アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

100 / 145
第70話 魔王ちゃんは渡さない

「魔王ちゃん……!」

私は駆け寄り、石を拾い上げる。ハート型の石は、さっきと姿かたち、色、重さも、まったく変わらず、煌めいていた。

「大丈夫かなぁ?」

誰に向かって言ったわけでもなかった。独り言というか、ただ口から滑りでるように漏らしただけで、誰の返事も期待していなかったのだが

「う、うん……。聞こえるよ。」

という声がして、私は思わずギョッとする。

「え?魔王ちゃんなの?!」

石に向かって話しかけると

「うん。っていうか、封印されれも、喋ることできるんだね。」

と、若干くごもった声で、魔王ちゃんの返事が返ってくる。

「……なんか、封印されるって変な感じ……。もっと気持ち悪いのかと思ったけど、割としっくりくるかも。」

その言葉を聞いて、私は安堵する。思ったより酷いことにはなっていなさそうだ。

「よかったね、クロ。」

エルサイスは私の横に立つと、髪をクシャッと撫でてくる。私はすぐその手を振り払うが、動作はいつもより数倍優しくした。安心したのはたしかだったから。

「さぁ、じゃ、魔王を封印した冒険者様!凱旋に連邦まで向かいましょう?」

そうおどけたように言う魔王ちゃんに、私は思わず吹き出した。封印されても、魔王ちゃんは、魔王ちゃんだった。

「行こうか?」

エルサイスに促され、私たちは魔王城を後にした。

 

 

魔王城を出て、三国国境に戻ると、まだオスカーがウロウロしていた。

「魔王手下め、覚悟しろ!」

「まだいたのか。しつけーなぁ。」

勇んで私の胸ぐらを掴んできたオスカーに、私は冷たい目を向ける。

「あんまりしつこいと、女性に嫌われますよ。」

エルサイスが割り込んできて、オスカーの手を引き剥がす。

私はチラリとエルサイスの様子を伺う。顔にはいつもの優しい微笑みが貼り付いてるが、かなりの力が入っているようで、手の甲に血管が浮き出ていた。

「(中々いい用心棒かもな。)」

そう思ったのも束の間、次の瞬間、エルサイスはオスカーに突き飛ばされ

「うわぁわっと!」

と無様な声をあげながら、フラフラと尻もちをつく。よろける姿は風に舞う紙のように軽く、用心棒というには、明らかに弱そうだ。

「なにやってんだよ。」

呆れながらも、エルサイスに手を貸し、引っ張って起こす。

「ははは……ごめん……。」

エルサイスはそうどこか照れたように力なく笑いながら、頭をかく。

私を守ろうなんて100年早い。

「魔王をどこへやった?」

オスカーが剣柄に手を添えながら、凄む。血気盛んなやつだ。人のことは言えないが。

「魔王は僕たちが封印しましたよ。」

エルサイスはそういうと、鞄からハート型の石を出して、オスカーに見せる。

「封印されちゃったぁあっ!」

石の中から、魔王ちゃんが大袈裟に叫んだ。いい演技だ。

オスカーは一瞬、驚くように目を見開いたが、それが本物とわかると、剣柄から手を離し

「ふむ。なるほど、魔王の味方のふりをして奴を封印するとは、善人面して、さすが冒険者。やるな。」

と、私たちに賛辞のようなものを送る。

オスカーセリフについては、大いに引っかかるところはあったが、彼をまんまと騙せたなら、今は目を瞑ってもいいだろう。

「じゃ、これで。」

私がそう言って、この場をそそくさと立ち去ろうとすると、オスカーが

「待て。それをこちらへ渡せ。」

と、引き止めてきた。

私は思わずギクリと体を強ばらせる。

「だめ!やだ!」

魔王ちゃんが必死の抵抗を見せる。

肌身離さず持ってると約束したのだ。こんな雑魚に渡すわけにはいかない。

「なぜ渡さなければいけないのですか?」

どう言えばいいのかわからず、オロオロしている私に代わって、エルサイスが前に出る。いつもの、仮面のようなにこやかな笑みで、オスカーの前に立つ彼の姿は、堂々としていて、相手を欺いていることなど、微塵も感じさせない。

「(用心棒より、詐欺師が似合うな。)」

つい、そんなことを考えてしまう。

「もともと、その魔王は連邦の地下に封印されていたのだ。我々に渡すのが筋だろう。」

「そうは言っても、魔王を封印したのは僕らです。そう易々と、他人であるあなたに簡単に渡すわけにはいきません。」

「渡せないっていうのか?」

オスカーがエルサイスに睨みを利かせながら、再び剣柄に手をかける。それに反応して、私もデモンソード=アビスの柄を握る。すぐさまエルサイスが私の肩に手を置き「待て」をしてきたが、かまっていられない。向こうが抜いたら、こっちだってやるしかないのだ。

「ちょっといいか。」

睨み合う私たちの前に、フラリとフェンダークが現れた。地面からぬっと湧いてきたかように、何の気配も感じさせず、本当にそれは突然だった。

「おい、友人。」

なんて声をかけてくるが、本当にこいつは神出鬼没で、よくわからないし、なんとなく信用出来ない。

「誰だ、お前は?」

剣柄に手をかけたままのオスカーが、フェンダークに食ってかかる。

「なに、シュリンガー公国のドレイク大公の使いさ。連邦の魔王を封印してこいって言われてな。」

「なんだと?公国の大公が?」

私とエルサイスは顔を見合わせた。

降って湧いた公国の話に、私は戸惑っていた。連邦で悪さをしている魔王を、公国が封印するメリットは?フェンダークと大公の関係は?魔王ちゃんを巡って連邦と公国がやり合う可能性は?

様々な疑問が、泉の湧き水からふつふつと膨らむ泡のように、生まれては消えていく。

キャパオーバーだ。

「クロ、動いちゃダメだよ。」

エルサイスがそう小声で警告してきた。そして私の肩から恐る恐る手を離し、私が飛び出さないのを確認すると、安心したように息をついて、ほんの少しだけニッと笑う。

彼はそのまま目線を前に、柔和で温厚そうだが、確かな自信と威圧を漂わせる顔で、オスカーと私の間に立ちはだかる。その隣には、フェンダークが腕組みをしたまま、これから楽しいイタズラをする子供のような顔で立っていた。

どうやら、下がっていろ、ということらしいい。幾らばかりかの不満はあったが、こいつらの話に、ついていけそうな気はしない。

私は小さなため息をつくと、構えを解き、行き場を失った両腕を抱え込むように腕を組み、事の成り行きを見守ることにする。

私が構えるのをやめたので、オスカーも剣柄から手を離す。

「公国が何を企んでいるのか知らんが、こいつは連邦のものだ。渡すわけにはいかん。」

オスカーはそう言いながら、エルサイスの手に握られた石を顎でしゃくる。

「誉れ高き騎士様が、手柄の横取りですか?」

エルサイスがいつものにこやかな笑みを貼り付けたまま皮肉を言う。

「どうしてもと言うなら、国も絡むことだ。戦争にもなりかねん。」

フェンダークが意地悪そうにニヤニヤ笑いながら、エルサイスに続く。

私はこれから繰り広げられる展開を予想して、オスカーを哀れむ。

「一兵士が、手柄ほしさに、他国の使いを斬った、となるとどうなりますかねぇ?」

「お前のせいで、一兵士の勝手な判断で。」

「どれだけの人が命を落とすのでしょうか……」

「ヒッヒッヒ。楽しみだねぇ。」

エルサイスとフェンダークから、交互に繰り出される言葉のパンチに、オスカーはたじろき、奥歯を噛んで、悔しさに顔を歪ませた。

グゥの音もでないようだ。

思った通り、この2人を敵に回すとろくなことがない。口達者で皮肉屋で、あっという間に相手を丸め込んでしまう。

私は思わず身震いした。こんな猛攻撃には、絶対に遭いたくない。

「ふん……よかろう。だが、陛下には報告させてもらうぞ。どういう展開になるかは保障しない、そう大公に伝えろ。」

苦し紛れに、オスカーが捨て台詞を吐く。そこで離してやればいいものを、趣味の悪いフェンダークはまだ絡みつく。

「はいはい。私は魔王を封印できず、公国から依頼された冒険者に手柄をとられました。冒険者を粛清する能力も私にはありませんでした。ってきっちり報告するんだぞ?!」

っと嫌味を重ねる。本当に、オスカーが哀れだ。

「くっそ!!」

オスカーはそう悪態をつくと、苛立ちに足を踏み鳴らしながら去っていった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。