アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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第78話 魔王国の宝

見張りの魔物は、特別な連携も必要なく、クローバーの一撃であっさり倒れた。

「なんだ、スカスカだな。」

クローバーはつまらなそうにそう言うと、ため息をついた。退屈そうだ。

「刺激が足りないかい?」

「全然足りないな。」

僕は肩を竦めることしかできない。

平穏とは呼べない世の中だが、それでも、クローバーが求めるような、ギラギラとした劇物は、中々落ちていないものなのだ。

「助かった。礼を申す。」

見張りの魔物がいた牢屋の奥から、新たな魔物が姿を現す。見た目は、痩せたお爺さんのようだが、下っ腹だけが赤子のように突き出てていて、その不格好な出で立ちが、魔物っぽさを引き立てている。

「ワシは魔王国の宝とも呼ばれた武人。

「え、魔王国の宝って……」

「あなたのことなんですか?」

僕もクローバーも固まってしまう。

魔物国の宝がなんなのか、ある程度予想はしていた。金銀財宝だとか、調度品だとか、特別な技術が記された資料だとか。しかし、そんな安易な予想は、ことごとく裏切られた。魔王国の宝が、魔物だったとは、流石の僕でも、予想外だ。

「いや、これは……うん……刺激的かもしれん。」

クローバーはそう言って、唖然としている。僕はその様子がおかしくて、少しだけ笑った。

思えば、ここにい来る前、連邦の兵士のアンドルは「ここの地下牢に『いる』あれのことだろう」と言っていた。最初は違和感があったが、生きている魔物なのであれば『ある』よりは『いる』という表現が正しい。今振り返れば、それがヒントになっていた。

「魔王国からの命で来たのか?」

解放された武人はどこか嬉しそうに、僕らに尋ねる。

「そうであるような、そうでないような……」

僕は困ってクローバーを見る。今の僕達は、とても微妙な立場だ。

僕らは、魔王国の命を受けた紳士オークの依頼でここにいるだけで、直接魔王国の依頼を受けたわけではない。広い意味で捉えれば、魔王国の命とも言えるが、魔王国の使い本人ではないのだから、違うとも言えた。

「お前の仲間に、親書を渡すよう頼まれたんだが、魔王国の回し者扱いされてな。」

クローバーが事情を説明する。

「そうか」

武人は1度深く目を瞑り、感慨に耽る。

「ワシは魔王の命を受け、この国に来た。」

再び目を開けると、武人は話し出す。

「この国にも我らが知識を広めんと。そして友好を築こうとな。しかし捕らわれてしまってな。」

「そりゃ災難だなぁ。」

クローバーが武人に哀れみの目を向けた。

意外にも、魔王国は他国と友好的な関係を築くことに前向きなようだ。

ただ、相手が悪かった。ここにくる前、城門であったことを見ればわかるが、ここの国民は皆、魔物の存在に敏感だ。アブル連邦は、反魔物国家っと言ってもいいほど、魔物排除を推奨しているような国なのだ。

そんな国と、いきなり友好関係を結ぶのは、相当難しいミッションだろう。

「人の思想を変えるっていうのは、一筋縄じゃいかねーもんだ。」

「個人ならまだしも、相手は国ですからねぇ。そう簡単にはいかないでしょうね。」

合理的で、経済的な利があるとしても、人の心は早々変えられないものなのだ。人の感情というものは複雑な上に、固まりやすくて、溶かしにくい。面倒だ。

僕とクローバーは、武人と共に、ため息をついた。

「ん?」

急にクローバーが、後ろを振り返り、今入ってきたばかりのドアを見る。

「どうしたの?」

「いや、なんか嫌な感じが……。」

クローバーはそう言いながら、剣柄に手を伸ばし、辺りに目を光らせる。僕には何が起こってるのか、さっぱりわからないが、クローバーに倣ってとりあえず杖を持つ。

「……なんだ、この匂いは。火、火だ!誰かが火を放った……!」

「……!!」

武人の声に、僕は焦る。こんな狭い洞窟では逃げ場がない。危険な状況だった。

「クロ!!」

「分かってる。」

クローバーは素早く出口に向かって走り出す。僕もその後に続く。さらにその後ろから、武人が来ていた。

クローバーが、元来た扉を開ける。

その先は、熱い炎の絨毯が広がっていた。

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