アルケミアストーリー~クロとエルの物語~ 作:cloverlight
現在連載中のストーリーとは、前後の繋がりが一切ありませんのであしからず
話の中の『レッコ』さんとそのYOME『ラト』の設定は、レッコさん本人への取材を元に構成しています。
レッコさんご協力ありがとうございました・:*+.\(( °ω° ))/.:+
危機的な状況だった。
レッコのHPは残り6割ほど、ラトは2割以下だ。3匹いた魔物のうち1匹は、なんとか倒した。しかし、残り2匹のHPはまだほぼ満タンで、ピンピンしている。
ハーピーが、鮮やかな黄色の翼を広げると、辺りに竜巻が巻き起こり、レッコとラトに襲いかかった。
「ひゃぁ!」
「くぅ……。」
HPがあっという間に削られ、ラトは思わず膝をつく。視野が狭まっていく感覚に、死を覚悟した。
「ラト!!」
アッシュブラウンの髪が、暗い森に沈んでいく。水色のキレイな瞳は、徐々に閉じられていき、命の火が見えなくなる。
その光景に、レッコは頭を熱くする。
「よくもラトを!!」
レッコがラトを庇うように、前に出る。黒いロングヘアと、星夜銀漢杖の房を振り乱しながら、レッコはハーピーにペネトレイトを放つが、思ったよりダメージは与えられなかった。
「ちくっしょ……。」
レッコは赤と黒のオッドアイに怒りをチラつかせ、悪態をつく。
魔物たちはその様子に、怒ることも、嗤うことも無かったが、同時に攻撃の手を緩めることもなかった。
「レベル上げをしよう。」
そう先に提案したのは、ラトだった。
冒険を始めて、もう随分時が経ち、冒険者という生活が、板に付いてきた。依頼をこなしてお金を稼ぎ、ご飯も寝床も安定して確保できるようになったし、ボンドに入って、他の仲間と共に冒険を楽しむ機会も増えてきた。
まだまだ初心者の域を出ないが、2人の冒険は順調だ。
だからこそ、ここら辺で少し力をつけて、更に上の経験をしたい。
そんな欲が出てきたのだ。
「いいねぇ!私もっと強くなりたい!」
レッコもラトに同意し、レベル上げに前向きだった。
問題は、どこでレベル上げをするかだった。
魔物を倒せば、経験値がもらえるが、レベルが低い魔物を倒しても、その経験値は雀の涙ほどしかもらえない。レッコとラトがよくうろついている雪山と平原や、国境沿いには、そういうレベルの低い魔物しかいない。レベル上げにはあまり向いていない地域だった。
どうしたものかと悩んでいると、酒場にいた他の冒険者が「初心者のレベル上げなら、塔の外がいいぞ」とアドバイスをくれた。
塔の外は2人も何度か行ったことはあるが、そこの魔物と戦闘をしたことは無かった。あそこの魔物は、見た目が大きくて、獰猛そうなので、避けていたのだ。
「うーん……どうしようか?誰かについてきてもらう?」
ラトは自信がなかった。2人だけであの図体がでかい魔物に挑むのが恐い。
「大丈夫しょっ。」
ラトとは対照的に、レッコは余裕の表情を見せる。
「でも……」
「私らだって、強くなったし、武器も防具もある。それに、ボンドのみんなは、それぞれ忙しい。」
「そうなんだよね。」
レッコとラトが入ったボンド『シルフィード』のメンバーは、みんな冒険の玄人ばかりだった。強くて、経験豊富で、なんでもできる。
そんな人たちが、今更になって、塔の外に用事があるとは思えない。レッコとラトが誘えば、きっときてくれるはずだが、自分たちのためだけに呼びつけてしまうのは、気が引けた。
「うーん……。」
ラトはまだ悩んでいた。本当に2人だけで、あの魔物に太刀打ちできるだろうか?
ラトは元々臆病な性格なのだ。彼の心には、いつも、ただ漠然とした不安があった。連邦でストリートチルドレンをやっていた頃から、何かを失う恐怖が、ずっと消えない。それは今でも続いていて、ラトの決断を鈍らせる。
一方で、レッコは
「大丈夫!大丈夫!私たちならできる!!」
と言って、自信満々な様子を見せた。
レッコにだって、何か確信があるわけではない。ただ、なんとなく、できそうな気がする。それだけだ。
レッコとラトは、それぞれがそれぞれに、根拠の無いふわふわとした感情を、心の中に持っていた。
「行こう!!」
「うーん……。」
「大丈夫だって!」
「レッコが言うなら……。」
こういう時は、いつも、レッコにラトが押されがちになる。自分に自信のないラトは、レッコの強さに負けてしまうのだ。
ただ、先に言ったように、レッコの自信には根拠がない。結果が良いものになるとは、限らないのだ。2人はそうやって、不安定な賭けをしながら、旅を続けていた。
フクログマが、鋭い爪を振り上げる。
「レッコ……。」
守りたいと思いながらも、ラトは、声を張り上げることすらできなかった。自分の弱さに、ラトは悔しくて泣きそうになる。
「くぅ……。」
レッコは杖を斜めに構えて、ガードの体勢を取るが、焼け石に水だった。
「「(もうダメだ……。)」」
2人がそう目を瞑った瞬間。
キンっと金属の擦れ合う音と共に、クローバーがレッコとフクログマの間に滑り込む。
「姐さん!!」
レッコはそう叫びながら、バランスを崩し、足元の泥だまりに尻もちをついた。
「エル、回復してやれ。」
フクログマの爪を、盾で弾き返しながら、クローバーが言う。そしてその次の瞬間には、シュヴァリックブレードで魔物を真っ二つにしていた。
「大丈夫ですか?」
あとからきたエルサイスが、アルカナを唱えてレッコとラトを回復する。
「エルさん、すみません……。」
暖かい光に包まれたラトは、ヨロヨロと立ち上がった。
「いえいえ、お易い御用ですよ。」
エルサイスはそう言いながら、追加でウォールを唱え、更に2人を回復する。その後ろで、クローバーがカレッジブレードでハーピーを黒い霧にしていた。
「つ、強い……。」
「さすが姐さん!!」
敵を倒したクローバーは、泥だまりに座り込むレッコに手を貸すと、立たせた。
「まったく、このガキ共は…世話が焼ける。」
「すみません……。」
「ごめんなさい。」
レッコとラトは意気消沈した様子で謝る。
「無理はいけません。今回は僕らがたまたま通りかかったから良かったですけど、いつもこうとは限りませんよ。」
「死んでもまた復活できるから大丈夫っす。」
「そういう問題じゃねぇんだよ。」
単純な考えのレッコに、クローバーは呆れ返る。
「レッコ…!」
ラトは泥だらけのレッコに、タオルを渡しながら、非難を込めた強い眼差しで、彼女を睨む。ラトは命を軽く扱うことが、大嫌いなのだ。
「そんな怒ることないじゃんか。」
レッコはそう言って、不満そうに口を尖らせる。自分は事実を言っただけだと思っていた。
ラトは、タオルを受け取り、顔の泥を拭うレッコを、厳しい目で見つめていたが、やがてため息をつき、俯いた。
「ごめん……守れなくて……。」
レッコの言っていることは、確かに事実なのだ。死んでも生き返る。
そうならないように、死なないようにする術を、彼女を守る力を、ラトはまだもっていなかった。それなのに命を大事にしろなんて偉そうなこと、言えたものではない。
そう目を伏せるラトに
「別にいいよ。そんなことより、私たち、めちゃ頑張ったじゃん!」
と、レッコが笑顔を向ける。
ラトの胸がキュンと締め付けられる。嬉しいような、恥ずかしいような、わずかな痛みを伴うその感情の名前を、ラトは知っている。でも、目を向けないようにしていた。
ラトにとって、幼い頃から一緒にいるレッコは、家族のようなものなのだ。その安定した地位を、ラトは手放したくない。
ずっとそばにいるのも、守りたいと思うのも、大好きなのも、家族だから、で、説明がつく。
ラトは、それ以上のことを望まないようにしていた。
「ひでぇ汚れだな。1回流した方がいい。」
泥だらけのレッコを見て、クローバーは眉を寄せる。
「風呂のある連邦まで歩いて行ったら、途中で乾きそうっすけどね。」
「さすがに連邦は遠すぎますよ……。丸岩周辺に川が流れてますから、そこで水浴びしてはいかがですか?」
エルサイスの提案に、レッコは首を傾げる。
「丸岩周辺ってどこっすか?」
ラトも困ったように眉を下げ
「行ったことないです……。」
と申し訳なさそうに言う。
その様子に、クローバーとエルサイスは顔を見合わせる。2人は時渉りの塔を攻略しに、ここを通りかかったのだが、それは別に急ぎではない。
冒険者は自由だ。今日やらなければいけないことなど、それほどないのだ。
「しかたねーな。案内してやるよ。」
クローバーはそう呆れながらも、満更でもなさそうに笑った。