アルケミアストーリー~クロとエルの物語~ 作:cloverlight
見張りの魔物は、特別な連携も必要なく、クローバーの一撃であっさり倒れた。
「なんだ、スカスカだな。」
クローバーはつまらなそうにそう言うと、ため息をついた。退屈そうだ。
「刺激が足りないかい?」
「全然足りないな。」
僕は肩を竦めることしかできない。
平穏とは呼べない世の中だが、それでも、クローバーが求めるような、ギラギラとした劇物は、中々落ちていないものなのだ。
「助かった。礼を申す。」
見張りの魔物がいた牢屋の奥から、新たな魔物が姿を現す。見た目は、痩せたお爺さんのようだが、下っ腹だけが赤子のように突き出てていて、その不格好な出で立ちが、魔物っぽさを引き立てている。
「ワシは魔王国の宝とも呼ばれた武人。
「え、魔王国の宝って……」
「あなたのことなんですか?」
僕もクローバーも固まってしまう。
魔物国の宝がなんなのか、ある程度予想はしていた。金銀財宝だとか、調度品だとか、特別な技術が記された資料だとか。しかし、そんな安易な予想は、ことごとく裏切られた。魔王国の宝が、魔物だったとは、流石の僕でも、予想外だ。
「いや、これは……うん……刺激的かもしれん。」
クローバーはそう言って、唖然としている。僕はその様子がおかしくて、少しだけ笑った。
思えば、ここにい来る前、連邦の兵士のアンドルは「ここの地下牢に『いる』あれのことだろう」と言っていた。最初は違和感があったが、生きている魔物なのであれば『ある』よりは『いる』という表現が正しい。今振り返れば、それがヒントになっていた。
「魔王国からの命で来たのか?」
解放された武人はどこか嬉しそうに、僕らに尋ねる。
「そうであるような、そうでないような……」
僕は困ってクローバーを見る。今の僕達は、とても微妙な立場だ。
僕らは、魔王国の命を受けた紳士オークの依頼でここにいるだけで、直接魔王国の依頼を受けたわけではない。広い意味で捉えれば、魔王国の命とも言えるが、魔王国の使い本人ではないのだから、違うとも言えた。
「お前の仲間に、親書を渡すよう頼まれたんだが、魔王国の回し者扱いされてな。」
クローバーが事情を説明する。
「そうか」
武人は1度深く目を瞑り、感慨に耽る。
「ワシは魔王の命を受け、この国に来た。」
再び目を開けると、武人は話し出す。
「この国にも我らが知識を広めんと。そして友好を築こうとな。しかし捕らわれてしまってな。」
「そりゃ災難だなぁ。」
クローバーが武人に哀れみの目を向けた。
意外にも、魔王国は他国と友好的な関係を築くことに前向きなようだ。
ただ、相手が悪かった。ここにくる前、城門であったことを見ればわかるが、ここの国民は皆、魔物の存在に敏感だ。アブル連邦は、反魔物国家っと言ってもいいほど、魔物排除を推奨しているような国なのだ。
そんな国と、いきなり友好関係を結ぶのは、相当難しいミッションだろう。
「人の思想を変えるっていうのは、一筋縄じゃいかねーもんだ。」
「個人ならまだしも、相手は国ですからねぇ。そう簡単にはいかないでしょうね。」
合理的で、経済的な利があるとしても、人の心は早々変えられないものなのだ。人の感情というものは複雑な上に、固まりやすくて、溶かしにくい。面倒だ。
僕とクローバーは、武人と共に、ため息をついた。
「ん?」
急にクローバーが、後ろを振り返り、今入ってきたばかりのドアを見る。
「どうしたの?」
「いや、なんか嫌な感じが……。」
クローバーはそう言いながら、剣柄に手を伸ばし、辺りに目を光らせる。僕には何が起こってるのか、さっぱりわからないが、クローバーに倣ってとりあえず杖を持つ。
「……なんだ、この匂いは。火、火だ!誰かが火を放った……!」
「……!!」
武人の声に、僕は焦る。こんな狭い洞窟では逃げ場がない。危険な状況だった。
「クロ!!」
「分かってる。」
クローバーは素早く出口に向かって走り出す。僕もその後に続く。さらにその後ろから、武人が来ていた。
クローバーが、元来た扉を開ける。
その先は、熱い炎の絨毯が広がっていた。