アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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第83話 望まぬ再会

「はぁ?お前またしょーこりもなくこんな馬鹿げたことやってんのか?」

クローバーの呆れ声に、少女は緑色の瞳を潤ませ、怯む。そのビクビクした姿に、クローバーは更にイライラを募らせていた。

ふらりと不老不死の村を訪れた僕たちは、思わぬ人物と再会を果たした。

以前クローバーから古本を盗んで捕まった、ポーラだ。彼女はクローバーの慈悲で無罪放免となり、冒険者として、旅に出たはずだった。

しかし、ポーラはクローバーの言う通り、性懲りも無く、また盗みを繰り返して、ルークという男に捕まっていた。

「五体満足のくせに強盗する理由を時代のせいにするとは、まったくとんでもない話だな。」

ルークはクローバーに続き、呆れた声を出す。

「……わかってるわ、ただの言い訳だということは……。でも、生きるためには必要なこと。」

「生きるためと言うなら、誰かを脅迫する前に他にやれることがあるだろう。」

「私にだってプライドがある。意地もある。泥水をすするようなマネはできない。」

ルークが困ったような顔で、こちらに助けを求めてくる。クローバーは肩を竦めるだけで、何も返せないようだった。僕は思わず笑ってしまう。

相変わらずポーラの理論は破錠していた。

プライドも、意地もあるくせに、盗みはするし、捕まれば往生際悪く、相手に死ぬよう脅迫する。本当に意味がわからない。理解できなさすぎて、笑えてくる。

「まぁ落ち着いてください。ポーラさんには、ポーラさんの事情があって、こんなことをしてしまったんですよ。」

僕はなんとか笑いを抑えながら、ポーラとルークの間に入った。

「みんな、何か訳あって、それでもまっすぐ生きるもんだ。訳があるから悪いことをしていいわけじゃない。」

ぐうの音も出ない程の正論だ。僕の隣で、クローバーが「うんうん」と大きく首を縦に振って、ルークに同意を示していた。

「お前の話は確かに正論だ。私もその通りだと思う。ただな、こいつにそれが通用すると思ったら、大間違いだぞ。」

1度ポーラと対面して、ある程度の耐性がついたのか、クローバーの思考は意外にも柔軟だ。

「お前もわかるだろ?こいつの頭は狂ってる。」

「クーロ。」

本人の目の前での悪口を注意したが、クローバーは面倒臭そうに目を細めるだけで、どうでもよさそうだった。

「まともに関わるより、引いた方が楽だぞ。」

クローバーの忠告を聞いたルークは、困ったように頭を掻く。どうすればいいのか、逡巡しているようだった。やがてルークは

「盗んだ財布の中身には、まだ手をつけていないようだ。今回はあんたの顔に免じて勘弁してやるよ。」

と言って、大きなため息をついた。どこか疲れたようなその顔に、僕は同情する。突然こんなことに巻き込まれて、災難だっただろう。

去っていくルークの背中を見送ると、僕とクローバーはポーラに向き合った。

「さてと……。まずお前、もう二度と盗みはしないって、私と約束したよな?」

クローバーに凄まれたポーラは、ビクリと体を震わせ、オドオドと目を泳がせる。

「プライドがあるから物乞いは出来ないくせに、約束を守るプライドはねーのか?あぁ?」

そう言いながら、クローバーはポーラの目を睨みつけた。

ポーラは「ひぃ」っと小さく悲鳴をあげると

「うっ……うっうっ……お母さん……」

と、幼い子供のように、声を上げ泣き始める。

分が悪くなると泣き出すのは、ずるい女の人がよくやる手口だ。僕は何度もその場面にあったことがある。

「クロ、あんまりポーラさんを責めないであげて。」

僕がそう言うと、クローバーは不快そうにこちらをギロリと睨みつけてきた。確実に怒っている。「お前はこんなやつの味方をするのか?」と言いたげな目だった。

別に僕は、ポーラの味方ではないし、彼女を庇ったわけでもない。

はっきりいえば、ポーラは馬鹿なのだ。

目先のことしか考えられない。結局自分がやりたくない言い訳に、プライドやら、意地やら言うが、その意味すらわかっていない。計画性以前に、論理的思考力もない。簡単な行動の実行力すらない。

そんな彼女が、僕は哀れで、かわいそうで、そして、心底どうでもいい。

所詮は低能な人なのだ。真面目に説教をしたところで、理解どころか、会話すらできないだろう。さっさと見切りをつけてしまうのがいい。

そのためなら、僕はいくらでも優しい言葉を吐こう。心のない、冷たい、誰も救わない言葉だ。

「私、母と約束したの……どんなつらいことがあっても、死んじゃダメだって……。」

ヒックヒックしゃくりあげながら、ポーラが言う。

大切な人からの「死ぬな」という言葉は、「死ね」と言われるのと同じくらいの呪いを持っていると、僕は思う。ポーラの母親は、娘への愛情上に、そう言ったのかもしれないが、結局それが、彼女人生を縛り、こんなにめちゃくちゃにしているのだ。

「だから、誰かに殺されようと頑張ったのに……。」

「迷惑な話だ。お前なんかを殺さなきゃいけない、相手の身にもなってみろよ。本当にどこまでも身勝手なやつだなぁ……。」

クローバーが堪らず、呆れたため息をつく。

ポーラの言い分はいつも自分本位で、相手の人格など無いものとしている。そのくせ繊細を装い、被害者を演じているのだ。

さっさと切り上げた方がいい。こういう、自己愛が強い自覚がない上に、被害妄想で相手を傷つけるような人は、危険だ。不用意に関われば、こっちが悪者にされてしまう。

「もうずっと生きなきゃダメなの……。でも……もうダメかもしれない……。」

「そりゃよかったな。望み通り死ねるじゃねーか。」

クローバーが絶妙な合いの手を入れる。僕は思わず吹き出しそうになるのを何とか我慢して、ポーラを心配するような顔を作る。

「教会に行ってみてはいかがです?教会ならご飯を食べさせてくれますよ。」

僕がそう言うと、ポーラは一瞬顔をあげた。

「教会に行っても、不器用な私は何もできない……。教会には他も人もいるし……。他の人の居場所を奪うわけにもいかないわ。」

意外な回答に、僕とクローバーは顔を見合わせる。

自分本位かと思いきや、こうして他者の立場を気遣うこともある。ポーラは本当によくわからない。様々な感情の羅列を、適当に繋ぎ合わせているような、一貫性のない発言に、振り回されそうになる。

「それでは、工場があった村はいかがですか?あそこはまだ住んでいる人も少ないですし、行けば歓迎してくれると思いますよ。」

滅びの村の地下工場でロッツを倒したあと、村にはエースとケイプの兄妹が残り、村の復興をしようと、様々な試みを行っていた。ついこの前も、鍋夜会をするからといって、大量のじゃがいも集めを手伝ったばかりだった。

今定住者を欲しているあの村に行けば、きっと歓迎してくれるだろう。

「あそこには教会もありましたし、行ってみてはいかがですか?」

僕がそう言うと、俯いて、ポーラは考え込む。

「……。」

「おい、行くぞ。」

沈黙を続けるポーラに、痺れを切らしたクローバーが、僕に声をかける。これ以上、ここに残る理由は、僕ももう持っていなかった。

クローバーのあとに続いて、僕はこの場を去ろうとする。その姿を見て、なにか言いたげに顔をあげたポーラに、クローバーが

「お前がどうしようと、私には関係ない。でもな、自分の生き死にを、他人にどうこうしてもらおうと思ってるうちは、いつまで経っても救われねぇよ。」

と言って、牽制する。

ポーラは開きかけた口をつぐんで、また俯いた。

「まぁまぁ、そう怒らないであげて下さい。行きましょう。」

僕はそう言うと、クローバーと共に、不老不死の村をあとにした。

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