アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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番外編~迷子のレア その2~

公国は、激しい吹雪になっていた。

思わぬ天候悪化に、広場に露店を出していた本屋たちは、慌てて店を閉め、客も蜘蛛の子を散らすように、あっという間に引いて行った。

「レアちゃん!!」

雪でキャラメルブラウンの髪を真っ白に染めながら、エリアスが叫ぶ。

ほとんど誰も居なくなった広場に、レアの姿はない。

「くっそ……。」

焦りのあまり、つい、そう毒づいてしまう。

もう外には居ない可能性が高いと考えたエリアスは、酒場へ向かって走り出す。

あの人ごみの中で、一瞬でもレアから目を離した自分を、エリアスは悔いていた。

レアがまだ幼い頃から、ずっと面倒を見てきたエリアスにとって、彼女は家族同然だった。血は繋がってなくとも、大切な妹だ。

エリアスは、本当の家族を知らないレアに、家族の温もりを教えたかった。だから、いつでも愛情を持って、大事な妹としていつも傍に寄り添ってきた。

嫌な想像が、エリアスの頭を支配する。

レアが見知らぬ男に連れされてしまったかもしれない。どこか狭くて暗い場所に閉じ込められているかもしれない。1人で寂しくて泣いているかもしれない。

自分が目を離したせいで、レアが酷い目にあっているのではないかという妄想が止められず、エリアスは気が狂いそうだった。

早くレアに会いたい。

レアに家族を教えたいといいながらも、家族の大切さを教えられていたのは、エリアスの方だった。

だからこそ、レアがいないだけで、こんなにも苦しい。

エリアスは酒場のドアを開け、中に入った。

酒場は本の市を見にきた客で、2階席まで満席だ。立って待っている客もいる。

エリアスは腰を屈めて、キョロキョロしながら、レアを探す。

「おや、エリアスさん?」

「あれ?お前 、レアちゃんはどうした?」

レアを探して、テーブルの下を覗き込んでいたら、上から声をかけられる。

振り向けば、ボンド『シルフィード』のメンバーのクローバーと、そのパートナーのエルサイスが、ベンチシートに座って食事をしていた。

「クロさん!エルさん!レアを見ませんでしたか?!」

エリアスは藁にもすがる思いで、そう聞いた。

「先程見ましたよ。」

「あぁ、この酒場で。」

思いもしなかった良い返答に、エリアスは目を輝かせる。

「ホントですか!?」

「あぁ、でも……」

戸惑ったようにエルサイスに目配せするクローバーの姿に、エリアスは不安を覚える。

「でも……?」

「レアさんは、あなたと塔に行くと言って、酒場を出て行きました。」

「えぇ!?なんでですか!?」

「いや、なんでと言われても……。むしろなんでお前が1人でここにいるのか、こっちが聞きたいくらいだ。」

エリアスは呆然としてしまう。

「レア……どうして……?」

1人で? なぜ? 自分を置いて? どこへ?

様々な疑問が渦まき、エリアスの思考は混乱していく。

「とりあえず、その頭拭け。風邪を引くぞ。」

クローバーはそう言うと、エルサイスに顎で指示を出し、タオルを渡すよう言う。エリアスはエルサイスからタオルを受け取ると、心ここに在らずという感じで、雪が溶けて濡れた頭を撫でるように拭いた。

エリアスは、ショックが大きすぎて、自分の体が、自分のものではないような、そんな感覚に陥っていた。

「エリアスさん大丈夫ですか?一体何があったんです?」

エルサイスがエリアスからタオルを返してもらいながら聞く。エリアスはハッと我に返ると

「実は……」

と、今までの経緯を話し出した。

 

「宿には居なかったよ。」

エルサイスが、頭に雪を積もらせたままクローバーに報告する。

「こっちもだ。やっぱ酒場には戻ってない。」

エリアスが経緯を説明すると、クローバーはレアを一緒に探すと申し出た。

レアが気がかりなのもあるが、それ以上に、エリアスの方が心配だった。

エリアスは、いつもしっかりしていて、甲斐甲斐しくレアの世話を焼き、頼りになる兄の見本のような人なのだが、ところどころ抜けているのだ。

さっきも

「レアは一体どこに……?まさか!?家出!?」

などと、すっとんきょうなことを言って

「いや、落ち着け。冒険者になった時点で、家は出てるぞ。」

と、クローバーにたしなめられていた。

ここままエリアス1人で探させて、レアがちゃんと見つかるか、不安になったクローバーは、手を貸すことにしたのだった。

「エリアスさん、他にレアさんの行きそうなところは?」

エルサイスがそう聞くと、エリアスは

「うーん……。」

と考え込んでしまう。

レアが1人で行きそうなところなど、まったく思い浮かばない。

レアは単独行動なんてできないと、エリアスはついさっきまで思っていたのだ。だから、レアが1人で行きたいところがあるかなんて、今の今まで、考えたことがなかった。

「ダメだな。当てにならん。」

考え込むエリアスを見て、クローバーがため息をつく。

「すみません……。」

グゥの音もでないエリアスは、うなだれると、そう呟いた。

「うーん……。レアさんは、エリアスさんと塔に行くと言っていました。公国に居ないとなると、そこを目指したと考えるのが、妥当なんじゃないですかね?」

エルサイスが推測を話すが、エリアスは懐疑的だ。

「レアが1人で塔へ?無理ですよ。」

「無理かどうかはわからんだろ?」

「でも……。」

この吹雪の中、レアが屋外にいるとは考えにくい。公国に居るなら、必ず宿屋か、この酒場にいるはずだ。居ないということは、もうレアは公国を出ているということなのだ。

「お前、見張りの兵士に怪しいやつがいなかったか聞いたんだろ?」

「はい。怪しい人は今日は見ていないと……。特に今日は本の市で流入が激しいので、警備が厳しいんですよ。だから、確かな情報だと思うのですが……。」

犯罪に巻き込まれた可能性も低い。

「なら、答えは1つだ。レアちゃんは、自分の意思で公国を1人で出ていった。」

クローバーが結論を出す。

エリアスも、頭ではわかっていた。そう考えるのが論理的で、合理的だ。

このままここでグズグズしていても、恐らくレアには会えないだろう。

そうわかっていながら、受け入れられない自分がいて、エリアスの胸の中で、黒っぽいモヤモヤしたものが渦巻く。彼自身、それがなんなのかさっぱりわからない。

「とりあえず、牛車の御者の方たちに話を聞きましょう。可能性は低いですけど、レアさんが牛車に乗っていないか確かめて、それから次を考えましょう。」

「はい……。」

エリアスは納得できない思いを抱えたまま、クローバーとエルサイスの後に続いて公国を出た。

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