アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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番外編~ユイゼお姉ちゃん その3~

セリクが盾としてヘイトを取り、レッコがデバフやバフで支援、ユイゼとラトが攻撃という編成で、特に苦労もなくゲルミを倒すことができた。

問題は倒した後だ。

セリクはいつも通り右の道を選んだが、戦闘で方向がわからなくなっていたユイゼは左の道に入ってしまったのだ。

「あれ?」

ユイゼが気がついた時にはセリクとレッコはすでに見当たらず、近くにラトしか居なかった。

「はぐれちゃった……?」

ラトの心配そうな問いかけにユイゼは

「そう……かも……。」

と自信のない声で返す。

黒い不安の波が一気にユイゼの心に押し寄せた。棘の付いた布で心臓を締めあげられるような恐怖でユイゼは泣きそうになってしまう。足元からじわじわと込み上げてくる苦しさに涙を滲ませるユイゼを見て、ラトも不安を募らせる。

「お姉ちゃん……?一旦戻ろうか?」

心配そうにこちらを覗き込むラトにユイゼはハッと我に返る。今は1人ではない。守るべき大事な弟がいる。そんな大事な人に心配をかけて、メソメソなどしていられないのだ。

ユイゼは頭を左右に振って気を取り直すと、滲んできた涙を拭い、精一杯笑顔を作る。

「ラトちゃん大丈夫だよ。お姉ちゃんが付いてるからね!」

そう言って手取るユイゼにラトは目を丸くして驚く。

弟のラトから見ても、ユイゼは泣き虫で甘えん坊なところがあった。でも今は自分のためにこんなに頑張ってくれている。ラトはそんなユイゼの心遣いが嬉しくて、でもそうされる自分が情けなくて、複雑な気持ちになった。

「戻ってセリクたちが居なかったら、また戦闘しなくちゃ先に進めないの。右に行っても左に行ってもこの先は繋がってるはずだから、下手に動いて戦闘で消耗しちゃうよりは、先に進もう。」

盾役のセリクも、支援のレッコもいない。そんな状態で何度も戦闘をするのはリスクが高い。

ユイゼは意外にも冷静だった。冒険者としての経験と知識はユイゼに正しい判断と自信をくれる。

「僕たち2人で大丈夫かな……。」

「大丈夫。お姉ちゃんが守るからね!」

不安そうなラトを励ますように、ユイゼはにっこり笑顔を作る。

内心のユイゼは焦りと不安でいっぱいいっぱいになっていた。しかし、それらの負の感情をぐるぐる巻に押し込めて頭の隅に追いやる。落ち着けと何度も言い聞かせて、ウーシアナイフを握りしめれば、力がみなぎって来るような気がした。まだ戦える。自分にはその力がある。守られてるばかりではいられないのだ。

ユイゼは立派な1人の冒険者だった。

ラトはそんなユイゼに気圧されながらも「うん」と力強く頷き返した。

「僕もお姉ちゃんを守るから。」

怖くない訳では無い。本当は震え出したいほど怖いし、自信がなかったが、ユイゼがこんなに頑張っているのだ。ラトだって頑張らないわけにはいかない。ラトはありったけの勇気をかき集め、ユイゼの小さくて細い手を握り返すと

「頑張ろう。」

と声をかけた。

 

 

 

ユイゼは蝶のようにヒラヒラと舞いながら、攻撃を繰り返す。ラトは出来うる限りの防御体勢で敵の攻撃に耐えていた。ゲルミが体当たりの体勢に入ったので、ラトは盾を構え応戦する。

「うっ……。」

一直線にこちらに突っ込んできたゲルミに、ラトは思わず呻き声を漏らす。体への直接の攻撃は防いだが、守った盾から振動が伝わり、手が痺れるように痛い。間髪入れず別のゲルミが魔法を唱えて攻撃してくる。

「わっ!っとあ?!」

少なくない量の水を頭から浴びせられ、ラトは戸惑った悲鳴を上げた。

「ラトちゃん、次左から体当たり!もうすぐ倒せるから頑張って!」

ユイゼの報告を聞いたラトは咄嗟に左に盾を構えるが間に合わず、脇腹痛い一発を食らってしまう。

「ぐはっ……。」

膝をつきそうになりながらも、なんとかウォールを唱えて自身を回復する。痛みは残ったが思っていたよりは酷くない。そうしている間に、ユイゼがグリムリーパーでゲルミを切り刻み黒い霧にする。

「ごめんね、ラトちゃん。痛たいよね。ごめんね。」

戦闘が終わるとユイゼはラトに駆け寄ってその身を案じる。眉をへの字に下げ、自分の不甲斐なさを必死に謝罪するユイゼに、ラトは

「全然大丈夫!」

と笑顔を向けた。

ラトが回復と支援スキルを積み、ユイゼが火力てんこ盛りで攻撃する。『殺られる前に殺る』作戦で2人は先に進んだ。

エリアを1つ進んでも、セリクたちには会えなかった。少し待ってみたが、2人が来る気配はない。

「先に行ったのかな?」

「うーん……。多分この先でセリクが待ってるはず……。」

少し不安そうにしながら、ユイゼが呟く。確信はないし、予想というより不安定な予感しかないが、セリクが自分たちの強さを信じてくれていると願うしかなかった。

さっきと同じ要領でゲルミを倒し、エリアを更新するが、その先にもセリクたちは居なかった。

「セリク……。」

「レッコ……。」

ユイゼとラトは不安そうに顔を見合わせる。中々2人に会えない状況に、さらに先に行けばいいのか、戻るべきなのか、すっかりわからなくなってしまい、ユイゼは途方に暮れてしまう。

この先も2人で行けるのか、再計算を繰り返すユイゼにラトが

「お姉ちゃん……レッコは大丈夫かな?」

と不安そうな声をかける。その言葉にユイゼははっとする。ユイゼは自分たちの心配ばかりしていたが、ラトはパートナーの心配までしていたのだ。

戦力的には自分たちよりもセリクとレッコのペアの方が上なので、実際心配無用なのだが、それでもすぐ自分のことでいっぱいいっぱいになってしまうユイゼは、ラトの言葉でそれを思い知らされ羞恥を覚える。

「ラトちゃん……。」

ユイゼは泣き出しそうになるのを、歯を食いしばって堪えた。お姉ちゃんだから、冒険の先輩だから、そんな風に経験を盾に強がったところで、ユイゼ自身の心が強くなければ大事な人を守るなんてできないのだ。

ウーシアナイフを握り直し、前を向く。出来ないからといって、メソメソ泣いている暇はない。そうしてしまったら、本当にいつまで経っても弱いままになってしまう。

「先に行こう。大丈夫!セリクたちが居なくても、お姉ちゃんがラトちゃんを守るから!」

ユイゼがそうラトに声をかけた瞬間、ユイゼの頭部にガツンと重い衝撃が走る。

「お姉ちゃん!!」

「ぐっ……」

体勢を崩しながら振り返ったユイゼの目に写ったのは、たった今杖を振り下ろし自分の頭を殴ったクロコワニの姿だった。ドロリと冷たい感触が額を伝わる。それが自分の血であると認識した後に痛みが遅れてやってきた。

ラトはパニックを起こし順序立てずにスキルを使い、効率よくユイゼを回復することができないでいた。

「ラトちゃん落ち着いて!エアシールのあとにベール!」

ユイゼはそう言いながら体勢を立て直し、ラトを庇うように前線に立ち攻撃を開始する。

そんなユイゼの前に立ちはだかるのは3匹のクロコワニ。その中の1匹がギザギザの白い牙を光らせながら、大きく口を開けると、赤い燃え盛る炎が見えた。

「ラトちゃん来るよ!」

矢継ぎ早にスキルを使いクールタイムに巻き込まれたラトが震える手で盾を構える。

全身を舐めるように赤い炎の渦が一瞬で2人を包む。

「きゃっ……。」

「うっ……わぁ!」

HPがガリガリ削られたが、ユイゼは怯むことなく反撃し、あっという間にクロコワニの1匹を黒い霧にする。

たとえここで倒れたとしても、最後の最後まで戦い抜く。それがユイゼの冒険者としての覚悟だった。

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