アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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第73話 城門下の騒ぎ

叫び、逃げ惑う人々。

怒号や悲鳴があちこちから飛び交い、騒がしい。

連邦の城塞都市の前にできているテントで、ちょっとした混乱が起きていた。

「助けてくれ!魔物がテントのところに!」

「あっちへ行け!」

「塀の中に入れて!」

「お前らは町に入る資格はない!」

門の下では、テントの住人と兵士が言い争っている。

この城塞都市は『義務を果たした者』のみに、通行許可証が授与される。テントは、義務を果たせず、かといって引き下がることもできない者が、集まってできたものだった。

そんな弱者が集まっているのだ。現れた魔物に、まともに応戦出来る者は、きっと居ないだろう。

城塞都市の塀の中に逃げ込もうにも、門番の兵士があの様子では、望めない。

「助けてくれ!!」

そんな悲痛な叫びがこだまする。

「なんか荒れてるね。」

エルサイスが事も無げに感想を述べる。

逃げ惑う人々を見ても、何も感じないようだ。焦りも、戸惑いもなく、ただことの成り行きを見ている。

私も、エルサイスと同じような気持ちだ。

ここには、怪我をした人や、壊された建物、物が燃やされた匂いなど、戦いに関係ありそうな空気が、一切ない。

長年戦いに身を置いてきた私は、そういう空気に敏感なのだ。そのセンサーが反応しないということは、つまり、そういうことなのである。

「うるさいやつらだよ。まったく。」

無視して城塞都市に入ろうとすると、1人の男が

「あんた、冒険者か?薄情な兵士の代わりに魔物を追っ払ってくれ!」

と、急に私の腕を掴み、縋ってきた。

突然のことに、私は驚いて、男を乱暴に振り払う。

いきなり体に触れるとは、不躾なやつだ。許せない。腹が立つ。目がくらむような怒りが、一瞬で私を満たす。

思わず剣に手をかけようとした私の左手を、エルサイスが掴む。

「落ち着いて。大丈夫だよ。」

怒りに燃える目で振り返れば、エルサイスがどこか心配するような、真剣な顔でこちらを見ていた。

私はそれが不愉快で、腹立たしくて、でも、なんだかとても安心できて、嫌だった。

「ちっ……。」

と舌打ちをして、エルサイスの腕を振り払う。怒りの炎は、冷水をかけられた焚き火のように、一瞬で、炭にくすぶる火種だけ残し、消えていった。その温度差にクラクラする頭を、私は手で押さえる。気持ちが悪い。

「行こう。」

エルサイスが私の手を引く。私はめまいを押さえつけながら、なんとかエルサイスについて歩く。

「まってくれ!」

さっきの男が、今度はエルサイスにしがみつく。

エルサイスは一瞬バランスを崩したが、不快な様子は、微塵も感じさせない。そして、いつもの口角の上がった優しい微笑みで

「報酬はおいくらですか?」

と男に尋ねた。

「そ、そんなものあるわけが………。」

男が言い淀むと、エルサイスはわざとらしく大きなため息をつく。

「報酬がないなら、話になりませんね。申し訳ないですが、僕らはお暇させていただきます。」

そう眉を下げ、申し訳なさそうな顔するエルサイスを見て、男は

「そんな……」

と悲痛な声を漏らした。

他人と話すときのエルサイスは、表情豊かだ。

私の前では、そんなに大袈裟に振る舞うことは、余程のことがない限り、ない。

他人と話すときだからこそ、彼の表情は、より大きく動くのだ。どこか説得力を持って、何か大事なものを隠すように。

私にはそれが、仮面を被っているように見える。

笑った顔、困った顔、申し訳なさそうな顔、悲しげな顔、色々な表情がついた顔を、アタッチメントがついた人形のように、その場面に合わせて、取っかえ引っ変え組み替えているような、そんな不自然さ。

それが彼の武器であり、身を守る盾でもある。嘘で塗り固めた仮面の下で、どんな顔をしていようと、誰も咎めることはできないのだ。

「ひええ、魔物がやってきた!!」

男はそういって、私達を置いて逃げていった。

去っていく男の後ろ姿を見て、エルサイスは「ふう」とため息をつくと、私に向き直った。

「クロ、大丈夫?」

「うん……。」

めまいは大分治まって、もう頭を押さえる必要はなかった。

「落ち着いた?」

沈黙を返す。

一瞬であんなに怒ってしまった理由は、自分が1番わかっていた。でも、それを認めたくない自分もいる。

「大丈夫だよ。」

エルサイスがそうにっこり笑いかけてくる。

エルサイスは、きっと何にも知らない。私がなぜあんなに激昂したのか、わかってない。多分知る気もないだろう。

それでも「大丈夫」と根拠の無い言葉をかけてくる。まったく馬鹿馬鹿しい話だった。

私は小さなため息をつく。ムキになったって、仕方ない。

「あ、魔物ってあの人かな?」

突然のエルサイスの言葉に、私は顔を上げる。

テントの奥の方から、ピンク色の物体が、のっそりこちらへ向かってきていた。

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