NARUTO 六道へ繋がる物語   作:アリアンキング

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今回、鬼人再不斬と狂人朔麻。
この二人とカカシ小隊の戦いをご覧下さい。


第六話 湖畔と森の死闘

 お互いの息遣いを感じる距離、胸を深く斬られた再不斬が倒れかけた瞬間。その体は形を失って水に戻ると同時にカカシの背後から大刀を構える再不斬が姿を現した。カカシがそれに気付いた時には、既に再不斬は大刀を振り切っており、なす術もなくカカシは一刀両断されてしまった。

 

「カカシ先生!! ちっくしょ…。この眉なし野郎、よくもやりやがったなぁ」

「ぎゃあぎゃあとうるせえガキだなぁ。だったら、俺があの世に送ってすぐに会わせてやるよ」

「生憎だが、その必要は無い。お前こそ、あの世に行きたく無いなら動くな」

 

 その光景を間近で見て、自分に噛み付く様に叫ぶナルトが目障りだったのか。大刀をナルト目掛けて振り下ろそうとした再不斬の背後からカカシが喉元にクナイを当て、その凶行を制止する。殺した筈の相手が後ろにいる事に再不斬は驚愕していた。ならば自分が斬った奴は何だ?とその方へ視線を向けるとあったのは一つの水たまり。

 

 それで再不斬は確信した。

 

「そうか。てめぇも俺と同じ水分身で様子を窺っていたのか。だが、一体いつ俺の術を盗んだ? そんな隙は無かった筈だ」

「それは霧隠れの術を発動した時だ。霧で視界が途切れる瞬間を狙って、本体と入れ替えて置いたんだよ。お前がタズナさんを狙うだろうと分かっていたからな」

「そんで俺はお前の予想通りの動きをしたって訳か。フン… あの一瞬で此処まで裏を掻くとは流石だなぁ。けどな、そんなサルマネ如きにやられる程…俺も甘くねえんだよ」

 

 

 

 裏を掻いて再不斬を抑えたと思っていた矢先、またもや再不斬の体は水になってカカシの背後に回り込んだ本体が大刀を薙ぎ払う。その一撃を辛くも躱す事は出来たが、次は大刀を振った勢いを利用して繰り出された蹴りが迫っていた。最初の攻撃を躱した際、体勢を崩したカカシは咄嗟に腕を交差させて防御するが、威力は相当なもので彼の体は湖まで飛ばされてしまう。

 

 

 そして…それこそが再不斬の真の狙いであった。彼は素早く、湖に先回りすると印を組み発動させた水牢の術で作った球体にカカシを閉じ込める事に成功する。

 

 

「ククク…。蹴りを受けた時、咄嗟に湖へ飛んだのは失敗だったなぁ。それにタズナを殺るにはお前を抑える必要がある。それも済んだ事だし、そろそろ俺も仕事をさせてもらうとするかね」

「不味い。お前らぁ…。今すぐ、タズナさんを連れて逃げろぉぉぉ!!」

 

 

 再不斬の言葉を聞いて、焦ったカカシは大声で叫んだ。その姿はいつもと違って余裕が無い。本当に切羽詰まった状況であるとナルト達は悟るが、それでも彼らは固まったまま動かない。いや、動けずにいた。そうしてる間に再不斬が新たな水分身を作り出してナルト達に嗾ける。

 

 

「無駄だ。ご大層に額あてをしてるが、所詮は只のガキ。お前や紅雷がいなきゃ何も出来ない奴が忍者とは世も末だな。まあ、おかげで俺は楽を出来るから結構な事だがな…」

 

 そう言って再不斬の分身はナルトに一瞬で距離を詰めると、思いっきり蹴飛ばした。その反動でナルトが付けていた額あてが外れて宙を舞うと再不斬の足元に落ちる。その額あてを彼は容赦なく踏みつけた。それだけでは飽き足らず、まるで見せつけるかの様にグリグリと足を動かしていた。再不斬が取った行動にナルトは、心の底から怒りが湧き上がるのを感じた。

 落ちこぼれの自分を認めてくれた人から譲り受けた額あて。自分が好きな姉と同じ忍者になれたと実感させてくれた額あて。そして…自分が火影になるという決意を強く誓った額あて。

 

 

 色んな想いが籠った大事な物を…奴は笑って踏み躙った。それに左手に感じた痛み…これが彼の闘志に火を点ける。そうだ。自分はこの手に、この痛みに誓った。二度と怖気付いたりしないでタズナを守ると…。

 

 

「うおおおお!! 俺はてめえなんか、怖くねえぇぇぇ。ぶっ飛ばしてやっから覚悟しろってばよ」

「馬鹿が。雑魚のお前に何が…出来るってんだよぉぉぉっ!!」

 

 

 ゆっくりと立ち上がったナルトは、正面から啖呵を切って再不斬へと特攻していく。格下と思っている相手からの挑発に…再不斬も怒気を放つと大刀を力まかせにナルトに向かって薙ぎ払う。その後、起こると思われた惨劇にタズナやサクラは目を瞑るが、それが当たる瞬間にナルトは地に伏せて攻撃を躱した。その事に再不斬もカカシ達も驚きを隠せない。怒りに任せての攻撃だったとはいえ、その素早い反応は早々出来る事ではない。それをやったのが、忍者になって間もない見習いなのだから彼らの驚きは尚更だろう。

 

 

 そして…彼の足元に迫ったナルトを我に返った再不斬は蹴飛ばす。ゴロゴロと転がるナルトに詰め寄って、サクラは無茶を仕出かした事を怒った。

 

 

「何やってんのよ。私達みたいな見習い忍者が勝てる訳ないでしょ。偶然、躱したから良いけど…少しでも遅れたらあんた死ぬのよ。それを分かってるの!?」

 

 だが、彼の手にある物を見て、サクラは言葉を失くした。それは再不斬が踏みつけていた額あてだった。これを取り返す為にナルトは再不斬へ特攻を仕掛けたのだ。しかも只、向かうだけでなく挑発までしたのは足元から自分に意識を逸らす意味もあった。それに再不斬が怒り、単調な攻撃を繰り出す出す事も計算に入れて。だからこそ、咄嗟に躱す事が出来たのだ。

 

 

 それが分の悪い賭けなのは、ナルトも十分理解している。それでも誇りを踏み躙られるのは堪らなかった。

そうして命懸けで取り戻した誇りを再び額に巻き付けるとナルトは再不斬に宣言する。

 

 

 

「おい 眉なし野郎。お前の頭によーく俺の名前を刻んでおけ。いずれ木ノ葉隠れの火影になる男 木ノ葉流忍者。うずまきナルトだ!!」

 

 

その姿を再不斬は黙して睨みつけていた。初めは自分の殺気に怯え、只震えていただけの子供だった。だが、今はそんな也は身を潜め。威風堂々と立ちはだかるナルトに気付けば警戒心を抱いていた。しかし、それを再不斬は認める訳にいかなかった。鬼人と恐れられた自分があんなガキ一人に一瞬でも気圧されたなど…許されない事だ。

 

 この事実を振り払うかの様に再不斬はナルトに向けて言葉を吐く。

 

 

「…クク さっきといい、今といい。随分と吼えるじゃないか。だけどよ。お前と俺の実力差は明らか。気合でどうこう出来る程、忍の世界は甘くはねえぞ」

「そんなのお前に言われなくても分かってら。今から目に物を見せてやるから待ってろってばよ。おい サスケ。ちょっと耳貸せ。いい作戦が一つある」

「いい作戦だと? フン お前が俺に頼るとはな…。いいぜ 手を貸してやるよ。その作戦とやらを教えろ」

 

 

 不敵な笑みで現実を突き付ける再不斬に対して、ナルトも不敵な笑みを浮かべ言い返すと後ろにいるサスケに思い付いた作戦を持ちかけた。突然の事に戸惑うサスケだが、珍しく自分に手を貸せと言うナルトに彼は素直に頷いた。ナルトの作戦など、本来なら再不斬に通用するとは思えない。だが、不思議とこの作戦は成功する。サスケはそう確信していた。

 

「いい加減にしろ、お前達!! いいから早くタズナさんを連れて逃げるんだ。今、その人を守れるのはお前達以外にいないんだぞ。俺達の任務を忘れたのか?」

「忘れた訳じゃねえ。だけど、仲間を蔑ろにするクズに俺はなりたくねえんだ。タズナのじっちゃんは守るし、カカシ先生も死なせねえ。そういう事だ、タズナのじっちゃん。俺の我儘だけど…」

「構わん。思う存分、暴れろ。どんな結果になっても恨みはせん。それにお前、いやお前達がわしを守ってくれると超信じとるからのう」

 

 

 自分の言葉を聞かず、戦う事を選択したナルト達にカカシは再び大声で叫ぶ。頼む、どうか逃げて生き延びてくれ。敵の思惑に嵌まり、捕まった不甲斐無い己の所為で未来ある教え子達が命の危険に晒されている。何の抵抗も出来ないそんな彼らを再不斬は情け容赦なく、殺すだろう。その事は自分が死ぬより、カカシは恐ろしかった。

 

 しかし、ナルトから返って来た言葉にカカシは思わず目が熱くなった。それは以前、自分がナルト達に教えた言葉だった。自分の教えや想いはちゃんとあの子達へ伝わっている。それなら自分がするべき事は一つ。あの子達を信じる事だと答えを出す。それはタズナも同じで自分の運命をナルト達に託した。

 

 

 自分を倒すと息巻くナルト達に機嫌を損ねた再不斬は、ドスの効いた声で威圧する。

 

 

「…何処までも頭の悪いガキ共が…。本気で俺に勝てると思ってるのか?」

「ったりめえだ。一体、何が言いたいんだってばよ」

「クク… 聞くが、てめえは自分の手を血で汚した事があるか?」

「そんなのある訳無いじゃない。それが何なのよ」

「だろうなぁ。言っとくが、俺はてめえらの歳の頃には100の人間を殺してたぜ」

「やはり、あの噂は本当だったか」

 

 

 一連の会話である事を思い出したカカシはそう口にする。

 それは再不斬にも聞こえており、カカシの方を向くと喜々として自分の事を語り出す。

 

 

「そうさ。俺がいた霧隠れでは、ある卒業試験が存在していた。その内容は…卒業を控えた生徒同士の殺し合い。お互い切磋琢磨した仲間と最後は殺し合いをして、生き残った者が一人前の忍として認められる訳だ」

「じゃあ…お前もそうして忍になったのか?」

「いいや。俺の場合は、少し特殊でね。入学したその日にその年の受験者を全員…俺が殺したんだよ」

 

 

 再不斬の言葉にナルト達の背筋が凍りつく。生徒同士の殺し合う話だけでも衝撃を受けたが、少年だった再不斬が起こした出来事はそれを超える衝撃であった。冷汗を滲ませ、強張った表情のナルト達を見て、再不斬は満足そうな顔をすると更に言葉を続けた。

 

 

「思い返すと…あれは楽しかったなぁ」

 

 

 たった一言、そう呟いて視線をナルト達に向けた時。再不斬は音も無く詰め寄るとサスケの腹目掛けて、蹴りを繰り出した。気を抜いていた訳ではないが、その速度にサスケは全く反応出来ない。続けて出された裏拳による攻撃もまともに受けてサスケは地面に叩き付けられた。

 

 強力な連続攻撃に血を吐いて苦しみサスケに止めを刺そうと大刀を握った再不斬を見て、ナルトは影分身の術を発動させる。演習で使った時とは違い、鍛錬を重ねていたナルトは今や20人以上の分身を出せる程に成長していた。

 

 

「ほう‥・。影分身の術まで使えるか。それに数も多いな」

「サスケェェ。今の内にそいつから離れろ」

「ワラワラとうっとおしいんだよぉぉっ!!」

 

 サスケを助ける為に大勢の影分身は一斉に飛び掛かって、再不斬の体を覆い隠した。だが、動きを止めたのはつかの間で、すぐに再不斬は大刀を振って纏わり付く影分身を全て吹き飛ばす。その余波は大きく、影分身だけでなくナルト本人も同じく吹き飛ばされる。

 

 

「くっそーー!! だったら、これだぁ。 サスケ、これを受け取れ」

「これは…。そういう事か。お前にしちゃ上出来だ」

 

 吹き飛ばされながらもナルトは、鞄から取り出したある物をサスケの方へ投げ渡す。受け取ったサスケはそれに視線を落とすと、フッと笑って彼の機転を褒めた。ナルトから渡された物、それは一枚の手裏剣だった。

 

 

 風磨手裏剣 影風車。

 サスケが手にするそれは従来の手裏剣よりも一回り大きく、鋭く伸びた鋭利な刃と中心に開いた穴が特徴的だった。それは敵の肉を骨ごと切り落とす事を目的に作られた忍具であり、武器でもあった。

 

 

「風磨手裏剣か。いい代物を持ってるなぁ。流石の俺もそれを食らったら、無事じゃすまねえ。まあ、当てる事が出来たらの話だがなぁ」

「ならば予言してやる。”俺達”の攻撃をお前は必ず食らうとな」

 

 

 

 そう言い放つとサスケは地を蹴り、高く飛びあがると湖の上にいる本体の再不斬へ投げ放った。サスケの手を離れた風磨手裏剣は、風に乗り勢いよく回転しながら再不斬に迫る。しかし、その迫り来る手裏剣を再不斬はすんなりと手で掴んで受け止めた。如何に強力な忍具だろうと相手によっては、通用などする訳がない。しかし、ナルトとサスケの攻撃はそれだけではない。再不斬が受け止めた手裏剣の影に隠れて、もう一つの手裏剣が飛んでくるのが目に映る。

 

 

 

「な、手裏剣の影に手裏剣!? だが、甘い」

 

 

 予想外の攻撃に驚く再不斬だが、ひらりと飛んで二つ目の手裏剣を回避する。再不斬が取った行動を見て、サスケはニヤリと笑った。その時、再不斬の背後を飛ぶ手裏剣がボンと音を立てるとクナイを持つナルトへ姿を変えた。元に戻ったナルトは、宙にいる再不斬の首を狙ってクナイを飛ばす。

 

 

 その意外な攻撃に再不斬は、此処に来て初めて焦りの色を見せる。左手は受け止めた手裏剣、右手はカカシを封じる術で塞がっていた。そして今は宙に浮かぶ体勢で回避は勿論、防御すら出来ない。なす術が無い状況で再不斬はカカシを縛る右手を外して間一髪、クナイを躱す。しかし、一歩遅かったのか。そのクナイは頬を掠り、傷付いた箇所から一筋の血が流れ落ちた。

 

 

「こ、この‥クソガキィっ!! よくもやりやがったなぁぁぁぁ!!」

 

 

 格下と馬鹿にしていたナルトに傷を付けられて再不斬は激昂する。そして左手の手裏剣を投げ付けようとした時。水牢より解放されたカカシが自らの拳でその凶刃を受け止めた。その際、見えた鋭い眼光に再不斬は言い知れぬ恐怖を感じた。今まで生きてきて、初めて味わう感覚に身体が震えそうになるが…歯を食い縛ってそれを耐える。これ以上相手に弱みを見せてなるものか。そんな再不斬の意地が僅かに恐怖を上回った。

 

 

「へっ… 俺とした事が、ついカッとして術を解いちまったか」

「何を言ってる。術は解いたんじゃない。解かされたんだ。お前がナルトに恐れを抱いてな」

「…てめえっ! さっきと違って、随分と口が回るじゃねえか。また閉じ込めてやろうか?」

「そいつはご遠慮願うよ。まあ、同じ手にかかる程‥俺も馬鹿じゃない。さあどうするのかなぁ?」

「上等じゃねえかよ。それならとっておきの術を見舞ってやるぜ」

 

 

 カカシの挑発で頭に血が上ったのか。怒りの感情を隠す事なく、再不斬はカカシに怒号を飛ばす。そしてお互い距離を取ると印を組み始めた。様々な形に手を組む再不斬の動きを写輪眼の力を使い、カカシも同じ速度で印を組むと同時に完成した術を発動させる。

 

「「水遁 水龍弾の術!!」」

 

 その名の通り、カカシと再不斬の後ろから水で形成された巨大な龍が現れぶつかり合う。それによって激しい水飛沫が起こる中心で、二人は大刀とクナイで小競り合いながら睨み合っていた。片や余裕を見せるカカシと違い、再不斬は動揺していた。そして再び距離を取って、次の術を発動しようとして印を構えた時。自分と全く同じ動きをするカカシに再不斬は一抹の不安を覚えた。

 

 

 まさか、こいつは俺の…

 

「動きを読み取ってやがる。そう思ったな」

 

 その言動に再不斬は己の不安が的中した事を内心、舌打ちをして愚痴を溢す。この野郎…全てを見透かす面をしやがって…

 

「見透かす面が気に食わないってか?悪いなこんな面で…」

「てめぇぇぇ!! さっきからくだらねえサルマネしやがって、二度とその口聞けねえ様にしてやる」

 

 

 カカシの写輪眼による先読みで自分の思った事も術も真似されて、再不斬の理性は完全に剥がれた。余裕も冷静さも最早なく。彼の心にはカカシへの殺意だけが強く渦巻いている。そして自分が使える最大の水遁を発動しようと印を組みながらカカシに視線をやって、見えた物に目を疑う。再不斬の目に映るのは、カカシの背後にいたもう一人の自分だった。幾度か瞬きを繰り返して見るが、見間違いではない。奴の背後には確かに自分が存在していた。恐らく、写輪眼の幻術で自分の欺いているのだろう。再不斬は何処までも舐めた奴だと、印を組む速度を上げて術を発動しようとするが…

 

 

「水遁 大爆布の術!!」

 

 カカシが先に術を発動させて再不斬に繰り出した。術を真似るには、相手が組む印を知らないと出来ない。故に先手は自分が取れるにも関わらず、後手のカカシに追い付けない。そして再不斬は竜巻状の水に巻き込まれ、木々を押し倒しながら森の奥深くまで吹き飛ばされた。

 

 

「な、何故だ…? どうして俺よりも先に術が出せるんだ。まさか、お前の写輪眼は未来すら見えるってのかよ」

「ああ。見えるさ。そしてお前が此処で死ぬ未来もな」

 

 写し盗られた術で飛ばされた自分を追って来たカカシに、再不斬は弱々しく問い掛けた。先程の攻撃で体の骨は何本が折れ、また術に必要なチャクラも使いきってしまった。もう抵抗する力も無い再不斬に引導を渡そうとクナイを手にカカシが近づいた瞬間。何処からともなく飛来した針が再不斬の首を貫いた。そして、彼は糸の切れた人形の様に崩れ落ちる。

 

 

 

 一体、誰の仕業だ?とカカシが警戒して辺りを見回すと、木の上に立つ一人の少年を見つけた。その少年は狐を象った面を付けて顔を隠しており、何処ぞの民族衣装を着ている。彼はスッとカカシの傍に降りてくると静かな動作でお辞儀をすると、ぽつりと喋り始めた。

 

 

「今回、我らが霧の者がご迷惑を掛けて大変申し訳ありません。実は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、場所は変わり。湖上から離れた森の中では、朔麻とサチが未だ戦いを続けていた。

 時に地を駆け抜け、時に枝を飛び交いながら互いに攻撃を仕掛けては防ぐ。それの繰り返しで進展の無い戦いにサチは焦りを抱く。当初、自分の呼び名の由来である飛雷神の術を用いてすぐに終わらせるつもりだった。しかし、その発動に必要なクナイを投げても彼女はすぐに別の場所へ移動する為。飛んでから攻撃しようとした時には、既に朔麻は攻撃が届かない距離にいる。明らかに自分の術を警戒しての行動だとサチは理解した。

 

 

 そして気付けば手元にある術式クナイは残り一本。本来ならこんな事にならないが、別の場所で戦っているカカシ達の元に一刻も早く戻ろうと焦り強行をした結果であった。無論、飛雷神の術以外にも攻撃手段は備えている。それでも使わないのは朔麻にあった。そう、彼女はまだ術による攻撃をしていない。切り札を使用せず、やってきたのはクナイと体術による攻撃のみ。しかも体術で攻撃する際、朔麻は攻撃が体に当たらない様に繰り出していた。戦いの中で敵の攻撃を受けないのは当然だ。しかし、サチには彼女は飛雷神の術の特性を知っているのではないか?そんな疑いを抱かずにいられない。

 

 

 何れにしても均衡が崩れない戦いに痺れを切らし、サチは別の形で責める事にした。

 

 

 

「貴女、さっきから逃げてばかりだけど…やる気はあるの?私の顔をぐちゃぐちゃにすると言ったのは、只のハッタリ?」

「いや。それは本当だよ。でも、すぐにやったら詰まらないでしょ。楽しみは最後まで取っておかないと…」

「余裕ね。こうしてる間に貴女の仲間はやられてるかもしれないわよ」

「ああ。別にいいわよ。そうなったら、負けた奴が悪いんだから。逆にあんたは余裕が無いね。もしかして、焦ってるの?」

 

 

 そう返す朔麻にサチは黙り込む。それは図星だったのもあるが、攻めるつもりが逆に攻め返されてしまい。こちらが不利だと判断したからである。次にサチが打った手は、彼女を撒く事であった。一瞬の隙を突き、術式クナイを朔麻の背後に投げ付けると木に上手く突き刺さる。そして瞬時に術式クナイの元に飛び、素早く回収すると一気に枝を蹴ってその場を離れた。サチはそれを繰り返し、朔麻を撒いたと確認して安堵の息を吐いた時。突如、サチの横から現れた影によって、彼女は突き飛ばされる。その影は木の上からサチを見下ろすと、間延びした声で話しかけて来た。

 

 

 

「紅雷…みーつけた。駄目でしょ。一人前の忍が戦いを放棄して逃げるなんてさ。そんなんじゃ部下に示しが付かないよ。まあ、あとであたしが切り刻むから別にいいのか」

「くっ…。 どうして追い付けたの? あの速さに反応なんて出来ない筈…」

「気になる? だけど、それを聞かれて敵に教える馬鹿はいないよ。まあ、あたしも飽きて来たし…そろそろ終わらせようかな」

 

 そう言って、朔麻は懐から取り出した物。それは螺旋状になった針の様な物であった。尖端は鋭く尖り、螺旋の箇所には小さい刃が付いている。その特殊な針をサチは知っていた。以前、木ノ葉で行われた拷問に立ち合った事があり、その拷問官を務めた森乃イビキが使用したいたのがそれだった。

 

 通称、悪夢の螺旋。

 対象に突き刺すと同時に螺旋の刃が肉をそぎ落とす。相手に二重の苦しみを与える凶悪な代物だ。使われた相手は激痛で泣きじゃくり、一分と持たず音を上げたのも覚えている。その余りの凶悪さに流石のイビキも二度と使用せず、自分の部下達にも使用を禁じていた。よく見ると、朔麻が持つ悪夢の螺旋は渇いて黒くなった血らしきものがこびり付いている。

 

 

「その表情を見る限りじゃ、これが何なのか知ってるみたいね。あたしも説明するのが面倒だから良かったわ。前に使った奴は…確か、五歳の子供だったから10秒足らずで終わったけど。紅雷なら何分持つか楽しみね。でも、その前に… 水遁 樹液体縛の術」

 

 

 歪んだ笑みで自分の得物を自慢した後、朔麻は何か思い付いた様に手を叩くと印を結んで術を発動した。すると近くの木々から細い縄状の物が伸びてサチの体を拘束した。一見、すぐに千切れそうに見えるが…木の樹液から形成された縄は体中にべっとりとくっついてサチの自由を奪う。唯一、動かせるのは術式クナイを握った右手首のみ。しかし、投げる事は出来そうだがそれ以外の反撃は不可能だった。今にして思えば、森を戦いの場に選んだのもこれが理由だったのかもしれない。だとすれば、自分は敵の有利な場所へ誘われた事となる。

 

 

「フフフ どうやら、漸くもう一つの狙いに気付いたか。そうよ。あたしが森を選んだのはこの為。それと…静かな場所で響き渡るあなたの悲鳴を堪能したいからね。あ、抵抗したいならしてもいいよ。出来るならだけどね」

「…貴女、相当に歪んでるわ。まさに狂人ね」

「何を今更、当たり前の事を言ってるのさ。それじゃあ、まずはあなたの目からいってみましょう」

 

 

 

 歪んだ思想に嫌悪感を露わにして、詰るサチに朔麻は何処か呆れた様子で言葉を返す。そしてサチの目前に立った朔麻は、ゆっくりと悪夢の螺旋を振り上げる。恐怖からだろうか?引き攣るサチの顔を暫しの間、堪能してから彼女の目に向けて勢いよく振り下ろす。数秒後、響くだろう彼女の叫びを想像して朔麻は快感で体を震わせた。だが、予想は外れて。悪夢の螺旋が彼女の目を貫こうとした寸前。サチの姿が忽然と消えうせた。すると朔麻の体を包む様に影が出来た瞬間。強い衝撃が朔麻の脇腹に走る。何事かと目をやるとそこにいたのは先程、消えたサチ本人だった。

 

 チャクラを足に集中させて繰り出された一撃は強力で、朔麻の体ごと地面に叩き付けた。その蹴りは地面を粉々にし、また朔麻の身体を九の字に折り曲げて、彼女の骨を砕き肉を容赦なく潰す。

 

 

「かはっ…。まさか、最後にこんな事をするなん…て‥ね。紅雷の名は伊達じゃないか」

 

 口から大量の血と一緒に、その言葉を吐くと彼女は意識を失ってだらりとする。朔麻が悪夢の螺旋を振り下ろした時。右手の術式クナイを上に投げて飛んだ後、今度は朔麻の横に飛んでさっきの蹴りを見舞ったのだ。抵抗が出来ないと分かっている朔麻が完全に油断するのをギリギリまで耐えたサチの作戦が功を成したのだ。

 

 

 戦いが終わって呼吸を整えてから落ちた術式クナイを拾い上げるとサチは、その場をゆっくりと立ち去った。

 その後、再不斬を抱えた仮面の少年が静かに降り立ち、朔麻を回収した事をサチは知らない。




今回のお話。いかかだったでしょうか?

前回で始まった戦いとその決着までを一気に入れた為、少し長いですが楽しんで貰えると思っています。

次に繋げるべく、いくつか端折った部分は後々出すつもりです。
また一言でも良いので感想を残してくれると執筆の活力になります。
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