積極的に迫っても彼は自分に見向きもしない。少しでも関係を進展させたいと色んな努力をしてきたが、成果は無く。サクラは自分に対しての自信を失いつつあった。
その時、ふと顔を上げると正面の木に寄り掛かり、こちらを見るサスケの姿に気付いた。普段と違い、妙に熱い視線にサクラはありえない想像をするが、頭を振ってその妄想を振り払う。するとジッと見ていたサスケが、静かな足取りで近づいて来た。
「お前、よく見ると可愛い顔してるな。思わずキスしたくなるぜ」
「え? ど、どうしたの!? いきなりそんな事を言って…」
「冗談だ! ナルトだったら、そう言うだろうな。それとサクラ お前に一つ聞きたい。あいつ…ナルトをどう思う?」
真剣な表情でそう言うサスケに、サクラは顔を赤くして唖然とする。まさか自分の想像が現実になったのかと内心、舞い上がるが次に出た言葉で現実に戻された。ナルトをどう思う? その質問の答えをサクラは静かに考える。自分にとってのナルトの存在。自分の顔を見れば、いつも笑顔でずっと見てきた。そしてサスケに話しかければ、邪魔をするかの様にナルトが首を突っ込んでくる。その結果、二人の喧嘩に発展して、自分の事はいつも無視される。
考えれば考える程、ナルトに対する良い記憶は無い。それ故、口から出る言葉は自然ときつくなる。
「ナルトなんて…私にとってうざいだけ。そうと知らずに人の恋路の邪魔ばかり…。 私が認めて貰いたいのは…あいつじゃない。サスケ君よ。彼ただ一人に認めて貰いたいだけ」
サクラの言葉を彼は黙って聞いていた。サクラの言葉にはサスケへの強い想いが込められていた。
「私、その為に必死になって頑張って来た。だって、好きな人に認めて貰えるのは何よりも嬉しいから…」
自分の気持ちを伝えて、サクラは意を決して目を瞑る。彼は迫るサクラの顔から目を逸らせずにいた。あと少しでお互いの唇が触れそうになった時。突如、彼はお腹を抑えて苦しみ出す。
その事に戸惑い、サクラが尋ねるが彼は返事を返す事なく立ち去ってしまった。
サクラと別れた後、トイレに駆け込むと安堵して息を吐く。その際、使っていた術が解けて、ナルトの姿に戻っていた。元はといえば、ナルトはサスケに化けてサクラに嫌がらせをして仲違いさせるつもりだった。しかし、サクラが自分をどう思っているのか? その事が気になり、この機会にサクラへ聞く事にした。
サクラの言葉は正直、耳を塞ぎたくなる事ばかりであった。だが、ある一言で自分が何故、サクラに好意を寄せているのかを理解した。サスケに認めて貰う。その為に努力をするその姿に、自分は惹かれたのだ。
「でも、うざいか……。 俺は邪魔なんてするつもりは無いけど、サクラちゃんは違ったんだな」
例え、どう想っていても…自分の気持ちが届かない。その事が少しだけ辛かった。
ナルトが一人落ち込んでいた頃、自力で縄を解いたサスケはナルトを探していた。自分を縛った挙句、変化の術で自分に化けたナルトが良からぬ事を仕出かすかもしれない。無論、それはナルトの責任になって自分には関係ない事だが、つまらぬ事で自分の名が傷付くのは我慢がならない。
あちこち探しているが、一向に見つからない。そうしてる間に集合時間が迫り、サスケは諦めて教室へ戻る事にした。その道中、サスケは同じ班のサクラと鉢合わせする。折角だ、彼女にもナルトの行方を聞いておこう。そう思ったサスケはサクラに尋ねた。
「ナルトの奴を見なかったか? そろそろ集合時間だが、何処を探してもいやしねえ」
「いいじゃん あんな奴。放っておけば。大体、いつもサスケ君に絡むしさ。それにアイツ、両親がいないじゃない!! お姉さんはいる様だけど…きっと、甘やかしてるのね。だからあいつは我儘ばかり、私なんか我儘を言えば親にガミガミ言われるってのに…。ナルトはいいよね。親に怒られる事なんてないもの」
「孤独…。あの姉弟を包む現実は、親に叱られて悲しいってレベルじゃねえぞ。お前、うざいな」
ナルトの事を好き放題言っていたサクラに、サスケは鋭い視線で睨み冷たい声で言い放つ。自分としても、あいつはうっとおしい奴だが、サクラの口から出る悪口は聞くに堪えない。それに親がいない苦しみはサスケ自身、よく知っている。だからこそ、尚更に腹が立った。
サスケの思わぬ一面に、サクラは呆然としてベンチに座り込む。うざい。好きな人から言われたその言葉は、サクラの心を深く抉った。ああ。そういえば、自分もナルトにこの言葉をよく言っていた。もしかしてナルトもこんな気持ちだったのかもしれない。それでいて、変わらぬ笑顔を向けてくれるナルトに罪悪感が込み上げる。
「うざいかぁ…。言われると辛いものね。次からはもう少し、優しくなれるといいなぁ」
午後 はたけカカシは三代目火影 ヒルゼンと共にサチ達の家に訪れていた。家の戸を叩くとサチが顔を見せ、二人を家の中へ招き入れる。初めて入る同僚の部屋をカカシは、珍しそうに眺めていた。そんなカカシの様子に気付いたサチは、若干眉を寄せて苦言を洩らす。
「その…余りジロジロと見るのはやめてちょうだい。流石に失礼よ…」
「いやいや、失敬。何せ、人の家に上がる事は俺も初めてだからな。少し緊張してね」
「そういえば、お主は…人付き合いが得意じゃなかったのう…」
仲間と会う時、大抵は何処かの店でだ。人の家に上がる事も無ければ、家に上げた事もない。それ故、冷静な彼も人並みに緊張していた。この人でも緊張するのか。サチも見た事が無いカカシの一面に知らず笑みを溢す。そんな穏やかな空気の中。ヒルゼンは本題を切り出す事にした。
「さて、ワシらが此処に来た理由じゃが…サチ。お前には明日からカカシと一緒に担当上忍をやってもらいたい」
「担当上忍ですか…。やれと言うならやりますが、どうしてカカシと何ですか?基本、班に付く担当は一人の筈では…?」
「普通ならそうだ。しかし、今年は少々特別での。カカシ一人では、負担が大きいと判断しての事だ。何せ担当する班にはお前の弟だけでなく、うちはの生き残りもおるでな。話し合いの結果、カカシとお前が適任だと結論が出た訳じゃ」
ヒルゼンの言葉をサチは黙って聞いていた。確かにこのメンバーは特殊であり、一人では負担が大きい。しかし、カカシですら荷が重い事を自分にこなせるだろうか?そんな迷いがサチの中にあり、決断が出来ずにいた。
「まあ、いきなりの事で戸惑うのは分かる。だが、サチ。お前もそろそろ経験した方がいいでしょ。誰もが一度は通る道だ。それに一人じゃなく、二人でやるんだし。それ程、悩む必要はないよ」
サチの中にある迷いを感じ取ったカカシは、諭す様に言葉を掛ける。その言葉で心の迷いが和らぎ、サチは受ける事を決断した。
「…そうね。分かりました。担当上忍の件、お受けします」
「決まりじゃな。ならば、二人はこれから受け持つ班の迎えに行ってくれ」
「「了解」」
場所は変わり、アカデミーの教室。いくら待っても来ない担当上忍に、三人は苛立ちを隠せずにいた。他の班は既に連れられ、残っているのは第7班のみである。ナルトは戸を開いては、廊下を見渡すがやはり来る気配が無い。落ち着きのないナルトにサクラが注意するが、それは逆にナルトの不満を募らせるだけに終わる。
「だってよ。他の班はすぐ来たのに……何で7班だけこんなに遅いんだってばよ」
「そんなの知らないわよ。何か事情があるんでしょ? って、ナルト。あんた何やってんの?」
「へへへ 遅れてくる奴へのお仕置きだってばよ!! さーて、どうなるかなぁ」
「フン 上忍がそんなチャチな罠に掛かるかよ。くだらねぇ」
黒板消しを戸の間に挟み入れるナルトを見て、サクラとサスケは呆れた様子で呟く。だが、当の本人は引っかかると思っており、サクラも内心ではこの後の光景を楽しみにしていた。悪戯を仕掛けた直後、戸が開かれ黒板消しが入って来た者の頭に落下し、白い煙が派手に舞った。
「ギャハハハ!! 引っかかってやんの。だっせぇってばよ」
「ごめんなさい先生。私は止めたんですけど… ナルトは言う事を聞かなくて…」
「ん~ 何と言うのかなぁ。お前達の第一印象は…嫌いだ」
仕掛けた悪戯が決まった事で笑うナルトや保身の為に言い訳をするサクラ。それに無関心を決め込むサスケを見て、カカシは感情の籠らぬ声でそう言うと三人の間に重たい空気が漂った。だが、それを振り払うかの様にナルトはカカシを指差して反論する。
「も、元はといえば、そっちが遅いのが悪いんだってばよ。他の班はすぐ来たのにさ…」
「だからって、悪戯を仕掛ける理由にはならないわよ。文句を言う前に反省なさい」
「え?ね、姉ちゃん。何で此処に?」
「この人がナルトのお姉さんなの!? ナルトとは、全然似てないけど…」
「ま、聞きたい事はあるだろうが、話をする前に場所を変えるぞ」
唐突に現れた姉に動揺するナルトと、初めて見るサチに驚くサクラ。サスケも気になるのか、視線をちらちらとサチに向けている。それに、ずっとこの部屋で待っていた三人も外の空気を吸いたいだろう。そう思って、カカシは場所を変える事を提案する。その案にナルト達も同意した。
教室から移動した五人は、アカデミーの屋上へ来ていた。カカシとサチは手すりに寄り掛かり、三人は近くの怪談に腰を下ろす。そして目の前のナルト達に話を切り出す。
「それじゃ、三人には自己紹介をしてもらおうかな…」
「自己紹介って、言っても何を言えばいいの?」
「そうね。名前と三人の好きな事や将来の夢とかでもいいわ」
「だったらさ。先に先生の自己紹介をしてくれよ。それと姉ちゃんが此処にいる訳もさ…」
カカシの言葉にサクラが質問し、それにサチが答えた。するとナルトが二人に言う。何処か怪しげなカカシと姉の事が気になって仕方無かった。それは他の二人も同じで、ナルトの意見に頷いた。
「俺か? 俺は…はたけカカシという者だ。んで、好きな事をお前らに教える理由はない。それと将来の夢は…秘密だ。あと趣味は色々。ま、こんな所だな」
「次は私ね。私はうずまきサチ。性で分かったと思うけど、そこにいるナルトの姉よ。趣味は散歩で、特技は掃除。それと此処にいるのは、カカシの補佐として私も第7班を担当する事になったからよ」
二人の自己紹介で判明したのはサチの事だけで。カカシの事は名前しか分からないままだった。だが、本人の様子からして、これ以上は聞いても答えてはくれないだろう。それを悟って、今度はナルト達が自己紹介を始めた。
「俺の名前はうずまきナルト!! 好きな物はカップラーメンと一楽のラーメン。そんで嫌いな物はお湯を入れてからの3分間。最後に将来の夢は…火影になる事、そして里の皆に自分の事を認めさせてやるんだ」
ナルトの話にカカシとサチは目を細める。ナルトの境遇を知っているカカシは、この少年は心に闇を持っていると思っていた。しかし、予想は外れ。真っ直ぐな目で自分の夢を語るナルトに自然と好感を抱いていた。片や、サチは此処に来てナルトの夢を初めて知った。てっきり、一人前の忍者が目標と思っていたが…まさか、火影になりたいとはね。弟の口から出てきたその言葉はいつもより、力強く感じた。
次に口を開いたのは、うちはサスケだった。
「俺の名はうちはサスケ。嫌いな物なら沢山あるが、好きな物は特にない。それと夢ではないが、目的ならある。それは一族の再興とある男を…必ず殺す事だ」
最後に言った言葉に、その場が沈黙に包まれる。まるで夜の闇を思わせる様な目で復讐を語るサスケをサチとカカシは複雑な気持ちで見ていた。二人の脳裏に過るのは、木ノ葉で起きた凄惨なあの事件。この出来事も木ノ葉では機密扱いになっている為、ナルトとサクラはサスケの言う意味は理解出来ないでいた。それがせめてもの救いだと二人はため息を吐く。
最後に自己紹介するのは、春野サクラ。彼女は隣にいるサスケへ視線をやりながら話を始めた。
「私は春野サクラ。好きな物というか、好きな人は…内緒。ちなみに嫌いなものはナルト。無神経な所が特に嫌。それと、将来の夢は…好きな人の隣に立って認めて貰う事です」
彼女の言う好きな人。本人は秘密にしているつもりだが、サクラの仕草や視線で誰を差しているのか丸分かりであった。この年頃の女の子は、やはり恋愛なのだとサチとカカシは微笑ましく感じて笑う。
「さて、自己紹介は以上だな。それじゃ、明日から任務をやるぞ」
「本当!! あのさ。一体、どんな任務なの?」
「慌てるな。まずはこの五人である事をやる。それはサバイバル演習だ」
カカシの言葉に、三人は目を瞠る。任務と聞いて期待に胸を膨らませるが、その内容が演習と知ってナルト達は興ざめする。演習自体、アカデミーの授業で何度もやっていた。別段、特別でもない事に三人はつまらなそうな様子を見せる。だが、それを予測していたカカシ達は含み笑いを浮かべて三人達に言い放つ。
「ククク…。 まあ、そんなにガッカリするなよ。演習と言っても只の演習じゃない」
「あなた達が明日やるのは卒業した者を篩いにかける難関試験よ」
「ちょっと待つってばよ。もし、それに失敗したらどうなるの?」
「その時はアカデミーに戻る事になる。元より、下忍になれるのは卒業した27名のうち9名だけだ」
明らかになった事実にナルト達は、衝撃を隠せない。緊張の為か、俯く三人へ詳細を記した紙を渡した後、カカシは解散の号令を掛けた。三人が立ち去ろうとする中。サチはある用件を伝えるべく、ナルトを呼び止める。
「ナルト。一つ言っておく事があるわ。今日、私は家に帰れないから早めに寝るようにね」
「ん?どうしてだってばよ?」
「立場上、仕方のない事よ。理由は私の口から情報が洩れる事を防ぐ為。中には立場を利用して、それをやる人もいるからね」
「ふーん。そういう訳があるんだな」
「ええ。明日は絶対、遅刻しないでよ」
「分かってるってばよ。姉ちゃん また明日な」
そう言って、帰路に着くナルトを見送った後。その場に残ったサチとカカシは、明日の演習について話し合いを始めた。いくつか意見を交わし合い、行う内容も決まり二人もその場から立ち去っていく。
翌日。
青々と晴れた空の下、三人は指定の場所である演習場へ来ていた。今日は自分達の進退が決まる大事な日だ。それもあってナルト達の表情は何処か暗い。一体、演習で何をやるのか? 忍術のテストか? それとも体術だろうか? 考えても分からない事が不安を掻き立てる。
集合して早、2時間。約束の時間は当に過ぎているのに、一向に姿を見せないカカシ達に三人は苛立ちを隠す事なく、待っていた。苛立ちの理由は二人が遅いだけではない。昨日、渡された紙の一文に朝食を抜いて来る様にと記されていた。それは食べた物を吐く程にきついのだと、結論付けた三人は指示通りに朝食を食べずにいた。だが、三人は気付いていない。空腹から沸き立つ苛立ちで先程まで感じていた不安が消えている事に。
「やあ。諸君、おはようさん」
「遅くなって悪いわね」
「「おっそーい」」
それから更に数十分が経った頃、演習場に漸くサチとカカシが姿を見せた。散々待たせた事を悪びれる様子も無く、呑気に挨拶をしてくる二人に。ナルトとサクラは堪らず叫び、サスケも不機嫌そうに二人を睨む。しかし、そんな三人を無視してカカシは、近くの切り株に時計を置き、時間を設定しながら演習の説明を始めた。
「今回の演習では、お前達には鈴取り合戦をしてもらう。ルールは簡単。今、此処に二つの鈴がある。これを俺達から奪う事が課題だ。ただし、昼までに取る事が出来なかったら…昼飯は抜き。傍の丸太に縛った上で俺とサチが目の前で弁当を食うからな」
にこりと笑って言うカカシに、ナルト達は朝食を抜くという指示は嫌がらせも含まれている。それを理解して、呆れる三人を楽しそうに見ながらカカシは、話を続けた。
「取る鈴は一人一つでいい。鈴は二つだから、最低でも一人は失格となる。因みに手裏剣やクナイも使って良いぞ。本気で来ないと鈴を取るのは無理だろうしな…」
「でも…危ないわよ。怪我でもしたら大変じゃない」
「そうそう。黒板消しも避けれない程、どんくさいんだし...下手したら殺してしまうってばよ」
「大した自信ね。弱い者が吼えても、滑稽なだけよ。それは分かってるわよね」
挑発する様な姉の言葉に、カチンと来たナルトがクナイを投げようと構えた時。後ろからその手を掴まれ、自分の首に押し当てられる。ナルトの後ろにいたのは、先程まで目の前にいたカカシであった。一瞬で背後に移動したカカシの実力を知り、三人の間にピリピリとした空気が走った。
「どうやら…少しはやる気になったかな? そんじゃ、鈴取り合戦…よーいスタート」
カカシの合図で五人は、その場からサッと立ち去った。それぞれの方向へ散らばった三人が隠れたのを見届けた後、サチはカカシの傍に降り立つと、話しかける。
「皆、上手く隠れたみたいよ。あの子達、演習の趣旨に気付くと思う?」
「どうだろうね? 俺としては、ぜひ気付いて欲しいけど…それに気付いた奴らはいなかったからなぁ」
「そう。でも、今回は成功するかもしれないわよ」
「いや、俺は正直、今回も無理だと思う。何せ、お前の弟がアレだもんよ」
そう言ってカカシはある方を指差した。何があるのかと指差した方向を見て、サチは絶句する。そこにいたのは隠れた筈のナルトが、仁王立ちをしてこちらを見ていた。
「二人共、いざ。尋常に勝負だってばよ。二人の鈴は俺が頂く」
しかも彼は自信満々の様子で、鈴を取ると豪語した。そんなナルトをサチとカカシ。それと隠れている二人も呆れた顔を浮かべる。開始前、自分が簡単にあしらわれた事はすっかり忘れているようだ。
「サチ。此処はお前に任せていいか? 俺は他の二人を当たるからさ」
「構わないわ。私も丁度、あの世間知らずにお灸を据えようと思っていたから…」
「そ、そうか。まあ、程々にね。お前、怒ると容赦ないから」
「勿論。手加減はするわよ。でも、忍の厳しさは体で覚えてもらう。それがあの子の為でもあるわ」
顔は笑っているが、明らかに怒っているサチの姿に。カカシは引きながら忠告をする。そして返ってきた言葉を聞き、カカシは心の中でナルトに合掌した。下手をしたら、あいつは自分よりも厳しい人間を相手する事を選んだのだ。
「何だよ。相手は姉ちゃんか。言っとくけど、手加減は無しだってばよ」
「無駄口はいいから、かかって来なさいな。忍の基本戦術は知ってるわね?」
「基本戦術?それって体術とかだろ。馬鹿にするなってばよ」
「まあ、他にもあるけどね。貴方には体術で相手をしてあげる」
「へッ 怪我しても知らないぜ」
「いいから来い」
「ッ…。やってやる」
煽るようなサチの言葉が合図となり、ナルトはサチへ向かって行く。その勢いを利用して、拳を付き出すがサチは軽く体をずらして攻撃を交わすと同時にナルトの襟元を掴かんで投げ飛ばした。投げられたナルトは、地面を何度か転がって止まった。
「ナルト。貴方の攻撃は単調すぎる。そんな攻撃では、子供にも避けられるわよ」
「くっそ。まだまだぁ!! これからだってばよ」
厳しい言葉をぶつけるサチに、ナルトは悔しそうな顔で再度、向かっていく。今度は単調な攻撃ではなく、細かく拳と蹴りを混ぜて繰り出していた。だが、当たる所か掠りもしない事実に、次第に動きが大きくなっていく。その際、生まれた隙を突いてサチはナルトの胸に掌底を繰り出す。素早いその攻撃に反応出来ず、まとも食らったナルトはまたもや地面を転がる羽目になった。
「いつ如何なる時でも焦るな!! それが隙となって、相手に反撃を受ける事になる。場合によっては、その一撃で貴方の命が終わる事だってあるわよ」
地面に横たわりながら、ナルトはサチを睨む。手合わせをする前、ナルトは姉が相手なら手を抜いてくれると内心では甘えていた。だが、当然そんな事は無く。蓋を開けば、良い様に遊ばれているだけ。手加減無しだと、こうも実力差があるのか。そう思いながら立ち上がったナルトは、更に気付く。
いや、姉は手を抜いている。仮にも姉は上忍だ。幾度なく、修羅場を潜っているだろう。そんな者が本気でやれば、自分など一撃で終わる。思えば、二度も派手に転がされたのに体にダメージは無い。そして姉は攻める事はせず、こちらの出方を伺っていた。その事が余計にナルトを苛立たせる。先程、姉は焦るなと言っていた。ならば、今の自分がそうだ。しかし、そこでナルトはハッとある事に気付く。
『忍の基本戦術は知ってるわね? まあ、他にもあるけどね』
そういえば、姉はこうも言っていた。基本戦術は他にもある。そうだ。体術だけで駄目なら、忍術も使えばいい。ナルトは印を構えると唯一使える術を発動させた。それを見ていたサチは、やっと気づいたかと笑みを溢す。一人で駄目なら大勢で。試験の答えに半分だけ近付いた。あとはもう半分の答えに三人が気付くかどうかだ。
「影分身とは考えたわね。でも、数は8人か。まだ使いこなせてはいない様ね」
「へへ それはどうかな? 甘く見てると駄目だってばよ」
「一発も当てれないのに、よく言えるわね。数が多ければいいってものじゃ…」
そう言って踏み出した時。突如、背後から抱きしめられた。誰だ?と振り向けばそこにはもう一人の分身体が自分を抑えていた。術を発動した瞬間。ナルトは一人だけサチの後ろに出現させていたのだ。基本は相手の隙を突く。サチが教えた事をナルトは、土壇場で実践してみせた。
そして8人の分身は、一斉にサチへ向かって行く。4人が自分の手足を掴んで動きを止め、残りの4人が攻める。ナルトの作戦は上手く行った様に見えた。だが、ナルトの拳がサチを捉えた瞬間。彼女の姿が消えて、その攻撃は背後の分身体へ当たる。
突然の事に、ナルトは勿論。陰から見ていたサスケとサクラも驚きで言葉が出ない。一見、瞬身の術にも見えるが…サチは分身体に捕まっていた。あの術は対象に敵が触れている場合、使う事は出来ない筈。それなのに彼女は移動した。
「ふー 間一髪。 まさか、あの術を使う事になるとはねぇ。流石に狡いかな?」
サチは近くの木の枝に立ち、手にしたクナイを回しながら一人呟く。そのクナイは本来のクナイと違い、刃が三又に別れた形状をしていた。その柄には何やら文字が刻まれている。そう サチが使ったのは四代目が得意とした飛雷神の術であった。演習の開始後、手頃な場所に仕込んだクナイを利用してこの場所へ飛んで来ていた。
「そりゃ狡いでしょ。咄嗟とはいえ、試験で使うのはご法度だよ。おかげであいつら。少しだけやる気を失くしたぞ。打つ手が無いと思ってな」
「う…。ごめんなさい」
サチの傍に現れたカカシは、若干怒った様子で言う。個人の実力や忍の資質を見定める場で、相手の実力以上の力を使えば相手を萎縮させてしまう。それはサチも知っている。土壇場で成長の兆しを見せたナルトに、サチもいつの間にか熱が入り、つい加減を忘れてしまった。その事をサチが謝ると、深いため息を吐いてカカシは怒りを収める。
「まあいいさ。これで諦めるなら…所詮、その程度だったって事だしな。それじゃ、次から俺が行く。サチ、お前は三人に気付かれない様について来い。そして指導のやり方を見て、しっかり学べよ」
「ええ。分かった。ご指導お願いします」
「はいよ。よし行くぞ」
話が終わり、二人はナルト達の元へ移動する。先程の場所へ戻ると、そこにまだナルトはいた。他の二人もまだ付近に隠れているのが気配で分かった。そして木々の中からカカシが姿を見せ、たった今ナルトを見つけたといった様子で近寄っていく。
「何だ。お前、こんな所にいたのか。他の二人も見つからないし、折角だ。俺と鈴取りしてみるか?」
「俺が、先生と?」
「ああ。ま、自信が無いなら別にいい。火影になりたいと言ってる割に、意外とヘタレなんだなぁ」
「何だと… 上等!! やってやるってばよ」
「そうか。じゃあ、いっちょやるか」
カカシは巧みな言葉で、ナルトの自尊心を刺激してやる気を起こさせる。その言葉はサスケとサクラにも届いていた。負けん気を見せるナルトの姿に、消えかけていた二人の闘争心が燃え上がっていく。
目の前に立つカカシは、構えるまでもなくナルトを見ていた。一見、隙だらけだが…先程のサチとの手合わせであれは隙を作っている事を悟る。このまま向かって行っても、さっきの二の舞いになる。ならば…
「影分身の術。今度は5人と少ないな。もしかして、俺は舐められてるのかな?」
「いいや。これも作戦の内だ。今に目に物を見せてやるってばよ」
そう言って、ナルトと分身体は同時にカカシへ駆け出す。いきり立ったと思えば、冷静に作戦を練る姿にカカシは、自身の中にあるナルトの評価を改めた。さて、どう出るか? 迫った5人が拳を付き出すとカカシは後ろに下がって距離を取る。だが、後ろから気配を感じて振り向くと新たに5人の分身が迫って来ていた。
「よっしゃっ!! 今度は絶対、一発当てるってばよ。そんで鈴も頂きだ」
「成程。前の分身は俺の隙を作る為か。言い作戦だが…」
前後から分身体で挟み撃ちにする。恐らく、サチとの戦いから学んで生み出した作戦。ナルトの成長の早さにはカカシも目を瞠る。だが、結果は分身体の同士討ちで終わった。前後から迫る拳が当たる瞬間、カカシは近くの木の上へ逃げていた。
「挟み撃ちとは、お前にしては良い作戦だった。けど、攻撃が単調なのは変わらない。まだ詰めが甘いな」
「くっそぉぉぉ! 上手く行ったと思ったのに… ん?」
「どうした? 地面に何か‥って、あれは!?」
自分の言葉に悔しがってぼやいていたナルトは、何かに気付いて地面に視線を落とす。カカシも気になり、視線を落とすとそこに鈴が転がっていた。まさかと、自分の腰を見ればある筈の鈴が無い。移動する拍子に落としていた事を知った。急いで拾おうとした時には、既にナルトは鈴に向かって駆け出していた。
棚からぼた餅。あと少しで鈴に手が届く。その時だった、踏んだ地面から飛び出た縄がナルトの足首に巻き付き、木に逆さまになって吊るされる。その下では、拾い損ねた鈴を回収するカカシがナルトを見上げて口を開く。
「簡単なトラップに嵌まるとは、お前も人の事を言えないね。それと忍なら裏の裏を読め。あんな都合の良い状況。普通は疑うのが常識でしょ」
「うっせぇぇ そんなの分かってるってばよ」
「あのね。分かってないから言って…」
図星を指摘されて言い訳をするナルトに、呆れたカカシが言い返そうとした時。何処からともなく飛んできた手裏剣やクナイがカカシに突き刺さる。それは隠れていたサスケが、一瞬の隙を見せたカカシに投げた物だった。容赦ない攻撃にナルトは青ざめて倒れゆくカカシを見つめるが、地面に倒れたのは一本の丸太だった。
その事にサスケは舌打ちをして、その場を移動する。飛んできた方向からカカシは、自分の場所を絞り出すだろう。その前に逃げる事をサスケは選んだ。サクラもそれに合わせ、サスケの後を追っていく。だが、カカシにはその姿が丸見えであり、次の標的をサクラに決めた。
必死になってサスケを追うが、サクラは完全に見失ってしまう。走っても見つからないサスケに、もしや先生達にやられたのかと嫌な想像をするが…サスケに限ってそんな事は無いと否定する。すると茂みの向こうに立つカカシを見つけ、サクラは気配を殺して再び覗くが…カカシの姿は既に無い。一体、何処へ行ったのかと辺りを見回した時。
「サクラ 後ろ」
自分を呼ぶその声に反応して、振り向くとカカシが自分をジッと見つめていた。すると何処からともなく風が吹き荒れ、木ノ葉が舞い上がる。その不思議な現象に困惑して慌てふためくサクラの背後から、またもや自分を呼ぶ声が聞こえた。今度は聞き覚えのある声に呼んだ者の正体を知り、喜んだ様子で振り向いたサクラは目を見開き驚いた。
「サクラぁ た、頼む… 助け‥てく…れ」
「い、嫌ぁぁぁぁあああ! 何で‥こんな事にぃ」
サクラの目に映るサスケは体中の到る所にクナイと手裏剣が突き刺さり、左腕は肘から下が切られて無くなっていた。全身から流れる夥しい血の量が、致命傷である事を見て分かる。彼は助けを求めるが、何も出来ない自分の無力さから目を背ける様にサクラは気絶してしまった。そんな彼女の姿に、やり過ぎたかとカカシは頭を掻いて反省していた。
残るはサスケ一人。このまま自分がやるのもいいが、最後くらいはあいつに任せてみよう。そう判断したカカシは近くにいるサチへ呼び掛ける。
「サチ、最後はお前がやれ。見ていたからやり方はもう分かっただろう?」
「ええ。ばっちりね。次は大丈夫よ」
「そう。じゃあ頼んだよ。俺は開始場所に戻ってるから」
カカシの言葉に力強く頷くサチに、言伝を残してカカシは姿を消した。サチもその場を離れると感じた気配を辿っていく。そしてサスケの姿を発見し、サチは彼の背後にある木に隠れて様子を見る。
「今の声… サクラか?」
「そうよ。忍の基本戦術の一つ。幻術をカカシが掛けたの。思いの外、効き過ぎた様だけどね」
「あんたが来たって事は、残っているのは俺だけか。だが、俺はあいつらとは違うぜ」
「その言葉は結果を出してからになさい。じゃあ、始めましょうか」
呟くサスケに答える様にサチは話しかけた。いきなり現れたサチに動揺する事なく、言葉を返すサスケの冷静な姿に彼は…他の二人と違うと思わせる。しかし、実力はどうだろうか?口先だけかどうかを確かめるべく。サチは手合わせの開始を宣言した。
手始めにサスケは、左右のホルダーから忍具を取り出すとサチへ向かって投げつけた。見習いの割に素早い投擲だが、それに当たる程、サチも甘くない。あっさりと避けるがサスケは、不敵な笑みを浮かべる。何だ?と訝し気にサスケを見るが、後ろから何かが切れる音が耳に入り、彼の狙いを知った。咄嗟に躱すと背後の木に無数のナイフが刺さる。
まさか、最初の攻撃を陽動に使うとは…しかもそれをギリギリまで悟らせない術まで心得ている。事前に彼はアカデミーで飛び抜けたエリートだと、カカシから聞いていたが此処までやるとは思ってもいなかった。
そしてサチが着地する瞬間を狙って背後に回ったサスケは蹴りを繰り出した。反応が遅れたが、これも受け止めて反撃をしようとするが、その時には次の攻撃に入っている。素早い上に重い一撃に防戦一方となるサチの僅かな隙を突いて、鈴を奪い取ろうするが後ろに下がって辛うじて奪われずに済んだ。
予想以上の実力にサチはただ驚くばかりだった。この歳でこれ程の力を付けるには、才能だけでなく並ならぬ努力を重ねた結果だろう。
「確かに貴方は他の二人とは違うわ。それは素直に認める。けど、今ので大分息が上がってる様ね。そろそろ限界かしら?」
「フン そんな訳あるかよ。とっておきの物を見せてやるさ」
そう言ってサスケは印を組み、大きく息を吸い込むと火の玉に変えて吐き出した。勢いよく向かったそれはサチにぶつかると爆発して、辺りは土煙に包まれた。だが、煙が晴れた場所にサチの姿は無く。サスケは左右や前後を見回すが見つからない。
「私は下よ!! 土遁 心中斬首の術…」
「な、何!? うわぁぁああ」
声が聞こえたと同時に地面から突き出た手に足首を掴まれ、そのまま地面の中に引きずり込まれてしまった。首以外はすっぽり埋まったその姿は、誰が見ても首を斬られた生首と思うだろう。そんなサスケを見下ろし、サチはゆっくりと口を開く。
「忍の基本戦術の最後が忍術だけど…これについては、貴方は頭一つ抜き出てるわね。でも、術の発動に時間が掛かり過ぎるのが課題といった所か」
「ちっ、言われなくても分かっている。いつか、目に物を見せてやるさ」
「そう。それは楽しみだわ。さて、もう時間の様ね。一旦、集合場所へ戻るわよ」
遠くから聞こえるベルの音が、試験の終了を知らせる。サチは埋まってるサスケを引き上げ、途中で気を失っているサクラとも合流してカカシの元へ向かった。
二人を連れて、集合場所に着くと何故か丸太に縛られているナルトが目に入った。何をしたのか予想は付いているが、敢えてサチはカカシに尋ねる。
「ねえ。この子は何故、縛られているのかしら?」
「あ~ それはな、俺達がいない隙に一人で弁当を食おうとしてたのよ。んで、勝手な事をしたお仕置きをしてるって訳よ」
「全く、この子は‥‥」
こんな時でも意外な事を仕出かす弟に、サチは肩を落として息を吐く。成長を感じたと思った矢先の事だ。呆れるのも仕方無いだろう。そんなサチにカカシは、小さい声で質問を投げ掛ける。
「それより、サチ。お前の方はどう思う?今回の試験であいつら、忍としてやっていけると思うか?」
「三人の中、二人の実力はあるよ。だけど、纏まりが無いから今後は無理だと思うわ」
「そうか。じゃあ、結論は失格でいいな?」
カカシの問いにサチは、この試験での三人を振り変える。実力なら下忍としては上々。しかし、肝心の事が出来ていない事からサチは今後、忍としてやっていくのは無理だと判断した。それはカカシも同じの様で、サチの意見を聞いて彼も結論を出した。
そして丸太の傍で座っている三人に近寄るとカカシは、間延びした声でお腹を空かせている三人へ声を掛けた。
「おー 大分、腹の虫が鳴ってるねぇ。それで今回の演習の結果だが… ま、お前達はアカデミーに戻る必要も無いな」
カカシの結論に三人は、一様に明るい顔を浮かべる。鈴は取れなかったが、自分達を認めてくれた。そんな三人を見て、優しく笑ったと思った瞬間。感情が抜けた表情でカカシは言葉を続ける。
「そう。三人共。忍者をやめろ」
思わぬカカシの言葉に、三人は喜びの表情から驚愕の表情へ変わった。その意味を理解して、縛られていたナルトが堪らず吼える。
「忍者やめろって、どういう事だってばよ!? そりゃあ、鈴は取れなかったけど、何でそこまで言われなきゃなんねえんだよ」
「どいつもこいつも…忍者になる資格がねえガキだって事だよ」
「クソっ…」
カカシの発言が気に障り、サスケがカカシに向かっていく。だが、感情に任せた彼の動きにキレは無く。隣で見ていたサチにあっさりと取り押さえられてしまう。
「サスケ君に何て事をするのよ」
「黙りなさい。あなた達、忍者になる事を甘く見てるわ。一体、何の為に班ごとに分けて、この演習をやってると思うの?」
「え? それは…どういう事ですか?」
「つまりだ。お前達はこの演習に隠された答えを全く理解してないのさ」
「だから、その答えって何ですか? 勿体ぶらずに教えてください」
サスケに乱暴するなと息巻くサクラに、サチは厳しい態度で言葉を返す。言ってる意味が分からず、聞き返すサクラにカカシが答えるが…明確な返答が無い事に、サクラは更に問い詰めた。
「ったく。少しは考えたらどうなのよ。その答えは‥チームワークだよ」
「私との手合わせで、ナルトが半分答えを出したから。あとはあなた達が気付いてくれると思っていたけどね」
「結果は…見ての通りだ。三人で来れば、鈴は取れたかもしれないのにな」
二人はサクラの問いに答えるが、その答えに納得がいかないサクラは二人に食って掛かる。
「ちょっと待ってよ。鈴は二つしか無いじゃない。それじゃ、協力して鈴を取っても、結局は仲間割れを起こすわ」
「当然よ。これは態とそうしてるんだから。どんな状況でも自分より、仲間を優先して行動出来るかを見る為だもの」
「それなのにお前らと来たら… ナルト、お前は仲間に頼らず独走するだけ。サクラ、お前はナルトよりサスケの事ばかり。最後にサスケ、お前は他の二人を足手まといだと切り捨てる始末。いいか? 任務は基本、班で行う。確かに卓越した個人の力は必要だ。しかしな。それだけではやって行く事は出来ないのさ」
そう言って、カカシはサチへ目配せする。意図を理解したサチは、クナイを取り出すとサスケの首筋に押し当てながら非情な言葉を言い放つ。
「サクラ。ナルトを殺せ。さもなければ、サスケを殺す」
「と。こんな事態になって、無理な選択を強いられる事になる」
一瞬、緊迫した空気に包まれるが…カカシの言葉でそれが演技だと知り、三人は安堵の息を吐いた。そしてカカシはすぐ傍にある石の前に行くと、三人へ語りかけた。
「この石を見ろ。これはな…英雄と呼ばれた者の名が刻まれている」
「英雄!? それそれそれぇ!! 俺も英雄になって、そこに名を刻みたい。それまでぜってぇ。犬死なんてしねぇってばよ」
「ナルト!! 口を慎しめ。何も考えず、言う言葉は相手を傷つけるわよ」
「な、何だってばよ!? そんなに怒らなくてもいいじゃんか」
「此処に名を刻まれているのは…任務や戦いの中で命を落とした者達だよ。その中には俺とサチの友人も含まれている」
「…!! ごめんってばよ。カカシ先生、姉ちゃんも…」
英雄という響きに浮かれた様子で石に名を刻むと豪語するナルトをサチは一喝する。その後、石に込められた真実を知ったナルトは反省して二人に謝った。自分の迂闊な発言が二人を傷付け、そして既に亡くなっている二人の友や見知らぬ人達を貶めてしまった事をナルトは後悔した。
重苦しい空気の中、三人に向き合いカカシが口を開く。
「お前らにもう一度、チャンスをやる。ただし、昼からは俺とサチも本気で行くぞ。命懸けの鈴取り合戦になる。挑戦したい奴だけ、そこにある飯を食え。だが、ナルトには食わせるな」
「何でだよ。さっきの仕返しのつもりかよぉ」
「そうじゃない。お前はルールを破って、一人で食べようとしただろ。これはその罰だよ。もし、他の二人がナルトに一口でも食わせたら、その時点で失格だ。二度とチャンスは与えない。分かったな?」
「けっ 別にいいってばよ。昼飯を抜いたって、俺は負けねえからよ」
「決まりね。じゃあ、一時解散。30分後にまた来るわ」
そう言って、二人はナルト達の前から姿を消した。その場に残された三人。暫くして、二人は置かれた弁当を手に取り食べ始める。その光景を縛られたナルトが羨ましそうに眺めていた。するとサスケが食べていた弁当をナルトに差し出した。突然の事にナルトもサクラも困惑するが、本人は構う事なく辺りを見わした後でナルト達に言葉をかける。
「大丈夫だ。周りに二人の気配は無い。それに昼からは本気で来ると奴らは言っていた。この次は三人で鈴を取りに行く。そんな時、腹が空いてる奴がいたら足手まといだからな」
サスケの言葉に、感化されたのか。サクラもナルトへ弁当を差し出す。恥ずかしいのか、僅かに頬を赤く染めた姿にナルトも同じく頬を染めて嬉しそうに笑った。そして縛られて身動きが取れないナルトに弁当を互いに食べさせ、自分達も食べていると。突如、目の前に大きな音を立てて煙が巻き起こった。
「お前らあぁぁぁぁっっ!」
「よくも言い付けを破ったわねぇぇぇっ!」
「うわぁぁぁああ」
「きゃああああ」
「っ...!」
煙の中から叫びながら現れたカカシとサチに、三人は驚き悲鳴を上げた。すると恐ろしい顔で迫った二人は、一転して優しい顔に変わると声を揃えて『三人共、合格』と告げた。
「え?何で…合格なの?昼からの鈴取りはまだやって無いのに…」
「それはもう必要ない。実を言うと今のが最後の試験だったんだよ」
「ええ。昼からの鈴取りは本気でやる。だけど、万全の状態で挑むべきものを一人は空腹の状態で行う事になる。それでは当然、足並みは揃わないのは必然。ならば、全員が万全の状態で挑むには何をすべきか? その行動がこの試験に置ける答えよ」
「そんでお前達はナルトに弁当を食わせた。例え、ルールを破る事になっても仲間を優先する事を選んだ。今までの奴らは、それに気付かず俺の言いなりだったからな。いいか?良く覚えておけよ。忍にとって、掟やルールは絶対だ。それを破る奴は周りからクズ呼ばわりされる。けどな、それに縛られて仲間を蔑ろにしたり、大切にしない奴は…それ以上のクズだと俺は思ってる」
「掟を守るのは大事な事よ。でも、それよりも大切な物もある事をどうか忘れないでね」
突然の合格宣言に戸惑い、おずおすと質問するサクラに二人は穏やかな口調で答えた。二人が言った言葉は、三人の心へ深く刻み込まれた。きっと、この二人は大切な物を失ったのだと…話の中でそれを悟った。だからこそ、仲間の大切さ。そしてチームワークの重要さをこの試験で伝えたかったのだろう。結果として多少、躓いたが三人は二人が望む答えを導き出して試験を合格する事が出来た。
「何はともあれ。今回の演習はこれにて終了。明日から三人は、正式な第7班として任務を行う」
「やったぁ。遂に本物の忍者になったってばよ」
「それでは解散だ。今後の日程は追って知らせる」
「各自、いつでも出動が出来る様にしておきなさい」
「ちょっと、待つってばよ。その前に縄を解いてくれよ」
いつの間にか解散する流れに焦ったナルトが、そう叫ぶが…皆は見向きもせず、スタスタと立ち去っていく。
「あー どうせ。こんなオチだと思ったってばよ!! てか、姉ちゃんも笑ってないで解いてくれって」
「ナルト。貴方に特別課題を出すわ。今日の夜までに縄抜けして家に帰る事。夕飯までに帰らない時は、ご飯抜きだからね」
「何だよ。それぇぇぇ!? いくら何でも薄情すぎるってばよぉぉぉぉ」
「冗談だって。ほら、解くから動かないで」
流石に放っておく訳にいかず、戻ってきた姉の手によってナルトは解放された。その後、サチは拗ねたナルトの機嫌を取る為に一楽へ連れていき、改めて弟の合格をサチは心から祝った。
今回のお話。いかがだったでしょうか?
分けて書くより、一気にやってしまおうと思ったら…まさかの2万字超えという始末。
オリジナル展開も含む為、仕方無いですが今度はもう少し読みやすく書ければと思います。
宜しければ、一言でもいいですので感想をくれると励みになります。
では、次回もよろしくお願いします。