アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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第11話 エルの思い

シュリンガー公国の酒場は、今日もたくさんの冒険者で賑わっていた。

テーブルはどこもいっぱいで、カウンターの中では、この酒場のマスター、チップが、鬼のような忙しさに目を回している。

「うん、うまい。」

私はそう言いながら、できたてのスタンポットを頬張った。

刻んだキャベツが入ったクリーミーなマッシュポテトに、少し辛口のグレイビーソースがマッチしている。添えられた自家製ソーセージもジューシーで旨みが詰まってて、最高に美味しい。

私の向かいで、エルサイスが、私の倍はありそうな量の食事を、あっという間に食べ進めている。

エルサイスは、身長は平均より大きい方だが、体重は普通位だと思う。どちらかと言えば、細い方かもしれない。

この食事量が、一体どこに消えるのか、不思議でならない。

私が1人前のスタンポットを食べ終わる前に、エルサイスは食事を終え、[いちごパフェ]などというデザートを頼んでいる。

全身青で統一された、ソーサラーのローブを着た大柄の男が、ピンク色のかわいいパフェを食べるなんて、なんとも奇妙だ。

私が食後の紅茶を飲む頃、エルサイスはいちごパフェを食べていた。

「んーー!美味しい!」

と目を輝かせる彼を見て、私は呆れる。

いったいどれだけ食べるつもりなのだ。

「あ、クロも食べる?はい、あーーん」

私の呆れ顔を見て、何を勘違いしたのか、エルサイスはそ言うと、アイスといちごを乗せたスプーンを、こちらに向けてきた。

私は

「お腹いっぱいなので、お気になさらず。」

と言いながら、手で制す。

エルサイスは残念そうな顔をすると

「クロは食べないから、そんなに痩せてるんだよ。」

と言いながら、スプーンを自分の口に持っていき、パクリと一口で食べた。

「人には適量ってものがあるんだよ。」

私は身長の割には体重は軽い方だ。むしろ、痩せすぎかもしれない。

でも、私にとっては、このくらいが1番調子が良くて、1番動きやすいのだ。

それに、前衛として敵に向かっていく時は、身軽な方がいい。

お昼を過ぎれば、酒場も少し落ち着いてくる。閑散としてきたホールとは対照的に、カウンターの中では、チップが、今度は大量の洗い物に目を回している。

エルサイスは優雅に食後のコーヒーをすすっていた。

「ねぇ?」

「ん?」

「エルはどうなの?不老不死になりたい?」

「どうだろうね?」

すぐはぐらかす。こいつはいつもずるい。

不満の目で睨み返すと

「そんな目で見ないでよ。」

とエルサイスは笑った。

「そうだねー。僕もクロと同じかなー。不老不死にはなりたくないよ。」

エルサイスはそう言うと、テーブルに頬杖をつき、考え込むように目を瞑った。

「生きてるとさ、楽しいこともあるけど、嫌なことも、辛いこともいっぱいあるじゃん。生きるってことは、その繰り返しな訳だけど……。いつか終わる楽しさだから大事にできるし、いつか終わる苦しさだからやり過ごせる。まぁそのへんの考えは、おおむねクロと一緒だよ。でも本当はね……」

エルサイスは目を開けて、少しうつむいた。どこか悲しげな表情だ。

「そもそも僕は、なんで生きてるんだろうって考えた時に、その答えを持ってなかったし、別に答えが欲しいとも思わなかった。そうしたら、別に死んでも困らないなって思ってさ。」

彼らしい答えだった。

いろんなものへの執着が薄い彼は、生きることへの執着すら薄いらしい。

「不老不死は、死にたくない人がなるもので、僕みたいな、死んでもかまわないって人には、必要ないものだね。」

「それって……」

「あ、死んでもかまわないからって、死にたいわけではないよ。」

エルサイスが、私の杞憂を一蹴する。

「今ちょっと心配してくれた?」

そう言って彼は笑ったが、ちっとも嬉しそうではない。困ったような、寂しいような笑顔だった。

時々エルサイスはこうやって、ロウソクのように、吹いたら消えてしまいそうな、儚げな表情をする。

普段は、殺しても死ななそうな、それこそロウソクどころか、ガスバーナーのような強かさを感じるのだが、ふとした時に見せる弱さに、私は戸惑う。

エルサイスは、ヒラヒラ、のらりくらりなどという擬音が似合う。

裏と表、嘘と本当、強さと弱さ、両面を自由自在に操り、相手を翻弄する。

私はいつも惑わされてばかりで、どれが本当のエルサイスなのか、皆目検討がつかない。

エルサイス自身だって、どれが本当の自分の気持ちかなんて、わかっていないのかもしれない。

嘘をついているうちに、どれが嘘で、どれが本当か、自分でもわからなくなってしまったような、そんな不安定さ。

まるで迷子の子供のようだ。

難儀な性格だなと思う。

「まぁクローバーが居てくれる限りは、死にたくはないかな!」

そう言って茶化す彼に

「お前は本当に馬鹿だな。」

と哀れみ混じりの本音をぶつける。

「酷いこと言うねー。」

そう道化のように笑うエルサイスに、1発げんこつをかます。

「痛っ!!」

殴られた頭を抱えて、うずくまるエルサイス。その目の端からは、涙が滲んでいる。

おもいっきり殴ってやったので、それくらいの反応が当たり前だ。ここで飄々と我慢するようだったら、泣くまで殴ってやろうと思っていた。

「せめてもの慰めだ。ありがたく受け取れ。」

私がそう言うと、エルサイスは、はっとした顔になり、最後ははにかむように笑った。

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