アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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第77話 知らないからこそ

クローバーは言った。「私の事何にも知らないくせに」と。それはその通りだった。僕はまだ、彼女のことを知らな過ぎる。

でも、だからどうというわけではない。そう言われたところで、悲しみも、怒りも、湧いてこなかった。ただ何となく、一瞬チクリと胸が傷んだ。それだけだ。

炎の洞窟は、小さな小部屋がいくつも連なり、その四方にドアがあって、迷いやすい。行き止まりも多く、少しでも方向を見失ったら、脱出するのも困難になりそうだ。

僕の後ろを、クローバーは黙ったまま付いてくる。元々クローバーは口数が多い方ではないので、特に珍しいことでは無いが、今日は一段と無口だ。僕が話しかけても返事さえしない。

「行き止まりだ。戻って別のドアに行こう。」

僕はそう言って1つ前の部屋に戻ると、開け終わったドアにチョークで×印をつける。

僕がそうしている間も、クローバーは無言でコノミを狩っていた。機嫌が悪いのかもしれない。

「クロ。」

「………。」

返事はない。

知っているつもりになるよりは、知らないとわかってる方が、ずっといいと僕は思っている。

相手を知ったつもりになって、あれこれ決めつけて見ていると、本当姿が見えなくなってしまうものなのだ。

そうなってしまうくらいなら、いつでも、何も知らないという気持ちでいた方が、事故が少ない。

でも、気になることがある。それは今確かめなければならないことだった。

「クロ、聞いてもいい?」

「………。」

相変わらず返事はないが、僕は構わず話を続ける。

「僕はさ、クロのこと何にも知らない。だからこそ確認したいんだけど、クロは自分のこと、僕にもっと聞いてほしいって思うかい?」

「はぁ?」

クローバーが不機嫌な顔で、こちらを振り返る。

「私がそんな面倒なやつに見えるか?」

「大事なことだから、一応確認しておきたくて。」

僕がそう言うと、クローバーは呆れたような深いため息をついた。「くだらない」とでも言いたげだ。

「私はお前が聞いてこなくても、言いたいことは言うし、知っててほしいことは伝える。逆に聞くが、エルは私のことをもっと聞きたいって思うか?」

「うーん……。」

クローバーのことを知りたくないわけではない。でも、積極的に聞き出したいかと言われれば、そうでもなかった。

僕は他人に興味がない。それは1番身近であるクローバーにも、当てはまることだった。

彼女が何を考えて、どうしようが、僕は気にしない。ただ、僕自身に不利益になることがあるならば、それは知っておきたいという程度だ。

その他のことを、クローバーが言おうが、言わまいが、話そうが、隠そうが、僕にとっては関係ないことで、耳を塞いで聞かないということもないし、無理に聞き出すこともない。

「別に思わないかな。」

「だろ?」

クローバーは最初からそうわかっていたようで、そこには怒りも呆れもない。

師匠のところに居た女性たちは、僕がこういう態度を取ると、怒り出す人ばかりだった。自分に興味がないと言われるのは、彼女たちにとって、存在を否定されるのに等しいことだったのだ。

そうやって、誰かの思考まで独占したいと思うのが、恋とか、愛とか言うものならば、僕は一生理解できそうにない。

だからこそ、クローバーの言葉に、胸が傷んだのかもしれない。できないことを、要求された気がして、どうにもできない罪悪感のようなものがあった。

でも、その罪悪感は杞憂だった。クローバーは、僕が他人に興味がないということを、重々わかっていて、僕に無理な要求をしたわけではない。

「興味がないのに、あるフリされるなんて、まっぴらごめんだ。そんなふざけたことお前がしたら、確実にぶん殴るね。」

クローバーの強烈な腹パンが脳裏に浮かび、僕は思わずお腹をガードする。

「私が怒ってるのは、そこじゃない。」

クローバーはそう言うと、僕にまっすぐ向き直った。

「私はもう大人だ。大丈夫なんて簡単な言葉で、何度も誤魔化される程、幼稚じゃない。私には私の、どうにもできない感情がある。それをないがしろにしないでくれ。」

クローバーはそう言って、僕を睨んだ。

僕はクローバーの感情を、軽く見ていたわけではない。ただ、情報がないから、慰め方がわからず「大丈夫」と言うしかなかったのだ。でもそれこそが、ないがしろしているということなのだろう。

早く落ち着いてほしくて、彼女の感情を、乱暴に押さえつけようとした自覚はあった。

「わかった。ごめん。」

僕は素直に謝る。そんな僕を見て、クローバーは小さくため息をつくと、バツが悪そうに俯いた。

「私もだ。さっきは言い過ぎた。自分が話してないだけなのに、何にも知らないくせになんていうのは、理不尽だった。悪かったよ。」

そう謝るクローバーがかわいくて、僕は思わずクローバーの頭を撫でる。

「仲直り。」

そう僕が笑うと、クローバーは

「うるせー。」

と言って僕の手を振り払った。

僕らは新たな気持ちで、炎の洞窟の奥を目指す。

とっても単純で、小さなことだが、やはり話し合うということは、大事なのだなと思う。僕もクローバーも、互いのことは何も知らない。でも、だからこそ、話し合う必要があるのだ。いつでも、どんな時でも、対等に。

「なんか雰囲気変わったな。」

「最深部が近いのかも。」

扉の先は、牢屋のような鉄格子の部屋が連なっていて、床も石畳が敷かれ整備されている。1つ前の地面がむき出しの小部屋とは、少し空気が違っていた。

「そこの方……」

どこからか、か細い声が聞こえる。

「今しゃべったのは……?」

声のする方に目を向ければ、黒い毛並みのネズミのような魔物がいる。どことなく、地下工場にいた魔王トッポに、出で立ちが似ている気がしなくもない。

「この魔物か?」

クローバーがデモンソード=アビスを魔物に向けながら言う。

「違う……そいつは見張りだ。」

「後ろの牢屋に誰かいる……?」

僕は目を凝らして、牢屋の奥を覗き込もうとしたが、暗闇が深く、何がいるのか全く見えない。

「誰かは知らぬが、こいつを倒して、ワシを解放してくださらんか?」

謎の声に、僕とクローバーは顔を見合わせる。

「どうする?」

「うーん……。まぁ解放したやつが悪いやつだったら、ここで倒せばいいだけのことだし。とりあえずやるか。」

僕はクローバーの声にうなずくと、彼女に倣って杖を構えた。

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