アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

101 / 145
第71話 フェンダークとドレイク王

僕の向かいで、フェンダークが足を組み、豪華なソファに寄りかかっていた。両手をソファの背に回し、ふんぞり返るその姿は、偉そうで、明らかに態度がでかい。

クローバーは、フェンダークの様に粗暴さこそないが、緊張する様子もなく、僕の隣で紅茶を優雅にすすっていた。そして時々、テーブルに並べられたアフタヌーンティーセットの中から、マカロンやクッキーを好きに摘んで、美味しそうに食べている。なんだか機嫌が良さそうだ。

僕は、メイドのナギから差し出されたカップに目を落とす。琥珀色の水面に、ゆらゆらと自分の顔が映り込んでいた。それを消し去るように、カップを持ち上げ、1口すする。ほのかに香るベルガモット。アールグレイだ。その美味しさに、満足した気持ちで息をつく。

3人とも、これから一国の王に謁見するとは思えないリラックス具合だ。

 

 

 

「ドレイク公がその魔王を欲しいって言ってたのな、ありゃ嘘だ。」

オスカーが去ると、フェンダークはあっさり自分の嘘を認めた。

僕は始めからそうだろうと思って、話を合わせていたので、特段驚きもしなかったが、クローバーは予想外だったようで

「は?」

っと間の抜けた声をあげた。

「全部ハッタリだったってこと?」

驚きと呆れが入り交じった顔で、クローバーが僕を問い詰める。僕はその顔がおかしくて

「うん、そうだよ。」

と答えながら思わず笑ってしまった。

「お前はこいつと相性がいいみたいだからな。そういうことにして、てめぇが持ってりゃいい。」

フェンダークはそういって、僕から魔王ちゃん封印された石を奪うと、ポーンとクローバーに向かって投げた。

クローバーは魔王ちゃんを落とさないようにと、慌てて手を伸ばす。石はクローバーの手の中で3,4回お手玉のように跳ねて、最後はその胸元に収まった。

「危ねぇだろ!!」

不満そうに口を尖らせるクローバーを、フェンダークが気にする様子はない。

飄々としているといえば、僕もそうだが、彼はまた僕とは違う。僕はどちらかと言うと、特に感情が湧き出ないので、そういう態度になってしまうのだが、フェンダークは何かを隠しているような、わざとそう振舞っている気がする。

だからといって、彼を問い詰めたところで、それこそ飄々とかわされてしまうだろう。

今のところ、フェンダークが何を隠していようと、僕らに害はない。ならば、わざわざそうする必要はなかった。

「持ってろとは言うが、そうするなら一応、大公陛下の許しをもらわにゃいけねぇ。まずは公国に顔出しに行くか。」

フェンダークの言う通りだ。キチンと筋を通しおかなければ、後々面倒なことにもなりかねない。

そうして僕らは、シュリンガー公国まで、王の謁見に向かったのだった。

 

 

 

相変わらず、ゆったりとした時間が流れていた。

クローバーがレモン色のマカロンに手を伸ばし、カリッと1口噛むと、爽やかなシトラス香りが、僕の方まで漂ってくる。

「うん、美味しい。」

そう満足そうに呟くクローバーを横目に、僕は2杯目のアールグレイに口をつける。

ドレイク王に会うのは、これで3回目だ。

1度目は、公国の小狡い兵士長フランクに着せられた濡れ衣を晴らすため。2度目は、ドレイク王のメイドの1人だったノエルを救うため。

自分で言うのもなんだが、こんな小汚い冒険者が、一国の王に謁見するなど、先の2回のように、何か特別な用事がない限り、ほぼ不可能だ。

こうしてここで紅茶を嗜みながら、謁見の準備ができるのを待っていられるのは、もっぱらフェンダークのおかげだった。彼はメイドのナギに

「フェンダークだ。王さんに言っとけ。」

と言うだけで、取り次いでもらっていた。

彼は本当によくわからない。見た目も思想も、その辺にいるチンピラをちょっと上品にしたような感じなのに、王と簡単に謁見できる人脈を持っている。一体何者なのだろうか。

「準備ができました。こちらへ。」

ナギが僕らの前にスっと姿を現し、王の元へと案内してくれる。その凛とした雰囲気は、メイドというより、騎士のような風格だ。

僕とクローバーは、フェンダークの後ろに続いて、王の間に足を踏み入れた。

「久しぶりだな。フェンダーク。」

公国の王ドレイクが深いゆったりとした声で挨拶する。白い髪に白い髭、相当な年齢なのだろうが、老人の弱々しさはない。むしろ、年輪を重ねた太い大木のような、強い力が感じられ、どっしりとした威厳漂う風貌だ。

「あれ、俺とは初対面じゃなかったか?ドレイク王さんよ。」

フェンダークが意味ありげにドレイク王に軽口を叩く。王はほんの少しだけ眉をピクリと動かしたが、表情自体はさほど変わらない。

前にあった時もそうだったが、ドレイク王の表情は、石膏でできている像のように、ほとんどまったく動かない。いつも同じ、相手を射るような強い眼差しの厳しい顔で、怒ることも、笑みを浮かべることもない。

僕の卓越した顔色伺いの能力をもってしても、この顔から、内なる感情を読み取るのは、相当難しいものだった。

「……して、何用か。」

「こいつの持ってる宝石をよ、この国で預かってるってことにしておいてほしいのよ。」

ドレイク王にしてみれば、フェンダークの頼みは、なんとも奇妙なものであろう。

「大丈夫かよ?あれ。」

クローバーが僕に顔を近づけ、耳打ちしてくる。フェンダークの気安い態度を、心配しているようだ。

クローバーだって大概だが、さすがにあそこまでぞんざいではない。あんな態度をとっても大丈夫なほどの関係なのかもしれないが、相手は一国の王だ。そんな関係にどうやったらなれるのか、僕には皆目検討がつかなかった。

「唐突すぎる頼みだな。して、何ゆえに?」

「頼み事ってのはいつも唐突なもんよ。詳しく聞くのは野暮ってもんだろ。」

「しかし、一国の王が嘘をつくなど。やすやすと受け入れられる話でもない。」

「んー?どの口が言ってるんだ?言われたくないこと、たくさん、あるよな?」

フェンダークの言葉で、場の空気が変わった。

ヒリヒリとした緊張感が、静かだった水面に石を投げ入れたときのさざ波のように、部屋全体にじわじわと広がって、僕の体を締め付ける。

本能的に、今しゃべってはいけないと悟る。始めから、口を出す気なんて更々なかったので、ちょうどいい。僕はにこやかな表情を崩さないよう気をつけながら、2人のやり取りを見ていた。

「ついでに言うと、こいつは魔王を封印した石だ。解放したら、お前の命も危ないよなぁ?」

「この不届き者!叩き斬る!」

メイドのナギが、槍のような武器を持ってドレイク王の前に躍りでる。

「薙刀か、珍しい武器だな。」

クローバーがそう言いながら、当たり前ように応戦しようと、剣柄に手をかけたので、僕は慌てて、その手を引っぱって、無理やり下がらせると、自分の体の後ろに隠すようにして押さえる。出鼻をくじかれ不満なクローバーは

「何すんだよ!」

と悪態をついた。

「今は手も口も出すべきじゃない。」

思いがけず、強い口調で、ぴしゃりと言ってしまった。

クローバーは、驚いて目を見開いたあと、何度か戸惑ったようにまばたきし、最後は諦めたように「ちっ」っと小さく舌打ちをし、引き下がった。

「まぁ待て。」

ドレイク王がそう言って、ナギに下がるよう目で合図を送る。ナギはクローバーと同じ、不満そうな顔でフェンダークを睨みつけていたが、王の命令には逆らえないのだろう。ゆっくり武器を下ろし、下がっていった。

「フェンダークの頼みでもあるし、断ることは……できないが……。」

「俺は、あんたとは初対面なんだよ。わかってるよな!」

「あ、ああ……わかった。」

ドレイク王の表情は、さほど変わらない。でも、何となくフェンダークに怯えているような雰囲気が感じられる。

僕は2人の様子をよく観察した。

2人の力関係は、拮抗していて、対等のようにもみえるが、僕は、フェンダークの方が若干優勢だと勘ぐっている。何か弱みを握られているのか、それとも何か大きな助けを借りているのか。

ドレイク王は、フェンダークが何かしでかすのを恐れているのかもしれない。

ますます、フェンダークの正体がわからなくなった。

「いいだろう。その石を我が欲していることにして、主らのものにする。それを保証しよう。」

ドレイク王から許可を引き出すと、フェンダークは満足げに口角を釣り上げた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。