アルケミアストーリー~クロとエルの物語~ 作:cloverlight
薄暗い洞窟の中を4人は固まって慎重に歩く。先頭はセリクその後ろにレッコ、ラトと続き、しんがりはユイゼが務めた。
枯れ果てし炭坑の魔物は体躯が大きく、獰猛そうな姿をしていた。ラトは魔物に気づかれないよう洞窟の壁際の方を歩きながら、こっそりその様子を伺う。
クロコワニは大きな口から白く鋭い牙を覗かせながら、グルルっと唸り声をあげて、ラトの数m先をうろついていた。その隣には大きな木の盾を持ったウッサーがギョロりとした目を左右に動かしながら獲物を探している。
その獰猛そうな見た目と気味の悪さに、ラトは思わず身震いした。
「ラトちゃん大丈夫?」
ブルブルと震えるラトを心配したユイゼが声をかける。ユイゼの方が背が低いので、ユイゼがラトの顔を見ようとすると、不可抗力で上目遣いになってしまう。下から心配そうにこちらを見上げてくるその顔に、ラトは羞恥を覚え
「だ、大丈夫です。」
と、慌てて返す。姉とはいえ、自分より体の小さい女の人に心配される自分が情けなかった。
「お姉ちゃんが守るからね!」
ユイゼはそんなラトのプライドなど知らずに、グッとガッツポーズを作る。
ユイゼには双子の兄がいて、幼い頃はしっかり者の兄がちょっとドジなユイゼの面倒を見てくれていた。ボンド『シルフィード』ではクローバーやにもが手を貸してくれるし、パートナーのセリクもユイゼを甘やかす。
ユイゼはいつも誰かを頼る側、守られる側だった。
でも、弟のラトの前では違う。年上で冒険者としての経験も上で、頼れるお姉ちゃんでなければいけない。そんな思いから、ユイゼはいつもよりも張り切っていた。
「僕らレベリングがしたくて……。」
気まづそうに目を伏せながら、ラトがポツリポツリと話し出す。
連邦の炭鉱前や、塔の外でのレベリングに限界を感じたというか、簡単に言えば「飽きた」レッコとラトは、酒場に居た他の冒険者から『ダンジョン』の存在を聞いた。クリアすればかなりの経験値がもらえると知った2人は、さっそく地下工場、炎の洞窟を軽々クリアし、最後にこの枯れ果てし炭坑を目指して石化した村まできた。しかし、ここに来るまでの道中の魔物でさえ骨が折れた自分たちだけで、ダンジョンをクリアできるのか心配になって、直前でまごついていたのだ。
そこをユイゼとセリクに見つかった形だ。
「なんだ、そういうことか。」
「じゃぁ私たちと一緒にやろうよ!」
意外にもあっさりと受け入れる2人にレッコとラトは目を丸くして驚く。
「いいんすか!?」
「もちろんだよ。むしろなんで隠すの?」
不思議そうに首を傾げるユイゼに
「だって……怒られると思ったから……。」
とラトがばつが悪そうに答える。
「こないだ姐さんに『調子に乗ってると死ぬぞ』的な注意を受けたばっかりなんすよ……。」
レッコはそう言って気まづそうに頭をかいた。
「こいつらほんまにアホでな、塔の外でクローバーさんとエルサイスさんに、3回も!助けられてるんやで。」
3回というところを強調するボルシチをレッコは恨めしそうに睨みつける。でも本当のことなので反論はできない。
「2人だけで行ったらそれは無謀かもしれないけど、僕たちと行けば大丈夫だよ。」
「うんうん、何度も行ったことあるから道も大丈夫だし!怖くないよ!」
ユイゼやセリクは、クローバーやエルサイスほどは経験はないかもしれない。それでもこの弟と妹よりは1歩先を行く先輩だ。クローバーのように指導することも、エルサイスのように助言を与えることもできないが、共に歩んで力になれることはできる。むしろ今のレッコとラトにはそういう助力の方が必要だった。
「じゃぁ……」
「うん。」
レッコとラトはお互い目配せし合うと
「「よろしくお願いします!」」
と声を揃えてお辞儀をした。
それを見たユイゼは高揚感に包まれる。本人の自覚はあまり無いようだが、セリクから見れば十分はしゃいでいると言ってもおかしくないテンションの上がり方だった。
いつも誰かを頼ってばかりで、鈍くて、どんくさくて、ドジで役に立たない。そんなお荷物のような自分に、ユイゼはどこか劣等感を抱いていた。
みんなは「いいよ」と「気にしないで」と許してくれても、ユイゼ自身がそうやって周りに甘えている自分を許せない。
冒険者として、1人の人として、頼るばかりでなく、自分も誰かの力になりたい。そういう思いはユイゼの中で日に日に大きくなっていた。
今回ユイゼは頼られる側になれた。それが嬉しくて、ユイゼはいつも以上にわくわくしていた。
静まり返った洞窟の中では、自分の足音さえ大きく聞こえる。魔物に気づかれないよう、ユイゼは慎重に息を殺して歩みを進めた。
いつもは壁役のセリクの後ろに隠れてついて行くだけだが、今日はその間にレッコとラトがいる。何かあった時は、自分が2人を守る。ユイゼはそう心に決めていた。
「ダンジョンの法則は知ってるね?」
セリクが小さな声でレッコとラトに確認を取る。2人は声で魔物に気づかれるのが怖いようで、周りを警戒しながら素早く「うんうん」っと何度も首を縦に振って、意思を伝えた。
タンジョンは他のフィールドとは作りが違い、今いるエリアの魔物を1体以上倒さなければ、次のエリアに進めないというルールがある。つまり、戦闘を避けて最深部まで行くことはできないのだ。
「基本的にHPの低いゲルミを狙ってエンカウントする。ゲルミの弱点は……」
「土っすね。」
レッコの回答にセリクは満足気に微笑んだ。
レッコとラトは早速装備とスキルを変える。相手の弱点に合わせてそうすることは、もう2人にとって朝飯前のことになっていた。
「ラトちゃん大丈夫?準備できた?」
そう言いながらユイゼはリラックスした様子でラトの腕に甘えるように絡みつく。
「あ……は、はい……。」
相変わらず距離が近い姉の行動にラトは戸惑い頬を染める。
ユイゼは人に対する警戒心が無さすぎる節があった。普段は引っ込み思案の人見知りでどこか距離があるが、セリクやラトなど1度親しくなった人には、途端に距離がゼロになるのだ。誰の前だろうとどこだろうと関係なしに、くっついてしまう。セリクもラトも、それが嫌ではないが恥ずかしくて、手を焼いていた。
「ユイゼちゃん、僕が盾になるから攻撃お願いね。」
「任せて!」
ユイゼは気合い十分な返事をすると制作したばかりの真新しいウーシアナイフを手に取り、構える。
「準備はいい?」
「OKっす。」
「はいっ!」
「はーい!」
全員の返事を聞いたセリクは剣と盾を構えると、ゲルミの前に躍り出た。