アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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第12話 意見のすり合わせ

私も、エルサイスも、不老不死にはなりたくない。

では、フジはどうだったのだろう?

彼は『また元気になって旅に出たい』とは、いったが、『不老不死になりたい』といったわけではない。

本当にこれで良かったのか?

それは私も、そしてエルサイスも、自分と向き合う過程で考えてきたことだった。

酒場を出ると、冷たい風が頬を刺す。

「さっむ。」

シュリンガー公国は、冬の雪と、春の桜が共存する、不思議な国。

その景色は美しいが、桜が咲いているからと言って、暖かくはなく、季節は雪が降る冬そのものだ。

街ゆく人立ちは分厚いコートに身を包み、しっかり防寒対策をしている。

一方私が着ている、ワイルドロアの服は、布面積が幾分少なめで、腕も足も、そしてヘソまで出てしまっている。

この冬の国では、かなり浮いている軽装だ。

「風邪引くよ。」

エルサイスはそう言いながら、後ろから抱きつく仕草を見せた。

私はそれを拒否するように、エルサイスの顔に手を押し付けて、跳ね除ける。

「うぐっ。」

エルサイスが呻く。

こいつは隙があればすぐこれだ。危ない。

私は街の外へ駆け出す。

公国を出て、雪山と平原に出てしまえば、寒さはそんなに厳しくない。

思った通り、草原には、春のような暖かい風が吹いている。

私とエルサイスは、無言のまま、草原をフラフラ歩いた。

無理に言葉を交わさなくても、気まずくなることはない。気を使わなくていいので、ほっとする。

公国を出て、まっすぐ歩いていくと、川に辿り着いた。そのまま川辺に沿って歩みを進める。

エルサイスも、黙って私に付いてくる。

滝が見えてきたあたりで、私は腰を下ろした。

顔にかかる、僅かな水しぶきを楽しむ。

すぐ後ろの道をまっすぐ行けば、不老不死の村だ。エルサイスがそっちの方を見ながら

「クロはさ、あの夫婦のこと、どう思ってる?」

と聞いてきた。

あの夫婦とは、フジとフニエのことだろう。

「うーーん 。嫌いではないかな?多分。でも、よくわからない。エルは、どう思うの?」

そう聞きながら、エルサイスの顔を見上げる。

「僕?僕はね……。」

エルサイスはそう言いながら、私の隣に腰を下ろした。髪が、私の肩に触れて、くすぐったい。

「不老不死になっても、フジさんは変わらなかった。フニエさんもね。あの2人は、どうなっても[日常]を続けて行く気だった。僕はそれは、素晴らしいことだと思うよ。」

べた褒めだ。

「まさに、健やかなるときも、病めるときも。だ。」

私は結婚の誓約を口ずさむ。

「そうだね。その覚悟とか、意思の強さとかに、僕は圧倒されたし、長年付き添ってきた、2人の愛を感じたよ。」

私もそうだった。すごいと思ったのだ。

「でも…」

そう、でも、なのだ。

「でも、あの2人は、本当に不老不死のリスクを理解した上で、そういう覚悟を持ったのか、僕はそこが疑問なんだ。」

「うん。」

2人は不老不死について、本当によく考えたのだろうか?

それがずっと引っかかっているのだ。

「私はね、思うんだ。」

そう言いながら、私は両手を上げ、ぐぐっと伸びをすると、後ろに倒れ込んだ。

仰いだ空は、雲ひとつなく、澄み切っていて、とても綺麗だ。

「考えたとしても、考えきれるものじゃないなってさ。」

「だからって、考えないって言うのかい?」

珍しく、不愉快そうな顔をするエルサイス。それだけ真面目に、この問題に向き合っているのだ。

「そういう意味じゃない。考えたり、悩んだりすることは大事さ。私とエルみたいに、空虚な気分になるかもとか、色々考えたかもしれない。でも、ある程度考えたら、もう踏み切るしかないのかなって。」

不老不死は不可逆的なもので、1度なったら戻れない。かと言って、いつまでも迷っていれば、死というタイムリミットが待っている。

「妥協論的な?」

そう言って、私の横に、エルサイスが寝転がる。

「命に妥協するのは、馬鹿馬鹿しいけどね。でも実際なってみないとわからないことだってある。」

エルサイスは納得していない様子だ。

しばしの沈黙。滝の水音だけが響く。

先に口火をきったのは、エルサイスだった。

「なんかさ、僕らは、見当違いな考えをしてるんじゃないかって。」

「見当違い?」

「うん。そもそも、フジさんとフニエさんは、救済者側から、不老不死について、十分な説明を受けてるとは思えない。」

それは、私も、エルサイスも、エナも同じだった。

「その時点で、あの夫婦は、不老不死について、正確に考える機会を持って無かった。」

確かに、そうだ。

全ての取引はギブアンドテイクだ。

リターンにはリスクが、リスクにはリターンがある。

救済者側は、不老不死というリターンの話はするが、リスクの話はしなかった。

「でも、フジさんとフニエさんは、リスクを無視してでも、不老不死になる覚悟があったのかもしれないよ。」

あの仲の良い[けなし愛]夫婦だ。その可能性は十分ある。

私の意見に

「だとしても、救済者側からちゃんと、リターンを得ることで起こりうる、リスクの説明を、きちんとすべきだと、僕は思うんだ。」

と、エルサイスが反論する。

それが人間としての誠実さということだ。

「救済者が本当の善人だと言うなら、そうでないとおかしいってことか。」

そう私が言うと、横でエルサイスが「うん」と頷く。

「最初は、熟考しない夫婦に問題があると思ってたけど」

「きちんと説明しない救済者たちの方が問題か?」

エルサイスの話を、私が途中で引き継ぐ。

「そうだと僕は思うよ。情報が揃ってないまま、考えさせられて決めたことの責任を、2人に求めるのまぁまぁ酷な話だよ。」

エルサイスはそう言いながら、両手を空に向けて、伸びをする。

「まぁリスクなんて本当に無いかもしれないけど。」

「リスクが無いなんて、1ミリも思ってないだろ。」

そう突っ込んだ私に、エルサイスは苦笑いを返すだけだった。ごまかされた感が拭えない。

「で、どうする?」

エルサイスが、起き上がりながら、私に聞く。

「何が?」

私も、お腹に力を入れると、勢いよく起き上がる。

「不老不死のリスクについて、調べてみるかい?」

エルサイスが、真紅の目を細めながら、イタズラっぽく笑う。

私は後ろを振り向き、不老不死の村へと続く道を見つめた。

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