アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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第74話 紳士オーク

「皆、私を恐れて逃げてしまった……。まったくもって人間というヤツは……。」

魔物はそう言うと、呆れたように首を降った。

なんとも奇妙な格好の魔物だ。最初見た瞬間、その見たことも無い出で立ちに、私もエルサイスもギョッとしてしまった。元のベースはその辺にいるオークだ。でも、格好がまったく違う。

その格好から『紳士オーク』とでも名付けようか。

「お前らは逃げないのか……?」

紳士オークが不思議そうに尋ねる。

私とエルサイスは、顔を見合わせた。予想外の格好に驚きはしたが、敵意は感じないし、むしろ格好通り、どこか柔和で友好的な雰囲気さえある。

「あなたが、僕らを攻撃する意思を示さない限りは、逃げたり、または襲ったりはしませんよ。」

エルサイスがそう説明する。私も大筋そんな感じだ。

私はどうしても気になってしまい、不躾だと思いながらも、まじまじと紳士オークを見てしまう。

赤いリボンをあしらった黒いシルクハットを被り、首には白地に赤のストライプ柄の蝶ネクタイ、そしてサイズがキツそうだが、仕立てのいいスーツを着ていた。

私も騎士時代は、正装用に何着かスーツやテイルコートを持っていたが、それと比べても遜色ないくらい立派だ。

そんな立派な濃いグレーにストライプ柄のジャケットの胸ポケットには、なぜか、緑のカエルが突っ込まれていた。

何もかもが奇妙だが、私が何より驚いたのは、その顔だ。鼻から上がマスクの様なもので覆われていて、そこには不自然なほど、大きく立派な白い髭がついていた。

「実は私は人と話がしたくて、遠くクリシュナ王国から来たのだ。」

紳士オークの話によれば、彼はクリシュナ王国の女王陛下の依頼で、かつて連邦の王が奪い取ったという、魔王国の宝を取り戻しにきたらしい。

「平和的解決を図りたいという陛下の意向で 、ニンゲンである私が交渉役に立つことになったのだ。」

紳士オークはそういって、自慢げに胸を張る。

「人間?」

「誰が?」

私とエルサイスは、同時に首を傾げた。

服装はそれなりに人間っぽくはあるが、元はどう見ても魔物のオークだ。

「私はニンゲンだ!魔物に見えるか!?この凛々しい髭、これこそニンゲンたる証……。」

白い髭をなぞるように撫で付けながら、紳士オークが言う。

「はぁ………。」

さすがのエルサイスも、理解できないらしい。曖昧な返事をすると、私の方を見て肩を竦めた。それに私も、首を振って応える。わけがわからない。

「まぁよい。」

紳士オークは、自分がニンゲンかどうかという議論から、あっさり引き下がると、ここにきた経緯を話し始める。

彼は女王陛下からの依頼を果たすため、道行く冒険者に協力を頼もうとしたが、自分を見るなり刃を向けてくる彼らに困り果て、さらに、ならば自ら王に会いに行こうと、ここまできたら、テント村の住人に見つかり、騒ぎになってしまったようだ。

まさに踏んだり蹴ったり。

「連邦のやつらは、他の地域の奴らに比べて、特に魔物への恐怖心が強い。仕方ないことだ。」

私がそういうと、紳士オークは悲しい顔をする。自分は魔物ではないのに、とでも言いたげだ。

「ことを荒立てたくない。ひとつ頼まれてはくれないか。」

紳士オークはそう言うと、ジャケットの内ポケットから白い封書を出した。

「ここに女王陛下の親書がある。親書を粗末に扱えば戦争になることは必至。少なくとも王に我らの意思は伝わるだろう……。」

私はエルサイスの様子をチラリと伺う。「どう思う?」と。

エルサイスは、いつものように、口に手を当て、考えていた。

「上手く行く気がしないな。そもそも私たちはただの冒険者だ。そうおいそれと、王に会うことなんてできねぇよ。」

考えるのに夢中なエルサイスの代わりに、紳士オークに言う。

公国のドレイク王と謁見できたのは、本当に幸運だっただけで、本来はしがない冒険者風情が、国のトップと話をするなんて、有り得ないことなのだ。

紳士オークに協力したい気持ちはある。でも、私たちでは役者不足だった。

「入口で暴れていた魔物を追い返した。それを王と会うための功績として使うといい。」

紳士オークの言葉に、私も、考え込んでいたエルサイスも、鳩が豆鉄砲を食らったあとの様な顔をしてしまう。

「そんなんでいいのかよ?」

「……さぁ剣を構えよ。」

紳士オークが、覚悟を決めた顔でこちらを睨んでくる。

私はため息をついた。

「エル、この話に勝算は?」

「あるよ。80%くらいかな?あとはやる気次第。僕は別にいいと思うよ。」

私の好きにしろということらしい。

別にどうでもいい話だった。魔王国と連邦がどうなろうと、私には関係ないし、魔王国の宝にも興味はない。

でも、この紳士オークには、それなりの興味がある。その辺の人間よりもずっと高貴で紳士的な振る舞いのこの魔物は、どこか憎めないし、魔王国の使者という肩書きは、魅力的だ。今お近付きになっておけば、今後助けになるかもしれない。

「仕方ないか。できるだけ痛くしないようにするよ。」

私はそう言うと、デモンソード=アビスを抜き払う。

「よし、準備はいいな。」

八百長なんてくだらないこと、やる主義では無かったが、この状況では仕方がない。

私は剣を構えると、一直線に紳士オークに斬りかかった。

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