朔麻との勝負に片を付けた後、サチは森の中を走っていた。戦いの中、いつの間にか湖畔から離れていたのか。中々、森を抜ける事が出来ずに彼女は堪らず舌打ちする。こうしてる間に、カカシ達は大変な目に遭っているかもしれない。もしかしたら… 考えれば考える程、嫌な想像がサチの頭を過る。そんな不安を振り切る様にサチは走る速度を上げた。
そして漸く森を抜けたサチは、目の前の光景に呆然とした。湖畔の岸辺は深く抉れ、その先では沢山の木々が軒並み押し倒されている。折れた木から滴り落ちる水を見て、これは忍術によって出来た物だろう。恐らく、相当に激しい戦いが繰り広げられたと想像が付く。はたしてカカシ達は大丈夫だろうか?と心配する彼女の目に湖畔の傍に立つナルト達の姿を見つけて、一目散に駆け寄ると声をかけた。
「皆、大丈夫だった。こっちの状況は凄い事になってるようね。それにカカシはどうしたの?」
「姉ちゃん!! ああ。カカシ先生は少し疲れて倒れたけど、特に怪我も無いから大丈夫だってばよ。そういう姉ちゃんも戻ってきたって事は、あの気味の悪い女に勝ったんだな」
「ええ、勿論よ。ともかく皆が無事で安心したわ」
心配そうに尋ねるサチだったが、ナルトの返事を聞いてホッと胸を撫で下ろした。するとそんなサチの傍に浮かない表情をしたサクラが寄ってくる。何か言いたそうな様子を見せるが、何も言わず俯いてしまう。それから暫く俯いていた彼女だったが、突然サチに抱き付くとぽつりと言葉を吐き出した。
「良かった…。サチ先生が無事に帰ってきて。私、戦おうとしたのに怖くて何も出来なかった。あのナルトだって、再不斬に向かって行ったのに…」
「…サクラ。貴女は何も出来なかったと言うけど、勇気を出して立ち向かったじゃない。それが出来ただけでも十分よ。いつかサクラも誰かを守る為に戦う日がきっと来るわ。今日出来なかった事は、その日にやればいいのよ」
「うん。ありがとう サチ先生」
「さて、厄介事も片付いた訳だし、私達も先へ行くとしましょう」
サチの優しい言葉にサクラは目に涙を滲ませて、礼を言った。そしてサチは手を叩いて、自分に注目を集めてから皆にそう声を掛けると一行は、タズナの家に向かった。
その後、何事もなくタズナの家に辿り着いた一行は、戦いで疲れたカカシをベッドに寝かせた後。いきなりの訪問にも関わらず、快く協力してくれたタズナの娘であるツナミにサチが頭を下げてお礼の言葉を口にする。
「どうもありがとうございます。それに突然、押し掛けたの部屋まで貸してもらって申し訳ないです」
「ああ いいよ。うちの方こそ、父が世話になったし困った時はお互い様よ。それと必要な物があったら、遠慮なく言ってね」
「はい 何から何まで助かります」
そう言い残して立ち去ったツナミにサチは深く感謝した。そして残されたナルト達とカカシを看病していると、ある事を思い出したナルトがそれを伝えるべく、サチに話しかけた。
「そうだ 姉ちゃん。言い忘れてたけどさ。俺達、妙な奴に会ったんだ」
「妙な奴? それはどういう事かしら?」
「ああ。それは…カカシ先生が再不斬に止めを刺そうとした時、同じ里の奴がやってきて再不斬を殺したんだ。そんで、そいつは自分の事を追い忍だと言ってた」
「追い忍…か。そういえば、再不斬とあの女は抜け忍だから狙われる理由は十分あるわね」
「しかもそいつは、俺達とそう変わらねえ歳の奴だったんだぜ。それなのに平気な顔して殺すなんて信じらねえってばよ」
「ナルト。忍の世界では私達の想像が及ばない事もあるわ。貴方が出会った追い忍を意識してるなら、無駄だからやめなさい」
「それは…どういう意味だってばよ。俺じゃ、強くなれないって言いたいのか」
ナルトの話を聞いて、サチは言い聞かせる様に弟へ言った。だが、それを別の意味に捉えたのか。ナルトは険しい顔で言い返してくる。どうやら、言葉が足りなかったとサチは改めて口を開いた。
「そうじゃない。強いとか、弱いとかではなく。あなたは自分以外になる事は出来ないって意味よ。逆に聞くけど、厳しい修行を重ねて強くなったとするわ。その時、ナルトはその追い忍みたく人を殺す事が出来るの?」
「そんな事…しねえ。例え、強くなっても平気で人を殺すなんてしたくねえ」
「つまりはそういう事よ。同じ歳の子がそれをやって、ショックを受けたのは分かる。けど、もう忘れなさい。どの道、その子とは二度と会う事は無いだろうし、その子を意識するのは幻を追いかける様なものよ」
「ああ。分かった。ごめん 姉ちゃん。変な事を言って…」
「フフ。別に謝らなくてもいいわよ。怒ってはいないから」
「それより、今後はどうする?ガトーとか言う奴の刺客は追っ払ったし、タズナも家に送り届けた。肝心のカカシはあの有り様だ。この後の指示をあんたから聞きたい」
サチの言葉に納得したナルトは、素直にその言葉を受け入れた後、小さい声でサチに謝った。そんな弟の頭をサチは優しく撫でる。その二人のやり取りを見ていたサスケは、頃合いを見計らってサチに尋ねた。その問いにサチもどうするか考えを巡らせるが、やはり一人で決める訳にいかない。そう結論を出し、ナルト達に伝える事にした。
「今後の事だけど、それはカカシが目を覚ましてから話し合って決めるわ。とりあえず、今は待機していて頂戴」
「分かった。だが、なるべく早めに起きるといいけどな」
「それはカカシ次第だから…何とも言えないわ。それと二人は何か意見ある?」
「いや、俺は何もねえ」
「私も無いです」
一応、ナルトとサクラに声をかけるが…二人もサチの指示に従う様だ。その後、四人が看病したおかげか。夜になってカカシが目を覚ました。
「うん 此処は…何処だ?」
「タズナさんの家よ。それにしても…倒れる程、写輪眼を使った様だけど。再不斬という相手はそんなに強かったの?」
「ん?ああ まあな。それなりに強敵だったよ。あの時は俺もヘマをやらかして、勝負を急いだのもあったけどね。サチ そういうお前はどうだった?」
「そうね。私も似たようなものよ。それと起きたばかりで悪いけど、今後の事で少し話があるの」
「別に構わないよ。俺もちょっと、引っかかる事があってね。それを話したいと思ってた所だ」
「なら丁度いいわね。私はあの子達を呼んでくるわ」
それを言われて、初めてナルト達がいない事にカカシは気付いた。自分が倒れて気を失う時までは、無事だったのは覚えている。もしや、あの後も敵が襲ってきたのかと考えたが…それならサチも自分と同じく寝ている筈だ。有り得ない想像をするのは...まだ疲れてるからだとカカシは思う事にした。
「カカシ。三人を呼んできたわ。中に入るわよ」
「お、本当に起きてるってばよ」
「もう大丈夫なんですか?」
「ったく。やっとお目覚めかよ。世話の焼ける先生だな」
「ああ。面倒を掛けて悪かった。しかし、サスケ。最後の一言は余計だよ」
三者三様の言葉にカカシは苦笑いを浮かべて、呟いた。そして、7班のメンバーが揃った所で今後の方針を決める話し合いが始まった。
「成程ね。事情は大体、分かったよ。それで今後の方針だが、当初の予定どおり橋が完成するまで護衛を続ける」
「それと問題はガトーね。多分、次も何か仕掛けてくる筈。そう考えると気が抜けないわね」
「そんならさ。いっそ、こっちから仕掛けて‥そのガトーってのをぶっ飛ばした方が早いんじゃねえの?」
「ナルト。本気で言ってるのなら、怒るわよ。この依頼を受ける前、私が火影邸で言った言葉を忘れたの?」
「う、別に忘れた訳じゃないってばよ。ただ、相手は悪い事をしてるんだろ?だったら、戦って追っ払うべきと思っただけだ」
話し合いの中、ナルトの言った言葉にサチが目を吊り上げて厳しく言い放つ。それに焦ったナルトは、弁明をした後で己の考えを口にした。ナルトの言う事も一理あるが、相手が悪人だとしても忍が一般人に手を出す訳にいかない。それだけは、しっかりと教えようとサチが口を開こうとした時。
「無駄だよ。あんたらが何をしてもガトーには、敵いっこないさ」
「こら、イナリ。客に向かって、その口の聞き方は何だい!!」
「だって、本当の事だよ。それに母ちゃん、この人達もガトーに殺されて終わりだよ」
「んだとぉ!! 勝手な事を言いやがって、そんなのやって見なきゃ分かんねえってばよ」
「ふん。だったら、好きにしなよ。すぐに僕の言った通りになるから!」
もう言いたい事は済んだのか。その言葉を残して、イナリと呼ばれた少年は部屋を出て行った。そんな後ろ姿を気に入らないとナルトは、眉を寄せてジッと見つめていた。部屋に漂う雰囲気に居辛くなったのだろう。母親のツナミも食事の仕度を理由に、続いて部屋を出て行く。残された一行は、改めて話し合いを始めた。
「まあ、ナルトの説教はあとでするとして。やはり、ガトーの事が気になるわね」
「いや、俺としては…再不斬達を追って来たあの少年の方が、気になるな。何か裏がある感じがしてならない」
「そういえば、引っかかる事があると言ってたわね。具体的にどう思うのかしら?」
「ああ。あくまで予想だが、俺としてはあの少年と再不斬達は、繋がってると思ってる」
「あの追い忍が、再不斬たちの味方って事?でも、あの時…確かに再不斬を殺したじゃない。先生も死んでる事は確認した筈よ」
カカシとサチの話に、不穏な空気を感じてサクラが口を挟む。他の二人も、漠然とした不安をサクラ同様に感じていた。嫌な予想というのは、いつの時も当たる。
「サクラの言う通り、俺は確かに再不斬が死んだ事を確認したよ。けどな、追い忍は何も抜け忍を始末するだけが仕事じゃない。仕留めた奴の遺体を解体する術も心得ているんだ」
「つまり、どういう事だってばよ。それが何だってんだ」
「今から説明するから黙って聞いてろ。いいか?遺体を解体するって事はだ。人体の仕組みを知らないと出来ない。逆に言えば、相手を殺した風に見せる芸当だって…可能なんだよ」
「じゃあ、それが本当なら…」
「ああ 再不斬は生きてる!! あの少年は再不斬を一度仮死状態にして、死んだと思わせたんだろう。恐らくは朔麻というくノ一にも同じ事をしてる筈だ」
カカシは真剣な表情ではっきりと言いきった。やはり、嫌な予感だけは当たるのだと…三人は表情を暗くする。しかし、そんな三人に向かってサチが明かるく声を掛けた。
「そう落ち込む事もないわ。寧ろ、これをチャンスと思いなさい」
「何でチャンスなんですか?だって、カカシ先生の言う通りならあの朔麻って奴も生きてる事になるわ」
「そうね。でも、死にかけた人間が回復するには時間が掛かる。その間、私とカカシで貴方達に修行を付ける」
「修行をして、俺達があいつらに勝てる様になるのか? どう足掻いても力の差は歴然だぞ」
「いや、そうは思わない。今日、再不斬を相手にお前達は俺を救っただろう。結果、俺が倒したとはいえ…お前達は確かに強くなってるよ」
サチの提案に、サスケは訝し気な顔で疑問をぶつけた。だが、その疑問をカカシは真っ向から否定する。例え、再不斬達の粋に達していなくとも、戦える力があると無いのでは訳が違う。今日、彼らは自分を救った事でそれを示した。ならば、あとは三人の成長に賭ける事にしたのだ。
「そういう事よ。早速、明日から修行を開始するから。全員、今日は早めに寝る様にね」
「あの…。大事な話の途中で超悪いが、飯が出来たぞ。下で待ってるから来てくれ」
「おや、もうそんな時間なのか…。そういや、俺も腹が減ったなぁ」
「そうじゃろ。あんな激しい戦いをした後じゃ、誰だって超はらぺこになるに決まっとる」
「よっしゃーー。 飯だってばよ。たらふく食うぞ」
「あんたは…少し遠慮しなさいよ。全く」
「フン ウスラトンカチが」
「何だよ。何か文句あんのか サスケぇ」
「やめなさい。いいから早く行くわよ。下でツナミさんを待たせる訳にいかないし」
部屋に食事が出来たと呼びに来たタズナに、一行もお腹が空いてる事に気が付いた。そういえば、緊張の余りに忘れていたが、昼もまとも食べていない。数時間ぶりの食事に気分を良くしたのか喜ぶナルトを、サスケは鼻で笑った。すると当然、ナルトはサスケに食ってかかるが…それをサチが止めに入り、一行はタズナに連れられて下へ向かった。
「ああ。皆さん、来たね。久しぶりの客だし、今日は腕によりをかけて作ったよ。量もあるから存分におかわりしていいからね」
「ご馳走になります。いや~ 実に美味そうなご飯だなぁ。こりゃ、食欲がそそられる」
「あら。嬉しい事を言ってくれるね」
「先生…さり気なく、口説いてない?一応、ツナミさんって人妻よね?」
「ええ。息子もいるからそうでしょうね。そういえば、イナリくんの姿が無いわね」
「まだ部屋にいるかもしれんのう。どれ、ワシが呼んでくるとしよう」
「だったら、俺が行くってばよ」
「そうか。それじゃあ、頼めるか。部屋は階段を登って、一番奥の部屋じゃ」
「おっけー すぐ呼んでくらぁ」
タズナからイナリの場所を聞き、ナルトは駆け足で部屋の前に来ると...中から泣き声が聞こえてきた。一体、何だと気付かれない様に戸を開けて覗くと、そこには一枚の写真を見て大粒の涙を浮かべるイナリの姿があった。つい先程とは違って、悲痛なその表情に声をかける事が出来ず、ナルトは足音を立てないように下に戻っていった。
「あ、戻って来た。って、あんたイナリくんはどうしたのよ?呼びに行ったんじゃ無かったの?」
「いや‥そのさ。呼びに行ったんだけど、あいつ部屋で悲しい顔して泣いてたんだよ。それ見たら、声をかけれなくてさ」
「そうか。また泣いておったか」
「そうみたいだね。とりあえず、先生方は食べておくれよ。あの子の事は気にしなくていいからさ」
呼びに行った筈が、一人戻って来たナルトに尋ねるサクラに訳を話した。それを聞いてタズナは、ポツリと言葉を洩らした。どうやら、深い事情がありそうだがとても聞ける雰囲気ではない。一行は、ツナミの言葉に従って食事に手を付け始めた。出された料理は美味しかったが、暗い気分の為か。その味は良く解らなかった。
翌日。
陽が昇り始めた早朝、ナルト達は近くの森へ来ていた。こんな場所で何をするのか?そんな三人の視線を感じながらもカカシは、一本の木に近づくと本題を切り出した。
「さて、修行の内容を教えるぞ。とは言っても、やる事は単純だ。今からお前達には木登りをしてもらう」
「木登りぃ。何だ、修行と言うから期待したのに。そんな事かよ」
「ナルト。確かにやるのは木登りだ。しかし、お前の思ってる様な容易いものじゃないぞ」
「どういう意味だ?所詮、やるのは木登りだろう」
「お前達はどうも、せっかちでいかんね。まあ、いいか。今回の木登りは手を使わず、足のみでやるんだよ」
「足だけで…。それって、ジャンプして登れって事?」
「残念。外れ~ サチ。悪いがこいつらに手本を見せてやってくれ」
「分かった。それじゃあ、よく見てなさい」
修行の説明をする中、やる気が無さそうなナルト達にカカシは苛立ちを覚えたが、それを抑えてサチに手本を見せる様に言った。口で言うより、実際に見せてやる方が早いと結論付けた。そして、サチは木に歩み寄ると足をかけて木を登り始めた。まるで地面を歩く様に登っていくその姿に三人も言葉を失くし、カカシの言葉が事実と理解した。確かにこれは容易くは無い。
「すげぇ。あんな風に登るって、一体どうやってるんだってばよ?」
「何。原理は簡単さ。単刀直入に言うと、足にチャクラを貯めて木にくっついてるだけだ」
「つまり、俺達がやるのはチャクラの修行って訳か。しかし、どうして今になってやるんだ?生憎、チャクラの使い方なら既に学んでるぞ」
「そうよね。私達も一応、忍術を使える訳だし」
「所がどっこい。お前達はチャクラを使えるが、使いこなしてはいない。だからこそ、今回はこの修行を選んだわけよ」
修行の趣旨に気付いたサスケとサクラは、自分達の意見を述べるが…カカシはそれを一蹴した後、説明を続けた。
「お前達が忍術を使う為にチャクラを練る時、大抵は動きを止めているだろう。だが、戦闘となればそれは大きな隙になる。それに動きながらでもチャクラを練るには、精密な調節も必要だ。おまけに持続する技術もな。今回の修行では、調節と持続。この二つを体に覚えさせる為さ」
「それにね。足の裏はチャクラが貯めにくい箇所でもあるわ。だから、これが出来る様になる頃には自然とチャクラの調節と持続する力が身に付くのよ」
「因みにこれは下忍が行う修行でも、かなり難しいからな。まずは、このクナイで自分が登った所に印をつけろ。そうしたら…次はより上を目指して登る。要はこれの繰り返しだ」
「おーし。こんな修行、ささっと終わらせてやるってばよ」
二人が行う修行の説明を終えた後、カカシはナルト達の足元にクナイを投げた。だが、三人はクナイをジッと見つめるだけで動こうとしない。もしかして、下忍に難しいと言った言葉に怖気付いたのか?と思った矢先、ナルトは勢いよくクナイを抜きとると自信満々に突破してやると言い放った。それに呼応したのか、サクラとサスケもクナイを抜きとるとそれぞれの木に向かって駆けて行った。
こうして…カカシとサチに寄る三人の修行が波の国で始まった。
今回のお話、いかがだったでしょうか?
ついに波の国へ到着したカカシ一行。波の国編も折り返し地点に来ましたね。
テンポよく行けば、あと2,3話で波の国編も終わると思います。
宜しければ、一言でもいいので感想を残して下さると作者の活力になります。