アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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第72話 2人+1人

「ねぇねぇ魔王ちゃん?」

石に話しかけても、魔王ちゃんの返事はない。封印されたまま話すというのは、結構疲れるらしく、そう軽々しく無駄話はできないようだった。

3人で旅をしているかのように、いつでも魔王ちゃんと話が出来ると思っていた私は、なんだかがっかりした。

「魔王ちゃんだって疲れてるんだから、休ませてあげな。」

エルサイスは、そう言いながら、テーブルに酒場でテイクアウトしてきた料理を並べる。

公国の酒場のチップが作った料理はどれもいつも美味しくて、外れがない。

私は、エビのフリッターを1つ手に取り、つまみ食いをする。

「あ、手洗ってから食べないとダメだよ。」

エルサイスは母親みたいなことを言う。口うるさくて面倒だ。

「クロのお行儀が悪いところ、全部魔王ちゃんが見てるからね。」

そう言われて、私は思わずサイドテーブルに置いたままの石を見た。魔王ちゃんは何も言わないし、反応もない。

「見えてるのかな?」

「見えてるでしょ。さっきフェンダークさんのことも見えてるみたいな話し方だったし。」

 

 

 

ドレイク王との謁見が終わり、魔王ちゃんにことの次第を報告する。

「私たちが持ってていいって、王様のお墨付きをもらったから、もう大丈夫だよ。」

「よかったじゃねぇか、望み通りそいつが手に入って。」

フェンダークが横から口を挟んでくる。

こうなったのは、ほぼ彼のおかげなのだが、なんだかお礼を言う気にはなれない。

私はフェンダークのことがあまり好きではない。嫌いというより、得体が知れず、なんだか気持ち悪い。実体のないふわふえわとした霧を掴むような不安定さが、私の警戒心を掻き立て、何かあれば、いつでも首を取ってやるという気持ちになってしまうのだ。とても友人なんて親しい関係になれそうにもない。

「フェンダークさんは、王と何か関係があるんですか?」

エルサイスがいつものにこやかな表情で聞く。なんの意図も裏もないような自然体を装っているが、メガネの奥の赤い目は、大事な何かを見据えようと、キラリと光っていた。

「別に知らねぇおっさんだよ。ま、男には秘密があるってもんだ。」

暖簾に腕押し。フェンダークはのらりくらりとかわし、動揺さえ見せない。食えない野郎だ。

エルサイスも諦めたように、首を左右に振る。腹の探り合いをする気はなさそうだ。

そこに

「思い出した!私が説明……」

と魔王ちゃんが割り込む。

「ああ?小娘。言ったら望み通りこの世から消し去るぞ!?」

フェンダークのドスの効いた声に、私もエルサイスもギョっとする。

「ごめん……言えないかも。」

「気にしないで。」

謝る魔王ちゃんを慰めながら、フェンダークをチラリと見る。

変化は一瞬で、今はもう何事も無かったように飄々としている。本当に、食えない野郎だ。

「でもあなたがこの子たちを気にかけるってことは……。」

「親友だからな。当然だろう。男は友人のために何でもする。それ以上の理由が必要か?」

なんとも白々しい。でも、それ以上の回答は得られそうにもない。エルサイスも、もう追求する気は無いようだった。

「……言わないほしいってことね。わかったわ。ごめんね。この人の正体教えてあげられない……。」

「まぁ別にいいよ。」

フェンダークの正体が気にならないといったら嘘になるが、どうしても知りたいわけでもない。理由がどうであれ、助けてくれるというのなら、それを享受することに、なんら問題はない。

「じゃぁな、俺と会えなくても泣くなよ。」

フェンダークはそんな軽口を残して、去っていった。

フェンダークを見送った私たちは、酒場で食事をテイクアウトすると、そのまま宿屋へと向かったのだった。

 

 

 

料理が並べられたテーブルにつくと、私はエルサイスと共に手を合わせ

「「いただきます。」」

っと声を揃えて言う。

「結局フェンダークの正体って何なんだろうな?」

「さぁ、さっぱりわからないよ。」

人の心を何でも読み取りそうなエルサイスでも、フェンダークのことは、さすがにわからないらしい。それなら私が考えたところで、無駄だろう。

私は早々に思考を切り上げ、食事に集中する。

「魔王ちゃんってお腹すかないのかな?」

「どうだろう?でも、魔王だから、お腹がすいても餓死するってことはないだろうね。」

熱々のスタンポットに手をつけながら、テーブルの上の石を見つめる。やはり何の反応もない。

「本当に見えてるのかな?」

「見えるけど、今は見てないのかも。」

私はマッシュポテトを口に含みもぐもぐと口を動かしながら、石を手に取り、まじまじと見回す。

いつ、どのタイミングで魔王ちゃんがこちらを見てるのか、まったくわからない。

嫌なことが続いて泣いてしまっているところや、酔っ払ってエルサイスに絡んでいるところや、シャワーのあと着替えを用意するのを忘れて、エルサイスが出かけているのをいいことに、裸で部屋を歩き回っているところを、見られてしまうかもしれない。

それはいくら相手が魔王ちゃんといえども、恥ずかしい。気をつけなければと思う。

そんなことを考えていると、エルサイスが、パッと私の手から石を取り上げ、彼がいつも肩からかけている青いショルダーバッグの中に厳重にしまい込んでしまった。

「ちょ!ちょっと!!」

「ずっとここに魔王ちゃんがいると、集中できないでしょ。いろんなことに。」

あっけに取られている私に、エルサイスがそうニッコリ笑いかけてくる。

「普段は僕がバックに入れて大事に保管しておくよ。」

何だか見透かされたようで、居心地が悪い。私はバツの悪さを飲み込むように、スタンポットの付け合せのソーセージを、口いっぱいに頬張った。

その様子を、エルサイスがおかしそうに笑いながら見てくる。まったく嫌なやつだ。

魔王ちゃんが加わって、楽しい3人旅とはいかない。旅は道連れ世は情けというが、思いやりを持つためにも、ある程度の適切な距離感は必要なのだ。魔王ちゃんには申し訳ないが、今のところ私にとっては、この位の距離が心地いい。

私とエルサイスの2人旅+魔王ちゃんという、新たな形で、私たちの旅は続いて行くのだった。

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