アルケミアストーリー~クロとエルの物語~ 作:cloverlight
地下牢までくると、私はエルサイスの手を乱暴に振り払い、怒りを込めた目で睨みつける。
不愉快だった。
「クロ、ごめんってば、そんなに怒らないで。」
エルサイスが眉を下げ、困った顔でこちらを説得してくる。
「仕方なかったんだよ。」
「仕方ないにしても、気に食わねーんだよ!」
私はぶつけどころのない感情を、とりあえず目の前のエルサイスに投げつけた。何もかもに腹が立つ。
私たちを反逆者扱いしたジョージ王も、取り押さえようと体に触れてきた兵士たちも、反撃しようとした私を止めたエルサイスも、全員切ってやりたい気分だった。
「クロ、落ち着いて。大丈夫だよ。」
「何が大丈夫だっていうんだ。」
「それは……まぁとりあえず落ち着こう?」
「そーやって誤魔化して!私の事何にも知らないくせに!わかったような口きくな!」
一瞬だけ、エルサイスが悲しそうな顔をしたので、私は思わず口をつぐむ。言いすぎだ。つい、口が滑ってしまった。
しかし、エルサイスが悲しげだったのはほんの一瞬で、すぐにいつものにこやかな表情に戻ると
「大丈夫だよ。」
と繰り返した。
胸がズキリと痛む。この痛みが何なのか、自分でもよくわからなかった。
「おまえも運が悪かったな。」
言い合いをしている私たちの間に、アンドルが割り込む。
「可愛そうだからこの鍵はしめないでおいてやる。適当に逃げ出すがいい。」
「そんなことしていいんですか?」
エルサイスが訝しげに首を傾ける。そんなことをしたら、今度はアンドルが反逆罪に問われるのではないだろうか。
「最近はこんなのが毎日のことでな。全員、牢に入れておいたら、いっぱいになっちまう。」
アンドルはそう言うと、疲れたため息をつく。
「最近あの王はどうも様子がおかしい。すぐにキレて、牢にぶち込めと怒鳴るんだよ。」
それは王の資質として、問題があるのではないかと、私は思った。
気が短いというのは、私も人のことは言えないが、国1つを動かす権力を持った者が短気では、それに振り回される国民達が大変だ。
「安心しろ。国王は人の顔を覚えられない。逃げたとて、明日には忘れているさ。」
「それはそれで問題のような気がしますね。」
エルサイスがアンドル苦笑いを返す。
連邦の王は、変な王だ。あんまり近づかない方がいいかもしれない。
「あぁ、それと……」
一度立ち去ろうとしたアンドルが、立ち止まってこちらを振り返る。
「魔王国の宝、だが、おそらくこの地下牢の奥にいる、あれのことだろう……。」
「いる?」
「あれ?」
私とエルサイスは顔を見合わせ、首を傾げる。アンドルの表現になんとなく違和感を覚えたが、それがなんなのかまではわからない。
「この国の宝は、地下牢の奥、宝物庫に眠っている。が、奥は魔物の巣でな。簡単には立ち入れないのだ。」
アンドルは簡単な情報だけ残すと
「じゃぁな。」
と言って去っていった。
「さて、どうしようか?」
さっきあんなに言い争ったのに、何事もなかったかのように接してくるエルサイスが、私は嫌だった。
彼にとっては、あんなのは言い争いとも言わないのかもしれない。私が一方的に、勝手に怒りをぶちまけている。ただそんな状況に過ぎない。
私ため息をついた。とにかくすべてがバカバカしかった。
別にエルサイスに、自分をもっと知って欲しいなんてことは、1ミリも思わない。
実際私は、まだこの気持ちを説明できるだけの言葉を持っていないし、他人に話せるほど、傷も癒えていない。
ただ、腹は立つ。
私が何に怒って、何に苦痛を感じているのか、何も知らないくせに、無責任になだめすかされるのは、自分の気持ちを軽く見られているようで、不快だった。
魔王国の宝がなんだろうと、私にはどうでもいい。ただなんとなくむしゃくしゃしていたので、体を動かして発散したい。そんな気分だ。
「行くぞ。」
私はそう短く言うと、エルサイスの返事も待たずに、地下牢の奥、炎の洞窟へと入っていった。