アルケミアストーリー~クロとエルの物語~ 作:cloverlight
現在連載中のストーリーとは、前後の繋がりが一切ありませんのであしからず
話の中のレアさんとそのYOMEエリアスの設定は、レアさん本人への取材を元に構成しています。
レアさんご協力ありがとうございました・:*+.\(( °ω° ))/.:+
激しい雨が、窓を叩きつけていた。
強風にガラスがガタガタ鳴り、その音に驚いて、レアはソーダブルーの髪をビクッと震わせる。
神へと続く道の途中にある空き家で、レアは1人泣きそうになっていた。
時渉りの塔を目指し、レアは1人、神へと続く道へきていた。
そこに思わぬアクシデントが降りかかる。
突然、快晴だった空に、ペンキをこぼしたような黒く厚い雲が広がっていき、あっという間に空が破け、大雨になったのだ。
山の天気は変わりやすいと聞いていたが、こんな急変をレアは体験したことがなく、慌てて空き家に逃げ込んだ。
空き家は、つい最近まで人が住んでいたので、中はまだキレイだった。ここの住人だった天才錬金術士のアルスは、時空を超える装置で、どこか別の次元に行ってしまったので、急に戻ってきて、レアと鉢合わせすることもないだろう。
「お兄ちゃん……。」
雨で濡れた体を自分の両手で包みながら、心細そうにレアが呟く。エリアスの返事はもちろんない。
白い稲光が空を駆け、薄暗い室内を一瞬だけ真昼のように染めた。そしてそれを追いかけるように、巨人の唸り声のような雷鳴が、部屋いっぱいに鳴り響く。
「ひゃぁあ!!」
レアは思わず耳を塞ぎ、その場にしゃがみ込んだ。目には涙が滲む。
「お兄ちゃん!!」
助けを求め、縋り付くようにレアが叫ぶ。しかし、エリアスの返事は、やはり無かった。
公国の市場は、月に1度の本の市で賑わっていた。
エリアスとレアは、本が欲しくてきたわけではない。今日は時渉りの塔を攻略するつもりで、その準備のため公国に立ち寄り、たまたま居合わせただけだ。
たまたまとはいえ、祭りのように盛り上がる公国全体の雰囲気に、2人は高揚感を覚え、わくわくしていた。
「せっかくだし、ちょっと見ていこうか?」
エリアスの言葉に、レアは
「うん!」
と、ツインテールの髪を揺らしながら頷く。
2人はそんな軽い気持ちで、フラっと市場に立ち寄った。
広場いっぱいに、本の露店が開かれ、様々な人が行き来している。
レアは、エリアスとはぐれないようにと、手を伸ばしたが、その先に既に彼はおらず、2,3歩先の露店でパラパラと本をめくっていた。
「お兄ちゃん。」
そう呼びかけるも、エリアスは本に夢中になっているようで、レアを振り向きもしない。
「あ、ちょっと……あっ……。」
団体客が、レアの後ろから押し寄せてきて、身長110cmと小さい彼女を、あっという間にもみくちゃにする。
「お、お兄ちゃん!」
レアの呼びかけに、エリアスはハッと顔を上げ、やっとこちらを見た。
「レアちゃん!」
でも、もう遅かった。お互い必死に手を伸ばしたが、レアは人の波に飲まれ、エリアスと離れ離れになってしまった。
レアはなんとか人混みをかき分け、市場の端っこの、比較的空いているエリアまで移動することができた。キョロキョロと辺りを見回しても、エリアスの姿は見当たらない。
どうやら完全にはぐれてしまったようだ。
「どうしよう……。」
レアは泣きそうになっていた。エリアスがいないと、不安で堪らなかった。
レアにとってエリアスは、ただの冒険のパートナーではない。
物心がつく前からずっと一緒で、自分を育ててくれた親であり、ちょっと抜けてるところもある兄であり、大事な人だ。
レアはエリアスを探して歩き出す。
人の多い市場は避けて、酒場の方へと向かうと、人通りも幾分少なくなる。それでも、エリアスは見当たらなかった。
1人になると、今よりもっと幼い頃の感覚を思い出してしまう。
寒くて、暗くて、怖い。
レアは戦争孤児だった。戦火から逃れ、ひとりぼっちになってしまったところを、エリアスに拾われたのだ。
まだ幼かったレアに、本当の家族の記憶はない。
暗くて、冷たい中に、鳴り響く地鳴りと、迫りくる赤い炎。それが、レアの1番古い記憶だった。
恐怖と物理的な寒さで、徐々に冷たくなっていく両手を、レアは擦り合わせてなんとか温めようとする。
早くエリアスに会いたい。
酒場で待っていれば、迎えにきてくれるかもしれない。レアはそう思って、酒場の前までトタトタと走ると、重いドアを、力を込めてなんとか開けた。
陽気な音楽と喧騒が、レアの耳になだれ込む。アルコールと、タバコの煙が鼻をついて、レアは思わず顔をしかめた。
「おっと、お嬢ちゃん通るよ。」
「あ、ご、ごめんなさいです……。」
レアは後ろからきた大きな男に、道を譲り、酒場に入る。
ドアがバタンと閉まると、備え付けられたベルがカランカランと音を立てた。
「いらっしゃいませー!!」
酒場のマスター、チップの掛け声に合わせるように、次々店員が「いらっしゃいませー」と続く。
レアどうすればいいのかわからず、入口のすぐ横の暗がりに立ちすくんだまま、まごまごしていた。
酒場はよくくる場所だ。ここでご飯をたべたり、休憩したり、何度も訪れて、慣れているとレアは思っていたが、それはエリアスがいたからだった。
1人で訪れる酒場は、たくさんの大人が行き交いし、騒がしく、危険な香りに満ちているように感じた。
「おや、レアさん、こんにちは。」
「おお!レアちゃん、どうしたの?1人?」
カランカランとベルがなると、ボンド『シルフィード』のメンバー、クローバーと、そのパートナーのエルサイスが入ってきて、レアに声をかける。
「あ、くーしゃん……!」
知った顔に会えて安心した反面、どうしていいのかわからず、レアは俯いたまま両手の指を絡ませた。
「エリアスは?」
「待ち合わせですか?もしよろしければ、僕らと一緒に待ってます?」
エルサイスはそう言うと、レアに手を差し伸べる。でもレアは、その手を取らなかった。
「あの……レア……エリアスと、塔に行かないと……!」
レアはそう言い残し、酒場を飛び出した。
残されたクローバーと、エルサイスは顔を見合わせ首を傾げる。
「どうしたのかな?」
「さぁ……?」
「レアちゃん1人で大丈夫かな?」
「うーん……レアさんはなんだかんだいって強いし、ちょとくらい1人でいても、大丈夫だと思うけど……。」
「まぁ塔に行くって言ってたから、どこかでエリアスと合流するよな。きっと。」
クローバーと、エルサイスは気になりながらも、納得すると、席について食事を注文した。
酒場の外に飛び出したレアは、途方に暮れてしまう。
本当は、エルサイスの手を取りたかったのだが、人見知りのレアは、怖くてそれができなかった。
『シルフィード』のみんなは、優しくて、頼りになって、良い仲間だ。
同じボンドメンバー、テイルのパートナー、ソラは、特に仲良しで、大切なお友達だった。
他のメンバーも嫌いではないし、むしろ好きなのだが、まだ慣れることができなくて、エリアスなしでは会話もままならない。
「……どうしよう……。」
レアはため息をつく。
冒険は好きだ。色々な景色を見たり、色々な人と出会えたり、そうして幼い頃の辛い記憶を、塗り替えて、素敵な記憶をレアにくれる。
でもそれは、エリアスがいるからできていることなのだ。
最近のエリアスは、冒険にあまり乗り気ではなかった。どこか落ち着ける街に腰を据え、ゆっくり暮らしたいというようなことを、頻繁に言う。
レアはその気持ちに気づきつつも、知らないフリをしていた。自分はまだ冒険をしていたい。
レアには、エリアスの言うような幸せな暮らしが、イメージできない。今はまだ、外の世界に触れ、遊んでいたい気分だった。
そうは願っても、エリアスがいなければ何にもできない自分では、エリアスが冒険をやめると言えば、それに従うしかないのだ。
レアは顔をあげる。
ここから塔までかなりの距離があるが、道中の魔物はさほど強くない。1人でも行けるはずだ。
1人で何もできずに、泣いていたら、閉じ込められてしまう。レアは自由でいたかった。
時渉りの塔に先に行って、待っていれば、エリアスも、きっと自分を見直して、冒険を続けてくれだろう。
レアはそう思うと、公国を出て、1人塔を目指した。