アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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第84話 ポーカーゲーム

食卓には、クローバーの手作りの料理が並ぶ。サラダと、ガーリックトースト、そしてメインのホワイトシチュー。

熱々のシチューを1口頬張れば、身体の芯から温まる。

「うん、美味しい。」

「当たり前だ。」

美味しさに思わず笑顔になってしまう僕を見て、クローバーは満足げに微笑んだ。

「ポーラさんは、温かい食事にありつけたかな?」

昼間あったことを思い出し、僕は特に意味もなくそう口に出した。別に彼女が心配なわけではない。噂話をするような感覚だった。

「さぁな、興味ねーよ。」

クローバーはそう言いながら、ガーリックトーストをちぎってシチューに沈める。

「そうなの?クロは随分、ポーラさんに肩入れしてるなって、僕は思ったんだけど。」

クローバーの言葉は、確かに見た目は悪かったが、僕が吐くただ優しいだけの言葉よりは、ずっと意味がある内容だった。しかし、当の本人は自覚がないようで、

「はぁ?私が?ないない。」

と言って、うるさそうに手を振る。

「もうあんなやつ助けてやんねーよ。」

クローバーはそう言いながら、シチューに沈めたガーリックトーストを、スプーンですくって口に運ぶ。面白い食べ方だ。

「まぁ、彼女が大変なのはわかるけど、僕らだって、それなりに大変だからね。」

ポーラが生きづらい人生を送っているのはわかる。でも、だからといって、僕たちがそれをどうこうしなければいけない義理はない。

「そうそう、そういえば前に、テイルさんが面白い話をしてくれたんだ。」

「テイルが?」

クローバーがマスターのボンド【シルフィード】に所属するテイルは、ぶっきらぼうで、傍若無人だが、血の繋がらない妹のソラにだけは、大甘な青年だ。

そんなテイルが、前回ポーラとあった直後に、酒場で興味深い話をしてくれた。

「人生はポーカーゲームのようだ。」

僕はテイルの真似をして、人差し指を立てて、得意そうにいう。案の定、クローバーの

「はぁ?」

という呆れ声が返ってきて、思わず僕は吹き出した。

「お前、バカなの?」

「もー、酷いなぁ。真面目な話なのに。」

「真面目な話なら、それらしく話せよ。」

クローバーはそう言うと、空っぽになったシチューのお皿にスプーンを投げ入れ、グラスに手を伸ばす。そうして、中の水をゴクリと1口飲み干すと、こちらを見つめ、先を促すように首を傾げた。

「人生はポーカーゲームのようだ。」

僕は気を取り直して話し始める。

「人は生まれながらに、持っているカードが決まってる。」

それは神様から配られたカードで、内容は選べない。いいカードもあれば、悪いカードもある。

「さらに、追加で山札から引けるカードにも限りがある。誰かが先に引いたカードを、その人から奪うことはできない。」

「よくわからないな。」

クローバーは、腕組みをして首を傾げた。僕は少しだけ微笑んで、話を続ける。

「最初に持っているカードが自分の能力。山札のカードは世界のリソース。2つのカードを交換しながら、自分のポーカー・ハンドを作っていくしかない。」

どちらも限られた枚数の中で、やらなければいけない。山札のカードの枚数も、数字も、スートも、限られている。リソースは、世界中の人で分け合っているものなのだ。ただ、誰がどれを引くかはわからない。

「みんながみんな、ロイヤルストレートフラッシュを、作れるわけじゃないのに、みんなそれを目指そうとするから苦しくなる。」

「持ってるカードの中で、ワンペアとかを探した方がいいってことか。」

僕はコクリとうなずく。

「誰かのポーカー・ハンドの点数が低いからといって、僕らとは無関係なんだよ。その人がその点数で満足できないなら、山札からさらにカードを引くしかない。」

「まぁ引いたところで、いいカードがくるとは限らないけどな。」

クローバーの言う通りだ。

先にいったように、リソースは限られているのだ。無闇に山札に手を伸ばしたところで、他の誰かが既に引いた、絶対もう手に入れられないカードを、知らず知らずのうちに、探し求めることになるかもしれない。

「人はみんな強欲だ。ワンペアじゃ満足できない。」

「そうかもしれないね。でも、満足できないからって、他の人に当たっていいわけじゃないよ。」

「ポーラみたいにか?」

僕は「ふっ」っと笑って同意を示す。

「これ、本当にテイルが言ってたのか?」

「本人も、受け売りって言ってたけどね。」

「だと思った。あいつがこんな話思いつくわけねぇよな。」

クローバーはそう言いながら、テーブルに肘を付き、考え込む。

沈黙。

僕は残り少ないワインを、グラスについだ。もうボトルは空に近い。安物のワインは渋みが少なく、ついつい飲みすぎてしまう。そろそろ新しいのを買わなくてはいけない。

「ポーカーゲームか……。まぁ言ってることは、わからなくはないし、ある程度同意できる。」

思考の海から浮上したクローバーが、呟くように言う。

「ただ、やっぱり、山札のリソースのランダム性には疑問があるし、ポーカーと違って、人生は生まれ持ったカードを全部捨てられないし、穴はいくつでもあるよな。」

それは仕方の無いことだ。ひとつの言葉で言い表せる程、人生は、世界は、簡単なものでは無い。もっと複雑で、様々な要因が混ざりあって、絡み合って成り立っているのだ。

「でも、良い話だよ。私はさ、騎士としてのロイヤルストレートフラッシュを作りたかった。もしくはストレートフラッシュ。」

僕は「うんうん」とうなずく。

「私は最初からそれに有利なカードを持っていたし、他も努力で手に入れた。でも……」

クローバーはそう言うと、眉を下げて悲しげに自嘲する。

「スートを揃えられなかった。スペードが欲しかったのに、私は最初からハートしかなくて、それは捨てられないカードだった。」

ハート、つまり女であることは変えられない。クローバーは、他のカードを揃えたはいいが、1枚だけは、どうしても手に入れることができなかったのだ。

「でも、ストレートにはなった。騎士にはなれなかったけど、今は冒険者として、まぁまぁ楽しくやってるよ。」

クローバーはそう言って、笑った。

人生は、思い通りにいかない。どんなに努力してカードを集めても、理想のポーカー・ハンドになるとは限らないのだ。

カードを引き続けるのか、クローバーのように、今持ってるカードで勝負するのか。

その選択は自由で、どの選択をしても、誰も咎めることはできない。

「僕らは、僕らのカードだけみて、ポーカー・ハンドを作ってればいいんだよ。ポーラさんのは、ポーラさんが決めることなんだから。」

「エルは、どうなんだ?」

「んっ?」

「エルは、どんなポーカー・ハンドを目指してるんだ?」

思わぬ質問に、僕は困惑する。

僕が今持っているカードは悪くない。でも、それ自体に僕はあまり興味はない。これ以上悪くなろうが、良くなろうが、どうでもいい。

慰め程度に、良いカードを集めたところで、ある日突然消えてしまうことだってある。

思い出されるのは、あの日、事故で失った妹、ルアンナのことだ。絶対離すまいと握りしめていたはずなのに、結局無くしてしまった。むしろ、強く握りしめていたからこそ、失ったのだ。

「僕は、どこも目指してないよ。」

僕はそう言って微笑む。

「ずるいな。」

「そうだね。」

テーブルの向かい側で、クローバーが、浅いため息をついた。呆れているのか、哀れんでいるのか、どちらにせよ、僕の感情は動かない。

僕はもうカードを集める気も、揃える気もなかった。全部無くなるなら、無くなってもいい。

「エルは一体、誰の人生を生きてるんだろうな。」

クローバーが、空中に向かってそう呟くのを、僕はただ見つめていた。

僕は結局、ポーラと一緒なのだ。自分の生き死にを、自分の外に任せている。自分の人生を生きていない。ただ、ポーラと違うのは、それを他人に強く求めていないし、責任も自分で負っている。それだけだが、それだけでも、彼女よりは幾分マシであろう。

「自分の人生を生きるって、難しいんだよ。」

「そうやって楽してると、いつか後悔するぞ。」

クローバーはそう言って、僕を睨む。

そう凄まれたとことで、僕はどうすればいいのか、さっぱりわからない。

表情を変えない僕に、クローバーは「はぁ」とため息をついた。

「まぁ、まずはワンペアから、揃えよう。」

クローバーはそう言いながら、立ち上がると、僕の頭に手を伸ばし、ぐしゃぐしゃと髪を乱す。僕の方が年上なのに、子供扱いされた気分だった。

何だかんだいって、クローバーは優しくて、世話焼きだ。本人は絶対認めないと思うが、僕もポーラも、そんな彼女に救われている部分がある。

「ありがとう。」

僕はそう微笑む。偽りではない。心からの笑みだった。

「礼なんかいっていいのか?このポーカー・ハンドは、険しい道だぞ?」

クローバーはそう言って、ニッと笑う。

クローバーが導くポーカー・ハンドは、きっと僕があまり得意な手ではない。それでも、彼女が一緒なら、それなりに楽しめるような気がした。

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