艦隊これくしょん──The Last Ship──   作:アース@にわかミリオタ

3 / 3
フェーズ6(3)

ネイサン・ジェームズがいくつか質問をし、それにスコット博士が答えるというやりとりがしばらく続いているころ。CICではソナーを担当していたジェンキンスが何かの音を聴いた。

 

「浮上音を確認。急速に増大しています」

「潜水艦か?」

 

CIC責任者であり砲雷長でもあるバーカー少佐がソナー員の座席に近づいてジェンキンスに尋ねた。

 

「いえ、それよりも大きいです。おそらく深海棲艦、アルファ級かと」

「レーダーコンタクト!当海域に大規模なノイズを確認!深海棲艦の反応です!」

 

ジェンキンスが答えた直後にレーダー員から報告が入る。

レーダーにノイズが発生するのは深海棲艦の存在を示す典型的な例だ。妨害電波によるノイズともはっきりと区別がつくため、間違えることはほとんどない。バーカー少佐は迷わず、艦橋にいるチャンドラー達に伝える為に艦内電話を取った。

 

艦橋(Bridge)、CIC!深海棲艦です!!」

 

深海棲艦は普通の仮想敵とは違い、国ごとに対応の程度差こそあれど人類共通の敵であり、襲われた際の対応の迅速さが生存率を大きく左右する。

 

総員配置!!(Set General Quarters!!)

総員配置、総員配置。(General Quarters, General Quarters. )総員、戦闘配置に就け!!(All hands, man your battle stations. )

 

バーカー少佐からの報告を受け、チャンドラーは総員配置の命令を下す。それを聞いたラッセル・ジーター先任曹長は、艦内放送機器まで駈け寄ると、間髪を入れずに総員配置の指示を伝える。その直後、CICの警報スイッチによって艦内に警報が響き渡った。

戦術(TAO)、艦長だ。敵の動きは?」

「いえ、ノイズが酷く数も把握できておりません」

「わかった、目視で確認する。マイク、CICを頼む」

 

チャンドラーが受話器を下ろすと、外に海兵を配置させて目視で敵を捜索させた。

敵はすぐに見つかった。海中から飛び出してきたので、大きな水飛沫を上げていたからである。方位0-3-5にアルファ級駆逐艦、2-2-0にエコーIII級軽巡洋艦。両者共に≪ネイサン・ジェームズ≫へ接近中。それ以外は確認できない。

アルファ級駆逐艦は日本では駆逐イ級として知られている。クジラより大きく威圧感もあるが、それほど頭は良くなく深海棲艦の中では通常艦でもたおせるぐらいに弱い。だがそれでもそのサイズと火力は無視できない。

エコーIII級軽巡洋艦は比較的最近発見されたクラスで、名は軽巡洋艦と第二次大戦のものではあるが、実態はミサイルと魚雷で武装した重駆逐艦である。その火力は非常に強力で、防御力こそないもののおよそ人サイズのものが軽快かつ単調ではあるが戦術的に動き回るため、艦娘相手でなければ厄介な相手である。

どちらのカラーリングも白黒を基調に、目に当たるところは青白く染まっている普通クラスの深海棲艦だった。これがもし赤いエリートクラスや黄色のフラッグシップクラスであったのであれば苦戦は免れなかったであろう。

 

「敵は深海棲艦、アルファ級駆逐艦およびエコーIII級軽巡洋艦。繰り返す、敵は深海棲艦、アルファ級駆逐艦およびエコーIII級軽巡洋艦」

 

艦内放送が敵の概要を知らせると同時に、甲板へ出たネイサン・ジェームズへチャンドラー艦長から直接通話が入ってきた。

 

「ネイシー、敵はアルファ級、エコーIII級1隻ずつだ。アルファ級はこちらでどうにかする。エコーIII級を頼む」

「了解」

 

ネイサン・ジェームズは短く答えると、ヘリコプター甲板の一部分が開き、そこからせり上がってくるものに向かって小走りした。

それはまさに艦を小型化して人間に着せるような形をしており、いわゆる艦娘の艤装だった。

ネイサン・ジェームズが艦尾のスクリュープロペラと舵を模したヒール状の靴を履くと、制服背部のコネクタに艦後部の煙突とヘリコプター甲板、ファランクスまでが乗せられたバックパックが接続され、さらにバックパックの両側にMk.41 VLSそっくりの小型の発射管48セルずつが取り付けられた。両足外側にはMk.32 魚雷発射管が、両肩にはSPY-1Dレーダーが4つ取り付けられ、そのほかレーダー類がまとめられたカチューシャを頭につけた。

 

「システムチェック......システム、オールグリーン」

 

システムが全て正常であることを確認すると、ネイサン・ジェームズは意識を集中させて≪ネイサン・ジェームズ(自ら)≫とリンクを始めた。

レーダー、ノイズにより一部使用不能。

無線、無線封鎖命令により使用不能。

光学照準、使用可能。

機関、正常。

両舷増速中、現在20ノット。

5インチ単装砲、右へ旋回中。おそらくアルファ級へ砲撃。

パッシブソナー、2隻分の音を確認。

艦内通話、把握。方位0-3-5にアルファ級、2-2-0にエコー級。

状況把握完了。

 

「USSGネイサン・ジェームズ、出ます!」

 

腰に巻きつけられたホルスターからMk.45 5インチ単装砲を小型化したかのような拳銃を抜き取ると、≪ネイサン・ジェームズ≫の艦尾へと走り出す。

端にたどり着いたネイサン・ジェームズは甲板を蹴って大海原へ向けて飛び込んだ。

ネイサン・ジェームズが海面に両足でしっかりと降り立ち、くるりと体の向きを≪ネイサン・ジェームズ≫の艦首方向へ変えると、靴のスクリュープロペラが勢いよく回転を始めた。海面が白く泡立ち、その推力によって彼女の船体()はすぐに31ノットまで加速する。

≪ネイサン・ジェームズ≫の左舷を通り抜けて前へ出ると、体を傾けてエコーIII級の方位へと進み出した。

 

「Fire!」

 

それと同時に、≪ネイサン・ジェームズ≫の5インチ単装砲が火を吹いた。

レーダーが使えないこの状況下でも、光学照準によって砲弾がアルファ級の鼻面へと正確に叩き込まれる。≪ネイサン・ジェームズ≫へ接近しようとしていたアルファ級はその攻撃によって怯んで足を緩めた。

砲塔から薬莢が吐き出され灰色の甲板へゴロリと落ち、新たなカートリッジが装填される。

5インチ砲の火器管制を担当するカール・ニシオカ二等兵曹が命令に従ってジョイスティックのトリガーを引くと、再び直径127mmの砲弾が放たれた。

口内から砲を突き出していたアルファ級の正面に再び弾頭が突き刺さる。直後に身をよじったアルファ級の砲からも砲弾が飛び出し、≪ネイサン・ジェームズ≫のはるか手前に落ちて水柱を上げた。

打ち込まれた砲弾に対して生物学的な反応を見せるアルファ級に3発目が飛来し、その青白く光る左目に着弾する。

感覚器官を潰されたアルファ級は足を完全に止め、耳を塞ぎたくなる金属が軋むような咆哮を上げる。その潰れた左目からは、オイルとも血液ともつかないドス黒い液体があふれ出ていた。

 

「っ─────っあ!うるさい!」

 

その咆哮に耳を悩ませながらも、ネイサン・ジェームズは足を止めない。

エコーIII級は攻撃を回避する為か、機関砲による牽制とジグザグ航行を行いながらネイサン・ジェームズへと近づいて行った。彼我の距離は2キロ、交戦するには十分近い距離だった。

ネイサン・ジェームズが手にした5インチ単装砲を正面へ構えて、自らの目でもある光学照準装置を起動させる。

 

「Fire!」

 

彼女は自身の号令とともに引き金を引いた。

艦娘の兵器は全てサイズダウンされており、それこそ人間大の艦娘が持ったり背負ったりできる程度には小さい。アーレイ・バーク級の艦娘の艤装もバリエーションがいくつかあるが、ネイサン・ジェームズの5インチ単装砲の場合拳銃サイズにまで縮小されており、その口径は12.7mm、ブローニングM2重機関銃のそれと同じである。もしそれが見かけ通りの威力しか持たないのであれば、深海棲艦相手には役に立たなかっただろう。

だが艦娘の装備は全て、サイズに関係なく元となった兵器と同等の性能を持つ。故に、その初弾がエコーIII級の魚雷発射管を1つ吹き飛ばすことなどたやすいことであった。

 

「Aaaaaaaaaa───────!」

 

ダメージを受けたことによる怒りからか、先程の咆哮と比べると幾ばくかは生き物らしい叫び声がエコーIII級から上がる。

その怒りを表すように、ジグザグに移動するのをやめて背部にある4つの口のようなものからミサイルがほぼ同時に放たれた。

ミサイルそのものから放射されるレーダー波をネイサン・ジェームズの装置が捉え、それらに対してイージスシステムがすぐさま目標番号(トラックナンバー)を割り振る。

 

(目標番号、4052から4055。おそらく、いえ、確実に対艦ミサイル。)

 

白い尾を引き海面スレスレを飛ん(シースキミング)で接近する4発の対艦ミサイル。ネイサン・ジェームズはそれぞれの脅威度を即座に算出し、脅威度が一番高いわずかに近い方に単装砲を放った。

弾が空中で1つのミサイルと衝突し、爆発音と共にオレンジ色の巨大な花が咲く。レーダー波の消失を確認したネイサン・ジェームズはすぐさま2つ目へ向けて引き金を引いた。

命中。

3発目へ向けて発射。

命中。

機械的に処理をしていたネイサン・ジェームズだが、4発目が近すぎることを確認すると「チッ」と舌を打った。

左足を軸に体を回して背中を向けると、背部に備わっているMk.15 ファランクス CIWSの20mmガトリング砲身が回転を始める。砲身の回転はすぐに最速に達し、最高秒間火力である秒間75発で20mm弾がミサイルに向けてばら撒かれた。

タングステン弾芯のAPDSがミサイルを貫き、ネイサン・ジェームズまであと100メートルの場所で炸裂した。

ネイサン・ジェームズが再び正面を向くと、撃破したミサイルの破片が上からパラパラと降り注ぐ。彼女は腕でそれらを防ぎ振り払うと、再び単装砲を構えた。

 

(エコーIII級の対艦ミサイル装填数は4発、攻撃手段は機関砲と残された魚雷発射管しかない。ならばあとは畳み掛けるまで)

 

ネイサン・ジェームズは再度5インチ砲を発射し、次弾が装填されると間髪入れずに再び放つということを繰り返した。

エコーIII級は防がれた対艦ミサイルの代わりに魚雷を放とうとしていたが、飛来する砲弾に対処するべく攻撃をやめて防御の構えをとる。

エコーIII級の左腕部には装甲らしきものが取り付けられてあり、多少の攻撃ならば通らない。が、それはアーレイ・バーク級の5インチ砲弾の前には無力だった。

1発目は角度の関係で辛うじて防いだが、2発目は装甲を完全に貫き、内部で炸裂する。エコーIII級は装甲を砕かれた上に姿勢を崩し、そこに3発、4発、5発目が顔、腹、異形の下半身それぞれに直撃した。エコーⅢ級は完全に動きを止め、わずかに残された意識で機関砲を乱射する。が、それがネイサン・ジェームズを捉えることがないまま、6発目が頭に命中した。エコーIII級の体が水面へゆらりと倒れ、バシャリと水が跳ね上がる。

 

「A───a────」

 

エコーIII級は最期に小さなうめき声をあげて空へ手を伸ばす。そして、浮力を失ったそれは自然の摂理に従って海の中へと沈んでいった。

ネイサン・ジェームズはスクリューを止めてその場に留まる。あたりを見回して先程の敵やそれ以外もいないことを確認すると、5インチ単装砲を下げてふうと息を漏らした。

先程までレーダーを占めていたノイズもなくなり、あたりに深海棲艦がいないことを示す。

 

「こちらネイサン・ジェームズ。エコーIII級を撃破、沈没を確認」

「了解した、こちらもアルファ級を撃破、沈没を確認。深海棲艦の反応もない。ネイシー、よくやってくれた。帰投してくれ」

「ネイサン・ジェームズ、了解!」

 

報告の通信を終えると、ネイサン・ジェームズの雰囲気は再び少女のそれになっていた。

艦長に褒められて少し顔を綻ばせた彼女はスクリューを全開にすると、最大速度で艦へと戻っていった。




エコーIII級はオリジナルの深海棲艦で、見た目はワ級をもう少しシャープにしたイメージです。
武装は魚雷発射管×2、対艦ミサイル発射管×4、機関砲が少々。
装弾数は少ないので撃ち切ってしまうと何もできませんが、集団で来られると非常に厄介な相手です。

申し訳ありませんが、次回は8月頃になると思われます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。